「打ちのめされるようなすごい本」に打ちのめされる
打ちのめされるようなスゴ本。米原万里が遺した書評集。濃くて厚い時間を過ごすことができた。びっしりと付せんが貼られた「あとで読む本」は、読んだらここでも紹介しよう。
何がスゴいかというと、彼女の読みっぷり。平均7冊/日のペースを20年も続けている無類の本好き、読書好き。書評委員という立場もあり、出版社からの献本もあるだろうが、「面白い本」を見つけてくる嗅覚がスゴい。ハズレの無さは驚異的といってもいいほど。
そうして見つけてきた「すごい本」たちの紹介っぷりも、またスゴい。時には辛辣に批評し、あるいは手放しで誉めちぎる。そのヒートアップダウンが面白い。熱くなってしつこく「読め読め」とぐいぐい迫られているような気分になる。
そんでもって、うまいんだ、殺し文句が。例えばこう、
本の紹介だけではない。時事ネタと書評をシンクロさせており、あわせて自論も展開するやり方は、谷沢永一「紙つぶて」をホーフツとさせられる。毒舌よりも、辛辣な表現のすき間に、著者への「思いやり」が見えている分、「すごい本」の方が、スゴ本だとしみじみ思う。
このblogで書評じみたエントリを続けているが、これだけのレベルの本を読み、かつ、紹介しつづけるのは、並大抵のことじゃない。よくまあこのペースでインプット→アウトプットできているなぁ、と打ちのめされる。
もちろん、「打ちのめされるようなすごい本」も紹介されている。小説家がシャッポを脱いで、「もうこれが出たなら、私が書くことなんて、ありません」と断筆宣言するほどの大傑作ということ。該当の章にある、打ちのめされるようなすごい小説とは、トマス・H・クックの「夜の記憶」だと知って、なあんだ、と思った(いや、いい小説だと思うんだけどね、たぶん)。
しかしだ、これはこれでスゴいんだけど、こいつを凄いというならば、これなんてもっと… と紹介される小説が、さらにスゴい(らしい)── その小説はp.89に紹介されているので、ご自分の目で確かめて欲しい(そのうちここでもレビューするね)。
読めば読むほど、こう、思わず「おれも読みてええええぇぇっ」と本屋に駆け込みたくなるような、本読み魂に火をつけられる思いをする。猟奇モノは×、ほぼ文系、ITは×の著者とは趣味を異にするにもかかわらず、好きな本を読んでのたうちまわっている様子には、ずばり"嫉妬"(いい本読んでるね)をリアル感じる、亡くなった方なのに。
同時に、グっと胸に詰まるのが、ガン関連の本の書評。「私が10人いれば、すべての療法を試してみるのに」「万が一、私に体力気力が戻ったなら」といった語句のすきまに、あせりのようなものが読み取れているうちに、ブツっと途切れる。2006.5.18の週刊文春掲載で終わる。人生は、時間を積み重ねて、カウントアップしていくものだけれど、ガンは、分かったときから、カウントダウンが始まるものであることが、よく分かる。そう、打ちのめされるほどに。
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コメント
私も米原万里さんの小説の大ファンだったので、この本は読んで見たいと思ってました。きっと文庫になると思うでそれまで待つつもりですが...
※あたしゃDainさんが「嫉妬」する読み手って表現にも打ちのめされました。
投稿: ほんのしおり | 2007.01.31 02:08
米原万里さんと同じ意見とは心強い。
猛毒本でワタクシきっちり推薦させていただきましたので、
ほねがみ峠より長いけど読め嫁ヨメ、
と再度推薦させていただきます。
投稿: NAPORIN | 2007.01.31 23:50
>> ほんのしおり さん
米原さんがもう、それはそれは面白そうに紹介するんですよ、「読んでないアナタは一生の損だ、不覚だ、もったいないお化けがでるぞ」と本当に化けて出そうな勢いです。のたうちまわるほどの面白さを見せつけられたら、そりゃ嫉妬しますがな、「姐さん、イイ本読んで、エエ思いしてるやんか」ってね。
>> NAPORIN さん
激 し く 、 了 解 し ま し た 。
ただ、ソレよりも、ずっともっとスゴい本が紹介されています。ソレを「打ちのめされるほどの小説」と評したのは、実は米原さんの友人の小説家で、ソレを凌駕する作品が、本書で紹介されているんです。
投稿: Dain | 2007.02.01 02:29