図書館を使い倒すための3冊
ネットはスゴいが、図書館のほうがもっとスゴい。「知の現場」はインターネットではなく、図書館にこそある―― まだ、今のところ。
ディスプレイの『あちら側』を否定するつもりは毛頭ないが、もてはやし過ぎ。Evangelist ならいいよ、いくら吹いたって。だってそれがメシの種だから。ただし、賭金は横目でチェックしておかないと。
ここでは、図書館を使い倒すための有用なテクニックや知識をご紹介。以下の本を参考にした。
・図書館に訊け!(井上真琴,筑摩書房,2004)
・図書館を使い倒す!(千野信浩,新潮社,2005)
・図書館のプロが教える「調べるコツ」(浅野高史,柏書房,2006)
「図書館に訊け!」はサービスを提供する側、すなわちサーバー側から使い倒しのテクニックが惜しげもなく開陳されている。いっぽう「図書館を使い倒す!」は、クライアント側から図書館を徹底的にしゃぶりつくすための技が紹介されている。さらに、「図書館のプロが…」は、レファレンスサービスに特化した形で、事例+探索テクニックが紹介されている。「図書館を使い倒す!」は小飼弾さんの紹介で知る[参照](ありがとうございます、danさん)。
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■図書館で調べる3ステップ
知りたい情報は、「検索」するのではなく「探索」する。調べるステップは3段階ある。
ステップ1 : 準備 図書館に行く前段階として、調べたいトピックを質問の形にする。ネットにキーワードを放り込んで、バックグラウンドを読んだり、類語をかき集めておく。このときちゃんとした質問になっていなくてもOK。レファレンスサービスを利用することで、「もやもや→質問」にできる。その際、「どうしてそれを調べたいのか?」――質問の意図というか動機がポイントになる。
トピックがある程度絞りこんでいるならば、そのキーワードを元にOPACで調べる。OPACとは、Online Public Access Catalogueの略で、図書館の蔵書検索システム のこと。ネット越しに利用できる。
トピックが拡散している場合や、キーワードが絞れない場合は、ナマの質問文をWebcat Plus に放り込む。キーワードからキーワードを牽く連想機能のおかげで、自然文から求める本に「近い」ものをピックアップしてくれる。
ステップ2 : 出向く 図書館へ出かける。ネット越しで用を済ませることもできるが、開架書庫に出向いて目指す本の周りを眺める── ブラウジングすることが有用なり。どこの図書館も同じ分類法にのっとって並んでいるので、ひとつの図書館を極めれば、他でも使える。自分のホームベースとなる図書館(ホーム・ライブラリー)を決めて、そこで目を鍛えるというテもある。
本屋で「本」を探すときを思い出してみよう。目当ての本を見つけて、ハイお終いということもあるが、目当ての本の両隣や近辺の平積みに目が行って、思わず手に取ったり、あるいは一緒に買ったりしたことはないだろうか? ホラ、amazonでいう「この本を買った人はこの本にも興味があります」とやら。
図書館でも同じテが使える。ジャンル別に分類(日本十進分類法)されているため、目指す本の近くにあるものは、似た本ばかりのはずだ。盲信するのは禁物だけど、これが結構使える。目指す本がないけれど、だいたいこのジャンルだとアタリをつけて書架をウロウロすることで突破口を見つけられる場合もある。
このとき概説書や百科事典を使って、調査対象トピックの基本情報と背景情報を把握する。自分の探索したい事柄を適切なキーワードで表現できるかどうかがポイント。モレヌケを回避するためやね。同様に、目録や書誌を使って関連主題を扱った図書がないか調査しておく
さらに、雑誌記事索引や書誌を利用して関連主題を扱った雑誌論文や雑誌記事を探索する。専門図書や学術雑誌の文献を読み進めながら、レファレンスへ再度立ち戻り、探索→フィードバックによる絞込みを繰り返す。
ステップ3 : プロに調べてもらう いわゆる司書のレファレンスサービスを利用する。調べたいことに対して、どのようなレファレンス資料(書籍や雑誌・CD-ROM・データベース)を使えばよいのかを案内してくれるサービス。
これがスゴいのは、調べたいことが漠然としていて「質問」の形になっていなくても一緒になって絞り込みをやってくれるところ。もちろん、ちゃんとした質問になっていることが望ましいのだが、「○○について調べたいのだけど、何をどうやっていいか分らない」といったものでもOK。親身になってくれる(はずだ)。
重要なのは、「質問に対して、どういう風にアプローチしているか」に尽きる。そもそもどうやって調べてよいか分らない場合、調べ方そのものというよりも、むしろ
・疑問に対してどのような思考ルーチンで取り組んでいるか
・どんなアプローチでリファレンスブックをあたっているか
・キーとなるトピックスからの調べる範囲の広げ方→絞り込み方
について、司書は逆に問いかけてくるはずだ。そこでステップ1の「質問の意図と動機」が効いてくる。
そこから先は担当する人によるのだが、google をビシバシ使っている人、レファレンスブック中心の人といろいろある。担当同士のネットワークもあるので、偏向する心配はいらない。レファレンス担当のためのFAQもあり、「レファレンス協同データベース」[参考]は一般の人も利用できる。
司書さんがスゴいのは、その結果→レファレンス・ブック→ネットと本とネット間を行き来しながらフィードバックを繰り返して絞り込んでいるところ。検索してヒット→着弾点から範囲をいったん広げ、もれぬけがないかレファレンスをあたる→今度は絞り込んで、別のキートピックスに収束させる…を繰り返しながら、最初の「調べたいこと」を網羅的にあぶりだす。この辺の考え方というか目の付け所は、「図書館のプロが教える『調べるコツ』」が詳しい。
■レファレンスへの質問例
レファレンスサービスへの質問の例を挙げる。「こんなこと質問してもいいのだろうか?」と不安な方はご覧になって安心するといいかも。全て「図書館のプロが教える『調べるコツ』」より。これらの質問の「回答」そのものは本書にないが、そこへ至るためのアプローチと、「回答」が書いてある本が紹介されている。まさに「本の本」。
- ライオンの口から水やお湯が出ているが、その由来は?
- 関羽や張飛は、どんな料理を食べていたのか?
- ピラミッドに「最近の若い者は…」と書いてある?
- 日本のトイレットペーパーの幅は、どうやって決められたのか?
- 夕焼けはなぜ赤いのか、「小学校3年生」に分るように説明したい
- 魚の尾は縦についているのに、なぜイルカの尾は横についているのか?
- ミロのヴィーナスの復元図が見たい
- 「萌え」という表現は、いつから使われるようになったのか
■調査の展開のための6つの発想
図書館向けの専門誌「現代の図書館」(日本図書館協会)の2003.9月号で、調査の展開の発想法として6つの方向性が示されている。
- 絞る:より具体的なキーワードで調べる。大きなトピックスから調査範囲を絞り込む
- 広げる:いったん広い概念の言葉で調べなおす。より抽象的な言葉でレファレンスブックをあたる
- 射抜く:OPACやネットを用いて、直接キーワードで抜き出す。探索ではなく「検索」でダイレクトにヒットさせる
- たどる:書架のブラウジングや連想ワード(前出のWebcat)から手がかりをたどる。巻末の参考文献の資料からたどる手もあり
- 視点の変更:日本史ではなく美術史を調べるように、アプローチを変更する。
- 媒体の変更:本→ネット、あるいはその逆。文字情報ではなく、映像アーカイブをあたる。別の図書館に行ってみる(公共図書館、専門図書館、文書館)
視点を切り替えることで行き詰まりを打開し、同時に複数の視点から網羅的に「問題」へあたり、これらのフィードバックを繰り返す。「調べたい何か」を調べるのではなく、「何を探すべきか」という問題設定まで立ち戻る。調査の基本として覚えておきたい。
この段階になってくると、まさに「本が本を呼ぶ」状態となってくるだろう。(ネットも含む)書店や古本屋を利用することもあるだろうが、ここまでくると書き込み本として必要なのは手元にあり、あとは膨大なコピー+目録の山だろうね。
それほどの「調べもの」に取り憑かれていない今が、しあわせなのかも。「知の現場」はディスプレイの「あちら側」ではなく、図書館にある── まだ、今のところ。

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