不都合な真実 vs 百年の愚行
「不都合な真実」を読んだ──が、足りない。地球温暖化は深刻なんです、CO2が原因なんです、アル・ゴアはこんな人物なんです、人の営みを変える必要があるんです… ドラマティックな映像+意図が明確なグラフ、デカいゴシック体が訴えかけてくることは非常に分かりやすいが、それ以上のものは得られない。
それでも写真の持つ訴求力はスゴい。例えば、同じ場所の2枚の写真。まるで「使用前」「使用後」のように明らかだ。特に目を引いたのが、1975年のブラジルの衛星写真。一面緑に塗りつくされているのが、2001年では同じ場所とは思えない無残さ。あるいは、p.222の禿山が連なるハイチと、隣のp.223の緑に覆われたドミニカ共和国の国境を真ん中にすえた写真は、政策の違いが如実に「見える」。
また、夜の地球の写真が面白い。むかし親父が教えてくれた「宇宙から地球を見たとき、三つの光が見える。都市の白い光、焼畑の赤い火、そして油田の黄色い炎だ」に加えて、もうひとつ、青白い光があることが分かった、日本海に集中して見える漁火だ。
そんな写真が沢山あるのだが、メッセージは冒頭で言い尽くされており、わたしの考えが入り込む余地はない── ので、むしろつまらなく思えてくる。ひんぱんに挿入されるゴア一族のポートレートは邪魔。最初は好意的にとらえていたのに、読み終わると懐疑的になったのはわたしだけ? あるいは本書のラストで指摘しているように、わたしは某企業のPR活動に洗脳されている? あるいは事前に「アル・ゴアに不都合な真実」を読んだから?
エラーが発生するとき、その原因を一つに絞ることは、とても危険。本書は分かりやすくただ一つの原因を狙っているだけに、むしろ警戒感を持ってしまった。映画はもっとプロパガンダじみているんじゃぁないかと。
↑読んでううむと唸るなら、むしろ「百年の愚行」を強力に推す。どの一枚を選んでもいい。人間がやってきた/やっている/やるだろう愚かな行動の結果が、ハッキリと見える。
わたしの子どもが大きくなったら、必ず読ませる一冊、それぐらいのスゴ本。あるいは、すごい本探している方なら、黙って読め(見ろ)とキッパリ言い切れる一冊でもある。
どの一枚も重すぎて、何万語使っても語れない。一枚の写真の威力に圧倒される。それが100枚、ただ、この凄まじい現実を目ぇ開いて、しっかりと見ろ、としか言えない。あるいは、知らなければよかったと激しく後悔するかもしれない現実を見てみろ(たとえ怖いもの見たさであっても)、「無知ほど完全な幸福はない」という言葉が沁みるはず。
近々人類が滅びるとするならば、その原因が写っているのは、「不都合な真実」ではなく「百年の愚行」だろう。

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