「群衆の叡智」でスゴ本を探せるか?
「群衆の叡智サミット2008」で沢山の刺激をもらった。まとめはKishiさんの「群衆の叡智サミット2008Spring行って来た」が秀逸。ここでは、わたしの関心「群集の叡智でスゴ本を探せるか?」について書いてみる。
まず、「群衆の叡智」で目指している方向が、わたしが期待しているものと違うことが分かった。グンシューノエイチを分かりやすく言うと、「みんなの意見は、案外正しい」になるという。ずーっと、この「正しい」に引っかかっていて、今でも解けない。
例えば、あの番組の最終回の視聴率は何パーセントかとか、このケースに入っているジェリービーンズは何個? といった、「正解」を求めるものが「群衆の叡智」なのだろうか? もしそうなら、「スゴ本」を探す作業はカンタンになる。みんなのオススメの最大公約数を拾っていけばいい(それは一般に「ベストセラー」と呼ばれるがね)。あるいは、Great Books のリンク集で事足りる。ネタがないときのラーメン特集さながら、どっかの雑誌の「徹夜本ベスト100」とか「ビジネスマン必読書100」をひたすらcopyればOK。
しかし、ご承知のとおり、ここではそんなことをしない。だいたい「すごい本」なんて人によるし、読んだ時期によるし、だいたい読むときの気分にも左右される。昔はアレだった本が、歳とって読むとキタコレになったり、超オススメ本を薦めたらけちょんけちょんに評されたり、誰でもあるでしょ?
だから、「正しい」なんてウソっぱち。せいぜい「これ読んだらガツンとキたよー」とか「それ読んで萌えたら、これもいけるぞ」ぐらいの『ゆるい』相関がなされるだけ。ハルヒとルイズならツンデレ属性だねとか、トフラーとドラッカーなら明日はどっちだ!?とか。
さはさりながら、こういうリンクが積み重なると、話が変わってくる。ハルヒとルイズ好きは、手乗りタイガーも炎髪灼眼の討ち手も大好物だろう。そして、そんなリンクが積みあがってくると、きっと誰かが言い出すはずだ「オレなら春琴で御飯三杯はいける」ってね。あるいは、トフラーとドラッカー好きが集まると、「チャルディーニが具体的だよね」とか言い出すヤツが必ず現れる。好き × 好きは、「もっと好き」ではなく、「ちがう好き」を生み出す。
これは、「みんなの意見」ではない。
みんなの意見を集めるときに出てくる「ゆらぎ」みたいなもの。ツンデレキャラベストを作るときの、泡沫票みたいなもの。だって「春琴抄」はスニーカー文庫にないもの。そしてだ、ルイズ好きが「春琴」にハマるとくぎゅうぅぅぅとか言い出すはずだ(キャラ的にはタバサなのだが…)。
多様な意見を集約しようとするとき、その方向からどうしても漏れる部分がある。わたしはソコに目をつけたい。「どうせランキングしたら○○か△△あたりが上位を占めるんでしょ」なんて「予想」には興味がない。「みんなの意見はだいたい正しい」だろうからね。
ただし、こうした「ランキング行為」が無意味だといっているわけではない。むしろ重要なくらい。なぜなら、そうしたランキング行為のホットなところに衆目の視線が集まってくるわけだから。それだけ多様な意思が紛れ込む可能性が高くなるからだ。はてなブックマークの「最近の人気記事」は、視線が集まるからその多様性を吟味することができる。
それならば、母数が多ければ多いほどいいんじゃない? とくるのだが、そうは問屋がおろさない。数が多すぎると「春琴」が埋もれてしまったり、流されてしまうからだ。はてなブックマークの集約方法が「鮮度と数」だけに由っているため、有意義だと「自分が思う」情報が流されてしまっているのと同じだ。
じゃぁどうすんだよ? という疑問への回答が、このblogのタイトルになる。わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる。わたしはあなたを探す。なぜなら、わたしがまだ読んでいないスゴい本を、もう読んでいるから。
あなたを探す方法は、いろいろある。
あなたがブログでつぶやいた一言からGoogleで逆探したり、
あなたがここで「○○が良いなら、これどうよ?」とオススメしたことが縁となったり、
あなたと実際に会って確信したり(「こいつはスゴ本ハンターだ」ってね)。
そして、一番てっとり早いのは、視線が集まっているホットな場所で探すこと(盛り場でナンパするのと一緒だね)。わたしの場合は、ブックマークしてくれた人がそれにあたる。ブログをもっていたらそこへ出かけて、わたしの興味と照らし合わせる。解析ツールを使ってリンク元をたどる。そして、あなたを見つけたら、今度はあなたからスゴ本を探し始める。カンタンだ、わたしが読んでいない本をピックアップすればいいのだから。そして、その本の評価もカンタンだ、Googleに放り込めばいい。ただし結果は鵜呑みにしない。このときには「あなた」の数はかなりに上る。複数の「あなた」がそれぞれどう評価しているかを両方から照射してあぶりだすことができる。
スゴ本候補は、こうして選ばれているわけ。
だからわたしがキアイ入れてレビューするのも分かるでしょ? コメントであれ、ブックマークであれ、フィードバックが得られるから。そのフィードバックをくり返すことによって、手に入れた「ゆらぎ」を「わたしの興味の範囲」つまり「わたしに閉じた世界」の外側へ押し広げることができる。似たような本ばかり読んでいる閉鎖空間の大将にならないための、こころがけ。
「群衆の叡智サミット」では、多様な意見をいかに「集約」させるか、うまい仕掛けがないのかという方法が焦点になっているが、「集約」というスタンスに由っている限り、スゴ本はぽろぽろと抜け落ちていく。スゴ本を探すことについて言うならば、「みんなの意見」は役に立たない。ただし、みんなの意見が集まっているところにいる「あなた」を探すのには、けっこう役に立っている。
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おまけ。「あなた」を探す具体的な方法をご紹介しよう。↑の例は抽象的すぎるからね。
まず、自分にとっての「スゴ本」をいくつか選ぼう。これだけはゼッタイ!というヤツだ。沢山あればあるほど精度は高まるが、やるのも大変なので3冊ぐらいが妥当かと。
次に、それぞれの書名を「はてなダイアリーキーワード」にぶち込む。例えば、「カラマーゾフの兄弟」ならこんな結果が得られる。大事なのは、それを挙げている「人」だ。その人のダイアリーへ行ってみよう。
それぞれの「人」は、自分の感覚で取捨選択すればいい。そして、それぞれのスゴ本から得られた人一覧のうち、重なっている人がいたら、それが「わたしが知らないスゴ本を読んでいるあなた」になる。最後の工程はちと大変なので、機械的にandをとってもいい。ただし、アルゴリズムに任せると、「ゆらぎ」は失われるかもしれない。
お試しあれ。

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コメント
Dainさん
> ずーっと、この「正しい」に引っかかっていて、今でも解けない。
なるほど。私のもやもやもここにあったのか、と腑に落ちました。
どうもこの「みんなの意見は正しい」を否定するのは民主主義を否定する極悪人のように思えてためらいがあったのです。
鋭い考察に感謝と拍手です。
投稿: ほんのしおり | 2008.05.24 01:11
>> ほんのしおりさん
いわゆる「正解」を当てっこするなら、「みんなの意見」をどう「集約~近似」させるかの手続きや技術の話になります。
しかし、正解のないものへ適用しようとすると、集約者の恣意が(見えないながらも)働いてきます、必ず。ここを無視して「正しい」という言葉が振りかざすのは、たいへん危険な香りがします(「翼賛」と同じぐらいのニオイがしますよ)
投稿: Dain | 2008.05.25 16:17
dainさんの好みに合うかどうかわかりませんが、スゴ本を見つけたので、お勧めします。
なぜビジネス書は間違うのか ハロー効果という妄想
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4822246663
参考になるか自信がありませんが、ブログに書評を書いたので、そちらをご覧になれば、どんな本かというのはわかっていただけるのではないかと思います。
http://d.hatena.ne.jp/fantoms/
非常におもしろく、有用な本なので、ぜひ多くの人に読んでもらいたいと感じています。
ですが、自分のブログのPVではいろんな人に知ってもらうのは難しいのです。
だから、今回不躾ですが、書評ブロガーとして有名なdainさんにお薦めしました。
よろしければ、一読してみてください。
乱文失礼いたしました。
投稿: fantoms | 2008.05.25 22:05
>> fantomsさん
オススメありがとうございます、それからレビューを読ませていただきました。
いわゆる、「後からだったら何とでも言える」というやつですね、ケーザイ学者さんが得意とするところの。ビジネス書や成功本を沢山読めば成功できると思い込んでいる方にキく一冊になるかと。キーワードは「ハロー効果」に、「プラシーボ効果」を加えると破壊力が増すでしょう。
ぜひ読ませていただきます──といいたいところですが、fantomsさんのレビューで必要十分なことがわかりました。まさに「読まずに分かる」素晴らしいレビューですね、ありがとうございます。
投稿: Dain | 2008.05.25 23:09