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「恐怖の兜」

恐怖の兜 たいていの本は読み始めて数頁たつと、面白さが肌感覚で分かる。だがこいつは違った。読み始めると頭ン中で警報が鳴りだした→こいつはとんでもないぞ、と。でもって、ちょっと変わった構成のお話にのめりこみ→「なんだこれは!」とガクゼンとするラストに犯られた。

 amazonレビューがソソる。

 「ここは、どこなんだ!?」そこは小さな部屋、あるのはベッドとパソコンだけ。仲間探しのチャットが始まる。呼びかけに応じたのは、男女八人――どうやら皆が迷い込んだのは、「恐怖の兜」をかぶった巨人の世界らしい。その正体は、牛の頭をもつ怪物ミノタウロス。この奇妙世界はミノタウロスの迷宮なのだ。そして彼らは救出の時を待つ。ミノタウロスを退治した、英雄テセウスを。しかしその脱出には驚愕の結末が…

 ミノタウロス神話をベースにしていることはすぐ分かるが、迷宮脱出のためのアリアドネの糸(スレッド)とチャットのスレッドがかけてあるのにのけぞる。全編チャットの会話で構成されている、いわゆる「電車男」のスタイルなので、おなじみの方には入りやすいだろうが、慣れないと誰がどんなキャラなのか混乱するに違いない。

 いっぽう、掲示板やチャットルームに入り浸ったことがあるなら、すぐに『あの』独特の雰囲気が再現されていることにニヤリとするだろう。これはロシアも日本も大差なし。

 例えば、空気を読まない奴、何かとまとめたがる奴、二人だけの世界にイっちゃう奴、下ネタやバカ話でまぜっかえす奴、トリビアの応酬 ――そう、あのダラダラした雰囲気で、日本のエロアニメにおける触手の本質や、モニカ・ルインスキーとモナ・リザの共通項について語られる。そして、恐ろしく重要なことは気づかれないまま会話の端に紛れ込むのだ

 「このチャットの"場"に、なにかの目的がある」ことや、「GMがチャットを検閲している(個人を特定できるような発言は伏字XXXになる)」こと、そして何よりも自分以外の参加者を疑っていること(こいつはホンモノなのだろうか? それともフリ?)―― などから、2ちゃんのスレよりも人狼BBSの方が近いかも。

 しかしラスト、「CUBE」(ヴィンチェンゾ・ナタリ監督)や「SEVEN ROOMS」(乙一著)をなんとなく想像してたのが木っ端微塵に砕け散るるる。おおうこうなるとはッ、ある意味、物語の「王道」なのだが、空虚に向かって射出されたような気分、あるいは語り部に連れてこられた先が迷宮の真ん中だった、そんな読後感。

 そんでもって、ずっとROM(Read Only Member)ってた読み手は強制的に次の自問に至る仕掛けだ→「チャットの奴らはこれでいいとして、それを読んでるわたしは誰なんだ」ってね←これも物語の王道オチだな。

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コメント

人狼BBSやったことあるんで興味持ちました。
文を読む限りは人狼BBSを「やる」ってよりは、終わった村を推理しながら見る感覚に近いと感じたんですがあってますかね?
ともあれ、今度、図書館で探してみます♪

投稿: のあ | 2007.03.14 01:00

>> のあ さん

  > 終わった村を推理しながら見る感覚

 んー、共時性が強く感じられるため、過去を眺めるよりもむしろ、現在進行形をちょいと後から追いかける雰囲気です(作者もそれを意図しています)。それはラストの仕掛けにつながるのですが…

 ラストのどんでん返しを考えると、これから読む人には、人狼BBSに似ているとも似ていないとも言えなくなります。

投稿: Dain | 2007.03.16 00:20

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