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ボリウッド的おとぎ話「ぼくと1ルピーの神様」

ぼくと1ルピーの神様 ご都合主義がいっぱい。ただしハリウッドではなくボリウッド色。

 流行りものにでも手を出してみるかと選んだのがこれ。アカデミー賞をはじめ、世界の映画賞を総なめした「スラムドッグ$ミリオネア」の原作。現代のおとぎ話として読めばたのしい。

 映画なら、ラジニカーント「踊るマハラジャ」とシュワルツェネッガー「バトルランナー」を交配させたようなもの。あるいは、加藤伸吉「国民クイズ」にコエーリョ「アルケミスト」を混ぜるとこうなる。滅茶苦茶だって?うん、マサラムービーそのものやね。ロマンスあり、コメディアリ、アクションやスリラーといった、娯楽要素を詰め込めるだけ詰め込んでいる。

 「ああ面白かった」でポイできるような一冊だが、せっかくだから、本書がなぜ、世界16ヶ国語に翻訳されるほどのベストセラーとなっているか、分析してみよう。

 まず、ひとつのミステリとなっていることがページをめくらせる動機となっている。巨額の賞金が賭けられたクイズ番組に出場した主人公は、全ての問題に正解する。スラム出身で、教育を受けたこともないのに、なぜ?それぞれの問題の「答え」をめぐる回想が物語の主軸となっており、読み手は謎を解くためにも強烈に先を知りたくなる仕掛け。

 次に、驚きの要素が必ず入っている。一章読んだ分の「ごほうび」として、ちょっとしたサプライズエンドが待っている。そして一冊のラストには、ちゃんとドンデン返しも準備されている。窮地に陥れば陥るほどドキドキハラハラなのだが、だいじょうぶ。語り手=主人公なのだから、ちゃんと生き抜いている証左。しかも極貧から始まり、一歩一歩じぶんの才覚と運を使いこなしながら生き抜いていく姿に共感を得て、安心して読み手を投影できる。

 さらに、構成がいい。面白い物語の基本「途中からいきなり」が効いており、主人公が逮捕されるところから始まっている。読み手は否応なしに取り込まれ、「なぜ?なぜ?」の疑問にいちいち答えるようにお話が転がっていく。また、回想が時系列でないので、「あのときのあの人はどうなった?」や「結局その事件の顛末は?」といった謎が伏線の形で残っていく。でも大丈夫、ミエミエだけど回収しているよ。

 そしてラスト、多くの人が受け入れやすいエンディングとなっている。ダークでハードなラストが大好きなわたしは、リチャード・バックマンの「バトルランナー」のような9.11的エンドを求めるのだが、いかんせん訴求層が違う。ベストセラーは、ふだん本なんか読まないような人が買うのだから、「ベストセラー」になるんだね。

 わたしの読書傾向なのか、それとも世界・世代レベルでの変動なのか分からないが、主人公の有色率が上がっているのかも。十年単位で調査すると、いわゆるWASPなキャラクターが影を潜めている――ような気がする。「ベストセラーにおける人種の変遷について」なんて、どこかの学者さんが研究してそうだ。この仮説が裏付けられるのなら、読者層の推移も考慮されているに違いない。

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コメント

ううむ、らしくない一冊ですね。
「20世紀の幽霊」(短編集)を読んでますが、こっちはいいですよ。えぐくて、切なくて。

投稿: 金さん | 2009.03.19 16:22

>>金さんさん

「20世紀の幽霊たち」ですね、こりゃぁ面白そうだ。
教えていただき、ありがとうございます。
「えぐくて、切ない」は最高の殺し文句ですね、期待して読みます。

投稿: Dain | 2009.03.20 00:33

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