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PMP試験対策 2.3.4 「計画」でやっていること(コスト)

 ここでは、「計画」でやっていることを説明する。

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■「計画」でやっていること(コスト)Keikaku

 ここに至るまでに、以下のことがなされている。ただし、常に完全に行われているとは限らない。計画プロセス群を回す中で段階的に詳細化されていればよい。

  • 「プロジェクトマネジメント計画書作成」プロセスにおいて、コストマネジメント計画書が作成されている。そこでは、コストの有効桁数や測定単位(円、ドル、千円単位等)、母体組織との手続き、管理限界値、アーンドバリュー適用規則が決められている
  • スコープ記述書やWBSが作成されている
  • 「アクティビティ資源見積り」プロセスにおいて、資源カレンダーが作成されている
  • リスク関連の計画プロセスが行われており、リスクはコスト見積りに反映できる程度まで分析されている
  • 「納入者選定」プロセスにおいて、契約がなされている

7.1 コスト見積り

 資源のコストを概算見積りする。リスクも含めて見積もりの変動要因を検討すること。通貨単位で表し、プロジェクトの進展に伴って得られる追加の詳細情報を反映し、改善される。プロジェクトのライフサイクルを通じて見積り精度が上がるとしているが、これは組織のプロセス資産を有効に活用せよ、というPMI からのメッセージとも読み取れる。コスト・コンティンジェンシーもここで見積る。

7.2 コストの予算化

 プロジェクトのパフォーマンス測定をする「コストベースライン」を設定するために、スケジュールアクティビティやワークパッケージの見積りコストを集約する。コスト・ベースラインを作るのが主目的だが、そこに乗せないマネジメント・コンティンジェンシー予備を検討し、設定する。

 コンティンジェンシーとは、「不測の事態」のこと。プロジェクトを進めるに当たって、不足の事態おっと不測の事態が発生することはアタリマエ、だから予め見積もり時点から割り振っておく、というのがPMI イズム。しかも、「一定の確率で起きることが予め分かっている"不測の事態"への予備費」と「まったく予想もつかない"不測の事態"への予備費」の両方を見積りに入れておけ、という。しかも費用だけでなく、バッファ期間も見積もっておけ、だそうな。これを、予備設定分析という。

「アクティビティ所用期間見積り」プロセスの予備設定分析


  • コンティンジェンシー予備を、スケジュール全体に組み入れることができる
  • アクティビティ所用期間に対する一定比率の期間としたり、固定期間としたりできる
  • 定量的スケジュールリスク分析で決められることもある
  • プロジェクトが進展し、より正確な情報が利用できるようになる、削減・削除される

「コスト見積り」プロセスの予備設定分析


  • 「コスト・コンティンジェンシー予備」と呼び、「既知の未知」に備える
  • PMの裁量で使用できる予備費で、コストベースラインの一部となる
  • マネジメント方法(1)スケジュールアクティビティの個々のコンティンジェンシー予備を集約して、所用期間ゼロの一つのスケジュールアクティビティとして割当て、ネットワークパス上に配置する
  • マネジメント方法(2)上記のスケジュールアクティビティを、クリティカルチェーン法のバッファーアクティビティにする。ネットワークパスの最後に配置する

「コストの予算化」プロセスの予備設定分析


  • 「マネジメント・コンティンジェンシー予備」と呼び、「未知の未知」に備える
  • PMはこの予備を使用する際、承認が必要
  • コストベースラインに含まれないが、プロジェクト予算に含まれる。したがって、アーンドバリュー計算の対象外

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PMP試験対策【まとめ】

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PMP試験対策 2.3.3 「計画」でやっていること(タイム)

 ここでは、「計画」でやっていることを説明する。

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■「計画」でやっていること(タイム)Keikaku

 WBSで分けられたワークパッケージを、より小さく、マネジメントしやすいスケジュールアクティビティへ要素分解する。さらに依存関係に従って順序性を設定し、いつどのような資源がどれぐらいの量必要かを見積り、アクティビティの所用期間を見積もる。

 上記をベースに、コスト、リスク、品質、コミュニケーション、人的資源、調達の計画を立て、スケジュールを作成する。言い換えると、To Do リスト"だけ"ではスケジュールは立てられないことに注意。特に、「スケジュール作成」プロセスのインプットに「リスク登録簿」があることに注意。PMI イズムでは、『リスクは折込済みで、スケジュールを作成せよ』ということ。

6.1 アクティビティ定義

 WBS最下層のワークパッケージを元に、スケジュールアクティビティに要素分解をする。ワークパッケージが要素成果物単位なら、アクティビティは、その要素成果物を生成するために必要なリストになる。例えば、「要求仕様書の作成」がワークパッケージなら、要求仕様書を作成するために必要な作業、「ヒアリング」「要求仕様書執筆」「レビュー」「レビュー結果の反映」といった作業が各アクティビティとなる。

 あったりまえのことなのだが、一回の計画プロセスにおいて、プロジェクトの全ての作業を、完全にアクティビティまでに分解することは不可能だ。だから、PMBOKではローリングウェーブ計画法というツールを提示している。ローリングウェーブ計画法とは、直近の作業はWBSの下位レベルまで詳細に計画し、遠い作業はWBSの比較的高いレベルの構成要素で計画せよ、というやり方。で、計画プロセスをまわすことで、段階的に詳細化していけるという仕掛け。

 「ローリングウェーブ」なんてロールパンナちゃんの必殺技のような名前がついているが、スパイラル開発、RADモデルといえば理解しやすいだろうか(p.69の図なんてまさにそう)。にもかかわらず、『PMBOK = WaterFall』と誤読する輩がウソを振りまいている。

 ある程度プロジェクトを進めないと明確化できないところは、コントロールアカウントや計画パッケージの単位で管理する。それぞれの関係は、

 ←←← WBSの上位                    WBSの下位 →→→
 コントロールアカウント > 計画パッケージ > ワークパッケージ(最下層)

となっている。例えば、「サービス環境の構築」というWBS要素があったすると、これを実現させるためには、「データベース」「アプリケーション」「ネットワーク環境」「ハードウェア環境」ともろもろの決め事・検証事が出てくる。最初の計画段階で決まっているものもあれば、相性を見極めないと何とも決められないものもある。そういうものは、「データベースの選定とテーブル構成」といった大きな単位で管理して、必要なときに詳細化せよ、ということ(もちろん『いつ』までに決めなきゃいけないかは、計画段階で決める)。

6.2 アクティビティ順序設定

 スケジュールアクティビティ間の依存関係を元に論理的な順序関係を明確にし、文書化する。リードとラグを適用することで、現実的なスケジュールが作成できる。ただし、あくまでも『論理的な』ところがポイントで、メンバーの夏期休暇や、外部要因によるリスクの影響といった『ブレ』に相当する部分は考慮されていない。

 リードとラグ―― 自分で書くまで理解できなかったが、今は自信を持って書ける↓

リード:複数のタスクをオーバーラップできる期間(タスクBを前倒し)。例えば、仕様書の執筆とレビューは、書けた順にできるため、レビュー開始を前倒しできる。

  ├―――━━┫←タスクA
       ┣━━――――――┤←タスクB
         ↑ココ

ラグ:タスクAが終わった後、一定の期間を経たないとタスクBが開始できない期間のこと。例えば、コンクリートをうったら養生期間(コンクリを乾かす期間)が必要。

    タスクA             タスクB
  ├――――┤       ├―――――――┤
          ┣━━━━┫
             ↑ココ

 アクティビティ順序設定のツールと技法であるPDMとADM、3種の依存関係は重要だが、説明しない(既に理解済みだから)。このblogで学んでいる奇特な方がおられるのなら、[p.132-134:PMBOK]を読んで一覧表を作成すると理解しやすいかと。その一方で、何度も間違えている「フロート」と「フリー・フロート」の違いは書いておこう。

  • フロート(総フロート、トータルフロート):プロジェクト全体の終了日を遅らせることなく、その作業の開始日を遅らせることができる期間
  • フリー・フロート(パス・フロート):直後の最早開始日を遅らせることなく、その作業の終了を遅らせることができる期間

6.3 アクティビティ資源見積り

 プロジェクトアクティビティの実行にあたって、どのような資源(人、機器、資材)がどれだけの量必要となるか、さらにいつ使用可能となるのかを見積もる。コスト見積と密接に関連する。

 ポイントは2つ。1つめは、インプットとして、「組織のプロセス資産」が含まれること。例えば、資源をレンタルにするか購入するかといった方針は、母体組織から提示されるから。2つめは、インプットにある「資源の可用性」。これは、どの資源(人、機器、物資)がいつ利用できるかという情報。人なら、9.2.3.2「プロジェクトチーム編成」のアウトプットとして、プロジェクトメンバーが作業できる期間が出てくる。資源なら「納入者選定」のアウトプットで資源の稼働日・不稼動日が出てくる。

 分かりやすいミスを挙げるなら、「ミドルウェアが届いたけれど、動かせる人がいない」あるいは「動かせる人は休暇中」というやつ。「必要な時に大型鋼材が届いたけれど、クレーンの準備がなされていなかったので、鋼材が降ろせませんでした」というやつ。ネタとしては面白いが、自分のプロジェクトで遭ったらヒサンだぜ。

6.4 アクティビティ所用期間見積り

 アクティビティの実際の所用期間を見積もる。作業範囲、資源の可用性、必要な資源の種類と量を元にアクティビティ単位に期間を見積もる。

 PMI ええこと言うなぁ、と思ったのは、所用期間見積は段階的に詳細化・正確化するという。エンジニアリングや設計作業が進むにつれ、より詳細で正確なインプットデータを利用できるようになり、期間見積精度も向上する、というわけ←要は、段階的に見積りを行い、精度を上げろと言っている

 ツールと技法の類推見積り、係数見積り、三点見積りは重要だけど説明しない。このblogで学習する人は[p.141-142:PMBOK]でおさえておく。いわゆるバッファーは、PMBOKでは「コンティンジェンシー予備」と呼ばれ、予備設定分析で組み込まれる。コンティンジェンシー予備を、見積り期間の一定比率としたり、固定期間としたり、リスク分析結果によって決められたりする。

 このあたりで標準偏差や三点見積りの計算が求められる。加重平均するのが常だが、PMBOK本文には、単に「平均」と書いてある(どちらが"正しい"かは、分からない)。

   標準偏差=(悲観値-楽観値)/6
   三点見積=(悲観値+最頻値*4+楽観値)/6

 計画プロセス群の「タイム」は、あとひとつ、最重要の「スケジュール作成」が残っているが、いったんここで切る。というのも、スケジュール作成のためには、コスト、リスク、コミュニケーション、人的資源、調達の計画プロセスが終わっているか、ある程度進んでいる必要があるからだ。

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PMP試験対策【まとめ】

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この本がスゴい2006

 今年は沢山の収穫があった。

 自力で見つけた作品よりも、他力―― このblogが縁で知った本のほうが、はるかにスゴいものだった。コメントやトラックバックを通じてオススメしていただいた方、はてなの質問に回答していただいた方、わたしのエントリにケチつけたついでに「○○も読んでないくせに」と嘯いた方―― 皆さまに感謝、感謝。

 そんな中でも選りすぐりを10選んだぞ。どれも自信を持ってオススメするが、「劇薬小説」だけは覚悟完了の上でどうぞ。これからも、「自分にとって高品質の情報を得るためには、自分から発信すること」を実現する場として、ここを使っていきたいですな。

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徹夜小説:あなたの健康を損なうおそれがありますので読みすぎに注意しましょう
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大聖堂(ケン・フォレット)

 これはすごい。わたしが小説を読む最大の理由は、そこに人間の欲望が書かれているから。人間の欲望を知りたいから。amazon評の『十二世紀のイングランドを舞台に、幾多の人々の波瀾万丈の物語』―― なんてまとめで抑えきれないぐらい、人間の欲望がこれでもかというぐらい出てくる。だから、これはすごい。

 人間の欲望―― 権力欲、支配欲、愛欲、性欲、意欲、我欲、禁欲、強欲、財欲、色欲、食欲、邪欲、情欲、大欲、知識欲、貪欲、肉欲…ありとあらゆる「欲望」を具現化したものが大聖堂だ。神の場と「欲望」… 一見矛盾した取り合わせだが、読めば納得する。究極の大聖堂を描く、しかも「大聖堂をなぜ建てるのか?」という疑問に応える形で書こうとすると、とてつもない人間劇場になる。だから、これはすごい。レビューは[ここ]にある。

大聖堂(上)大聖堂(中)大聖堂(下)

ローマ人の物語 ハンニバル戦記(塩野七生)

 徹夜保証、めちゃくちゃに面白い巻と、本当に同一人物が書いたのだろうかと疑いたくなるような巻が入り混じっている。無理して全読するよりは、美味しいところだけをつまみ食いするのをオススメする。

 シリーズ中で最も面白いのは、「ハンニバル戦記」の3巻(文庫3、4、5巻)なので、まずここから召し上がれ

 本書は「ローマvsカルタゴ」という国家対国家の話よりもむしろ、ローマ相手に10年間暴れまわったハンニバルの物語というべきだろう。地形・気候・民族を考慮するだけでなく、地政学を知悉した戦争処理や、ローマの防衛システムそのものを切り崩していくやり方に唸るべし。この名将が考える奇想天外(だが後知恵では合理的)な打ち手は、読んでいるこっちが応援したくなる。

 特筆すべきは戦場の描写、見てきたように書いている。両陣がどのように激突→混戦→決戦してきたのか、将は何を見、どう判断したのか(←そして、その判断の根拠はどんなフレームワークに則っている/逸脱しているのか)が、これでもかこれでもかというぐらいある。カンネーの戦いのくだりで、あまりのスゴさにトリハダ全開になった。レビューは[ここ]にある。

ローマ人の物語3ローマ人の物語4ローマ人の物語5

告白告白(町田康)

 一言でいうなら、読むロック。テンポのいい河内弁でじゃかじゃか話が進む。この一定のリズムは音楽を聴いているようで心地よい。中毒性があり、ハマると本を閉じられなくなる。

 わたしの場合、幸いなことに(?)これが何の小説であるか予備知識ゼロで読んだ。真黒なラストへ全速力で向かっていることをビクビク感じながら、まさかこんなとんでもない「事件」とは露知らず。

 主人公に感情移入しながら読んでいくと、ラストのカタストロフでは自分の「心」をもぎ離すのに必死になる。なぜなら、主人公とシンクロしたままだとえらいことになるから。ハンドルに両手を縛られ、アクセル全開で崖ッぷちへ突っ込む感覚 ――ぜひ、堪能していただきたい。レビューは[ここ]にある。

わたしを離さないでわたしを離さないで(カズオ・イシグロ)

 これは徹夜小説ではない…というか、一気に読んだらもったいない。ある女性を語りべとした独白に潜む大いなる秘密が、抑制された筆致で描かれている。重要なのは『秘密』そのものではない(秘密でもなんでもない)。

 しかし、物語の途中で分かる(分かってしまう)、彼女の人生を知ることで、読み手は、いままで感じたことの無い感情に包まれ、突き動かされるだろう。本書だけは、一切の予備知識を排して、手にして欲しい。「ごちゃごちゃ言わずに、まぁ読め。まちがいないから」とオススメできる一冊。レビューは[ここ]にある。

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仕事に使える:底力となった。再読で血肉化したい
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知的複眼思考法知的複眼思考法(苅谷剛彦)

 これまでのロジカルシンキング本は、定義と書き方の説明と例の紹介の集積にすぎない。例えば「今なぜMECEか?」「MECEとは」「MECEの例、書き方」「MECEの実践」でオシマイ。MECEの『フォーマット』を撫でるだけで、ロジカル『シンキング』していない。

 10年前に書かれた本書は「ロジカルシンキング」なんて一言もないけれど、その本質が噛み砕いて書いてある。そこらのロジシン本と一緒にしちゃいけない。今まで読み散らしてきたロジシンものの中で、最高に腑に落ちた。分かりやすいだけでなく、即実践に適用できる『ツール』レベルまで具体化されている。

 東大のゼミを書籍化したそうだが、これを受けた学生は、他よりも一歩も二歩も抜きん出ていただろう。同様に、本書の思考法を身につけた学生は他よりも抜きん出るに違いない(高校生・大学生にオススメ)。ちなみに、職場の後輩には、本書プラス「問題解決プロフェッショナル 思考と技術」を読んでもらっている。レビューは[ここ]にある。

アート・オブ・プロジェクトマネジメントアート・オブ・プロジェクトマネジメント(Scott Berkun)

 今年最大の収穫。PMBOKが標準化された『知識』とするならば、本書は、開発プロジェクトに有用な知恵を集大成したもの。全読/再読し、納得したものや取り組みたい方法をこのblogにアウトプットしたが、1/10も書ききれていない。

 「ものごとを成し遂げるためには何を行う(あるいは行わない)べきか」という実用的な視点からプロジェクトを捉え、ものごとを成し遂げるための考え方やヒントを、様々な角度から考察している。どれも「根っこ」のところから筆者自身が考え抜いた『知恵』が詰まっている。読むたびに気づきとヒントがざくざく出てくる、宝の山のような本。13章「ものごとを成し遂げる方法」は必読。レビューは[ここ]にある。

PMBOKガイド3版プロジェクトマネジメント知識体系(PMI)

 いわゆるPMBOK3版。今年最もくりかえし読んだ本(通読で2回、拾い読みで2回読了)。

 これをプロジェクトマネジメントのテンプレートとして使うと失敗する。あくまでも「標準的な知識体系」なんだから、各々の事例に適用するためにカスタマイズが必要。それでもスペースシャトル打ち上げから新薬開発まで、あらゆるプロジェクトのベースラインが抑えてあるので、"応用が利く"といえよう。

 たとえば、システム開発屋の人がこれを読むと、「アタリマエだけどできていないこと」だと痛切に感じるはずだ。一方で建設屋の人が読むと、「現場では別な名前で呼んでいるだけで、同じことが書いてある」と思うだろう。それだけ標準化されているわけ。

 また、本書は上手くいくやり方を集めて標準化したものでもあるため、そこで示されるやり方をマネすることで上手くいく「考え方」を身につけることは可能だ。特効薬ではないけれど、使えるツールとしてオススメしたい一冊。PMBOK3版のまとめシリーズは[ここ]にある。

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2006年No.1スゴ本
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カラマーゾフの兄弟1 この本がすごい2006年のNo.1は、「カラマーゾフの兄弟」

 ホントは、文庫本の帯のレビューを提供したという縁もあって、新潮文庫の原卓也訳を再読しようかと思っていたら、光文社文庫から新訳がでてきたので手を出してみた。一読、とてつもなく読みやすくなっている!と仰天した。新訳者の亀山郁夫氏については、「『悪霊』神になりたかった男」で知ってはいたが、これほど「いま」を意識して翻訳してくれるとは── 嬉しい限りですな。

 「カラマーゾフ」は、わたしが読んできた中で最高最強のスゴ本… なんだけど、いかんせん、岩波・新潮文庫のは、字がびっしり&敷居が高い&読みにくいので、誰にでもオススメ、というわけにはいかなかった… んが、こいつなら自信を持って勧められる。面白く、切なく、悲しく、恐ろしく、強く、激しく、抉り出す、毟り取る、徹夜、夢中、最強のスゴ本だと。

 繰り返しになるが、わたしが小説を読む最大の理由は、そこに人間の欲望が書かれているから。人間の欲望を知りたいから。本書には、神聖から汚辱まで、ありとあらゆる人間の欲望が描かれている。人生について知るべきことは、すべて「カラマーゾフの兄弟」の中にあるという所以。もし読むなら、しっかりと目を見開いて、読んで、欲しい。


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「マルドゥック・ヴェロシティ」はスゴ本

 「ターミネーター」観たことある? 最初の奴だ、シュワちゃんが悪玉の奴。あのターミネーターの『視界』を覚えてる? 赤外線カメラの映像をベースに、重要物はロックオンされ、ナレーションが文字列で表示される。あのシュワちゃんビジョンを『読む』ような錯覚にとらわれた── そんな独特な文体。

 結論── とことん堪能した。前作の「マルドゥック・スクランブル」同等、スゴ本なり。ギブスンを意識したサイバーパンクアニメを『読む』ようなカンジ。人によると、「攻殻機動隊」や「マトリックス」を思い出すかも。わたしの場合、洗練されていない主人公の泥臭い動き方と、表紙絵がどう見てもシュワちゃんなので、「ターミネーター」(T1のやつ)のイメージがついてまわってしょうがなかった。

 この手のストーリーやキャラは散々アニメで"消費"したくせに、小説というカタチで読まされると、ものすごく新鮮に見える。たとえば、バトルシーンはこんな風――

 左手袋の一部を手錠に変身──ナタリアの背後に回る。
「手を腰の後ろに」
 素直に応じた。「ニコラスから聞いたわ。あんた、壁をあるくんですって?」
 手錠をはめて拘束した。「立つんだ。ここから出たらすぐに外す」
 立たない。その姿勢のまま、手錠を鳴らしながら身をよじって、こちらを見た。「私もそういう特技を持っている人を知ってるわ」
 その瞳の奥に、光──確信、挑戦、警告。
《戦意の臭いだ!》ウフコックの悲鳴のような無線通信。
 頭上──斜め上。カサカサと何かが小さな音を立てる。
 ボイルドは重力の壁を展開させながら飛び退いた。
 バスルーム──天井付近の陰から、巨大な赤いゴキブリが飛び出し、長い金属の手を突き出してきた。義手──五本の指の先から伸びる注射針──ボイルドの胸へ。
 機会の腕に重力を叩きつけがなら身をひねってかわす──壁に針が刺さる。折れる。
「おかあああああさん!」ゴキブリやろうの絶叫。
 右手の拳銃を振りかざして跳躍──重力──部屋の壁に向かって落下。
 膝をついて着地。真っ赤なゴキブリが猛スピードで天井を走って廊下から飛び出す──まるで発射された弾丸のような速度──追いかけてくる。「おかあああああさん!」

 主人公ボイルドは、自分で「下」を決められる。つまり、重力を自在に操ることができる── はいそこの人どうぞ~、「エコーズACT3」ですね、正解!そのパートナー、ウフコックはしゃべるネズミ。通常は手袋の形でパートナーと一体化しており、どんな武器にでも変形できる──はいそこの人~、「ミギー」ですか、ウフコックは拳銃にも変形できるケド、まぁ正解。

 以降、新手のスタンド使いがたんまり出てくるけれど、奴らの特殊能力がスゴいのではない。それをストーリーに組み込もうとする仕掛けが面白い。本来、軍事技術を流用した特殊技能は、社会にとって危険なもの。その管理・運用を法律的にバックアップする"マルドゥック-09"(オーナイン、と読む。009を意識?)をめぐる確執が面白い。エアカーが普通の未来社会でありながら労働組合でゴト師が跋扈する階級社会でもある。

 ダークサイドもちゃんと書いている。嗜虐性快楽(?)も行き着くところまで行っており、子どもに麻薬を与えてハイになったところで右手を散弾銃で吹き飛ばす―― 子どもは分かってなくて「気持ちいいよ、気持ちいいよ」と悦びながら死んでゆく… そういうスナッフを見てマスターベーションする、といった陰惨な嗜好も描かれている。

 じゃぁ異能バトルSFなのかというと、ちゃんとミステリにもなっているところが面白い。次から次へのバトルシーンを夢中になって読んでいると、後半のどんでん返しにあっと驚くだろう。いや、主人公が前作でどういう運命をたどるかは、読んだ方は知ってるから、余計に興味深い(前作では最強の敵役として出てくる)。「ヴェロシティ」を最後まで読んだあとは、あらためて「マルドゥック・スクランブル」を再読したくなる仕掛けもほどこしてある

 そこ至るまでに主人公ボイルドが見た虚無は、あまりにも深い。

マルドゥック・ヴェロシティ1マルドゥック・ヴェロシティ2マルドゥック・ヴェロシティ3

 前作である「マルドゥック・スクランブル」もスゴ本。時系列だと「ヴェロシティ」→「スクランブル」なんだが、最も楽しめる読み順は「スクランブル」→「ヴェロシティ」

 「マルドゥック・スクランブル」の主人公はバロット。死線を超えて甦った彼女は驚異的な空間認識力を得る。何にでも変化できる万能兵器ウフコックを使い、正確無比な射撃で「敵」を仕留めてゆく。陶酔感をまとった圧倒的な力の行使は「マトリックス」や「リベリオン」を髣髴とさせる(筆者はその前に書いたという)。いや、たとえ観ていたとしても弾丸で弾丸を弾き飛ばして軌跡を変えたり、突きこんでくるナイフの切っ先に合わせて剣で突くなんて、まず書けない(思いつかない)。

 物語の主軸は「自分の価値=有用性をいかに示すか」にある。激しい戦闘の描写に、このテーマも霞みがちだが、バロットも、ウフコックも、「敵」となるボイルドやシェルでさえ、自己の価値を見出そうとする…飛び交う弾丸や、血漿や脳髄の中に。

 バロット自身の「有用性」は「商品としての少女」から始まった。モノとしての性。部分としてのフェティシズム。そして、彼女の過去に娼婦以外の「有用性」を探した男のおぞましい話、さらにマルドゥック-09の証として生きのびることがウフコックのための「有用性」、最期は"そこに居ること"に自分の価値を見出す。これは実存の物語でもある。人は道具ではない。兵器として最強究極の「道具」である彼女がそこにたどり着くまでの、長い長い話とも読める。

マルドゥック・スクランブル1マルドゥック・スクランブル2マルドゥック・スクランブル3

 アニメ公式サイトは[ここ]GONZOの仕事だが、CVが林原めぐみなので期待高し。「ヴィジュアルテロリズム」だそうな。もう一年も待ちぼうけを食らわされている… ま、気長に待ちましょ。「スクランブル」も「ヴェロシティ」も3巻本とボリュームがあるので、アニメを入り口にするというテもあり。2006.12.23追記:GONZOがこの仕事を降りたらしい…

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PMP試験対策 2.3.2 「計画」でやっていること(スコープ)

 ここでは、「計画」でやっていることを説明する。

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■「計画」でやっていること(スコープ)Keikaku

 計画プロセス群の最初にコレがきている理由を、まず考えて欲しい。

 そもそも、PMPなんて目指そうとしているのなら、失敗プロジェクトに酷い目に遭ったこともあるだろう。そして、そんな人なら、どうしてそのプロジェクトが失敗したかについて、ハッキリと言えることもあるだろう… 筆頭なのが、「何を作ろうとしているのかハッキリしないまま、プロジェクトが進められた」ではないだろうか。

 プロジェクトが迷走するようになってから、次のようなものを決めようとしても手遅れだ。そして、次のようなことを決めずにプロジェクトを開始するシニアマネージャがいかに多いことか…

  • プロジェクトの目標。結局のところ、何を達成したら「プロジェクトは成功した」と言えるのか
  • プロジェクトが生成するべきプロダクト、サービスといった成果物の仕様・特性
  • プロジェクトに対する要求事項(契約、標準、仕様)と、その優先順位
  • プロジェクトの境界。どこまでがプロジェクトに含まれ、どこからがプロジェクトの範囲外となるのか
  • プロジェクトの最終的なアウトプットと、そこへ至るまでの補助的な成果物
  • 成果物受入れ基準、つまり完成したモノ・サービスを受け入れるプロセスと、その基準を定義したもの
  • プロジェクトの制約条件や前提条件。選択肢を制限するような具体的な制約条件、例えば予算やサービス開始の日付

 これ以外にも、プロジェクト組織、初期段階で判明したリスク、スケジュールのマイルストーン、資金、見積もったコスト、プロジェクトそのものが準拠するべき仕様書、コンフィギュレーションマネジメントと変更管理のレベル… といったものを、計画段階で洗い出して記録しておく必要があるという── つまり、これらがプロジェクトスコープ記述書に記載されることだという。

5.1 スコープ計画

 プロジェクトスコープマネジメント計画書を作成する。プロジェクトスコープマネジメント計画書とは、どのようにプロジェクトスコープを定義し、WBSを作成し、変更をコントロールし、検証するのかを記述した文章のこと。スコープの定義とマネジメントは、プロジェクト全体に影響を及ぼす。

5.2 スコープ定義

 ここでプロジェクトスコープ記述書を作成する。プロジェクトスコープ記述書には、プロジェクトの要素成果物や、要素成果物を生成するために必要な作業を記述する。暫定版をもとに、前提条件や制約条件を踏まえ、専門家の判断を入れて作成する。具体的には↑のリストで挙げた事柄が記述される。

5.3 WBS作成

 ここでWBSを作成する。WBSとはWork Breakdown Stractureの略のこと。プロジェクトでするべき作業が、プロジェクトで達成する目標→プロジェクト全体の大枠→各フェーズのフレームワーク→具体的な作業と、段階的に構造化・細分化されている。最下層はワークパッケージと呼ばれ、80時間程度の作業まで分けられる(1人の勤務時間×10日間ぐらいの作業量)

 WBSには一意の識別子(WBSコード)が割当てられ、管理単位となる。また、WBSの作業内容を詳細に記述した文書をWBS辞書と呼び、WBSコード、作業範囲記述書、担当組織、マイルストーンが盛り込まれる。

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PMP試験対策【まとめ】

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PMP試験対策 2.3.1 「計画」の目的

 ここでは、「計画」の目的を説明する。

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■「計画」の目的Keikaku

 プロジェクトマネジメント計画書を作成することが目的。段取り8割、なんだ単純じゃん、と言う莫れ、ここをちゃんとやらない場合、プロジェクトの失敗確率は→100%となる。エイブラハム・リンカーンの「木を切り倒すのに6時間もらえるなら、私は最初の4時間を斧を研ぐことに費やしたい」を思い出す。

 PMI は計画プロセスを非常に重視している。現実は、「先行き不透明だから計画なんてぶっちゃけありえない」なのだが、計画プロセス群を繰り返しまわし、フィードバック・ループをまわしたり、ローリング・ウェーブにより段階的に詳細化することで精度を高めよ、という。ベースラインが決まっていないと、どれぐらい予実が乖離しているかすら気づけない。

4.3 プロジェクトマネジメント計画書作成

 では、プロジェクトマネジメント計画書とは何か。プロジェクトマネジメント計画書とは、どのように作業を実行するかを記述したもので、以下のものを指す。

  • スコープマネジメント計画書
  • スケジュールマネジメント計画書
  • コストマネジメント計画書
  • 品質マネジメント計画書
  • 要因マネジメント計画書
  • コミュニケーションマネジメント計画書
  • リスクマネジメント計画書
  • 調達マネジメント計画書

 それぞれの知識エリアと一致している。こいつに「プロジェクトスコープ計画書」と「プロジェクト憲章」を加えると、主要なプロジェクト3大文書となる。

 ちょっと図を見て欲しい。

 計画プロセス郡の中の一番はじめに「プロジェクトマネジメント計画書作成」がある。で、下のほうへいくと、スコープ、タイム、コスト、リスク、品質、コミュニケーション、人的資源、調達、と各知識エリアごとに計画プロセスが続き、おのおので各々のマネジメント計画書を作成する。ん、おかしくないか?

 スコープ、タイム、コスト、リスク… のマネジメント計画書を合わせて、「プロジェクトマネジメント計画書」ができ上がるはずなのに、計画プロセスの最初にあるのはヘンじゃないか? ── その指摘はとても正しい。

 実はこれ、2回目以降のことを言っている。つまり、初回は各知識エリアのプロセスを回さずに、組織のプロセス資産などを用いてマネジメント計画書を作り、各知識エリアの計画プロセスに入る、そして計画プロセスを繰り返しまわして行くことで肉付けを行っていくというわけ。「プロジェクトマネジメント計画書」は1回つくったらそれでオシマイではなく、繰り返すことにより進化させていく

 何をプロジェクトマネジメントの計画書として扱うかは、以下のとおり。

  • どのプロジェクトマネジメントプロセスを行うか、決める
  • 決めた各プロセスを、どの程度まで実行するか、決める
  • プロセスを実行する際に使うツールと技法を盛り込む
  • プロジェクト目標を達成させるための作業の実行方法を決める
  • 変更を監視し、コントロールする方法を検討し、決める
  • コンフィギュレーションマネジメントの実施方法を決める
  • ベースラインを決める(スケジュール、コスト、品質、パフォーマンス測定)
  • ベースラインの一貫性を維持するための方法を決める
  • ステークホルダー間のコミュニケーションのためのニーズ・技法を決める
  • プロジェクトライフサイクルを決める
  • 未決課題や未決定項目を解決するためにどうマネジメントしていくか、決める
  • マイルストーンを洗い出し、リスト化する
  • いつごろ、何(人、もの、技術、カネ、資材)が必要になるかかを判断し、資源カレンダーを作成する

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PMP試験対策【まとめ】

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PMP試験対策 2.2 立上げ

 ここでは、「立上げ」の目的と、行っているプロセスを説明する。

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■「立上げ」の目的

 プロジェクトを「正式」なものにすることが目的。正式なものにするために、公式な認可を支援したり、プロジェクトのフレームワークを明確化したりする。

 注意点は、1回だけではないこと。プロジェクトが複数のフェーズに分かれている場合は、フェーズごとに「立上げ」がなされることがある。このとき、立上げでは、プロジェクトに必要な資源の可用性や開始基準が検証され、プロジェクトを続けるか、遅らせるか、中止するかの決定が下される。

■「立上げ」でやっていることTatiage_1

4.1 プロジェクト憲章作成

 ビジネスニーズやプロジェクトの妥当性、顧客の要求事項の文書化を行う。また、これらの要求事項を満たすプロダクト、サービス、所産(result)の文書化も行う。プロジェクトマネージャの権限レベルや要約予算も記載する。プロジェクト憲章により、プロジェクトは正式に認可される

4.2 プロジェクトスコープ記述書暫定版作成

 プロジェクト・イニシエーターやスポンサーから提供される情報をもとに、プロジェクトと成果物への要求事項、プロダクトやサービスの要求事項を文書化する。同時に、プロジェクトの境界や、成果物の受入れ方法、スコープのコントロール方法も検討し、文書化する。初期のWBSや超概算見積り(-50%から+100%の見積り精度)、制約条件や初期のリスクも記載する。

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PMP試験対策【まとめ】

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最後の喫煙者

最後の喫煙者 出だしがイカしてる。ワシづかみにされた。

 国会議事堂の頂にすわりこみ、周囲をとびまわる自衛隊ヘリからの催涙弾攻撃に悩まされながら、おれはここを先途と最期の煙草を喫いまくる。さっき同志のひとりであった画家の日下部さんが、はるか地上へころがり落ちていったため、ついにおれが世界最後の喫煙者となってしまった。地上からのサーチライトで夜空を背景に照らし出されたおれの姿は、蠅の如きヘリからのテレビ・カメラで全国に中継されている筈だ。残る煙草はあと三箱。これを喫い終わらぬうちは死んでも死にきれない。二本、三本と同時に口にくわえて喫い続けたため、頭がぼんやりとし、眼がくらみはじめていた。地上への転落もすでに時間の問題であろう。

 カッコよく "The Last Smoker" とすれば映画のように見えるかも。じっさい、「世にも妙な物語」でドラマ化されている。嫌煙運動がバッシングを突き抜けてしまった姿が描かれているが、ベタ過ぎてカリカチュアに見えない。じゅうぶんありうる近未来を見せられているような気分になってくる。

 ええ、かく言うわたしは、うまいぐあいに禁煙というか卒煙に成功しておりマス。やめ方は「子どもにタバコを教える」あたりで書いたが、スモーカー現役のときは、そりゃもう完全中毒だった。

 だからこそ、身につまされるようで共感も忠告もできる。「禁煙ファシズム」なる語にはアンビバレンスな感情がわいてくる。スモーカーバッシングの行き過ぎを不安視する感情と、喫煙という暴力を糾弾したくなる感情の、二つに挟まれる。

 本書では、この禁煙ファシズムの究極の形が描かれている。喫煙者差別が極限まで推し進められた最終形体で、喫煙者は必読やね。スモーカー時代にコレ読んでたら、鼻で笑って新しい一本に火をつけてただろうが、タバコをやめて何年も経ったいま読むと、現実味あふれる予言の書に見える。

 喫煙者を人でなしのように見なして、人でないなら何ヤっても許されると思考停止して、日本人お得意の付和雷同的総攻撃をかける。ターゲットが『喫煙者』だから黒い笑いができようが、対象をハヤリ言葉に代えてみるとシャレにならなくなる。曰く『いじめっ子』、『インサイダー』、そして『○○○○教信者』… さすがのツツイ先生もここまでは書けないだろうなぁ、というか、ここからはモノガタリではなくなってくるね。

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「ローマ人の物語」の読みどころ【まとめ】

 おもしろければ、それでいい、という姿勢で読んでいる。これを教養書や歴史書として読む奴の気が知れん(→いわゆる団塊社長)。お題にもあるとおり、これは「物語」として読むのが正解。

 例えば、「たら」「れば」の乱発、見てきたような断定口調、その一方で「…と思う」で終わる文章、妄想爛漫、カエサル萌え… 好き放題に書いてる ── それでも威を借るために歴史書からも引用頻々… 史家をチクりチクりと批判しながら。

 つまり、往年の名著「男たちへ」で培ったシニカルな目線は、ローマという増幅装置を使って現代へ放射しているんだな ── それが団塊世代には心地よいらしい。ダンナや息子が激しく気の毒に思えるが、日本最高齢の腐女子として、がんばってくださいと、つい応援したくなる。

 したがって、楽しめる読み方は、ツッコミを入れながら、塩婆がバッサリ斬った史実や書籍を拾いながらが良い。

   「塩婆が言ってることはホントーか?」
   「どこから妄想で、どこまで史実なのかね」
   「ちょっwwww、おまっwww、見たんかい!

 だから、肩ヒジ張って読む必要なし。好きなトコから始めて、ヤになったら止めればいい。それが、ハードカバーで15巻という大著とつきあう最適解。お婆ちゃんなんだから、集中力が尽きてつまらねぇ巻もあれば、ノリノリ(死語)で飛ばしてて、読んでるこっちも夢中にさせられるような章もある。このエントリでは、面白いところを集中的にオススメするから、ソコだけを愉しめばいい。例えば出だし、とりあえず第1巻から読み始めると、ちっとも面白くないので要注意!初読なら「ハンニバル戦記」のある文庫本第3巻から読むべし!(文句なしに面白い徹夜本だおー)

 そんなつもりで、各巻の「読みどころ」をだらだら書いてきたが、書き手の自分でも何をどこまで書いたのか分からなくなってきたので、まとめる。「誠天調書」がスゴく参考になった[参考]、ありがとうございます、lqlobさん。

■「読みどころ」シリーズ:各巻の面白いところをご紹介

■「10倍楽しく読む方法」シリーズ:「ローマ人の物語」だけではもったいない

■おまけ

以降、このエントリを目次がわりにリンクを追加していこうかと。

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「ローマ人の物語」を10倍楽しく読む方法:「ジュリアス・シーザー」が『ユリウス・カエサル』でない理由

ジュリアス・シーザー こんなシーザー、「カエサル」じゃないぞとブツブツ言いながら読む。わたしにとってのカエサル像は、「ガリア戦記」「内乱記」「ローマ人の物語」を元にできているが、シェイクスピアのこれは、キャラが違う。

 「ローマ人の物語」はカエサル萌え一直線なので割り引くとしても、本人が書いた「ガリア戦記」を読めば分かる。ユリウス・カエサルは、巨人だ。

 戦略・戦術・外交において天才的な器や、本質をずばり見抜き、的確な言葉で100%筋肉質の文を生み出す才能や、あるいは、百戦錬磨の百人隊長の人心を掌握するほど震えるセリフなんて、カケラすら出てこない。

 その代わりに、嫁さんの夢見が悪いからとおたおたしたり、占い師の言うことを信じないながらも気にする様子は、ただの神経質な中年男にしか見えない。大仰に芝居がかったセリフを振りまいているだけ(あたりまえか、芝居だもんね)。

 イベントやセリフは、「プルターク英雄伝」まんまなので、焼き直しという評はさもありなん。シェイクスピアはプルタークは熟読しただろうが、ガリア戦記は読んでないに違いない。

 「ブルータス、おまえもか!」が特に有名だけれど、面白くなるのはその直後から。カエサルを弑した理由を語るブルータスや、昨日まで『カエサル最高』と叫んでいた民衆の掌反転の態度が笑える。特に素晴らしいのは反カエサル派に囲まれたアントニーが「哀悼の意」を表する場面。

 とても勉強になるので、以下に引用する。ここはアジテーションの教科書にのせるべきところだねッ、全文アントニーの台詞なり。

  友よ、ローマ市民よ、同胞諸君、耳を貸していただきたい。今、私がここにいるのは、シーザーを葬るためであって、讃えるためではない。人の悪事をなすや、その死後まで残り、善事はしばしば骨とともに土中に埋もれる。シーザーもまたそうあらしめよう……高潔の士ブルータスは諸君の前に言った、シーザーは野心を懐いていたと。そうだとすれば、それこそ悲しむべき欠点だったと言うほかはない。そしてまた、悲しむべきことに、シーザーはその酬いを受けたのだ……

  ここに私は、ブルータスおよびその他の人々の承認を得て、それも、ブルータスが公明正大の士であり、その他の人とて同様、すべて公明正大の人物なればこそ、今こうしてシーザー追悼の言葉を述べさせてもらえるわけだが……シーザーはわが友であり、私はつねに誠実、かつ公正であった。が、ブルータスは言う、シーザーは野心を懐いていたと。そして、ブルータスは公明正大の士である……

  生前、シーザーは多くの捕虜をローマに連れ帰ったことがある、その身代金ことごとく国庫に収めた。かかるシーザーの態度に野心らしきものが少しでも窺われようか? 貧しきものが飢えに泣くのを見て、シーザーもまた涙した。野心はもっと冷酷なもので出来ているはずだ。が、ブルータスは言う、シーザーは野心を懐いていたと。そして、ブルータスは公明正大の士である。みなも見て知っていよう、過ぐるルペルカリア祭の日のことだ、私は三たびシーザーに王冠を捧げた、が、それをシーザーは三たび卻けた。果して、これが野心か? が、ブルータスは言う、シーザーは野心を懐いていたと。そして、もとより、ブルータスは公明正大の士である

  私はなにもブルータスの言葉を否定せんがために言うのではない。ただおのれの知れるところを述べんがために、今ここにいるのだ。みなもかつてはシーザーを愛していた、もちろん、それだけの理由があってのことだ。とすれば、現在いかなる理由によって、シーザーを悼む心をおさえようとするのか? ああ、今や分別も野獣のもとに走り、人々は理性を失ってしまったのか !

 見るべきところを太字化したのはわたし。反語「いやない」を言わないで、同じ言葉が180度転換されるサマをありありと読むことができる。

 実は、アントニーがこの演説をする『前』に、ブルータスが演説をし、民衆の心はすっかりとらえられている。ブルータスは聴衆を虜にして、もう安心と演壇を下りるが、アントニーはこのホメ殺し演説で大逆転を果たす。デマゴーグのお手本だなぁ…

 ポイントは、直前にブルータスが言った「私は何より公明正大を尊ぶ」を逆手に取っているところ。そのコトバを何度も繰り返すことで、ブルータスに反対していないことを強調しつつ、事実を積み重ねることによって民衆の感情に訴えるという高等技術を使っている。

 この後、アントニーの巧みな誘導でシーザーの遺言が読み上げられるところや、衆愚が暴徒と化してはっちゃける様子や、逃げだしたブルータス派の仲間割れのあたりが楽しめた── ので、シーザーのキャラクターはあんまり面白くなかったナリ。

 結論:「ガリア戦記」の書き手との対照性に着目して読むと、そのギャップにずっこけるかも。「ローマ人の物語」で一言も書いていないけれど、塩婆は「ジュリアス・シーザー」が大嫌いなんだろうなぁ、と思った

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