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「本棚」を覗く快楽

本棚 ひとん家(ち)の本棚を見るのが好きだ。

 気になる人が、どういう本を読んでいるかに興味がある。知らない本を発見するのは嬉しいし、知ってる本の組み合わせの妙はもっと愉しい。わたしのポリシー、[ 本を探すのではなく、人を探す ]ための、最もプリミティブなやり方でもあるし。

 本棚には人格があらわれる。いわば知性のプロファイルだ。本のラインナップだけでなく、並べ方や置き場所に至るまで、自我が延長したものが、プライベート・ライブラリーになる。松岡正剛の書斎(というか本の空間)は、コスモロジーそのものだし、上野千鶴子の研究室のスチールラックは、まるで銃器庫のようだ。

 そんなプライベートな場所をジロジロ眺めるのは、制服のミニスカに頭を突っ込むことと同じぐらい気まずい行為なので、がまんが必要だ。ところがミニスカ同様、しかるべき手続きと熱意、ひょっとすると幾ばくかの現金があれば、観賞することができる。

 本書は、そうした欲望を、心ゆくまで満たしてくれる。覗かれた方は以下のとおり。

  • 桜庭一樹
  • 川上未映子
  • 角田光代
  • 石田衣良
  • 山本幸久
  • 長崎訓子
  • 大森望
  • 中島らも
  • 喜国雅彦
  • みうらじゅん
  • 金原瑞人
  • 穂村弘
  • 吉野朔美
  • 宇野亜喜良
  • 山崎まどか
 石田衣良のモデルルームのような書斎や、大森望の溢れ出している本棚が面白い。村上春樹と稲垣足穂とアンドレ・ブルトン が仲良く収まっている中島らもの趣味も面白いし、みうらじゅんの本棚に「マンガの描きかた」が鎮座しているのにゃ噴いた。

 覗かれるだけでなく、本とのつきあい方もあけすけに語ってくれる。いちばん知りたいのは、「増殖する本をどうやってコントロールするか」だろう。意外なことに、本の洪水に悲鳴をあげている人はいない。達観派、ガチンコ派いろいろあれど、皆さん自分のやり方を確立している。大森望とみうらじゅんの「つきあい方」が対照的だ。まず大森メソッド。

よく考えると、今は読み終えた本や読まない本を後生大事に持ってる必要もほとんどないんですよ。だから、極端なことを言うと全部なくなっても実はたいして困らない。ある日、仕事場に来てみたら、空き巣が入ってすべての本を盗んでいってくれたらどんなに幸せだろうとか(笑)

 昔は、「見たときに買わないと二度と巡り会えない」なんて思っていたけれど、ネットのおかげで「読みたいときに買う」派だそうな。潔いなー、などと思ってはならない。諦めているんじゃぁないかと。壁全部を圧倒するばかりか、家中に氾濫する本棚を見てみるがいい、そりゃもう、スゴイ状態なんだから。

 その反面、みうらじゅんのポリシーは別の意味で潔い。よくわかる。積読派にとって格好の言い訳になるだろうが、大きな財布と広い空間が必要だね。

子供の頃からそういうふうな本の買い方してるから、必ず親父が「それは読書じゃなくて積ん読だ」とか親父ギャグ言ってたけど。もう買った時点でいいんですよ。オレがこの本に興味があるってことがわかったんですから。わかることが大事なんで。いくらかでもお金を出して買うってことは相当ハードル高いですからね。金出してまで買うってことは相当興味あるんだなーって自分が思うんですよ

 本棚を覗くだけでなく、本にまつわる想いも語ってくれる。桜庭一樹の繰り返し読みはいいね、いいね。

本はけっこう繰り返して読みますね。この本の中では、このシーンが好きだっていうのを覚えていて、映画でも好きなシーンをまた観たいとかあるんですけど。例えば「麦撃機の飛ぶ空」では「麦撃」という短編のラストシーンがすごく好きなので、ページを折って、ラストシーンだけまた読んで戻しておくとか

ノベルゲームのセーブポイントと同じだね。いつでもその本を読んだときの「気持ち」をロードすることができる。繰り返し読みたい、という本だけで書架をつくるのは気持ちいいだろうね。ちなみにわたしは、図書館派。[図書館を利用するようになるまでの20ステップ]を経たんだけど、こんな話を聞いているうちに、自分の本棚(群)が欲しくなる。あの修羅の道をもう一度?

 ネット界隈なら、小飼弾さんの本棚がスゴいらしいが、どんなんだろうね。あれだけ旺盛な読書量なら、あっという間にパンクしそうなものだが…

 以前の「本棚を覗く」話は…
  著名人の本棚を覗く
  人の本棚を見るのが好きだ

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コメント

いつも楽しく拝見してます。

>ネット界隈なら、小飼弾さんの本棚がスゴいらしいが、どんなんだろうね。あれだけ旺盛な読書量なら、あっという間にパンクしそうなものだが…

こちらに写真があったので。既読かもしれませんが。
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0801/10/news017_9.html

投稿: とおりすがり | 2008.02.04 01:04

山之口洋さんをご存知ですか(前にも書いたような気がしますが)?
ご本人のblog
http://yamanoguchi.cocolog-nifty.com/blog/2003/05/writing_booth.html
で、こちら(http://homepage2.nifty.com/yoshinojin/Mutter.files/MutOld.file/M040602.html)の2004.6.20で紹介されているとおり、本は裁断して全部スキャナーに読ませる、とか。

投稿: 金さん | 2008.02.04 12:18

>> とおりすがり さん

 教えていただいて、ありがとうございます
 リンク先はチェック済みです
 遠目で書名が分からないのが残念ですね


>> 金さん さん

 「われはフランソワ」を教えていただきましたね
 (すみません、未だ手にとっていません)

 で、「ITスーパー書斎術」!懐かしいです、
 「商売道具をそんな風に扱うなんて」と憤慨する一方で、
 「商売道具だからこそ徹底的に使い切るんだ」と妙に納得してました

投稿: Dain | 2008.02.05 00:22

ごぶさたです。

他人の本棚を見ることは、他人の財布を見るより、
楽しいですね。
顔を見るとか、話をするよりも、本棚の方がその人のことを能弁に語ってくれてるような気がします。

実際に知り合いの家に行った時に
「本棚見せてくれない?」と言うと、たいてい嫌な顔されますが(笑)

投稿: ふる | 2008.02.05 00:34

>> ふる さん

  > 本棚の方がその人のことを能弁に語ってくれてる

 ああー、確かにその通りですね
 見栄本でも実用本でも、「何に価値を置いているか」が如実に出ますもの
 たとえば、"あの"上野千鶴子氏は「プライベート・ライブラリー」をゼッタイに
 見せられないと言ってます
 武闘派フェミニストとしては、下着を見られるよりも恥ずかしい数々が
 ならんでいるのでしょうね…

投稿: Dain | 2008.02.05 22:32

去年、『氷の海のガレオン』をオススメいただいたゆーごです。

この記事とはあまり関係ないことかもしれませんが、Dainさんのお子さんのようなチビッコたちにとって「親の本棚」って、
それはもう、ものすごく影響を与えるものだろうなあ、と思いました。

チビッコの「ヘンなものセンサー」はやたらと鋭敏なので(僕も正月に従弟に冷や汗をかかされたので)、
大人になって子を持った人たちはそれぞれ独自の対処法を持っているのではないかと。

投稿: ゆーご | 2008.02.05 23:23

>> ゆーごさん

 ああ、大丈夫です
 わたしの本棚は、「あってなきが如く」ですから
 2区2市の図書館を本棚代わりにしているので
 (自分の書架が無いともいいますね)

投稿: Dain | 2008.02.07 07:08

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