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「アート・オブ・プロジェクトマネジメント」読書感想文(その7)

 第8章「優れた意思決定の行い方」で響いたことをまとめる。

■意思決定の重要度を決める

 何かの決定をしなければならないとき、わたしのツールは2つある。

  ・緊急度と重要度マトリックス[参照]   ・メリットとデメリット表(D.カーネギー「道は開ける」で知った)

 言い換えると、この2つしかない。すべきことを重要度と緊急度の軸にあわせて位置付けを行い、相対的に重み付けするやりマトリックスと、あることを実行する/しないを決定する際、そのメリットとデメリットを左右に並べて評価する表の、2つ。無いよりはずっとマシだけど、いかんせん心もとない。

 本書ではもっと本質的に考え、「意思決定の際の重要度は、何を評価基準にすればよいか」という問題に対し、「7つの問いかけ」の形で答えている。先の「優れたPMは質問の達人」と一緒。ただし、問いかける先が自分であることがミソ。

  1. この意思決定の中心にはどういった問題があるのか?
  2. この意思決定がプロジェクトに及ぼす機関はどれぐらい続くことになるのか? また影響の大きさはどの程度になるのか?
  3. この意思決定が間違っていた場合、どれだけの影響が出るのか、またどれだけのコストがかかるのか? その結果によって、他のどういった意思決定に影響が波及するのか?
  4. この意思決定にどれだけの時間をかけることができるのか?
  5. この種の意思決定を以前に行ったことがあるのか?
  6. 誰が専門的な視点を持っているのか? これは自分が行うべき意思決定なのか?
  7. 誰の承認が必要なのか? 意思決定を行う前に誰のフィードバックが必要となるのか?

 最重要なのは1だろ。言い換えると「いったい何を意思決定する必要があるのか? 意思決定しなければならないのは、その問題か?」になる。

 例えば、「今まで見つけた50個のバグ全てを修正している時間がない」という状況だとしても、本当の問題は「バグの優先順位付けを行う基準がない」だったりする。1はさらに、たたみかけるようにして、この問題の原因は何か? これは独立した問題か? それとも他の領域に影響を与える問題なのか? これは誰の問題なのか? …と続く。

 つまり、決めるべきことをこうした質問責めにすることで、問題をふるいにかける。しぶとく生き残ったものが真の問題で、質問に負けたものが低い優先度というように、かなり機械的にこなせそうだ。

■意思決定をふり返る(死者とドーナッツ:Death and Doughnuts)

 著者によると、意思決定のスキルを向上させる2つの方法があり、ひとつ目は実際に意思決定を行うこと、二つ目は行った意思決定をふり返ることだという。二つ目はやっていなかったナリ。

 この「ふり返り」は、戦闘機のパイロットだとデブリーフィング(debriefing)セッション、医者だと死者とドーナッツ(Death and Doughnuts)というのだそうな。手を施したが助からなかった患者について、ドーナツを食べながら議論するのが語源らしい。

 チームであれ、自らであれ、ふり返る思考をレビューするための良い質問集がある。自分のために引用しておく。

  1. その意思決定は核となる問題を解決したか?
  2. その意思決定をより迅速化できるような、より優れたロジックや情報はあったのか?
  3. ビジョンのドキュメント、仕様書、要求定義書はその意思決定に役立ったのか?
  4. この意思決定はプロジェクトの進捗に役立ったか?
  5. 鍵となる人々をプロセスに参画させ、意思決定の支援をさせることができたのか?
  6. この意思決定が他の問題を引き起こす/防止するということはあったのか?
  7. ふり返ってみた場合、この意思決定の最中に気にしていたことは正しいことだったのか?
  8. 正しい決定を行うだけの十分な権限があったか?
  9. この意思決定によって学んだことをプロジェクトの他の部分にどのように適用できるのか?

■メリット・デメリット表に、ひと工夫

 正式に何と呼ぶか知らないので、「メリット・デメリット表」と名付けている。本書では「長所と短所の一覧表」と訳されているが、まったく一緒。わたしはD.カーネギーで知ったけれど、ベンジャミン・フランクリンまでさかのぼるらしい。

 書き方はいたってシンプルだ。白紙(ホワイトボード/ノート)の上に、「問題」「目標」を書いて、それを成し遂げるためにすべきことを左側に羅列する。そのToDoについて、長所と短所を書きだす。こんなカンジ…

 問題:プログラムリーダーのAさんが入院した(復帰は絶望的)  目標1.スケジュールを遅延させない2.品質を確保する

To Do候補 メリット デメリット
機能Aの廃止      
機能Bの廃止      
機能Cの廃止      
顧客に決定させる      
何 も し な い      

 ポイントは、最後に「何もしない」を付け加えること。これにより、何もしないことによってどういう影響が起きるかをプラス・マイナスの両面から考える機会を得られる。

 「何もしない」ことで、問題は放置され、悪臭を放ったり迷惑をかけたりするかもしれない。その一方で、問題に取り組んだ結果、確実に失うことになる「時間」「マンパワー」を温存することができる。問題を先送りせよとは言っていない。「何もしない」選択肢も考慮に入れた上で、問題に取り組め、ということだ。学校教育の影響で、解答欄には必ず何か書かなければいけないと思っていると、強力な選択肢「何もしない」を忘れてしまうかもしれない。

 本当に「何もしない」かどうかは置いといて、選択肢に含めて考えてみてはいかが。

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