DS文学全集レビュー「少女∽地獄 」
「いっぺん、死んでみる?」人を呪わば墓穴二つ。哀しく、おぞましい。
閻魔あいの手引きで、二つ目の穴、つまり自分の墓穴を覗きこむのが「地獄少女」。ひるがえって「少女地獄」は、一つ目の穴に自らを投ずる少女たちのオムニバス。怖いというより、哀しい。
三編の独立した物語だが、いちばん哀しいのは「火星の女」だな。名門女子高で見つかった黒焦少女の屍体が、発端であり終端であったという話。
1. 新聞ゴシップの、毒々しさとセンセーショナル
2. 少女の手紙の、ひたむきさとセンチメンタル
を織り交ぜながら真相が暴かれていく。
つかみからして驚愕の事件なんだが、裏側にはもっとおぞましい真実が。そいつを読み手に知らせる仕掛けがいちいち上手い。手紙文ってこうやって使えるんだーという見本のようなもの。でもって、手紙だからいちばん知りたい肝心なトコは書いてない。推して知るべしってやつなんだが考えたくねぇぇぇ!
この手法、「瓶詰地獄」より上かもしれない、といえば読みたくなる?
他の二編は、むしろ不安をかき立てられる。
最初の作品「何んでも無い」は、はじめの不協和音がだんだん大きくなる様子がイヤらしい。可憐な少女の虚言癖をめぐる話といえば聞こえはいいが、緊張感のある描写が映画的。特に、ウソがホントになるさまと、ウソが暴かれるシーンは、ヒッチコックお得意のクローズアップ・カメラで「読む」カンジ(「鳥」とか「北北西」のアレ。こないだの「バイオハザード」にもあった)。
嘘をリアルの一部として取り込み、嘘を支えるために嘘をつく。虚構+現実の世界に生きた少女の果ては… わたしが明かさなくても知れよう。
次の「殺人リレー」は、もどかしさのあまり掻きむしりたくなる「方法」で読まされる。つまり、殺人鬼(かもしれない)男にとり憑かれた娘の話を「手紙で」読まされるわけだ。なんせ手紙だから、どんなに切羽つまったことがあっても何もできない。しかも、その手紙を手にする娘の背後から読むような立場なので、輪をかけてもどかしくなる。「志村ーうしろー」とVTRに向かって言う感覚。
三作品ともカタルシスはあれど、分かった後は苦い読後感。「火星の女」がちょっとだけ「ふたりは百合きゅあ」なのが救いか。読むと発狂する「ドグラ・マグラ」のウォーミングアップにちょうどいい。文庫版は上の通りおどろおどろしいが、DS文学全集で読んだ。
最近、シレン専用機としてクリムゾンブラックを新調したんだが、今じゃ文学全集専用マッスィーンと化している。デジカメ越しに読むような、にじんだ文字にも慣れた。手にした感覚が文庫本と一緒というのが所有欲望を充足させる。DS文学全集そのもののレビューは、[ここ]。

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