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郵政民営化のシステム開発は、デスマーチになっているのではないか?

 プロジェクトの火消し屋を長年やっていると、キナ臭い匂いを感じ取れるようになる。郵政解散までやって耳目を集めた「郵政民営化プロジェクト」、中の人はとってもデスマーチだと勝手に忖度して、合掌、礼拝、南無~。

 先週、日本郵政公社は、かなり重要な決定を下した。

 つまりこうだ―― 「2007.10.1の民営化スタートまでに、システム開発が間に合わないと判断された場合、閣議決定を経て民営化を半年延期する」―― 郵政民営化法には、こんな特例条項がある。社会的に巨大なインパクトを持つプロジェクトだから、GO/NOGOは法律+閣議決定を要する。

 しかしだ、1末時点での開発状況を分析した結果、「一部のシステム開発に遅れがあるものの計画の日程には十分間に合うと判断し、この条項を適用しないことを決めた」という。郵政公社の生田総裁によると、「開発はおおむね順調で、民営化の工程が押されるものではない」(※1)。要するに後がなくなったわけ。

 「おおむね順調」ッ!すばらしいことだと思うし、どんなPM(たち)がマネジメントしているか、非常に興味がある(数年したら本になるだろう)…

 …でもね、こんなシステム開発の求人広告を見ると、とても不安になるンですよ。ひょっとして、この時期になって人が足りないから、募集しているのかなって。以降、郵政公社の中途採用募集要項より(※2)。

募集職種:システム企画・開発・運用に関する業務 (生保システム、決算関係、責任準備金の算定等に関するシステム開発等)

採用時期:平成19年3月以降

 いやいや、そいつはアンタの考えすぎだよ、これは定常的な募集要項だよ、という方には、このプロジェクトにどれぐらいの人が突っ込まれてきたかを、説明しよう(※3、数字はおよそ)。

 2006.2 200人
   .
   . +100人
   .
 2006.6 300人
   .
   . +30人
   .
 現在  不明

 ちなみに、外注ベンダーはこの中に含まれていないことに注意。開発規模は5万9000人月、処理量は5000万トランザクション/日だそうな(すまん、このデカさを人月以外で表現できん)。

 いやいや、それはアンタの考えすぎだよ、最近の開発手法だと、プロジェクト途中で人を追加しても、うまく吸収できるようになっているんだよ。大事なのは要求仕様、これがしっかりしていれば、アサインするPMのウデの見せ所だよ―― という方には、勘定系システム「NEWTON」の話をしよう。

 民営化の基本方針――要求仕様の骨格といってもいい――の一つとして、「民営化スタート後、ゆうちょ銀行は民間金融機関との送金・決裁ができるようにする」。ようするにゆうちょ銀の勘定系システム(預金為替勘定基幹系システム)を、民間金融機関の決裁ネットワークである「全国銀行データ通信システム(全銀システム)」に接続する必要がある(※4)。

 もちろんスクラッチするといったリスキーな手は打たない。ただし時間は限られている。そこで郵政がひねりだした奇策は、全銀システムに接続する中継システムとして、勘定系システム「NEWTON」だ。「NEWTON」は、りそなホールディングスが2005.9まで使っていた旧大和銀行の勘定系システムのことだ。

 現役で使っていたものだから、大丈夫だろうという思惑で食指を延ばしていたが、りそなホールディングスの資金量は全体でも40兆円、一方でゆうちょ銀は200兆を超す。パフォーマンスのスキームがまるで違う。さらに、「NEWTON」は現役を『引退』したシステムじゃぁないかと。そんなものを使っても大丈夫なの?

 ちなみに、「NEWTON」の採用は、2006.7の時点では「検討段階」であって、決定されたとの情報は、得られなかった。

 ――などという不安は、焼酎片手に30分ネットを漁っただけでもぼこぼこ出てくる。ヒトゴトだけどな。郵政解散までやって世間を騒がせ、選挙の焦点・政治カードとしてもさんざん使われてきたから、しっかり議論された要求仕様ができているに違いない。そして、じゃぶじゃぶ税金を投入してあるから、カネとスコープのトレードオフに悩まされることもあるまい。

 … だ と い い な 。

+ + +

 ネタ元は以下の通り。個人がネット+メディアを漁った程度なので、モレヌケはたんとあろうかと。むしろ、プロジェクトの成功を裏付けるようなソースがあれば喜んでー

  • ※1 2007.2.22読売新聞:個別記事へのリンク禁止だと抜かしているので、ソースは各自であさってちょ。題名は「郵政民営化、予定通り10月から…情報システム開発順調」
  • ※2 郵政公社:簡易生命保険の各種企画等業務に従事する職員の募集について[参照]
  • ※3 ITPro:郵政公社が民間企業からシステム要員を30人募集、民営・分社化プロジェクトの人材補強[参照]
  • ※4 ITPro:日本郵政が経営計画を提出、貯金システムの全銀接続を明記[参照]
  • ※5 フォーサイト January 2007 「郵政民営化の壮大なサボタージュが始まった」

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「モテるコンサルティング戦略」は強力なケーススタディ

モテるコンサルティング戦略

 第1問目をアレンジ、正解はどれ?

 Q:アキバ系の君がモテたいと思った。最初に何をするべきか?

  1. 男は内面が大切。読書や習い事で人間性を深めたり礼儀作法を身につける
  2. まず外見から。メンズエステに通ったり、髪型・ファッションから脱アキバを図る
  3. 女は数打ちゃ当たる。ネット&リアルの出会い系に登録しまくり、実践で男を磨け

 答えはもちろん2.で、外見がむさくるしいと、何をどうしてもダメ。顔や体型が全て、と言っているのではない(そんなものは服やエステでいくらでも"加工"できる)。重要なのは、最低限クリアすべき条件を満たしていない場合、他のどんなに優れた資質を持っていても、見向きもされないということ。これを、どんな経営学の教科書にも載っている、ハーズバーグの動機付け(衛生理論)とからめて説明しているところが面白い。

 とりあえず↑に正解したなら、読む必要はないだろう。不正解だったり、解説にナットクできない方は手にとってご覧あれ。

 「モテる」とは、以下の3つを全て満たすこと、もしくは満たすためのスキルを有していること。決して両手に華のウハウハ状態のことではないので、ご注意。

  • 女の子とふつうにコミュニケートできる
  • 好きな女の子と仲良くなれる
  • 好きな女の子ともっと仲良くなれる

 「ふつうに」って何ですか? とか、「仲良く」とはどういう状態のことですか? などと本気で訊いてくるなら、本書および以下を読んでも役に立たないので、ご承知あれ。

*

 モテる連中には共通した戦略があり、自覚しているか否かは別として、どんな場合でもその戦略に基づいた行動を取っている。「戦略」という言葉がアレなら、「考え方」「思考ルーチン」、あるいは「メソッド」と言い替えてもOK。要するに、モテる奴にはちゃんと理由がある、ということ。

 そうした「メソッド」はHowToモノとして流布しているが、どうしても「オレ流」感が否めない。カリスマホストやナンパ師の「メソッド」は経験談として読むには面白いが、一般性というか何と言うか、「ボクにもできる!」とは思えない。

 そんなオレ流モテ理論がまかりとおる中、本書はかなりの説得力がある。

 目次を見てほしい。ブルーオーシャン、キャズム、CRM、PPM、AIDMAモデル、Push/Pull、といったビジネス戦略の概念がずらずら並んでいる。一見、これがモテ論? 疑問に思うかもしれないが、要するに経営マネジメントの現場で使いたおされているツールを、「モテるための戦略」に特化して解説しているわけ。

 だからこそ、より一般化され検証されている「メソッド」だといえる。あるいは、カリスマしか使えない方法ではなく、誰にでも利用できる「ツール」ともいえる。「ビジネスと恋愛は似ている」といったのは誰だっけ?

 しかも無類のとっつきやすさ。各章ごとに「問題」が並ぶ。ギャルゲでおなじみの3択だ。気になる子がいるのだが、アプローチの見当がつかないとか、合コンのメンバーで差別化を図りたい状況で、どの選択肢ならモテるのか? そしてなぜそれが他よりもモテに近いのか? …考えながら読むと楽しい。

 もちろん「正解」ではない選択肢を選んだり、解説に納得がいかず「オレのポリシーと違う」と別のリクツをのたまうかもしれない。でもそれじゃループに陥る。主義とか反証をこねくりまわすのではなく、まず受け入れてみよう、「これがモテる考え方か」と。その上で、自分にできることを具体的に考え、実行することによって、得るものがあるはず。

 とりあえず、アキバ系を自認しているモテたい奴にオススメ。読んで実践して、成果が出るのに1ヶ月ぐらいかかるので、今から準備しておくべし。

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日本のプログラマは、世界一優秀である

問:世界と比較して、日本のプログラマは優秀なの?

ソフトウエア企業の競争戦略 「ソフトウエア企業の競争戦略」によると、答えはYes。著者であるマイケル・A. クスマノはMITの教授。だから信用できるのではなく、長年行ってきたフィールドワークに裏打ちされた主張が、かなりの説得力をもっているから、わたしも答えはYesだと思う。

* * *

日本のプログラマは世界一優秀である根拠

 出典は1990年の論文[※注]なので、かなり古い。「ソフトウエア企業の競争戦略」ではp.281の「パフォーマンスに関する地域差」を参照あれ。

顧客へのシステム導入後12ヶ月で計測した1000行ごとの不具合報告で、日本は最も高いレベルにあった

     日本   0.020
     欧州   0.225
     米国   0.400
     インド   0.263

プログラマ一人が一ヶ月で書けるコードの行数も、日本に優位性あり

     日本   469
     欧州   N/A
     米国   276
     インド   234

 圧倒的じゃないか、わが国のプログラマは!(声:銀河万丈)

 ちなみに、何をもって「世界」というか? 著者のフィールドワークで以下の企業を対象としている。当時の日本、米国、欧州、インドの代表的なソフトウェア企業といっていい。

マイクロソフト、IBM、NEC、富士通、日立、オラクル、SAP、シーベル、i2テクノロジーズ、ビジネスオブジェクツ、タタ


* * *

じゃ、なぜ優秀なプログラマがいる日本のソフトウェアビジネスがパッとしないの?

 答:それは品質重視の工場型モデルを(相も変わらず)採用しているからにほかならない。「良いものを作れば売れる」主義を信奉するあまり、ビジネスの本質から離れてしまっているから。

 例えば、欧州企業にとってソフトウェアは「科学」として扱われる。コンピュータサイエンスとしての「ソフトウェア・ビジネス」であるがゆえに、形式的手法やオブジェクト指向分析・設計手法が重視される。また、米国企業にとってソフトウェアは「ビジネス」そのものとして扱われる。会社をつくって「まぁまぁ良質」の製品を作り、業界標準を打ち立て、その過程で大儲けしようとたくらむ。

 しかし、日本企業にとってソフトウェアとは「工場出荷製品」そのもの。文字通り「ソフトウェア・ファクトリー」を目指している。標準化された設計開発工程に則り、仕様からほとんどブレない製品を粛々と出荷することを随一としている。「良いものを作れば必ず売れる」信者の松下イズムが蔓延しているため、ソフトウェア・ビジネスの最もメジャーな課題「何が欲しいのか分かっていない顧客に売る」ビジネス視点が抜けている。

 「ソフトウェア企業を創って世界のルールを変えてやろう、その過程で大儲けしてやろう」とニヤニヤしながらコード書いてる奴って、いないでしょ? コスト意識はあるけれど、ベネフィット意識というか、「儲け」を考えている奴ぁ、日本では一握り(←あっ、いまアナタの頭に浮かんだ禿の社長、その人は貴重な一人ですぞ)。

 その「コスト意識」もアヤシイ。コストを削減し生産性を上げることは、確かに重要。しかし、その生産性を測っているのはライン数であることに注目して。ライン単価の愚かしさを語る人が、同じ口で生産性をライン数で語りだすと、なんだかなぁ、と思えてくる。FPでも一緒。「短時間に品質のよいコードを大量に書くことが最優先」という発想そのものが、ソフトウェアファクトリーに根ざしている。本気でやるなら、生産性は銭金で測定しないと。つまり、コードを書くことが目的なのではなく、サービスを提供して儲けることを目的としない限り、いつまでたっても言われるがまま書きつづけることになる。

 プログラマの優秀さと、そのソフトウェアで儲かるかということは、あんまり関係がないことに目を背けている限り、馬車馬のように働いているワリにはちっともカネにならない人生を送ることになる、かも―― と書いておきながら、わたし自身、ちっとも離脱できないでいるのは、ソフトウェアの引力に魂を引かれているからかも。

 このエントリは、渡辺千賀サマの「日本発のソフトが少ないのは日本人が英語が苦手だから」を読んでいるうちに、日本のプログラマダメダメ論になりそうなので、ちょいと昔のエントリを掘り起こしてみた。ヒマな人は元ネタの読書感想文シリーズをごらんあれ。

  「ソフトウェア企業の競争戦略」読書感想文1
  「ソフトウェア企業の競争戦略」読書感想文2
  「ソフトウェア企業の競争戦略」読書感想文3
  「ソフトウェア企業の競争戦略」読書感想文4
  「ソフトウェア企業の競争戦略」読書感想文5
  「ソフトウェア企業の競争戦略」読書感想文6(最終回)

[※注] ソフトウェアファクトリーに関するパフォーマンスの調査報告の出典:Michael A. Cusumano and Chris Kemerer,"A Quantitative Analysis of U.S. and Japanese Practice and Performance in Software Development" Management Science 36, no.11 Novenber 1990

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病気に対する心の保険

 いま、わたしがガンで死んだら、けっこうな額の保険金が出る。交通事故に遭ってもしかり、不随状態になっても同様だ。大黒柱である以上、リスクヘッジは保険で対処している。

 しかし、精神的なものに相当する「保険」はかけていない。大きな病気やケガをしたり、後遺症に悩まされるような状況になったとき、わたしの心は耐えられるのだろうか? 受け入れるのに時間がかかるだろうし、ガンのような「期限つき」の場合、パニックになるかもしれない。

 あるいは、家族や周囲へのインパクトも大きい。保険金という「カネ」はあれども、治療費がどこまでいくのか見えない。そもそも大黒柱を失った(失いそう)な状況に、精神的にまいってしまうかもしれない。

 さらに、病気やケガそのものは医者にまかせるとしても、その医者を信用するためにわたしはどうすればいいのか? という疑問は残る。思考を停止して医者任せがいいのか、Dr.google を読み漁るのがいいのか、それこそ闘病ブログで有志を募ったり募られたりするのか。

 たとえば、闘病ブログは盛況だけど、切れ切れの情報の積み重ねでしかない。「いま」闘病のスタートを切った人との時間差・温度差は確かにある。更新者が快癒したり死亡したときが、更新が止まるタイミングなので、過去ログから苦労して読んできてもプツっと切れていることが多い。

 そういう前提で、ブックマークに入れておきたいサイトを見つけたのでご紹介。

  闘病記ライブラリー

 ここには700冊の闘病記が紹介されている。治療の体験記を病名から探せるため、文献をあさるためにやみくもにgoogleるよりも、入口をここにするほうが、全体が見通せてよいかもしれない。

 このサイトはNPO法人「連想出版」が運営しているが、実際の本は都立中央図書館(東京都港区)に集められている(もちろん、疾患ごとに配置されており、病名から本を見つけ、実際に手にとることができる)。

 いま読まなくても、将来読むことを考えておく。心の保険としておきたい。

*

 興味深いのが、これと似たようなサービスは、ニューヨーク公共図書館の報告で知ったということ。以前のエントリ「図書館で夢をかなえた人々」にある、

 医者+司書によるサイトの構築。医療情報はネットにあるが、散在している状態。書籍だと集中しているが、横断性に欠ける。例:ガンの治療+副作用+本人のケア+家族のケア+保険+闘病生活… といった同一のテーマをもとに深堀りと収集できる「場」を、ネットと書籍という形で提供

 ―― と微妙に一致している。上記は2001年の岩波新書でレポートされているし、「闘病記ライブラリー」は、2006.6から始まっているようだ。両者に何らかの伝播が働いたのであれば、なんだか嬉しい。

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図書館で夢をかなえた人々

 結婚前までアンチ図書館派だった。本は買って読むものであって、身銭を切ってこそ選書眼も養われるというもの。金なくば食費を削れ、餓えて読め、というのが信条だった。

 それが、図書館ヘビーユーザーの嫁さんの影響を受け、図書館主義者になった。書店の棚はコマーシャリズムに汚濁されたノイズまみれ。自分で本を探せない奴が本屋を徘徊する、などとうそぶく。180度転向の経緯は[ここ]に書いた。

 探す: 都内の図書館を横断的にネットで検索[これ]する。当面読みたい本は近所の図書館でたいてい手に入る。どうしてもという場合は国会図書館から取り寄せてもらう。

 予約: 実は複数のアカウントを持っている。住んでるところ、勤務先、通勤ルートと複数の区をまたがるため、それぞれなじみの図書館がある。予約は全てネット。巡回先で嗅ぎつけた本や、積読リストの上位から予約枠を埋める。確保できたらメールが入るという仕掛けなので、早い場合1~2日でgetできる。

 読む: 買った本ではないので、壁投げ本や糞本も笑顔でうっちゃれる。買った本の場合、けなすためにも少なくとも一読しなきゃという強迫観念があったが、図書館のおかげで霧消した。どんなに前評判がよくても、「途中でやめる」ことができるのは、大きな強み。身銭を切らなくなったことでハードルが下がり、ヒット率が低下したことは否定しないが、いっぽうで、大ヒット率は大幅にUPしている。

 返す: 返す日は予約した本を借りる日でもある。必ずチェックしているのは、2つのワゴン→「たった今返却され、そのうち書架に戻される本」と「予約され確保され、貸し出しを待つばかりの本」←これこそが本当のベストセラーだろう。ベストセラーももちろんあるが、地域性や世情が如実に表れている。

 かつて一人暮らししてた頃は「コンビニを冷蔵庫代わり」だったが、今は「図書館は自分の本棚」という発想。しかも、時間というフィルターで漉された書架。オレ好みに染めたい気持ちをグっと押さえつつ、いつ行っても新しい発見がある。なじみの司書さんはさしずめ本のソムリエ。時代を超えた「売れスジ」を指し示してくれる。

未来をつくる図書館 そんな図書館を満喫していたところ、面白いレポートを教えてもらった→「未来をつくる図書館」、ニューヨーク公共図書館が紹介されており、とても興味深く読めた(ichihaku さん、教えていただきありがとうございます)。

 まとめてしまうと、「図書館」という枠を突破し、知的インフラを構築しようとする試みが描かれている。ビジネスインキュベーターとしての図書館、行政機関の窓口としての図書館、地域情報のセンターとしての図書館、芸術に貢献する図書館と、さまざまな試みが紹介されている

  1. 電源+モジュラー完備、ノートパソコン持込OKの目録室
  2. 講座+書籍の企画。起業のためのビジネス講座を図書館が主催し、ビジネスプランニング、資金調達、マーケティングの講座を無償で受講できる
  3. 図書館そのものを利用するためのスキル講座。資料目録やデータベースの使い方だけでなく、ネットエンジンの検索スキル、情報の評価法、キャリア情報やビジネス情報の探し方、行政情報のアクセス法、特許検索などビジネス関連が盛りだくさん
  4. 音+映像の図書館。舞台芸術のためのアーカイブ機能。音楽や映像などのドキュメンタリー機能の収集・保管・分類・検索へのindex
  5. ドキュメンタリー作品の上映+製作者の講演会。「芸術のメッカ」ニューヨークを意識した場を提供する
  6. 医者+司書によるサイトの構築。医療情報はネットにあるが、散在している状態。書籍だと集中しているが、横断性に欠ける。例:ガンの治療+副作用+本人のケア+家族のケア+保険+闘病生活… といった同一のテーマをもとに深堀りと収集できる「場」を、ネットと書籍という形で提供
  7. 図書館+学校。授業設計や教材作りのための「教師コーナー」。司書が厳選した教師向けの情報テクノロジー、教員の能力開発、書評、文学、関連雑誌、データベース、教師向け研修の提供(本を読まなくなったのは、生徒だけじゃない)
  8. 「おしゃべり歓迎」+「カフェのような」図書室もある。学校帰りの子どもたちに図書室を開放して、宿題を片付けたり、コンピュータでレポートを書いたり、勉強しながら友達と意見交換したりする「場」を提供。静粛でないブルックリン公立図書館

 後半になるにつれ、代表的な知のインフラgoogleの試行をホーフツとさせる。google+図書館はとても近しい(もう組んでいたりして)。

 このエントリ名の「図書館で夢をかなえた人々」は序章の題名でもある。ニューヨーク公共図書館からは、アメリカを代表するビジネスが数多く巣立っている。たとえば…

  • ゼロックスのコピー機は、特許関係の仕事をしていた弁護士が、「膨大な数の特許を複写する機械があれば書き写すたびに間違いがないかを確認する手間が省ける」との漠然としたアイデアをもとに、図書館で資料を読みあさり、ある文献をヒントに静止画像の特許を取得したことに始まる
  • 航空会社の草分けであるパンアメリカン航空は、飛行機好きの創設者が地図部門でハワイとグアムの間の島を発見、そこを給油基地にすればグアムまで飛行機を飛ばせると考えたことが世界初の太平洋線開設のきっかけとなった

 ほかにも、図書館に集まってくる雑誌のダイジェスト版があれば便利だろうというアイディアで始められた「リーダーズダイジェスト」など、図書館を活用してビジネスを生み出した人は少なくない。

 著者はニューヨークの図書館を絶賛するいっぽう、返す刀で日本の図書館を切り伏せている… んが、ニューヨークの図書館の多彩な「機能」」は、行政機関としての役割が日本と違うだけなんじゃぁないかと。ニューヨークと比較するなら、東京の図書館もスゴいよ、とヒトコト申し述べておきたい。

 本書のレジュメは[ここ]にある。また、著者の産業経済研究所での活動は[ここ]あたりで一覧化されている(いい仕事しているなぁ…)。

 そこに、未来の図書館を垣間見るかもしれない。

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テレビやゲームは頭を良くする

ダメなものは、タメになる 「今の若者がバカばかりなのは、テレビやゲームばかりやっているからだ」「ケータイが語彙を貧弱にし、日本語を壊す」といった論は、飽きた。喰いつきやすく、燃えやすいが、二項対立水掛け論は見えてるから。ウチダ先生あたりが新書で小金を稼ぐのにちょうどいいネタ。

 それが、同じネタでユニークな本が出ている。これまでと真逆なところが良い。

 テレビやゲームは頭を良くするそうな。最近の翔んだ識者がふりまわす「ゲーム脳」「ネット漬け」に真っ向から反論するのみならず、攻め込んでいるところが痛快ナリ。どこのコミュニティにも必ず一人はいるアマノジャ君の戯言かと思いきや、家庭用ゲーム、テレビドラマ、ネットコミュニティを例に挙げ、えらく説得力ある論を展開する。

 骨子はこれ↓

  1. 昔と比較すると、ゲームやテレビドラマは複雑化している。楽しむためには、一定の知的水準を要求するようになっている
  2. そうした複雑化するゲームやテレビドラマに「訓練」されることで、パターン認識能力や仮説検証能力が磨かれている
  3. この知的水準の底上げは全体的になされているため、「見えない」

 はしょりすぎなので、例を挙げる。

 例えば、テレビドラマ「24」「ER」。同時多発的に複数のストーリーが交錯し、視聴者に対し、複雑な人間関係と時系列・因果関係を把握することを強いる。昔のドラマは平坦な一本調子でよかったが、今は違う。ドラマを楽しむための知的な要求水準は高まっているそうな

 あるいは、「ゼルダの伝説 風のタクト」。同時に存在する目的(ダンジョン探索・アイテム使用で進める場所・目の前の敵・目の前の仕掛け)が入れ子状になっており、その中から最適なルートを仮説→検証する。これは、「ドットを全部食べる」「Powを食べたらモンスターを食べられる」だけで成り立っているパックマンとえらく違う。パターンと反射神経だけで、ゼルダはクリアできない。

 そういう話が山と出てくる。根拠のデータもいちいち説得力があって、「ゲーム脳」でご飯食べさせてもらっている学者くずれに読ませてやりたい一冊。そうだよそうだよ、と思わずうなづくこと十回、さらに「わたしならこう考える!」と議論したくなること二十回…

 例えば、「ゲームはキレやすい子どもをつくる」というが、UOやってみそ。スキル上げにどれだけ地道な作業を要するか…。あるいはポケモン集めがどんだけ大変か、やった人なら分るはず、イマドキのゲームは、根気がない奴にはできない仕様になっている

 また、「いまどきの若者は本を読まなくなっており、語彙力が低下している」とまことしやかに言う人がいるが、それは紙に書いた文章を読んでいないだけ。ディスプレイ(PC/携帯)の文を含めると、今の若者は昔よりもはるかに多くの文章を読んでいる。むしろ多すぎるぐらいで、効率よく内容を吸収するための取捨選択能力は、「いまどきの若者は本を読まない」と嘆く団塊どもよりも、ずっと優れていると思うぞ。

 DSの脳トレや「LOST」や「バフィー恋する十字架」、ガンダム・エヴァが無いなぁ、と思っていたら、あとがきでちゃんと出てくる。うむうむ、わかっていらっしゃる。もっと踏み込んでいいなら、あまりにも「キャッチ22」的な京アニ「涼宮ハルヒの憂鬱」や、お子さまお断り「仮面ライダー555」の敵味方入り乱れっぷり、知恵熱を発するほど究極の叙述形式「Ever17」の多層性など、いくらでも語りたくなる。

 このテの議論には飽いたわたしが、思わず身を乗り出してしまうような一冊。あなたが読むと絶対何か言いたくなる一冊でもある。

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嫁とKanon(その2)

Roufirudo まこぴー、まいちゃん、しおりん… 次々と巨星墜つなか、いよいよ佳境にさしかかっているKanon、毎週正座して観ている。ええ、見る度に涙ぼろぼろですよ。大枚はたいて衛星放送入れた甲斐もあるというもの。

 恐るべき京アニのクオリティとか、伏線回収ルートの比較検証とか、最早どうでもよく、表舞台より去ってゆく彼女たちが不憫で不憫で、さらにこれからキョン祐一が向かい合う運命を慮り、どのシーンを見ても泣けてくる。

 最初は独りで観てたが、嫁さんにエロビデオだと誤解された経緯あり[参照]。今では夫婦で仲良く見ている。「なかよく」なんて語弊がありそうなので、嫁さんの言を引く。曰く「ぼくが読書してる横で勝手にアンタが見てる」とのこと。

 そして、彼女たちの『正体』を、原作なんてこれっぽっちも知らない嫁さんが、ズバリズバリとあててゆく。なんだか怖くなってくる。例えばこんなカンジ…

  沢渡真琴 : 「この娘はニンゲンじゃない、というオチ?」
  川澄舞 : 「マモノの正体はこの女の子だ!」
  美坂栞 : 「サナトリウムブンガク?」

 いずれも、それぞれのシナリオルートに入った直後に見抜く。原作は隠してあるし、嫁さんがわざわざgoogleっているとは考えにくい。どうして分かるのか? と訊くと、「だって、そのほうが面白いから」 と言い切る。

 曰く、「物語は面白くなる方向へ収束する」だそうな。「お約束理論」、つまり、物語は「お約束」を守って展開されるべきであり、このオタクアニメも例に漏れないそうな。その観点で見るならば、真琴は人間界から消失しなければならないし、マモノは舞が生み出さなければ話が面白く終わらないし、同じ理由で栞の病気は不治でなければならない。

 瞠目したのが、

  月宮あゆ : 「天使なの? あるいは(いちど死んで)神様に猶予をもらったの?

 慧眼なり。オープニングのアレを見れば、どうしてもそう考えてしまうだろうし、ひょっとすると「天国から来たチャンピオン」を想起しているのかもしれない。ある意味、正解なんだが

 ナユキストのわたしに心強いコメントが得られた、すなわち、

  水瀬名雪 : 「幼なじみなんだから、最後には一緒になる

 と断言している…本当かッ! (゜Д゜)クワッ キョン祐一の不用意な質問「おまえ、好きなヤツとかいないのか?」に、ちょっと困ったような(泣きそうな)顔で答える名雪、このシーンだけで6杯はいけるぜええぇぇぇっ

 ―― どうか、名雪には幸せな記憶を。ラストだけ分岐して「名雪エンドDVD」も可。あるいは全員分の分岐があったりして。その場合は秋子さんエンドを強力に所望。

 明らかに挙動がおかしくなっているダンナに心底辟易顔の嫁さんが「寝ろ」。ヲタネタにつきあってくれてありがとう。アイソ尽かされない程度にヲタをやっていこうとあらためて決心する。

 ただし、子どもを巻き込もうとしたら刺されるだろうな。

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涼宮ハルヒの絶望

閉じられた世界 「絶望系 閉じられた世界」を読む。うわーなにコレ、すごくいいじゃないか。「ハルヒ」書いた人とは思えん。小説としての「ハルヒ」の出来はアレだけれど、これは良作、なんってたって、「この超展開、どうなるんじゃぁっ」と(ラストを予感しながらも)ページを繰る手が止まらなくなったから

 ラノベとハーレクインの読者はまさに「物語の消費者」といえる。期待するキャラやストーリーを効率よく吸収するためにページをめくる。けど、これ、ラノベか? 表紙や序盤の「不思議ちゃん+萌エロ」を期待して読むと、ラノベというフォーマットを突き破って唐突に残虐化する鬱展開に仰天するかも。移入すると心が痛い痛い。

 またラノベっぽくないのが話し手。ラノベにおける状況説明は、エロゲ並みのモノローグで語られることが多い(キョンの長台詞が典型)。これは心地よいときもあれば鼻につくこともある。その"弱点"を、本書では実にスマートに回避している→サブキャラを狂言回しにすることで、エロゲの主役なる人物を「語られる側」に追いやる。

 しかも話者を固定せず、サブキャラ→メインキャラ→神の目と、自由に視点が行来しているので、ダレることなく読める。狙ってやっているとするならば稚拙感あふれるが、これはおそらく書き手が欲求に従ったまでだと思う←その欲求は正しい。

 わたしの場合、こいつを劇薬小説として紹介されたので、それなりに構えて読んだが、ああ、確かに劇薬かも。「谷川+のいぢ」でハルヒのつもりで読むと地雷なので要注意。ハルヒが壮大なトートロジーなら、本書は絶望というシステムの話やね。あとmizunotoriさんちのランキング[参照]によると、ラノベ三大奇書でダントツ一位。

  1 絶望系 閉じられた世界(谷川流) ←劇薬小説でもある
  2 ミッションスクール(田中哲弥) ←わたしのレビューは[これ]
  3 食前絶後(ろくごまるに) ←未読・興味津々

 ハルヒとは真逆の、ネガ/ポジにしたような少女がでてくる。謎多き引きこもりの美少女、というレッテル貼って安心して読み進めていくと、自己言及のぐるぐる回しの果てに、結局ハルヒと同じような行動をしていることに気づいてガクゼンとする。これを書き手の想像力の限界とくさすのはたやすいが、素直にわたしは涼宮ハルヒの絶望のお話だと読み替えた。

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「わたしのいもうと」の破壊力

わたしのいもうと 読むと後悔する絵本、劇薬絵本とでも言おうか。そんなことはつゆ知らず、「読んで」と子どもが持ってきたら読まなきゃいかんだろ。

 後ろを向いた「いもうと」の表紙を見たときの、なんとなくヤな予感はあたった。テーマは「いじめ」、しかもガチ、さらにラストが…

 ―― 引越しして、あたらしい街に住むことになり、期待に胸をふくらませて学校へ行った「いもうと」。そこで受けた「いじめ」は、どちらかというと、よくあるいじめ。「いもうと」はこころを傷つけられる。

 それから学校へ行かなくなった「いもうと」の日々を家族の視線で追いかける展開なのだが… まさかこうなるとは。そして、ラストの「いもうと」の手紙が胸に刺さる。この絵本の手にしたわたしも「いじめ」の傍観者になった気分だ。彼女の願いはとてもあたりまえのこと――「みんなと仲良くしたかった」が踏みにじられ、踏みしだかれた「いもうと」を置き去りに、いじめた子どもたちはすくすくと大きくなり、中学生になり、高校生になり、学校へ行かなくなってこもりっきりの「いもうと」の部屋の窓の下を楽しそうに笑いさざめきながら通り過ぎてゆく…もちろん「いもうと」のことなんて忘れてしまって。なんと残酷なことか。「いもうと」は最後の最期までこちらに顔を向けない。ずっと「いもうと」の表情は見ることができない。「いもうと」が流した涙も、思いも、くやしさも、悲しみも、ぜんぶ絵本の読み手が想像するしかない。そしてこの話がストレートであればあるほど、「いもうと」がどんな思いでいたかダイレクトに伝わってくる。

 子ども相手に読み聞かせしていたんだが、声が詰まって読めなくなる。いつもと違う父に戸惑う子ども。声を震わせながら読んだ後、わたしは子どもにこう言った。

 いじめは、ぜったいに、許されないことだ。いじめとは、その人がされたらイヤなことを、することだ。どんな理由であれ、その子がされたらイヤなことは、してはいけない。これは、あたりまえのことなんだ。

 だけど、おまえが、イヤことをもしされたら、いやだ、といいなさい。いやなことをやまなかったなら、先生にたすけてもらいなさい。パパとママにいいなさい、なにがあってもきみをまもる。

 かなり静かな声で伝えたが、思いはハッキリと伝わったようだ。

 さいきん、善悪が分かるようになり、「死」や「罪」の話をする。「死んだらどうなるの?」とか「悪いことをしたらけーむしょにいくんだよね?」といった話を振ってくる。

 ここぞとばかりに、悪いことをしてはいけない、人を傷つけてはいけない、人殺しは死刑、最も罪深いのは、自分という「人」を殺すこと。善いことも悪いことも、ぜんぶカミサマが見てる、パパはそれを「天」と呼んでいる、ほかにも「地」が見ている、さらにそのことをした自分こそが、一番知っている。もしも悪いことをしてしまったら、相手に「ごめんなさい」といいなさい。相手がいなければ、パパとママにいいなさい。

 という、あたりまえ(?)のことを折にふれ何度もしつこく言い聞かせている。中学生ぐらいになって、小鼻をぴくつかせながら「どうして人を殺してはいけないの?」などというアホな質問をさせないために、絶対にやってはいけないことをしっかりと教えている。カルネアデスの板なんて、自分で結論を出せ。

 この絵本は要するにイソップのカエルの話なんだが、大きく異なるのは、石を投げる子どもに向かって「君たちが戯れでやっていることは、我々の命に関わることなのだ」などと告げないこと。「いもうと」はひっそりと死に、わたしは、ひとが傷つくさまを傍から見ているしかない苦しみを味わわされる。終わっても、釈然としない思いを抱えることになる。いや、ヒドい言い方をしてもいいのなら、こんな思いを知らないままでいたほうがよかった、そういう破壊力を持つ絵本。

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不都合な真実 vs 百年の愚行

不都合な真実 「不都合な真実」を読んだ──が、足りない。地球温暖化は深刻なんです、CO2が原因なんです、アル・ゴアはこんな人物なんです、人の営みを変える必要があるんです… ドラマティックな映像+意図が明確なグラフ、デカいゴシック体が訴えかけてくることは非常に分かりやすいが、それ以上のものは得られない。

 それでも写真の持つ訴求力はスゴい。例えば、同じ場所の2枚の写真。まるで「使用前」「使用後」のように明らかだ。特に目を引いたのが、1975年のブラジルの衛星写真。一面緑に塗りつくされているのが、2001年では同じ場所とは思えない無残さ。あるいは、p.222の禿山が連なるハイチと、隣のp.223の緑に覆われたドミニカ共和国の国境を真ん中にすえた写真は、政策の違いが如実に「見える」。

 また、夜の地球の写真が面白い。むかし親父が教えてくれた「宇宙から地球を見たとき、三つの光が見える。都市の白い光、焼畑の赤い火、そして油田の黄色い炎だ」に加えて、もうひとつ、青白い光があることが分かった、日本海に集中して見える漁火だ。

 そんな写真が沢山あるのだが、メッセージは冒頭で言い尽くされており、わたしの考えが入り込む余地はない── ので、むしろつまらなく思えてくる。ひんぱんに挿入されるゴア一族のポートレートは邪魔。最初は好意的にとらえていたのに、読み終わると懐疑的になったのはわたしだけ? あるいは本書のラストで指摘しているように、わたしは某企業のPR活動に洗脳されている? あるいは事前に「アル・ゴアに不都合な真実」を読んだから?

 エラーが発生するとき、その原因を一つに絞ることは、とても危険。本書は分かりやすくただ一つの原因を狙っているだけに、むしろ警戒感を持ってしまった。映画はもっとプロパガンダじみているんじゃぁないかと。

百年の愚行 ↑読んでううむと唸るなら、むしろ「百年の愚行」を強力に推す。どの一枚を選んでもいい。人間がやってきた/やっている/やるだろう愚かな行動の結果が、ハッキリと見える。

 amazon紹介文: 20世紀を振り返り、21世紀の地球を考える100枚の写真。それぞれが、人類が地球環境と自分自身に対して及ぼした数々の愚行の「象徴」であり、と同時にひとつひとつがれっきとした「現実」である

 わたしの子どもが大きくなったら、必ず読ませる一冊、それぐらいのスゴ本。あるいは、すごい本探している方なら、黙って読め(見ろ)とキッパリ言い切れる一冊でもある

 どの一枚も重すぎて、何万語使っても語れない。一枚の写真の威力に圧倒される。それが100枚、ただ、この凄まじい現実を目ぇ開いて、しっかりと見ろ、としか言えない。あるいは、知らなければよかったと激しく後悔するかもしれない現実を見てみろ(たとえ怖いもの見たさであっても)、「無知ほど完全な幸福はない」という言葉が沁みるはず。

 近々人類が滅びるとするならば、その原因が写っているのは、「不都合な真実」ではなく「百年の愚行」だろう

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PMP試験の準備(わたしの場合)

 どこまでやれば大丈夫か、なんて分かるはずもない。それでも続けるうちに「山を超えた」実感が見えてくる。ここでは、わたしが行った準備をまとめてみる。こんなことしなくても、「自分のPM経験+35時間研修だけで合格」という人もいることも頭において、参考にして欲しい。

 PMPホルダーになるためには、以下の2つの準備が必要。

  1. 手続き的なもの
  2. 受験勉強

 1. は、PMIのサイト[ここ]からメンバー登録~受験申請といった諸々の諸手続きのこと。全部英語のドキュメント、かつ提出資料も英語なので苦手な人はツライかも。わたしの場合、研修機関のサポートでなんとかなった。資料が膨大なので独力だったらあきらめていたかも。お世話になったのは、グローバルナレッジ[参考]

 2. はPMP試験に合格するための準備。途中で挫折した経緯もあって、時間だけはたっぷりかけたことになる。もっと効率的に合格ラインにいける人は沢山いるだろうが、以降、受験勉強としてやったことをまとめてみよう。

 受験勉強でやったことは、大きく分けると以下の3つ。

  ・自分が学んだことをこのblogへアウトプットする
  ・PMBOK2000 と PMBOK3版をヤる
  ・試験対策本をヤる

 順に説明する。

■自分が学んだことをこのblogへアウトプットする

 最も効果が高かったのは、このblogへアウトプットやね。「○○までに合格する」と宣言しちゃうことで引っ込みがつかなくなるし、どうやってアウトプットにしようと考えながら学習することは、理解するにも覚えるにも非常に役に立つ。

 誰かに教えることを念頭において学ぶことは、とても有用。わたしは会社で同志を募ったけれど、周囲にいない場合はネットを通じた仲間を探してもよいかと。

PMBOKガイド3版日本語■PMBOKの攻略1:全体を把握する

 次のPMBOK攻略。まず全体像を押さえることが先決。そのためにはPMBOKをアタマから読んではいけない。p.337付録F 「プロジェクトマネジメント知識エリアの要約」を読むことで全体像が把握できる。何のためにその知識エリアが用意されているか、を理解してから、本体に取り掛かる

■PMBOKの攻略2:読む順番

 さらに、読む順番がある。仕事プロセスの順番に読む方が、理解しやすい。最初の「プロジェクトマネジメントフレームワーク」と「単一プロジェクトのプロジェクトマネジメント標準」は普通に読むとして、9つのプロジェクトマネジメント知識エリアは、初読時に順に通読すると混乱するかもしれない

 なぜなら、9つの知識エリアは知識体系のカテゴリごとにまとまりを持っているため、必ずしもプロセスの順番にはならないから。一般に、あるプロセスのアウトプットは別のプロセスのインプットになる。これらは知識エリアを跨って入り乱れているため、知識エリア内に閉じて読むと、何がどうつながっているか把握するのに苦労する。

 例えば、プロジェクトタイムマネジメント。それぞれの知識エリアへのインプットのための作業も書いてあるし、各知識エリアのアウトプットを集約して、スケジュールを作成することもある。その結果、どのアウトプットがどこのプロセスにつながり、それがまたどう加工されて戻ってくるか分からなくなる。

 ではどのような順番で読めばいいのかというと、

  • p.70 表3-45 「プロセス群と知識エリアによるプロジェクトマネジメント・プロセスの分類」の立上げ→計画→実行→監視コントロール→終結のプロセス群に読む。表のタテ列を上から下の順に本編を読み込む
  • あるいは、p.44 図3-6 (立上げ)、p.47 図3-7(計画)、p.55 図3-8(実行)、p.60 図3-9(監視コントロール)、p.66 図3-10(終結)の順番に読む。各図の矢印に注意しながらプロセス単位に本編を読む

 つまり、仕事順に読むことで、各プロセスのアウトプット→次のプロセスのインプットがハッキリ見えてくる。章単位のつまみ読みは、読み進むにつれてジグソーパズルがハマっていくように見えてくるはず。

 これはものすごく重要で、「○○って作業はいつやる?」という問題や「いま○○をしている、次にするのは?」はこれをやっておくことで完全に答えられる。

■PMBOKの攻略3:2000年版と第3版

 PMBOKの出会いは2000年版だった(PMBOKは4年おきに改版される)。だから3版に切り替わったとき、最初に取り掛かったのは、p.301付録A-3版の変更を押さえたこと。変わったところを意地悪く質問してくるようなことはないだろうが、自分が混乱しないためにも、2000年版から入った人は読んでおきたい。

 PMBOKそのものはくりかえし読むに尽きる。PMIイズムという、PMとしての考えるべきパターンは、PMBOKの細部に宿る。重要単語だけをマーカー引いて覚えてばかりいると、足元をすくわれる。また、自分のプロジェクト経験だけで答えようとすると、必ず間違える(キッパリ)。だから、自分の気持ちはさておき、PMI なら何と答えさせたいか? を知っておかなければならない。そのための繰り返し読み(わたしは5回読んだ)。

 用語も変わっているので、巻末の用語集は必読。略語もおさえておきたい。意地悪なことに、本文ではほとんど出てこないくせに、巻末の用語集に詳細に説明してある用語がある(当然のように試験で使われる)。

PMBOKガイド3版■PMBOKの攻略4:原著と翻訳

 翻訳は2000版と比べると格段に良くなっている。英語「だけ」できる人がよってたかって訳出したのではなく、PMをよく理解している人が上手くまとめようとしている跡が見られる。

 それでも、日本語でうまく理解できない説明を英語で読み直したらスルリと入ったことが何度もあるので、併読するのが吉(英語版は1回だけ通読)

 オリジナルならCD-ROMで入手するのがいい。なぜなら、「検索」ができるから。各プロセスに繰り返し出てくる概念・用語・ツールを、串刺しで理解するために、キーワード検索で横断的に読むことはものすごく有効。例えば"project management system"がどこで出てくるか? に注目しながら前後の説明を読むと、そのプロセスの理解がより一層深まるという仕掛け。ちなみに、PMI会員になると無償で入手できる。

PMP Exam Prep■試験対策本の攻略

 まず、鉄板モノをご紹介、ただし英語。通称『リタ本』(リタ:Ritaという人が書いたから)。参考書+問題集で、これが必要充分なライン。『プロジェクトマネジメントを理解する』ことを主眼としている。「PMPはPMBOKに書かれている知識を問う試験ではない」ポリシーにつらぬかれており、PMIイズムはこの一冊で身につく。さらに、覚えるべきところは「覚えろ」とキチンと書いてある(これがまた覚えやすい方法を教えてくれるからウレシイ)。練習問題も易しからず難しからず、計算問題もカンペキ。Amazonレビューの★の数はダテじゃない。

 良い事づくめなんだけど、英語なのとチト高価なのがハードルを高くしている。さらにデカい!(PMBOK並のデカさ)ので、通勤のお供にしているとかなり腕力を鍛えられるだろう。

 Rita本を3回熟読したらそれだけで合格ラインを保証する。

PMP試験実践問題 他に問題集をヤった。「PMP試験実践問題」、通称カブトムシ本(表紙がカブトムシだから)。わたしは、効率よく問題集をやるために、「一度を解いて、間違ったところは解説ごと覚えてしまう」ことを心がけているが、こいつはマズかった。なんせ解答や解説がところどころ誤っているから。

 たしかに評判どおり良問ぞろいなんだけど、解答や解説(の一部)にレビューしてないのがあり。自分のプロジェクト経験で答えるのは危険ということを、著者自身が身をもって示してくれる。それも地雷のように埋まっているため、結局解答を信用せずに原典(PMBOK)を舐めるように読まなければならなかった(←後から考えると、これは非常によいやり方だったかも)。問題「量」に不安を覚えるなら、ひととおりでよいから、やっておくべき。

PMP試験実践問題 実は、この参考書の始祖である「PMP教科書」もヤっている。ブ厚い本は、それだけで「これだけヤればOK」という気にさせてくれる。網羅性よりも暗記+深堀りを目指している。「直前チェックシート」なんてカンペのようだし、至れり尽くせりやね…

 でもって、さらに「実は…」なんだけど、コレで挫折している。最初に手をつけたのがコレだからだったのか、相性が合わなかったからなのか分からないけれど、1回通読+問題に取り組んだだけで、オシマイ。あまり身についたという実感がわかなかった。これは一通りヤった人が最後の仕上げに取り組むべき本なのかも。

 他に「PMP試験合格虎の巻」が良さげとの話で、本屋でチェックしたことがある。ヤってないので断言はできないが、わたしとの相性はよさそう。

試験対策講座2実践編試験対策講座1基礎編  上記以外にも、研修機関ではテキストや問題集がたっぷり支給され、全部こなしたわけなんだが、そこでのアドバイスは、「やっぱり市販のモノも手を出したほうがいい。出題傾向の偏りを是正するためにも」。絞ってくり返してやり込むなら、PMBOK+Rita が鉄板で、アレコレ手を出すなら、手広く(PMBOK+虎の巻+カブトムシ本)やったほうがいいかも。

 わたしの場合、ありがたいことに会社の支援があった。しかし、そういったサポートが得られない場合や、交通事情により教育機関の研修が受けられないことがある。そんな人のために、自宅で35時間研修を受講できる(→のモノモノしい2つあわせて35時間)。額が額なだけに、相当覚悟完了してふみきる必要があるかと。

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PMP試験対策【まとめ】


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マルサの男「徴税権力」はスゴ本

 パーララパーラララーラ、パラララーラララーラー♪

徴税権力 金丸信5億円ヤミ献金事件の舞台裏から始まる。これはスゴい。一発でワシづかみ、鳥肌たちまくり。あのテーマソングが頭の中をガンガン鳴り響く。映画「マルサの女」そのものというよりも、事実のほうがずっと面白い。久々にツカミから一気読みできるスゴ本に出会った。

 検察さえも手が出せなかったこの事件の決定的証拠を押さえたのは、国税庁調査査察部(マルサ)だった。よっぽど切れる頭脳集団かと思いきや、やってることはものすごく泥臭い。むしろ犯罪じみた離れ業もやってのける。日債銀の営業部次長の机から内部資料を抜き取り、無記名の割引債が金丸のものであることを証明し、根回しをすすめる。

 金丸の脱税を証拠立てるための内部資料の収集、摘発にゴーサインを出させるための国税庁幹部や検察庁への根回し、着手までのぎりぎりの駆け引きといった丁丁発止は、読んでるこっちの息が詰まってくる。

 国税庁すげええぇぇぇッ、ひゃっほうっと喝采を送りながら第2章「介入する政治家」を読む。「マルサの女」のこのシーンを覚えてる? 強制調査着手日の夕方、査察部管理課長の電話が鳴る。政治家からの圧力電話だ。小林桂樹演ずる課長が丁寧に応対する──「悪質な事案でございまして、マスコミも動いており、先生のお名前に傷がつくことになっては大変申し訳ないことになりますので」──「はい、私もこの電話がありましたことは失念させていただきます」

 着手までいたっている事案に圧力をかけてくるのは非現実的なんだけど、実際にそうした介入は『ある』ってさ。

 さらに、政治的圧力に負ける話が続く…。財務省に人事権をがっちりと握られてしまっているため、時の人事や与党勢力によって腰が引けたりする。ダメじゃねーか、国税庁!ただし、そうした「介入」を逐一記録した内部文書「整理簿」で一矢報いている。当人は否定しても記録は残っているわけだ。小泉前首相が、かつて横須賀の不動産業者や中堅ゼネコンの申告漏れで国税庁に働きかけたことを示すメモも出てくる。

 国税庁といえども官庁のひとつ。「国税庁は世直し機関ではない。訴訟で勝てる範囲内で課税するのが基本方針で、無理はしない」あたりが限界か。検察や警察との『微妙な』関係は、ものすごく苦労しているのが垣間見える分、おもわず応援したくなる。

 国税庁の仕事は、他官庁と同様、周りとの協同関係によって成り立つ。地検、マスコミ、警察、財務省や与党の関係がなくなっては仕事にならない。だから、自分のキャリア云々のため、というよりも、今後のスムーズな運営のために、泣く泣く「この事案はこれで決着させる」という判断がなされる。

以降、

  国税庁 vs 大企業 (第6章)
  国税庁 vs マスコミ (第7章)
  国税庁 vs 創価学会 (第8章)

 とスゴいネタがぼろぼろ出てくる。どれもこれも瞠目するネタばかり。ふるふるしながら読めるが、わたしが最も叫びたくなったのは、「あとがき」。著者の朝日新聞記者時代の受け持ちの話が出てくる。以下の2つだ。

  • 国税庁
  • 会計検査院

 道路一つはさんだだけの、至近距離に位置する2つのビルは、性質を全く異にする。ひとつは、税金をとりたてる側、もう一つは、その税金の使途を監視する側。つまり、国税庁は税金の「入」を、会計検査院は税金の「出」を担う。問題は、その機能の違いではなく、温度の違い、空気の違い。

 苛烈を極める国税庁とは対照的に、「官と官の信頼がある」などとのたまう馴れ合いの会計検査院。片方は情け容赦のない徴税、もう片方の税金放蕩放置プレイは、納税意欲が削がれること著しい。

 そろそろ確定申告の季節ですね

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「薔薇のマリア」でティルトウェイトを思い出す

薔薇のマリア 嫁さんが「あンた向けの結構面白い小説」と評したのと、「かさぶた。」さんの [ウィザードリィ小説を継ぐライトノベル『薔薇のマリア』] で紹介されているので、つい読んでしまう→な、なつかしい…

 表紙の絵柄にコゲどんぼを疑いつつ、「主人公はマリアローズっていうんだぁ、カワイイ子だなー」と"萌え"を期待しながら読み始め、のっけから大ダメージを食らう。絶対狙ってやってるって!

 主人公は非力、剣士ではあるが体格と体力と膂力は劣る。テクニックは普通。すばしっこさと飛び道具が得手とはいえ、およそ剣と魔法のラノベで最弱のポジションに位置する。

 そんなマリアがパーティの一員としてダンジョンに潜る。仲間やイベントを通じたビルドゥングスロマンといえば聞こえがいいが、わたしはWiz小説として堪能させていただいた。Wizardry だけではなく、ブラック・オニキスやシャイニング&ザ・ダクネスをどんどん思い出して、まるでゲームそのものをなぞっているかのような気分を味わった。

 ラスボスなんて放っておいて、ムラマサブレードを求めてグレーターデーモン狩をしたことや、落とし穴に落ちたときは、あわてず動かず、新しい方眼紙を用意して~なんて、イマドキのゲーマーは知らんやろね(今なら『世界樹の迷宮』かの。やりてぇぇぇ、けど売ってねぇぇぇ)。

 激しくうなづいたところはここ↓

 アンダーグラウンドにおけるカタリの常套手段は、方向感覚や距離感や直感にたよるやり方だ。要するに、そのへんを適当に歩き回っているうちに、何となく全体の構造やら広さやら現在位置やらがわかってきて、たぶんあれはあっち方面にあるだろうとか、それはこっちだろうとか、だいたい予想がつくようになるわけだ

 そうそう、練度が上がるほど、そのダンジョンを造った人のクセというか思考が分かってくる。初めての階なのに、なんとなく「こっちの方に行くとさらに潜れる」と分かってくる。後から見直すと、かなり最短に近いルートでたどっていることが分かる。その世界での自分のポジショニングを理解できるようになる。

 口で説明すると電波っぽいけれど、この小説はそいつをやろうとして、上手くいった例だろう。「かべのなかにいる!」や「イロイッカイズツ」にピンとキた方なら、ぜひ御賞味あれ。

 嫁さんによると、巻を追うごとに残酷で陰鬱になるから、それなりのカクゴが必要とのこと。わたしはひとまず『世界樹の迷宮』を探すこととしよう、もちろんパーティの名前は「クランZOO」で!

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最もオライリー本っぽくない「アンビエント・ファインダビリティ」には、たくさん考えさせられた

 おそらく、このblogの読者の皆さんは経験したことがないだろうが、わたしは、google 検索結果に大泣きしたことがある。ただのツールに過ぎないと思っていたgoogle に、そのときは心底感謝したものだ。

 事の起こりは、ある電話から始まった。わたしの大切な人が倒れたという。駆けつけると、その人は目を見開いてただ横たわっているだけで、こちらの呼びかけに応えられないようだ。脳梗塞を疑ったが、医師によると、ギラン・バレー症候群だという。

 医師はそれなりに勉強してきたようで、症状・療法・後遺症、そして治る可能性と死ぬ可能性を、それぞれ数値を挙げて説明してくれた。

 医師のもとを辞したとき、わたしの目の前は混乱と恐怖だけあった。説明されたことは理解できたし(理解できるような言葉を選んでくれた)、理解したことはちゃんとメモってある(病名のつづり、療法、薬)。それでも何をすればいいのか、そもそもなんでこんな病気になったのか、皆目見当もつかなかった(医師は"運"と言い切った)。

 そんな中で、わたしはgoogleに「ギラン・バレー症候群」を叩き込んだ ──

 ── そこで得られたものは「安心」だった。安心「だけ」と言ってもいい。

 受けた説明は妥当かつ正確なものであることがハッキリした。進行状況と投薬のタイミングの裏づけが取れた。生存率と後遺症について、隠すことなくきちんと説明してくれたことも分かった。

 そして、闘病記や生還した人のホームページ(当時はブログなんて無かった)、専門に研究している人のアドレスが手に入った(もちろん手紙を書いて、研究レポートを譲ってもらったよ)。わたしの大切な人は、結局のところ、戻ってこれた。そこまでの介護日記はこのblogの話題ではないので割愛するが、重要なのは「安心」をgoogle経由で得たこと。

アンビエント・ファインダビリティ どうしてこんな私事をつらつらと書いているかというと、「アンビエント・ファインダビリティ」を読んだからだ。このオライリー本らしからぬ不思議な本を読んでいると、「求めている人にとって、見つけられなかった情報は、ないも同然」というシンプルな結論が見えてくる。わたしと同じ混乱や恐怖にぶつかった人は、googleを知っているだろうか? と、思わず問いかけたくなる(誰に?)。

 ファインダビリティ ── 情報のみつけやすさ。オライリー本であるにもかかわらず、webに限定しない。むしろwebで生まれた技術をリアルに出そうとする。あるいはwebの"こちら側"の想念を"あちら側"で適用しようとしている。

 本書の随所に見られるキーワードは、いわば「旬」のもの。このblogをRSSリーダやdel.icio.usでチェックしているような人にとっては、どこかで聞いた概念や技術の羅列ばかりで退屈かもしれない。例えば、こんなキーワード…

  • ロングテール(もちろんamazonの例)
  • SEA,SEO,SEM(Search Engine Advertising/Optimization/Marketing)
  • タクソノミー → オントロジー → フォークソノミー
  • タギング(read_later/あとで読む、やね)
  • プッシュ/プル(google検索結果の右側と左側が象徴的)
  • アバウトネス(aboutness)
  • googleのファーストフード化:マクドナルドではなく、マクグーグル(McGoogle)

 これだけ見るなら、「さいきんのweb」で括られる。「はてな」のhotentry向けの話題ばかりでしょ。これらはwebの世界からの切り口であって、リアルでは別の側面を持つ。

 むしろ、そこからの切り込みが面白い。「Webだから」「リアルだから」と分け隔てせず、平等に(というよりも、混ぜて)論じている。RFID とウィリアム・ギブスンとオーウェルが同じ視線で語られているのが面白い(←この視線は"そういう社会"を薄々恐れていたわたしの心配に完全に火をつけている)。

 例えばwebのパンくずリストの概念からは、リアルでは「RFID」+「子ども」OR「認知症」を思いつくかもしれないけれど、そこからさらに、"Big Brother is watching you"を強制的に思い起こされるとヒヤリとする。可能性と危険性は、既にマナ板の上に乗っかってるってぇ寸法だ(技術は別だけど)。

 あるいは、「データのメタデータは、メタデータがそこにあるのではなく、データそのものがメタ化する」なんて指摘はgoogleが今まさにやろうとしていること(Library Project)を簡潔に言い表しており、ぎょっとさせられる。googleのやることは、既にお見通しってぇことだ。

 本書ではそうした概念や技術と、その背景の思想・歴史を、行ったり来たりしながら深堀りしている。非常に散文的(詩的?)な展開に面食らうかもしれないが、著者と一緒になって、自らの知見と照らし合わせながら考えるのは、非常に面白い経験になるだろう。

 ピンとこない人には、こんな思考実験はいかが?

 あなたが、ガンを告知されたら、真っ先にすることは何だろうか?

   親しい人に打ち明けて、支えになってもらう?

   加入している保険会社の電話番号をまわす?

   ひっそりと泣いてみる?

   どこかに入信する?

 いや、このblogの読者のリテラシーなら、最初にすることは決まっている→医師の説明に出てきた療法、進行状況、症状のキーワードを、片っ端からgoogleに突っ込むだろう。あるいは、いっしょに『日記』『ブログ』も入れるかもしれない。そして、同じ運命に巻き込まれた(巻き込まれている)センパイたちを探そうとするに違いない。

 しかし、そんなことを知らない人は、どうするのだろう?

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PMP試験対策 2.3.7 「計画」でやっていること(調達)

 ここでは、「計画」でやっていることを説明する。

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■「計画」でやっていること(調達)Keikaku

 調達マネジメントにおける第一の目的は、「プロジェクトで必要な製品やサービスを、外部から調達するのか、内部でなんとかするのか検討する」こと。そのため、スコープの境界の間に位置し、プロジェクトの外側/内側を厳密に吟味する必要がある。スコープ定義の後でないと調達プロセスが始められないのも、この理由による。

 第ニの目的は、「調達というプロジェクト」を回すこと。「計画→調達準備→情報収集→検討・契約→契約管理→検収受領」の一連のプロセスは、プロジェクトフェーズの一つのPDCAと、軌を一つにする。

 調達プロセスのPDCA
   │
   ├【Plan】買うか作るか決め、マネジメント計画を立て、調達文書を作る
   │ ├─調達計画 (購入・取得計画)
   │ └─調達準備 (契約計画)
   │
   ├【Do】入札、契約を行う
   │ ├─情報収集 (納入者回答依頼)
   │ └─検討・契約 (納入者選定)
   │
   ├【Check】契約の進捗状況や品質管理を行う
   │ └─進捗管理 (契約管理)
   │
   └【Action】契約したサービス・製品を受領し、契約を終結する
      └─検収受領 (契約終結)

12.1 購入・取得計画

 外部から購入するか、内部でまかなうかを決め、調達マネジメント計画書と契約作業範囲記述書(契約SOW:contract statement of work)を作成する。

12.2 契約計画

 調達文書と評価基準を作成する。調達文書は、納入候補者から提案や入札を得るために使い、入札招請書、提案依頼書、見積依頼書、入札公告、交渉招請書、第一次コントラクター提案依頼書ともいう。

 調達マネジメント計画書とは、調達プロセスのマネジメント方法を記述したもので、以下のものが記述されている。[p.279:PMBOK]jも見ておく。

  • 採用する契約タイプ(定額契約/実費償還契約/T&M契約)
  • 母体組織に調達・契約・購買部門がある場合、その部門との役割分担
  • 複数の納入者が必要な場合のマネジメントをどうするか
  • 契約WBSの作成と維持のマネジメントをどうするか
  • 納入者の調達基準と評価基準

 契約作業範囲記述書とは、契約に基づき、何をしてもらうのかを詳細に記述したもの。購入する品目やサービスについて、明確・完全・完結に記述し、運用支援が必要な場合はそれも書いておく。何が必要なのかも分かっていないのに、調達するな、ということ。随意契約というふざけた契約をする連中は、同額の契約金を給与から引いても良いと思う。

 重要なのは、調達プロセスを回すためには、何を作るのか決まっていて(スコープ記述書)、詳細化されており(WBS、WBS辞書)、リスク、コスト、スケジュールが見積もられていなければならない。購入・取得計画プロセスのインプットは、スコープ・コスト・タイム・リスクのアウトプットであるのは、そのせい。

 契約タイプ
   │
   ├【定額契約・一括請負契約】明確な成果物を固定価格で契約
   │ ├─完全定額契約(FFP)
   │ └─定額インセンティブフィー契約(FPIP)
   │
   ├【実費償還契約】実コスト+納入者利益で契約
   │ ├─コストプラスインセンティブフィー契約(CPIF)
   │ ├─コストプラス固定フィー契約(CPFF)
   │ └─コストプラスフィー契約(CPF)
   │
   └【タイムアンドマテリアル(T&M)契約】人時・人月契約

  FFP:Firm Fixed Price
  FPIF:Fixed Price Incentive Fee
  CPIF:Cost Plus Incentive Fee
  CPFF:Cost Plus Fixed Fee
  CPF:Cost Plus Fee

 ポイントは、定額契約と実費償還契約のリスク。定額契約は納入者のリスクが高く、実費償還は購入者のリスクが高いこと。なぜなら、定額契約は、何をするのか明確だけど、納入者がどうやって提供するのかに関係なく、価格が決まっているから。1,000万円が契約金なら、1,500万かかったとしても、足が出た500万円は支払われない。一方、実費償還契約は、経費と利益の両方を支払う必要があるため、納入者がコストを度外視する可能性がある。前出の場合だと、1,500万円プラス納入者の利益を支払う必要がある。

 もう一つの曲者がT&M契約で、何を作るのか(スコープ)、いくらで作るのか(コスト)が明確になっていなくても契約できてしまう。社長号令で大目標は決まっているけれど、何をどうやらといった状況で、とりあえずコンサルタントと契約するか、というときにはこれが便利。悪名高き「随意契約」もこれだな。

 IT業界では、契約は定額契約であるにもかかわらず、SOW、つまり何をするのかを決めていない場合もある。PMI からするとふざけているとしか言いようがないが、現実ナリ。何つくるか顧客も分かっていないのに、定額で一括で契約してくる営業は、たくあん石を括りつけて日本海に沈めたほうがお互いのためだと思う今日この頃。

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PMP試験対策【まとめ】

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頭の悪い人

頭の悪い人々 もちろんいる。議論がヒートアップすると、耳ふさいでぎゃぁぎゃぁ言うオッサンとか。自分の仕事だけで完結し、周囲を完全無視するオッサン(ずっと放置)。相手の言葉尻"だけ"捕えて反論してくるオッサン、いるだけでチーム全体の生産性を著しく低下させているオッサンとか(丁重に送別)。

 「○○って、アタマワルイよなー」などと酒のつまみにするのは愉しい。しかし同時に、わたしも同じ誹りを免れないようなことをやらかしていないか、と顧みるきっかけになる。既に反面教師としての価値は償却しつくしたので、さっさと目の前から消え去ってくれ、と念じても詮なし。

 「あたまわるい」の定義は人それぞれ。誰が見てもこいつはバカ、といえる場合でも、その当人こそ「周りはみんなバカ」だと思っていることがあるから。素晴らしき哉「相対化」。「そういうアンタはどうなんだ!?」は最強ツールやね。2,000年前にも「罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい」と啖呵を切った人もいたし。

 こうした事情を承知の上で書いているのが本書。なかなかチャンレンジャーやなぁ、と読み始めて腑に落ちる→「頭の悪い人」の定義。アタマの良し悪しは、IQやガッコの成績、地位と全く違うところで測られる。つまり、

  • アタマの良し悪しは、その当人の人生の目標と照らし合わせて考えなければならない、相対的なもの
  • 頭のいい人とは、自分の人生目標に向かって最短距離で進んでいる人
  • 頭の悪い人とは、人生目標に対して遠回りをしている人、あるいは、親をはじめとする他人のお仕着せの目標を、自分の目標と取り違えている人

だそうな。頭が悪いというのは、バカというよりも「たわけ」に近い意味だね。この定義によると、世の中の「頭の悪い人」は以下の6タイプに分類されるそうな。

  1. 気づかない人:人の話を聞かない、仕事が遅い、説明がくどい・ヘタ
  2. 自分がない人:周囲に流される、テレビを鵜呑みする、いつも後悔する
  3. 頭が固い人:自分が間違っている可能性を考えない、何かヒトコト言い返さないと気がすまない
  4. 未熟な人:「最近の若いヤツは!」と怒っている、空気が読めない
  5. 人のいい人:断りきれない、リーダーになりたくない
  6. バカになれない人:トラの威を借る、ブランドで判断する、知ったかぶりッ子

 ああ、思い当たるよ、全部それは、わたしのことだぁ ―― というわけで、自分の「頭の悪さ」を思い知らされる一冊でもありますな。 …あ、でも心配ご無用。「頭の悪い人」の症状と処方箋がワンセットになっているので、心当たりのある人は章末の処方箋を読んで安心(?)できるような仕掛けになっている。1,365円/30分で読めるので、コストパフォーマンスを考慮のうえでどうぞ。

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