ライター必携「調べる技術・書く技術」
あるテーマを設定し、それについて調べ、人に話を聞き、最後にまとめる技術を紹介するのが、本書のねらい
もっと焦点をしぼれば、
- ノンフィクションのテーマ設定
- 資料収集のノウハウ
- インタビューのアポとりと準備
- インタビュー(聞き取り、観察、記録)
- ネットワーク作り
- 資料整理
- そして執筆の準備から脱稿までの方法
野球のバッティングにたとえるなら、「フォーム」にあたる部分が本書。ノンフィクション・ライターとして培ってきた膨大な技術の中から、一般にも役立ちそうな「フォーム」をレクチャーしてくれる。
興味深いのは、書き手が「いい嘘」をついているところ。
一般化できそうな「フォーム」に限定しているから、「著者の独創は最小限に絞ってあると」いうが、そんなの嘘っぱち。ライターとしての「お作法」が教科書のようにだらだら書かれているなら、わたしも読みはしないさ。
けれども、最小限のはずの「著者の独創」があちこちに滲み出てて、いい味を出している。「独創」に語弊があるなら、書き手のアクというか信念のようなものが、あちこちに表出している。たとえば、推敲のテクニックの一つ。
自分の書いた文章を読み返すときには、必ず声に出して読むこと。黙読した際には「このままでよい」と思えた文章でも、声に出してみると、つっかえたり言いよどんだりするものだ。そのときには、ためらわずに書き直す。声に出して、リズムで文章を受け止める。この方法そのものは目新しいものではないが、「音読してつっかえるなら、ためらわずに書き直せ」と言い切るのがスゴい。きっと、著者はこれを実践しているに違いない。声に出して、自分ならではのリズムで言葉を乗せる。このリズムこそ、書き手の個性なのだろう。
さらにスゴいのは、「書き出しに全神経を注げ」という部分。あたりまえじゃん、とツッコミ入れられそうなんだが、「文を書く力の7、8割を書き出しに注げ」とまで断言する。曰く、書き出しを読んでもらえなかったら、残りの文は全て読んでもらえない。だから、「つかみ」で読み手のハートをつかまえろという。
ああ、確かに。わたし自身、リード文で残りを読む/読まないを決めているので、資料を執筆するときは、特にリード文に注力している(blogなら、タイトルと一行目だね)。
ともすると「暗黙知」に陥りがちなノウハウが一貫してまとめられている。ライティング・テクニックそのものよりも、それを支えるもろもろの技術がいっぺんに見える。わたしがライターを目指すなら、こいつを手がかりに愚直に登り始めるね。

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コメント
いつも拝見させていただいています。
この記事で本書のことを知って早速手を伸ばしてみました。
現実的すぎて敬遠されがちなノンフィクション、
だからこそ読ませるテクニックが必須になってくるんですね。
中でも
「ノンフィクションにはミステリーの手法が極めて有効」(P.146)
は特に印象的。
そして、本書の魅力は良質なノンフィクションがおいしくも読めちゃうこと。
ノンフィクションの良質なガイドになっていること。
そんなガイドに誘われて二三冊読んでみました。
そこで出会った会心の作が辺見庸『もの食う人びと』
もしかしたら既読かも知れませんが、未読の場合は是非ご一読を。
投稿: DukeK | 2008.07.20 01:56
>> DukeKさん
辺見庸さんの「もの食う人びと」ですか…
積ん読く山のどこかに刺さっています。
開高健さんと比較すると悪いかなーと思いつつ、目で追っています。
そのうち手にしようかと。
投稿: Dain | 2008.07.20 22:57