マルサの男「徴税権力」はスゴ本
パーララパーラララーラ、パラララーラララーラー♪
金丸信5億円ヤミ献金事件の舞台裏から始まる。これはスゴい。一発でワシづかみ、鳥肌たちまくり。あのテーマソングが頭の中をガンガン鳴り響く。映画「マルサの女」そのものというよりも、事実のほうがずっと面白い。久々にツカミから一気読みできるスゴ本に出会った。
検察さえも手が出せなかったこの事件の決定的証拠を押さえたのは、国税庁調査査察部(マルサ)だった。よっぽど切れる頭脳集団かと思いきや、やってることはものすごく泥臭い。むしろ犯罪じみた離れ業もやってのける。日債銀の営業部次長の机から内部資料を抜き取り、無記名の割引債が金丸のものであることを証明し、根回しをすすめる。
金丸の脱税を証拠立てるための内部資料の収集、摘発にゴーサインを出させるための国税庁幹部や検察庁への根回し、着手までのぎりぎりの駆け引きといった丁丁発止は、読んでるこっちの息が詰まってくる。
国税庁すげええぇぇぇッ、ひゃっほうっと喝采を送りながら第2章「介入する政治家」を読む。「マルサの女」のこのシーンを覚えてる? 強制調査着手日の夕方、査察部管理課長の電話が鳴る。政治家からの圧力電話だ。小林桂樹演ずる課長が丁寧に応対する──「悪質な事案でございまして、マスコミも動いており、先生のお名前に傷がつくことになっては大変申し訳ないことになりますので」──「はい、私もこの電話がありましたことは失念させていただきます」
着手までいたっている事案に圧力をかけてくるのは非現実的なんだけど、実際にそうした介入は『ある』ってさ。
さらに、政治的圧力に負ける話が続く…。財務省に人事権をがっちりと握られてしまっているため、時の人事や与党勢力によって腰が引けたりする。ダメじゃねーか、国税庁!ただし、そうした「介入」を逐一記録した内部文書「整理簿」で一矢報いている。当人は否定しても記録は残っているわけだ。小泉前首相が、かつて横須賀の不動産業者や中堅ゼネコンの申告漏れで国税庁に働きかけたことを示すメモも出てくる。
国税庁といえども官庁のひとつ。「国税庁は世直し機関ではない。訴訟で勝てる範囲内で課税するのが基本方針で、無理はしない」あたりが限界か。検察や警察との『微妙な』関係は、ものすごく苦労しているのが垣間見える分、おもわず応援したくなる。
国税庁の仕事は、他官庁と同様、周りとの協同関係によって成り立つ。地検、マスコミ、警察、財務省や与党の関係がなくなっては仕事にならない。だから、自分のキャリア云々のため、というよりも、今後のスムーズな運営のために、泣く泣く「この事案はこれで決着させる」という判断がなされる。
以降、
国税庁 vs 大企業 (第6章)
国税庁 vs マスコミ (第7章)
国税庁 vs 創価学会 (第8章)
とスゴいネタがぼろぼろ出てくる。どれもこれも瞠目するネタばかり。ふるふるしながら読めるが、わたしが最も叫びたくなったのは、「あとがき」。著者の朝日新聞記者時代の受け持ちの話が出てくる。以下の2つだ。
- 国税庁
- 会計検査院
道路一つはさんだだけの、至近距離に位置する2つのビルは、性質を全く異にする。ひとつは、税金をとりたてる側、もう一つは、その税金の使途を監視する側。つまり、国税庁は税金の「入」を、会計検査院は税金の「出」を担う。問題は、その機能の違いではなく、温度の違い、空気の違い。
苛烈を極める国税庁とは対照的に、「官と官の信頼がある」などとのたまう馴れ合いの会計検査院。片方は情け容赦のない徴税、もう片方の税金放蕩放置プレイは、納税意欲が削がれること著しい。
そろそろ確定申告の季節ですね。
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