千賀さんはとんでもないものを教えてくれました、「カイト・ランナー」です
For you, a thousand times over
きみのためなら1000回でも
瞼の裏が頬→喉に直通、胸からそのまま熱いやつがあふれる。揺れているのは電車でなく、わたしの心、酒に強く酔ったようだ。要するに、あまりに強い感情に襲われて、立っていられない。
最初に断っておく。これは、今年No.1スゴ本、自信を持って、オススメできる(ナンバーワンがいくつあんねん!というツッコミ勘弁なー)。呵責と償いの極上のストーリーを堪能してほしい。
敬愛する千賀サマが、「全米が泣いた 私は泣いたよ」と太鼓判押したのが"The Kite Runner"、勇んで買ったはいいけれど積読山へ(英語の小説は優れた導眠剤)。で、橋の下をたくさんの水が流れ、ようやく邦訳を読めたというわけ。
アフガニスタンの激動の歴史を縦軸、父と子、友情、秘密と裏切りのドラマを横軸として、主人公の告白を、ゆっくりゆっくり読む。描写のいちいちが美しく、いわゆる「カメラがあたっているディテールで心情を表す」ことに成功している。
話の展開は、千賀さんの言う「John Irvingを、ウェットかつエスニックにした感じ」まんまですな。エピソードの語り口は、むしろ「アンジェラの灰」が近いような。amazonはこう紹介している。
イントロで展開が読める、しかも、はやりの御涙ちょーだいの「かわいそう話」ではないのも分かる、でも止まらない。涙腺の弱さは折り紙つきのわたしだが、まるで感情の蛇口が壊れてしまったようだ。小さい頃、わたしは召使いであるハッサンとよく遊んだ。追いかけっこ、かくれんぼ、泥棒ごっこ、そして凧あげ。わたしはちゃんとした学校へ通っていて、読み書きもできる。しかし、ハッサンは世の中の「真理」をすべてわかっているようだった。真理とは、愛や慈悲、そして罪、というものについてだ。12歳の冬の凧合戦の日。ついにそれが起こる。
記憶の底に決して沈めてしまうことのできない罪…。他人を救うことの困難さ、友情、愛、畏れについて深く考えさせる、アフガニスタン出身作家の鮮烈なデビュー作。
本書は、ニューヨークタイムスのベストセラーに64週ランクインし、300万部の売上に達したという。アフガニスタンが舞台の物語としては異例だ。おそらく、「父と子」、「友情と裏切り」、「良心と贖罪」といったテーマの普遍性が、読者層を厚くしているのだろう。
しかし、これほどの売上は移民の読者層が増えている証左なのかも。
祖国を離れアメリカで生活をしている人にとって、二つのスタンダードに挟まれることは想像に難くない。本書の主人公は、むしろアメリカ流に飲み込まれ、過去を深く埋めるほうを望む。この「過去」は特殊かもしれないが、ダブルスタンダードを意識する人にとって、本書は別の意義をもち始める。
本書には、二つの「ダブルスタンダード」が折りたたまれている。一つは、戒律の厳しいアラブの男の「ダブルスタンダード」。「嘘と贖罪」の過去が暴かれるとき、気づかされる仕掛けとなっている。もう一つは、イスラム法を厳格に守る(守らせる)集団、タリバンの「ダブルスタンダード」。映画や小説で見知ったベトナムやカンボジアと重なる。
二つの祖国を持つ苦悩なんて、山崎豊子の小説でしか知らないわたしと異なり、U.S.に移住した人は、また違った思うところがあるんじゃぁないかと。千賀さんだと「ニッポンは平和ですね」と微笑み返すんだろうなぁ。ともあれ、すばらしい本を教えていただき、千賀さんに大感謝。
最後にもう一度。これぞ今年のNo.1スゴ本、自信を持って、オススメできる。
そうそう、「人前で読むな」と忠告しておかないと。周りの迷惑になるので、独りのときに、どうぞ。

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