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「要するに」を読む前に確認すること

要するに 奇妙な題名だがちゃんと理由がある。

 余計な装飾やこむずかしい用語を追い払って、「結局こういうこと」を話し言葉でまとめている。ネットはどうなる?会社ってなんだろう?株ってもうかるの?プライバシーってそんなに大事? そんな疑問を「要するに」でバッサリ斬る。

 山形節を求めてページを開く―― と、あれれ? 読んだことあるぞ。

 あにはからんや、雑誌に書いた小文を集めたもので、書き下ろしではないとのこと。それなら山形浩生オフィシャルにぜんぶある。未読の方は、次の文章を読めば雰囲気がつかめるだろう。

 たかる社会にたかる人々
 アートと IT

 すごいなぁ、と思うのは、その切り口。もちろん彼より巧みに言辞を弄する論者はいるんだが、掲載年を見て欲しい。どれも10年ぐらい前に書かれているんだ。「たかる社会にたかる人々」なんて、自殺をテーマにしているにもかかわらず、年金問題というカタチに化けている。

考えてみればなぜ社会は年寄りなんかを養うんだろうか。役にたってないじゃん。なにも有意義なことしてないではないの。自衛隊やODAは無駄かもしれないけれど、年寄りを養うのだって無駄じゃないの。

これに対するはっきりした回答ってのは実はない。役にたたなくなっても養ってあげる――そういう約束でむかし働いてもらったから、というのが一つ。そしてそれをみせておくことで、いまの人たちを働かせようというのがもう一つ。そしてもちろん、社会の力を年寄りが握っていることが多いので、というのがもう一つだろう。ただ、これは年寄りが役にたたないということを否定できるものじゃない。

 今じゃミもフタもなく言い放つ人がいるが、当時からそういう慧眼を持つ人はすくなかろう。手から口への売文家ではなく、もうちょっと息の長い視線で書いており、時代の波に洗われても残る部分がどの文章にもある。

 もちろん、昔たてた予想がまるっきり外れてしまったものもある。それも正直に、(誤りを認めた上で)載せている。書籍化にあたり、自分に都合の悪いとこを削って口を拭っているどこぞの御仁とは偉い違う。

 誉めすぎかもしれないので、ここらで辛かったところを。

 掲載誌によって読者ターゲットはぜんぜん違う。サービス精神旺盛(?)なのか、読み手のレイヤーに合わせて書いているので、一気に読むと乱降下・急上昇して気持ちが悪くなる。編者がまとめようと苦心した跡は見えるものの、レベルもテーマもバラバラ感は否めない。本業と翻訳業で超のつく忙しさの中で書いているので仕方ないんだろうな。この人が、たっぷり時間と取材費を使って書いたものを読みたい。

 あと、本書の全部はネットで読める。「もくじ」からのリンク集をご紹介。

 山形浩生『要するに』原稿リンク集


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