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郵政民営化のシステム開発は、デスマーチになっているのではないか?

 プロジェクトの火消し屋を長年やっていると、キナ臭い匂いを感じ取れるようになる。郵政解散までやって耳目を集めた「郵政民営化プロジェクト」、中の人はとってもデスマーチだと勝手に忖度して、合掌、礼拝、南無~。

 先週、日本郵政公社は、かなり重要な決定を下した。

 つまりこうだ―― 「2007.10.1の民営化スタートまでに、システム開発が間に合わないと判断された場合、閣議決定を経て民営化を半年延期する」―― 郵政民営化法には、こんな特例条項がある。社会的に巨大なインパクトを持つプロジェクトだから、GO/NOGOは法律+閣議決定を要する。

 しかしだ、1末時点での開発状況を分析した結果、「一部のシステム開発に遅れがあるものの計画の日程には十分間に合うと判断し、この条項を適用しないことを決めた」という。郵政公社の生田総裁によると、「開発はおおむね順調で、民営化の工程が押されるものではない」(※1)。要するに後がなくなったわけ。

 「おおむね順調」ッ!すばらしいことだと思うし、どんなPM(たち)がマネジメントしているか、非常に興味がある(数年したら本になるだろう)…

 …でもね、こんなシステム開発の求人広告を見ると、とても不安になるンですよ。ひょっとして、この時期になって人が足りないから、募集しているのかなって。以降、郵政公社の中途採用募集要項より(※2)。

募集職種:システム企画・開発・運用に関する業務 (生保システム、決算関係、責任準備金の算定等に関するシステム開発等)

採用時期:平成19年3月以降

 いやいや、そいつはアンタの考えすぎだよ、これは定常的な募集要項だよ、という方には、このプロジェクトにどれぐらいの人が突っ込まれてきたかを、説明しよう(※3、数字はおよそ)。

 2006.2 200人
   .
   . +100人
   .
 2006.6 300人
   .
   . +30人
   .
 現在  不明

 ちなみに、外注ベンダーはこの中に含まれていないことに注意。開発規模は5万9000人月、処理量は5000万トランザクション/日だそうな(すまん、このデカさを人月以外で表現できん)。

 いやいや、それはアンタの考えすぎだよ、最近の開発手法だと、プロジェクト途中で人を追加しても、うまく吸収できるようになっているんだよ。大事なのは要求仕様、これがしっかりしていれば、アサインするPMのウデの見せ所だよ―― という方には、勘定系システム「NEWTON」の話をしよう。

 民営化の基本方針――要求仕様の骨格といってもいい――の一つとして、「民営化スタート後、ゆうちょ銀行は民間金融機関との送金・決裁ができるようにする」。ようするにゆうちょ銀の勘定系システム(預金為替勘定基幹系システム)を、民間金融機関の決裁ネットワークである「全国銀行データ通信システム(全銀システム)」に接続する必要がある(※4)。

 もちろんスクラッチするといったリスキーな手は打たない。ただし時間は限られている。そこで郵政がひねりだした奇策は、全銀システムに接続する中継システムとして、勘定系システム「NEWTON」だ。「NEWTON」は、りそなホールディングスが2005.9まで使っていた旧大和銀行の勘定系システムのことだ。

 現役で使っていたものだから、大丈夫だろうという思惑で食指を延ばしていたが、りそなホールディングスの資金量は全体でも40兆円、一方でゆうちょ銀は200兆を超す。パフォーマンスのスキームがまるで違う。さらに、「NEWTON」は現役を『引退』したシステムじゃぁないかと。そんなものを使っても大丈夫なの?

 ちなみに、「NEWTON」の採用は、2006.7の時点では「検討段階」であって、決定されたとの情報は、得られなかった。

 ――などという不安は、焼酎片手に30分ネットを漁っただけでもぼこぼこ出てくる。ヒトゴトだけどな。郵政解散までやって世間を騒がせ、選挙の焦点・政治カードとしてもさんざん使われてきたから、しっかり議論された要求仕様ができているに違いない。そして、じゃぶじゃぶ税金を投入してあるから、カネとスコープのトレードオフに悩まされることもあるまい。

 … だ と い い な 。

+ + +

 ネタ元は以下の通り。個人がネット+メディアを漁った程度なので、モレヌケはたんとあろうかと。むしろ、プロジェクトの成功を裏付けるようなソースがあれば喜んでー

  • ※1 2007.2.22読売新聞:個別記事へのリンク禁止だと抜かしているので、ソースは各自であさってちょ。題名は「郵政民営化、予定通り10月から…情報システム開発順調」
  • ※2 郵政公社:簡易生命保険の各種企画等業務に従事する職員の募集について[参照]
  • ※3 ITPro:郵政公社が民間企業からシステム要員を30人募集、民営・分社化プロジェクトの人材補強[参照]
  • ※4 ITPro:日本郵政が経営計画を提出、貯金システムの全銀接続を明記[参照]
  • ※5 フォーサイト January 2007 「郵政民営化の壮大なサボタージュが始まった」
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コメント

郵貯システムの凄いところはそのバッチ処理パフォーマンス。なんせ口座数がメガバンクと比較しても2桁違いなので、税金や公共料金の口座振替処理が半端じゃない。でも次の日の朝までちゃんと終わる。昔、某システム開発のためにノウハウをお勉強しに行ったことがあるが、それはもう秘中の秘でした。マシンは基本設計から別物らしーし(-_-;)
デスマーチ...否定も肯定もしません。私も今回は人ごとです。
ただこの会社、何だかんだと言いながら金融機関の共同センターをちゃんと作ってしまう凄い会社。商業ベースに乗せてます。当時メーカー系は全滅してましたからね~。赤字もクソも関係ありません。体力だけは人一倍あるので、今回は5人も殺せばちゃんとSしそうです。あくまでも推測ですが。
ただ、途中で人を追加しても...は無いと思います。少なくとも現場には(/TДT)/あうぅ・・・・
最近は金融オンラインのダウンにも世間の目は優しくなりましたから...ね(^^ゞ

投稿: 鉛のZEP | 2007.03.02 14:53

>> 鉛のZEP さん

 > 秘中の秘

 んー、おそらく、鉛のZEP さんがフと頭に浮かんだ方式で正しいと思います。ただし、人身御供は必要になるかもしれませんが…

 翻って新ゆうちょシステム、誰も(どこからも)ポジティブフィードバックがないところを見ると、政争の具財になりそうですね。システム開発における政治は『ありがち』な話かもしれませんが、総裁追い落としのカードに使うのにはちょっと…

 金融系の宿命なのか、政治に巻き込まれるシステム開発というのも、気の毒というほかはありません。


投稿: Dain | 2007.03.05 00:00

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