「最近の若者は本を読まない」本当の理由
最近の若者は、本を読まない。ネットやケータイに毒されており、まともな文章を読む能力に劣るのが、イマドキの若者だそうな。そのため、文を書く能力も、相手の話を理解する能力も、ひいてはコミュニケーションそのものが著しく劣っている。このままでは日本が亡ぶ ―― って、ホント?
しかもこの説、かなり昔からもてはやされている。「最近の若者は…」といいだすオヤヂ連中が「最近の若者」だったころも、この言説はマスゴミ紙面の埋め草となっていた。
昔から語り継がれるこの命題について、調べてみた。
結論からいうと真逆で、最近の若者ほど本を読んでる。これは二重の意味でYESといえる。つまり、昔に比べて今の方が本は読まれている。さらに、オヤジ連中よりもむしろ、若者世代の方が本を読んでいる。
その根拠は、読書世論調査。毎日新聞社が1947年から行っている調査で、全国の16歳以上の男女を対象とした「読書世論調査」と、小・中・高校生を対象とした「学校読書調査」がある。俺様フィルターで世相を斬るよりは客観的&実績があるよ。
■書籍読書率の推移
まず書籍読書率の推移を見てみよう。雑誌やマンガを除き、書籍を「読む」と答えた人の割合を「書籍読書率」と定義している。1970年ごろからずっと増加している。
むしろ、それより以前の爺婆世代の方が目も当てられない。本なんてロクに読んできていないことが分かる。戦後まもない頃は、本そのものが無かったから…とか、娯楽も少なかったし… という言い訳結構結構。
しかしながら、その頃と比較にならないほど娯楽が溢れている現代で、読書率がこんなに高いのはなぜ? 本なんか捨てて、ケータイやゲームにもっと流れる「べき」なのに、数字はそうは言っていない。
つまり、昔と比べて今のほうが、本は読まれている。
■世代別の書籍読書率(2005年)
次に、世代別に書籍読書率を見てみよう。書籍を「読む」と答えた人、「読まない」と答えた人を積棒にしてみた(無回答があるので計100になってない)。いちいち指摘するまでもなく、本をいちばん読んでいるのは、20代の若者(61%)だ。以降、トシとればとるほど本を読んでいない。
アンケートだから…とか、統計はウソを言う…といったケチは好きなだけ付けとくれ。もっと良い尺度があれば喜んでそれを使おう。
ただし、自分の身の回りの些事をあげつらって「若年層の活字離れ」を憂えるオヤジには、「人は見たいものしか見ない」というGolden Ruleを投げつけておく。もちろん出典は知っておろう、憂国を気取るぐらいならな。
■本屋の狙い目 = いちばん本を読む世代
「本を読まなくなった」とホザくオヤジは、最近、本屋に行ってないのか? あふれんばかりの本の洪水は、需要を求めて老若男女関係ない。それでも、入口正面やレジ側の一等地に平積みされてる本は、いったい誰に向けてアピールしている?
よく見てみな、帯の惹句やタイトル、装丁がターゲティングしているのは、若者だ!本屋も出版社もバカじゃねぇ、売れる相手に売ってるんだ。そしてそれは、本なんて読まなくなったオヤヂじゃねぇ。
■ではなぜ、「最近の若者は本を読まない」なのか?
ここまでの話で、「最近の若者は本を読まない」は真っ赤なウソだといことが分かった。だが、それでも嘆息まじりにそんな発言がくり返されるのは、なぜだろうか? 「最近の若者」という枕詞は、時代を超えてそういう魅力を持つのだろうか[参照]?
ここはひとつ、推理小説の犯人探しで使われる古典的な方法、「誰がいちばんトクするか」で考えてみよう。つまり、「若者の活字離れ」を煽ることでメリットが生じる人は誰だろう?
もちろん、煽られた若者に読んでもらわないと困る、出版業界だ。あるいは耳に従いやすい「モンダイ」を製造することで不安を煽るのが仕事であるマスゴミ連中だ。
なんのことはない、本をいちばん読んでくれている世代の危機感を煽っては売りつけるというマッチポンプにすぎない。新聞コラムが先鞭をつけるのは最たる例。若年層の読書離れというウソイメージを振りまいては、下段の新刊の広告に媚を売る構造。
もうひとりいる。自称読書家だ。「最近の若者は本を読まない」と言い出すオヤヂに、試みに訊いてみるがいい、「では、あなたは相当、本を読んでいるんですね」って。すると小鼻をピクつかせながら嬉しそうに語り出すはずだ。なんのことはない、自分語りがしたいワケ。若者税だと思って暫く聞いてあげましょう。
そんなオヤヂに限って司馬遼太郎だけで歴史を語りだす。そりゃ、ハリーポッターだけ読んでファンタジー語るのと同じぐらい乱暴だぜ。
■まとめ
「最近の若者は本を読まない」はウソ。知らずに言う奴は、自分に都合のいい事実しか見てないだけ。知ってて言ってる奴には理由があって、1) 出版・マスゴミ業界の方便、2) 自分語りしたいオヤヂの2者が隠れている。
これだけ娯楽が溢れている中で、どんな形であれ、本を読んでいるのはスゴい。世界でいちばん本を読む国なんじゃぁないかと。「電車で居眠りする日本人」と揶揄されるが、電車の中で本読んでる人がこんなに多い国も、珍しい。
読書離れは、中高年ほど進行している。オヤヂこそ、本を読め。
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数値込みのGoogle Spreadsheetsは、以下の通り。
ネタ元は、読書世論調査(2005年)および読書世論調査30年(1977)。Amazonでアフォほど高い値段がついているので、現物は図書館でどうぞ。
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