見どころは飼い主「作家の犬」
夏目漱石・中島らもが「猫派」なら、川端康成・米原万里は「犬派」になる。よく見る写真では仏頂面なのが、愛犬と一緒だとここまでニヨニヨするのか!? 著名家たちの隠れた一面を垣間見て、こっちまでニヤニヤ。もちろん見るべきは飼い主のほう。
たとえば世界のクロサワ。が、犬を相手にデレデレしているとこなんて、はじめて見た。いつも黙って厳めしい顔しているイメージだったのが、これじゃただの犬好きオヤジだよ。必見。
次に、米原万里。エッセイで犬猫好きは知ってはいたが、奴らはペットとかいう存在じゃないね。ただの犬好きのオバサンとして無防備に笑っている。著書「ヒトのオスは飼わないの?」は自嘲でも何でもない。ヒトのオスには厳しいけれど、不幸な犬猫には限りなく優しい、いちオバサンと化す。
近寄りがたい人々なのに、犬と一緒に写っているだけで、一気に親しみがもててくる。ただし文豪ならではの鋭い一面も。犬の顔なんて見慣れたものだと思っていたが、作家のフィルタを潜った文を読むとハっとさせられることがある。
中でも、犬の表情を巧くとらえているのは川端康成だろう。「禽獣」は既読だったはずだが、この描写は忘れてた。女が身を任せるときの表情や心中を、出産時の犬になぞらえてこういう。
ああ、そのとおりだ。一線を越えるとき、女は確かにそんな顔をする。今度ぱんつを下ろすとき、女の顔をよく見てみるといい。そこには、きまり悪さとあどけなさがあるから。少しきまり悪さうにはにかみながら、しかし大変あどけなく人まかせで、自分のしてゐることに、なんの責任も感じてゐないらしい
また、「犬が笑う」はありえないことの喩えだったが、驚くなかれ、笑う犬が写っている。p.21の平岩米吉のリリ(シェパード)と、見返しの中野孝次のハラス(たぶん芝)だ。それ以外は、ぜんぶ飼い主が笑っている。
最後に。犬への愛情は、中野孝次が上手く伝えている。「老いきたる」より。
犬というものはその言葉を持たない。
余計なことは言わないから
犬に対しては人は無限の愛情を注ぐことができる。
無条件に、無警戒に、ただ愛することができる。
犬を飼うよろこびの最大のものは、
そういう絶対的に愛することのできる相手が
そこにいるということなのだ。
本好きで犬好きなら、オススメ。眺めてニヨニヨしよう。
ちなみに、猫好きで本好きなら、「作家の猫」。わたしのレビューは[ここ]
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