事実はSFよりも奇なり「操作される脳」
「メタルギア・ソリッド」が、"近未来"でなくなっている件について。
がんばりすぎのスネークは別として、軍関係者の悩みのタネは、「ためらう兵士」だそうな。「発砲をためらう兵士たち(Men Against Fire,1947)」によると、実戦で発砲するのは15~20%にすぎないという。発砲率なら訓練で向上できるが、兵士といえど人だ、ストレスや疲労はエラーを招き、戦場でのエラーは死を招く。
死なない兵士はムリとしても、せめて、死ににくい兵士はできないだろうか?この発想をもとに、生物学的なパターンを改変して戦闘用にする研究がなされている。恐怖や痛みを感じずに突撃し、見聞きしたすべての情報を丸ごと記憶している。傷を受ければ即座に自己治癒し、睡眠や食べ物なしでも活動可能な兵士をつくりあげる。
リアルタイムに指示を伝えるヘッドセットはゲームより楽だ。なぜなら、どちらへ向かって進むかは自分で判断しなくてもよく、体が勝手に指示された方向に進むから。バイタルサインは常時モニタリングされるだけでなく、兵士の"思考"までもキャッチできるテクノロジーだ。MGS4では体内に注入したナノマシンで敵味方を識別していたが、本書で紹介されている研究との区別がつかない。
人の脳を電気的、化学的、物理的に操作して人類に革新をもたらすテクノロジーのひとつひとつに、ぞくぞくとする。帯のキャッチに「これは、SFではない」とあるが、じゃぁなんだというと、MGS4であり、AKIRAであり、Firefox(ブラウザでなく戦闘機)だろう。
その研究主体というか、予算の出所は、米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)だそうな。インターネットの原型であるARPANETやステルスの開発で有名だが、スネークの迷彩スーツもDARPA製だったりする。その研究テーマは…
- 脳を改変し、恐怖や眠気を感じさせない
- 脳の活動を完璧にモニターし、直接操作する
- 代謝能力を自分で低下させ、冬眠する
- つらい記憶だけをピンポイントでを消去する
- 頭で考えるだけでマシンを動かす
- 自己治癒能力を高め、傷を急激に治す
公開情報だけでここまで暴露されていることに感嘆すべきなのか、公開情報だけでこれほどなら、本当はもっと恐ろしいんじゃないかと戦慄すべきなのか、わからない。けれども倫理のラインはずいぶん遠くに行ってしまったようだ。
倫理や尊厳について、著者は逆ギレ気味に語る。研究には二つの目的(dual purpose)があり、軍事技術は平和のためにも転用されていると。そもそも、科学技術は軍の要請により発達してきたことは、歴史の示すとおり。そして、人間をサイボーグにして戦争するのが尊厳に対する侮辱というのなら、なぜ義肢を操作できるのは人間的勝利といえるのか――と問いかけるのだ。
ちょっと楽観的すぎやしないかとヒヤヒヤしながら読む。未来なのか今なのか、ゲームなのかリアルなのか界面が活性化されるされる一冊。
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コメント
今朝、『心の脳科学 -「わたし」は脳から生まれる-』を読み終えたばかりですが、このエントリの本も気になりますね。
この本も、fMRIで脳に移った情報・画像を調べる話ですが、まだ現実からは遠いように思います(DARPAの方は結果を喧伝する必要があるとは思いますが)。
投稿: 金さん | 2008.12.24 12:41
すごく面白そう!
Dainさんは、どっからこういう本を見つけてくるの?
投稿: | 2008.12.24 13:04
>>金さんさん
fMRI による脳の観測は、「プルーストとイカ」がユニークでした。著者のホンネ(近頃の若者は…)が鼻についてちょっとアレなのですが、読書が脳をつくったという考え方は斬新でした。
本書で紹介されている「脳をあやつる」技術は、まだまだラボの域を出ていないようです。むしろ、オマケのように書かれている非殺傷兵器のほうに戦慄するかもしれません。
>>名無しさん@2008.12.24 13:04
「操作される脳」
つ http://book.asahi.com/review/TKY200812020094.html
新刊書のブックレビューは、このあたりが充実してますよ
つ http://nakano.no-ip.org/lege/reviews/reviews
投稿: Dain | 2008.12.24 22:15