« 東大教師が新入生にすすめる100冊 | トップページ | 「忌中」を読んだ後、自分の人生に戻っていけることを喜ぶ »

なぜ「ブラッカムの爆撃機」は児童書なのか?

ブラッカムの爆撃機 じいさんの軽妙な語り口に、リアルな戦争の日常がある。吸い込まれるように読む。

 児童書なのに爆撃機がテーマという不思議 ―― と思って手にとるとラストでニヤリ。何のお話なのか瀬踏みしながら読むのも愉しみの一つなので、予備知識なしでどうぞ。不用意にネットを漁るとネタバレを読まされるのでご注意。

 イギリスの爆撃機を描いた物語に、宮崎駿氏の手による解説マンガつき(←実は、こっちが目当てだったりする)。宮崎氏が描いた、「ブラッカムの爆撃機」の見取り図は、なめるように見入った。

 ロバート・ウェストールといえば「かかし」なのだが、未読だったりする。書き味が上手いねぇ、この人。飛行機内部の臭いの描写や窓からの景色、あとインターコムを通じた音の聞こえ方がとてもリアル。宮崎氏が指摘するように、「頭の中で何度も爆撃機を飛ばした」んだろう。

 さらに、展開の緩急が上手。戦闘シーンは細かいところまでキッチリ書くし(なんせ、アドレナリンが出てるから"よく見える"んだろう)、ベーコンエッグを食べに行くところなんて、のんびりしたおいしそうな空気までが伝わってくる。

 児童書なんだけど爆撃機・戦争がテーマである理由は、解説で明かされている。

殺菌され無菌化された政治倫理のルールブックとしてではなく、この世を生き抜くためのサバイバルキットとして役立つ、フィクションが必要だと

「どうしたら子どもたちに、希望を裏切ることなく真実を伝えられるだろう? 」

 アニメーションがあるではないか、とつぶやく側から、宮崎氏の手引きで本書を読む気になったことを思い出して苦笑する。表題作はジブリ向きだが、わたしはもうひとつの短編「チャス・マッギルの幽霊」の方が鮮やかだなぁ、と気に入っている。児童書おそるべし。「かかし」に手を出すか。

このエントリーをはてなブックマークに追加

|

« 東大教師が新入生にすすめる100冊 | トップページ | 「忌中」を読んだ後、自分の人生に戻っていけることを喜ぶ »

コメント

 あくまでわたしの好みですが、『かかし』より、湾岸戦争時に内面がイラク軍の少年兵といれかわってしまった弟を兄の視点から描く『弟の戦争』が好きでした(既に読まれてたらすみません;;)。『ブラッカムの爆撃機』は未読なので、読んでみますー。

投稿: 柊ちほ | 2007.04.18 01:15

>殺菌され無菌化された政治倫理のルールブックとしてではなく、この世を生き抜くためのサバイバルキットとして役立つ、フィクションが必要だと

>「どうしたら子どもたちに、希望を裏切ることなく真実を伝えられるだろう? 」

という言い回しは、ル=グウィンの『子どもと影と』(『夜の言葉』
http://www.amazon.co.jp/dp/400602102X/
所収)
に通じると思いました。
 既にご存知かとも思いますが、一応簡単に書くと、

 ダッハウのガス室に代表される現実を、赤裸々に見せることは倫理にもとるが、解決可能だと安易に教えるのはうそつきだし、だからといって“解決方法がない”という大人の絶望を子どもに押し付けることもまた狂気の沙汰である…

という“悪をどう扱うかの問題”に対し、ル=グウィンはファンタジーを回答として挙げています。

『ブラッカムの爆撃機』は未読なので外しているかも知れませんが…

投稿: power_of_math | 2007.04.18 14:51

>> 柊ちほ さん

ああ、このエントリを見つけて読んでいただいて嬉しいです(実は、ちほさん向けのメッセージも入れています)。「弟の戦争」は読んでみますね。でもって、それを一発で解いた方は…

>> power_of_math さん

自分の中の内なる「悪」を外在化させる仕掛けとして、ファンタジーは偉大だと思います。わたし自身、子どもに対して世の中の悪を「そのまま」説明することができません。そのための物語であり、ファンタジーなのでしょう。

投稿: Dain | 2007.04.20 00:38

 はじめまして。私も半分宮崎氏のマンガ目当てで買ったのですが、たしかに所収のほかの2作に比べて「ブラッカムの爆撃機」は子供向けっぽくないですね。というかむしろ大人向けではと思うほどです。
 『指輪』も『ゲド』もそうですが大人が読んでも考えさせられるものがファンタジーにはありますね。それは大人のほうが子供たちより「善/悪」に対する考えが硬直化してしまっているせいなのかもしれない、などと思います(このへんは脇明子氏の『魔法ファンタジーの世界』でも触れられていました)。
 ウェストール、どことなく宮崎氏に似ているのも素敵ですね。(笑) 実はこの本で初めて出会ったのでまだ宝の山がありそうで楽しみです(この発想はDainさんの直前のエントリーのものを拝借)。

投稿: gamma_ut | 2007.04.23 12:47

>> gamma_ut さん

 > それは大人のほうが子供たちより「善/悪」に対する考えが
 > 硬直化してしまっているせいなのかも

激しく同意です。ファンタジーはこれに対する回答の仕掛けだと思っています。最初は、「悪」の代表者がいる物語として読み、次は、「悪」なんてものは自分の内なるところから生じている、と気づかせるために…

ウェストールは、先にコメントいただいた柊ちほさんのアドバイスどおり「弟の戦争」に読んでみようかと(柊ちほさんは児童書読みのExpertです)。

投稿: Dain | 2007.04.23 22:46

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: なぜ「ブラッカムの爆撃機」は児童書なのか?:

» 2007年04月 [べぇのうぃき (PukiWiki/TrackBack 0.3)]
tag:研究日誌 2007年4月 † 4/18 † 今日見たブログ 写真のウソ。視覚に訴えるだけにウソも拡大されやすいのだろう。 ブラッカムの爆撃機。積ん読追加決定。 4/17 双子教育の学校へ † 行ってきた。幡ヶ谷から歩くと結構遠い。中学生... [続きを読む]

受信: 2007.04.18 17:39

« 東大教師が新入生にすすめる100冊 | トップページ | 「忌中」を読んだ後、自分の人生に戻っていけることを喜ぶ »