知らないスゴ本を探すテクニック「作家の読書道」
いい作家は、いい本を読んでいる。これ鉄板(逆は必ずしも真じゃないけど)。この原則をもちいて、スゴ本を探すテクニックを紹介する。わたしのスタンスは、「本を探すのではなく、人を探す」で書いたが、その実践編をここに公開する。
「いい」とは、わたしにとって「イイ趣味してるねぇ」という意。わたしが好きな作家は、かならず、わたしが好きな本を読んでる黄金律。もちろんあなたにとっての「いい」本と異なるが、探し方は一緒。同じ本を探すのではなく、同じ探し方で各人にとっての「いい」本を見つけることができる。
テキストは、「作家の読書道」、今をトキメク作家たちの読書遍歴インタビューなんだが、これを使って次のことができる。
- お気に入りの作家が熱く語る、あなたが知らない本を見つける
- あなたの愛読書がお気に入りだという、あなたの知らない作家を見つける
あるいは、その人の作品は読んだことないけれど、本の趣味が合うことに気づいたら、どうする? その作家の本を読んでみたいでしょ? 知らない作家に手を出すキッカケはたいていこれ。わたしが小野不由美をチェックするのは、十二国記の続きが出ないからではなく、S.キングは初期が好きーと言ってたから(「屍鬼」はスゴ本なのは「呪われた町」が傑作だから)。
で、わたしの収獲をご紹介。
■1 お気に入りの作家が熱く語る、わたしが知らない本
それは恩田陸。「夜のピクニック」や「六番目の小夜子」でお気に入りの作家。彼女が熱っぽく語るのが、「アレキサンドリア四重奏」(ロレンス・ダレル)だって。「恩田陸がなめるように読んだ」ならば、こら読まなアカン!
さらに、8/5朝日新聞書評で江國香織がこう評している。「精緻で濃密で美しく興味のつきない、たっぷり耽溺することうけあい」――江國作品は(たぶん)読んでいないけど、「アレキサンドリア」つながりで一冊ぐらいは手を出すかも。
ほら、ノリはあれだ。クラスで気になるメガネっ娘が手にしているあの本を読みたい、あれと同じ。恩田タソは「作家になって、本の読み方に変化はありましたか?」という質問に、可愛いことを言っている。
基本的にないです。作家になったら他の人の小説を楽しんで読めなくなったという人もいますが、ありがたいことにそうはならなかったです。人の本を読んでいるほうが楽しいですよ、終わりまでちゃんとあるし(笑)
■2 わたしの好きな本を読んでいる、わたしが知らない作家
ずばり垣根涼介。「君たちに明日はない」を平積みでみかけたこともあったけれど、「期待の若手」とひと括りにしてて、ノーマークだった…
彼に俄然興味を抱いたのは、モーム「月と六ペンス」を5回も読み返したというから。さらに、「悪党パーカー」シリーズを全読してたり、池澤夏樹なら「スティル・ライフ」、フレデリック・フォーサイスなら「戦争の犬たち」が一番だって。おお、わたしと趣味が一緒だぁ(ふつう、池澤なら「マシアス・ギリの失脚」、フォーサイスなら「ジャッカルの日」あたりを挙げるだろうが、この好みのズレ具合がわたしと似ている)。
そんな彼の最近のイチオシは、ルイス・セプルベダ「ラブ・ストーリーを読む老人」だという。読むべし、読むべし。
■3 お気に入りの作家が熱く語る、わたしが大好きな本
それは奥田英朗。ノワール but 抱腹絶倒(しかも黒くない笑い)の逸品「最悪」でいっぺんにファンになっている。そんな彼がこんなことを言う。
ああ、確かに。奥田の小説には、キャラの立ち回りで「人の弱さ」を描こうとしているところがある。リアルなやりとりを追っているうちに、物語の真っ只中に立っていることに気づく。山田太一は読み落としが沢山ある、ゆっくり拾い読みするべ。「テーマを書くな、ディテールを書け」と。ディテールを書くことができればテーマは浮き彫りになるんだと。日常生活やエピソードを積み重ねていきたい。そういう意味では山田太一さんのドラマや小説の影響は受けていますね。とにかく日常会話がうまい。
■4 本を読まない「作家」
あえて名前は挙げないが、「本なんて読みませんよ」という"駄作家"。あるいは、「作家」のわりにアレなものしか読んでらっしゃらない方。かわいそうな読書歴を見せられると、気の毒になってくる。それでモノ書いて銭もらってるんだから、逆にスゴいのかも。
感性だけで書こうとしても、いずれ枯れる。「みずみずしい感性」という言葉そのものが手垢とホコリまみれなことに気づけよ、と。まぁ、時代の徒花として鑑賞するも吉。あるいは、garbage in, garbage out がここでも通用する例として見守る。
―― と、こんなカンジで、たっぷりと収獲させていただいた。読書道2も楽しみ~
「作家の読書道」の読みは「どくしょどう」ではなく、「どくしょみち」なのがポイント。読書の方法には、書道や武道の「型」のようなものがないからだろう。むしろその十人十色っぷりは、「僕の前に道はない 僕の後ろに道は出来る」をホウフツとさせる。
どの作家も見知ってはいたけれど、この本のおかげで、「わたしにとって」よい再発見ができた。あの作家がアレを読んでいた(読んでいない)なんて… 愉しい笑撃もあった。
あなたにとっても、再発見はきっとある。まずはWebでお試しあれ→「作家の読書道」
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コメント
げ、Web版に名前の挙がってる人、3~4人しか読んだこと無い!
投稿: Sophie | 2007.09.18 11:15
>> Sophie さん
だいじょうぶです。スゴい人もいるけれど、泡沫な方もいらっしゃいますので… 大事なのは、自分のシュミに近い作家を探すことです
投稿: Dain | 2007.09.19 00:01
江國作品なら男性へのおすすめは「神様のボート」です。
さくっと読めるわりに狂った感じがして、江國作品特有のかったるく高級な言い回しとか恋愛模様とか女くささが苦手でも、そこそこ楽しめるんじゃないかと。
お久しぶりながらつい顔を出してしまいました。今後もスゴ本レビュー楽しみにしてます!
投稿: yuripop | 2007.09.19 09:19
>> yuripop さん
「ゆりさんオススメ = 濃いくちBL」という罠はないと信じて、ぜひ読ませていただきます。文章に、女の匂いというか手つきを感じ取るのは、好きなので。
投稿: Dain | 2007.09.19 22:15
作家それぞれの本との出会い、
好きな作品への思いが語られていて、とても興味深かったです。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。
投稿: 藍色 | 2015.04.24 13:03
>>藍色さん
コメントありがとうございます。現代日本の小説を中心に、沢山の作品を読まれていますね。
投稿: Dain | 2015.04.25 09:52