あら、こんなところに数学が「続 5分でたのしむ数学50話」
「5分でたのしむ数学50話」の続編。
前作のレビューは、[わかる瞬間が楽しい「5分でたのしむ数学50話」]にある。より敷居がさがり、さらに身近な「数学」を紹介している。「こんなところに数学が!」と驚かされることばかり。
たとえばエッシャーの「だまし絵」。精密に描かれた鳥や魚と、背景となる地の部分が規則正しくパターンを成しているのだが、鳥や魚がだんだん背景にとけこみ、地の部分だったところに魚や鳥が見えてくる。
これが自作できるというんだ。CCC基本タイプとTTTTタイプの二通りのやり方を紹介しており、いわれるがままに描いてみる――と!なんとちゃんと「エッシャー風」に描ける、おもしろい(絵心がないので公開しない)。
エッシャーは数学者コクセターを介して非ユークリッド幾何学を知ったのだそうな。これにより、有限な平面の中で無限性をモデル化できる。自分がつくったモチーフがくりかえされ、画面からはみ出て無制限に広がっていく様子を想像する。愉快なようでヒヤリとさせられる。無限の片鱗を実感する。
また、確率論の解説として、モーツァルトの「音楽のサイコロ遊び」が紹介されている。二つのサイコロを振って、出た目の合計に相当する小節を選んで演奏していくそうな。サイコロで音楽が「創れて」しまうという驚き!にクラクラした。11^16通りの小節になるから、サイコロを振るたびに新しい演奏ができる仕掛け。
そこから著者はちょっとした思考実験をする。音符やインターバルの組み合わせやリズムの構造を分析することで、「モーツァルト風」「バッハ風」の作曲をコンピュータにやらせることが可能になるのではないかと。つまり、確率計算で作曲するわけだ。
そして、このアイディアを実現した作曲家オルムフィンネダールを紹介している。このアプローチに基づいて、作曲家たちをいわば交差させる手法を開発したという。まず、ある作曲家に特徴的なパラメーターで作曲を開始する。で、だんだんパラメーターを変えてゆき、最終的には別の作曲家のパラメーターにあわせるんだって。モーフィングの作曲版ってやつか。
このアプローチを「小説家」に適用したネタを考えたことがある。漱石なら漱石の「書き口」があり、そいつを分析する。よく使われる名詞や係り言葉、末尾の文句。会話体、構成、挿話を洗い出し、統計的なパラメータであらわす。次に、全く異なるストーリーを持ち込んで、そのパラメーターで書き表す。分析の対象は「猫」がいいと思った(章により書き方を変えているから)。
数学そのものの紹介よりも、むしろ数学の応用分野に焦点を当てている。金融工学、宝くじ、コンパクトディスク、ファジー理論など、数学がいかに実社会を支えているかを聞いているうちに、「世界を核心部分でつなぎとめているものこそ、数学なのだから」というメッセージが伝わってくる。

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