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「アフリカ・レポート」から行動する

アフリカ・レポート アフリカの現状を活写した一冊。入口としても(日本語で読める)最新情報としてもオススメ。

 「なぜアフリカは貧しいのか?」への回答は、「植民地として搾取されてきたため」になる。何百年に渡って欧米に強奪され続けてきた結果、インフラや行政機能の崩壊、疫病の蔓延、治安の悪化から内戦・内乱に至り、貧困を生む負のスパイラルをまわす。

  • 160,000%を超えるインフレ率、ジンバブエ
  • 鉱物資源の利権をめぐって腐敗した国家、コンゴ
  • 無政府状態+内戦状態が10年余に続くソマリア
  • 血まみれダイアモンド利権で殺し合いが続いた、シエラレオネ
 しかし、「なぜアフリカは貧しいままなのか?」には、異なる回答が出始めている。最近読んだ2冊(「アフリカ 苦悩する大陸」と「最底辺の10億人」)には、政府や指導者層に問題があることがはっきりと述べられている。大統領や政府が無能無策なだけでなく、国民を食い物にして私腹を肥やしているからだという。

 もちろん、この2冊の著者が英国白人だから、とナナメに見ることもできるし、「おまえが言うな」と聞かないフリもできる。しかしながら、日本人のジャーナリストである松本仁一も、同じ実態を指摘している。政府の腐敗がいかに国をだめにしているかが淡々と明らかにされており、「かわいそうなアフリカ」が刷り込まれた読者であればあるほど、タブーに触れている気分になるに違いない(わたしがそう)。

 このタブーを破って、アフリカ政府の腐敗を批判する人もいる。国連機関や援助関係で、実際に現場を見てきた人だ。そのたびに政府の側から「You're RASIST(あなたは人種差別主義者だ)」と返されるという。「政府がうまくいかないのは、植民地支配で教育訓練の機会を奪われたためだ。それなのにあなたはわれわれを差別して…」という理屈だそうな。

 そこで山形浩生さんこのコメントを思い出す。「何でも人のせいにする病」は、本書でも見事にあてはまる。

たとえばジンバブエのいまの惨状は、すべてを白人のせいにして白人の土地を没収し、それで生産力が落ちるとそれを外国企業のせいにして外国企業の資産没収を宣言し……という、何でも人のせいにする病の極端な例です
 まるで、子どもの無茶苦茶なわがままがまかり通る悪夢を見ているようだ。国に愛想をつかした人は脱出し、慢性的な人材不足に悩まされることになる。教育を受けた良識的な人材を外へ押し出そうとする内圧は、そうでない人びとを取り込もうとしているように見える。

 いっぽうで、前2冊の著者からは書きにくい視点も描かれていて面白い。「コーペラン」というフランスの行政顧問の話だ。セネガル独立直後、官僚は育っておらず、フランスは援助名目でこのコーペランを大量に送り込んだという。行政はコーペランが牛耳り、官僚でしか知りえないような非公開情報――ダムの建設予定地など――を横流しすることで、フランスの「国益」に貢献することになる。独立とは名ばかりで、形を変えた実効支配はまだ続いているようだ。

 さらに、アフリカにおける中国の存在感が興味深い。たとえば、2004年10月に中国とアンゴラの間に結ばれたODA融資契約だ。中国は20億ドルを融資し、アンゴラは石油で返済するという。内容は「住宅建設・道路・鉄道の補修」で、20億ドルのほぼすべてを中国の国営企業が受注した。労働者も設備も資材も中国から運び、アンゴラ人労働者は雇われなかったという。いわゆる「ひも付き」だと思われるが、ここまで徹底するのは珍しい。

 その一方で、商機を求めてアフリカに雄飛する中国人の猛烈ぶりも紹介されている。商売上手の中国人を狙って強盗事件が起きるが、文字通り「石に噛り付く」ように店を守る。したたかに成長するコミュニティを見ると、ハード・ソフトの両面で中国の存在感が増していることが分かる。欧米が引くのなら、中国を入れればという判断がなされているのかもしれない。

 真暗な前半と異なり、本書の後半はNGOの自立支援や日本人企業の自助努力が紹介されているが、「とってつけた」感が強い。草の根的活動に目を凝らせば、もちろん希望はあるだろうが、ODAとして毎年数百億つぎ込んでいる日本政府の影が薄いのはなぜ? ――で、冒頭へ戻る。援助漬になった企業と結託して甘い汁を啜っている腐敗した政府に。

 でも、絶望はしない。

貧困の終焉 以前のエントリ「だめな国は何をやってもだめ『最底辺の10億人』」で、アフリカの現状をあまりに否定的にとらえていた。そのコメントで、Yuu Arimuraさんからキツい言葉をもらった。感情的な言葉ながら、目の覚める思いだ。「最底辺」を読んだとき、そのあまりの救いのなさに、わたしは短絡すぎて冷静でいられなくなっていたに違いない。「だめ」と斬って捨てるのではなく、徒に絶望するのではなく、わたしにできることはまだあることに気づいた。まずは、akiraさんhsksyuskさんのオススメに従って、「貧困の終焉」を読んでみよう。それから、ODAの使途について働きかける方法を調べてみよう。

 上に挙げた方に限らず、さまざまな場所で有用なコメント・アドバイスをいただき、ありがとうございます。読んでレビューするだけでなく、募金で自己満足するだけでなく、も少し具体的に動こうかと。アイディアがありましたら喜んで承ります。

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コメント

はじめまして、いつも読ませて頂いています。
実際に読んで、考えて、行動されていてすごいです。言葉が軽いですが、そういう姿勢に感動しました。自分もまだ書評読んで、読んでみようと思っているだけですが、読んで人に話すなり、考えたりしてみたいと思います。どうもありがとうございました。

投稿: イッパイアッテナ | 2008.10.29 23:37

>>イッパイアッテナさん

ありがとうございます。URL先を見ましたが、白背景に白文字のトリッキーなblogですね。本文がないのかとびっくりしました。

いかなる形であれ、読了後に自分が変わらなかったのであれば、その本は読む必要がなかったと考えています。思索を深めるであれ、具体的な行動に出ることであれ、何かの「変化」が必ずある、と信じています。アフリカ関連の本は、その典型かと。

ヒョーロンカに堕ちないよう、具体的に出ます。誰もやったことのない方法で。

投稿: Dain | 2008.10.30 23:36

どうもありがとうございます。設定を適当に変えたせいだと思いますので修正します。助かりました。

すごいですね。自分も読んで何かを感じてみたいと思います。そういうのが広がっていくと、すごいことになりますね。だから読書は好きです。

投稿: イッパイアッテナ | 2008.11.01 00:44

>>イッパイアッテナさん

あらら、意図してたわけじゃないのですね…

投稿: Dain | 2008.11.05 23:47

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