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本を探すのではなく、人を探す

 長くなりすぎたこのエントリのレジュメ:選本の肝は本ではなく、人を探すこと。わたしが知らないスゴ本は、それこそ百万冊ある。その本そのものを探すのはとても難しい。しかし、百万冊のスゴ本は間違いなく誰かに読まれている(それは"あなた"かもしれない)。だから、スゴ本を読んでいる"あなた"を探す。このblogの究極目的も、そう

メールやコメントでいただいた、以下の質問に答えてみる。誰かの参考になれば。

【質問】

  Q1 たくさん本を読んでるようですが、速読をやっていますか?
  Q2 あるいは読書術のようなものはありますか?
  Q3 読む本はどうやって探していますか?

【回答】

  A1 速読を練習したことありますが、実践してません
  A2 「目的を持って読む」に尽きます
  A3 本ではなく、人を探します

本は目的を持って読む

 あたりまえだとツッコミがくるだろうが、わたしはできていない。漫然と読んでるとあっというまに時間だけが経つ。時間を「つぶす」のが目的ならそれでもいいが、もったいない。

 これは、本を選ぶときから始まっている。書影を見たとき、レビューを読んだとき、手にしたとき、自分に問いかける「どうしてこの本を読むのか」と。これは表紙を開いた後も一緒、読んでる途中も折にふれ目的を問い直す。それに沿わない・合わないようなら、止める。ムリしない。あるいは目的を達して残りを読む必要が感じられなくなったら、止める。だから「まえがき」と「目次」は熟読する。目次の情報だけで取捨選択する。ビジネス書や解説本を読むときはこのやり方が非常に有効。

 つまり、目的を念頭において、本はいつ放り投げてもいい、という心づもりで読む。ただし、読んでる最中に目的が変わってくる、というのはアリ。小説がこの場合に当てはまるが、書き手に連れられた先が思いもよらなかった、というのもまた幸せな体験だろ。

 この「目的」は、読み始める前までに、2つの「なぜ」に答えられるようにする。

   1. なぜ「いま」読むのか
   2. なぜ「わたし」が読むのか

 よく1. が注目されるが、ホントは2. の方が重要だったりする。「いま」読む理由のNo.1は→「いま読みたいから」だろ。「いま」その知識が必要だから、「いま」が旬の小説だから… 昨日何でもいいが、理由はそこしかない。

 重要なのは2.、つまり「わたし」が読みたい理由をハッキリさせる。それが明確でないうちは、その本は読まなくてもいい。つまり、誰か他の人に読んでもらって、レビューなりレジュメなりをあてこんでおけばいい。「その著者の作品が好きだから」が理由No.1だろうが、そればかりだと読む本がどんどん限られてきて血のめぐりが悪くなる。自分が知らない、でも自分が読んだら面白いと思える本――そう確信が得られたら、「わたし」が読む理由になる。

 実はこれ、矛盾してる。わたしが面白いと思う本こそ、次に読む本。しかし、その本が面白いかどうかは、読んでみないと分からない。知らない本をどうやって「知る」のか?

知らない本を「知る」方法

 まず自力、それは「多読」。スゴ本もクソ本も肥やしになる。良書も悪書も関係なくどんどん読む。一定の量をこなさないと「読む前に知る」ことはできない。選本眼こそ量は質に転換する典型的な例。ただし、クソ本ばかり「選んで」読んでても質に転換しないのでご注意を。良いクソと悪いクソの区別がつくだけ。つまり、量を質に転換するためには自分"だけ"で選本してたらムリで、他人の評をいったんは鵜呑みにして読むことが必要。

 次は他力、つまりメディアから見つける。朝日日曜版もオーソドックスだけど、BS週間ブックレビュー[参考]も定番やね。メディアの書評で大切なのは、「本ではなく人を選ぶ」こと。本を探す前に人を探す。自分のストライクゾーンに投げこんでくるレビューアーを見つける。いったん鵜呑みにして目ぇつぶって手にしてみるしかないが、うんこ書評家はちゃんと覚えておくこと。そしてその人が勧める本は蛇のように避ける。

 最後は集合知、みんなの意見は案外正しい、ただし、「みんな」をどう定義するかによる。川上弘美が好きな「みんな」が勧めるなら、わたしにとって案外正しい。ただし、この「みんな」は世間一般ではない。理由は…川上弘美だから(わたしは好きだけど、やっぱりね)。集合知は「はてな」が最適。好きな本を適当に投げ込んで、そいつを気に入っている「みんな」を探す。こんなカンジに→「センセイの鞄」を含む日記[参照]。そして「みんな」の複数が指している次の本をかたっぱしから試読するんだ。そこで人の取捨選択をして「みんな」をブラッシュアップしていく。

 おまけ。これ書いてて昔のエントリ:面白い小説を見つける3つの方法を思い出した。

 自力、他力、集合知――いずれの場合も(全部読まないにせよ)莫大な量の本を読み始める必要がある。もちろん目的に沿わなければ放り出してもいいが、とにかく沢山の本を手にする必要がある(手にするだけでも!)。ここに罠がある。「本は買う」ことをモットーとしている人だ。「途中で放り出してもいい」なんてスタンスでは、とても買えないだろう。あるいは「人を選ぶためにその人が推す本を読む」なんて読み方もできないだろう。このやり方を適用するなら、モットーを退けておかないと銭がもたない。

 では、買う本と買わない本をどう選ぶかについて、わたしのやり方を紹介する。

エロ本と辞書以外、本は買わない

 「本は買わないと身につかない」とか「本の目利きは身銭を切ってこそ」と言われる。確かにその通り。わたしの場合、開高健に影響され、実行した時期があった。金をドブに捨てる経験を積んでいくうちに、スゴ本とクソ本の区別はつくようになった。

 しかし、払った犠牲(金と時間)が大きすぎる。思い出したくないぐらいのぞっとする額がつぎ込まれている。得られた「目」はそれなりなんだけど、小説家や評論家でメシ喰っていくつもりもない。だから、「銭を払う」前提をとっぱらって、もっと他人の目を入れれば良かったと思っている。

 さらに、この身銭を切るやり方だと、本の渉猟が保守的になってしまうところがある。オレサマ基準が幅を利かせ、鋭角的な選本になってくる。量は多くても似た傾向に固定化してくる。「いやいや、書評からも仕入れてくるぞ」という反論が来そうだが、どの書評をどう評価するかの時点で既に固定化していることに気づいていない。

 ただし、身銭を切るやり方でしか得られないスキルもある。それは「本の呼びかけを聞き取れる能力」。すごく電波な言い方だが、「本に呼ばれる」ことがある。普通の人なら、書店の平積みの表題やらワンフレーズに"引っかかる"ことが相当する。それではなく、文字通り"呼ばれる"としか言いようのないことがある。呼ばれて入った古本屋の10円均一ワゴンの山に、ずうっと探してた絶版本を見つけたり、図書館で呼ばれて手にした未知の一冊にハマったり。

 結局のところ、くり返し使う本でなければ、本は買わないことを至上としている。買うことに満足してしまって、読まない事態を排除する。わが家は狭い。自己満足オナニーのためのスペースなんて無い。どーしても買う必要があるものだけを買い、使ったら、即売る。実際、わたしの「本棚」はカラーボックス1つで足りている(もっとも実家の書架にはたくさん詰まっているが…)

図書館を徹底的に活用する

 では、どうしているかというと→図書館を使い倒す。最近の図書館はよくできていて、ネット検索や予約がかけられるものがある。それを複数使って借りまくる。住所だけではなく、勤務先の図書館も使う。さらに通勤ルートにまたがる市区の図書館も狙う。

 「図書館へ行って借りたい本を探す」のではない、「読みたい本を最速で貸し出してくれる図書館を探す」。例えば「東京都の図書館横断検索」[参考]を利用して、自分の読みたい本を貸し出してくれる図書館へ出かける。

図書館の最大の強み→ロングテール+本の空間

 図書館を利用するメリットは沢山あるが、もっとも素晴らしい点は、amazonとリアル書店のイイトコ取り、すなわち「ロングテール」+「本の空間」の両方が得られるところだろう。

 amazonの陳列棚は無限だ。新刊・売れ筋しか揃えないリアル書店と異なり、amazon ならいくらでも陳列できる。結果、埋もれた良作が掘り出されたりする。書店というより本の情報が詰まった巨大なデータベースのようなもので、検索語を上手に操れば、望む本を瞬時に探し当ててくれる。しかし、ターゲットの本しかスポットが当たらないため、その周辺が見えにくくなっているのも実情。

 いっぽう、リアル書店だと「お目当ての本」の周りにも目が行く。本が並んだ空間に身を置くことで、ジャンル全体から見た位置付けや、周辺本も引っかかりやすいというメリットがある。amazon だとキーにかかったものは正確に抽出するが、それ以外は見えない。本の情報とはブラウザの検索結果であり、空間としてその本が把握できないから、周囲が見えない。勢い、「ショッピングカートに入れる」行為は一本釣りに似てくる。

 そして、図書館の場合、amazon とリアル書店のメリットの両方を受け継ぐ。図書館を書籍のデータベースとして扱い、「検索→予約→近場の図書館で受け取り」が可能。さらに、「ヒットした本を書架で見つける」ことにより、その本の周辺の「似た本」にも目が届く。しかも、リアル書店では扱わない古書も込みで。

 つまり、図書館はamazonの網羅性と、リアル書店の本の周辺の両方を兼ね備えている。もちろん、人気の新刊本は奪い合いなので手にしにくいといったデメリットもあるが、このblogを読むような人なら、そもそも早読みレースに乗らないだろう。

「貸し出し期限」はメリット

 図書館には、1週間なり2週間なり、貸し出し期間がある。本を買いつづけていた頃は、これをデメリットだと思っていた。読みたいときに読みたい本を手に取れないなら、意味がないと。その結果、貯めこんでいた本の山で身動きが取れなくなっていた。

 本で埋められた床の色を思い出せなくなったとき、わたしは気づいた→「生きている残りの時間をつぎ込んでも、この本は読みきれない」――で、どかんと売ることにした(売上は6桁に達した)。

 このブレークスルーから、本との出会いは一期一会を実践するようになった。つまり、借りて期限内に読みきれないようなら、それだけの出会いだった、と割り切るようになった。もちろん、期限がきても読みたいならば、その都度借りなおす。何度も借りなおすなら、それは「買え」ということだと解釈し、そこで初めて購入する目で見るようになった。

 本という「モノ」に執着したらダメ。本は、本から得られる何かこそが重要――それが、知識だったらバッドノウハウだったり、楽しい時間だったり←以前のわたしはこれに気づいていなかった。本のコストは銭が全てだと考えていた。本当は、「本から得られる何か」を得ていない時間と空間の全部がコストになるにもかかわらず、買えば全てだと考えていた。おかげで莫大な「買っただけで満足した本の山」に埋もれて自己満足に浸っていた。

 そうしたオナニーを断ち切るのが「貸し出し期限」。そのおかげで、常に「その本はいま読むべき/読みたいものなのか」を念頭において毎日リストを更新し続けている。要は、どんどん借りて、どんどん読むやね。読みきれないなら見捨てるか次のターンで再挑戦するか考えてリストを組み立てる。

等価交換の原則

 錬金術における等価交換の原則を覚えているだろうか? 「人は何かの犠牲なしに何も得ることはできない。何かを得るためには同等の代価が必要になる」――本の場合、対価は銭ではない。「今もっている本」だ。「今もっている本」を手放さなければ、新たな本を得ることはできない。これを勘違いしている人は、一生読まない本代を払いつづけることになる。

 「今読んでる本」で片手はふさがっているかもしれないが、何かを得るためには、少なくとも片方の手(右手)は空けておかないと。どうして右手なのかって? それは、右手はスゴ本のためではなく、そいつを読んでる"あなた"と握手するために必要だから

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コメント

図書館の利用は良いですね。
最近は19時頃までやっている図書館もあり、駅前に貸出し所があったりしますし。
自分は文庫は購入、単行本は図書館、古典は古本屋と使い分けています。

知らない本を「知る」方法としては、Webで書評サイトから知るというのも最近では主流ではないかと。
管理人さんオススメ本が、自分の既読本の評価と一致していれば、そのサイトの本が自分の好みに合う可能性は高いと思います。
Dainさんの書評は、かなり自分の好みと合致しているので、参考になります。

オススメの「大聖堂」上巻読み終わりました。
近年、稀に見るスゴ本です。
ストーリーも良いですが、翻訳も物凄く良いです。
一通り予定している本を読んだら、この翻訳者の本を漁ってみようかと思います。
取り敢えず、中・下巻をこのまま読み進みます。


<以下、愚痴です>
しかし、最近は文庫本も高くなって、昔のようにほいほい買えなくなってしまいました。
十年くらい前は、400ページくらいの文庫なら、400~500円程度でしたが、今は倍近くになってます。
消費税もあるので一概には言えないでしょうが、活字離れの一因はここにあると思っています。
単行本が文庫本になる期間もどんどん長くなって来ているし、ようやく文庫本化したと思ったら、不必要に分冊して価格を吊り上げる。
ついには売れている本は文庫化をしないという方法が広まってきています。
経営が苦しいのは分りますが、何か浅ましく、あざとい感じがして好きになれません。
別に商業主義を否定する訳ではないですが、やるのであればもう少し頭を捻って欲しいですね。
仮にも知識を売り物にしているのだから、消費者に感付かれないような方法で搾取して欲しいものです。

投稿: Ryo | 2006.08.02 02:35

おはようございます。僕も図書館派です。年間に20万円以上節約出来てます!

ご参考:「図書館のすすめ」
http://dora.boo.jp/etc/book.html#20050402

ではではっ。

投稿: Dora | 2006.08.02 06:30

こんばんは。

図書館は絶版の本も置いてあるのがいいですね。しかし読まれない古書は容赦なく捨てられたり、亡くなった方が寄贈した貴重な本も場合によっては処分されるようです。
地方在住で古典やドマイナージャンル好きの私は国会図書館が近所に引っ越してきてくれないかと願うばかり、復刊.com様々です。

投稿: jackal | 2006.08.02 21:35

>> Ryo さん

 ありがとうございます、参考にしていただいて嬉しいです。このblogのおかげで、ここ数年のわたしの読む本の質量ジャンル全てに渡って拡大しました。わたしが知らないスゴい本を読んでいる皆さまのおかげだと感謝しています。

 「大聖堂」の上巻が終わりましたか、そうですか!もっともっとスゴい話になることを請合います。夢中になりすぎて寝不足にならないように… で、今度はこれを超える/匹敵するスゴ本があったら、教えてくださいね

 搾取の成果である、出版社の給料(てかボーナス)については以下が参考になるかも? 心を落ち着けて、見てくださいね

 「金持ち編集者」の実態?(ある編集者の気になるノート)
 http://aruhenshu.exblog.jp/353633/

>> Dora さん

 ありがとうございます、「図書館のすすめ」読みました。こうやって数字にすると意味深ですよね…

 同じような計算は嫁さんと一緒にしたことがありますが、額が莫大になりすぎて空恐ろしくなり「税金以上に取り返している」という結論で止めにしました(嫁子ども含めると、週に40冊以上借りています)

>> jackal さん

 こういう例もあるようです↓
「矢祭町:図書館新設に、全国から寄贈本3万5000冊 1日10件問い合わせ /福島」(毎日新聞msnニュース)
http://www.mainichi-msn.co.jp/chihou/fukushima/archive/news/2006/07/29/20060729ddlk07010367000c.html

 実は、国会図書館の近所に引っ越すことを真剣に考えています

投稿: Dain | 2006.08.02 23:59

こんにちは。

私も本は長期間手元に置いておきたいものでない限りは図書館で借りる派です。でも本を探すのにはAmazonは便利だったりするので良く使っています。で、Amazonで探した本が図書館にあるかどうかすぐ確認できるツールを使ってます。

データバックアップメモ - extended -: Amazonから図書館Webに自動リンクするGreasemonkeyスクリプトをちょこっとカスタマイズしてみた。
http://kazabana.tea-nifty.com/databackupmemo/2005/06/amazonwebgrease_89df.html

「Mozilla Firefox+Greasemonkey+上記サイトのスクリプト」という組み合わせが必要になりますが、ワンクリックで図書館の検索結果に飛べるので結構便利です。スクリプトを地元の図書館用などにカスタマイズして使っている方も結構おられるようです。

万人向けではありませんが、こういうツールもありますよ、ということで。

投稿: Kazabana | 2006.08.03 12:18

>> Kazabana さん

 リンク先拝見しました。複数の図書館を併用しているので、便利そうですねー

 気になる本
  ↓
 Google → 他の評判
  ↓
 amazon → 他の作品
  ↓
 図書館A、図書館B …

 こんな流れなので、最後の「amazon→図書館」が自動化できますね。自分の絞込みパターンに書名の文字列やISBN番号を引き継げようになったらもっと便利でしょうね。

投稿: Dain | 2006.08.04 07:31

個人的にはオレサマ基準、選書者による選出以外にも、ランダム選出を取り入れています。
前者2項目で選本していても、わりと鋭角的な選本になってしまいがちなので、図書館に行ったときに
「ジャケが赤い本」だとか、「タイトルが1文字の本」だとか、できるだけ自分の趣味に対する影響が無い基準で
1冊だけ借りると、ごくたまに未知の大当たりを引けるので楽しいですよ。効率は恐ろしく悪いですが…
図書館なら借りても読まなかったらそれまで、で済ませられるのでおすすめです。

投稿: あまりん | 2006.08.06 14:09

>> あまりん さん

 ランダム選本ですか、それは思いつきませんでした。常に目的を定めた選び方をしているので、盲点でした。たとえ無目的に図書館を徘徊してても、「呼ばれる」ことがあるので、ランダムに選ぶことは事実上不可能なので

 あるいは、「嫁さんが引いてくる本を読んでみる」というのが、ある意味バクチ的な読み方だったりして…(私的に大当たりだった『円環少女』がまさにそう)。パートナーが選ぶ本を読んでみる、というのも面白いかもしれませんね

  > 図書館なら借りても読まなかったらそれまで、で済ませられる

 これは激しく同意。借りたら(買ったら)読まなければならない、というプレッシャーがどれだけ「その次の本」を阻害しているか…


投稿: Dain | 2006.08.06 15:24

 いつも楽しくは意見させていただいています。
 今回本記事についてトラックバックをさせていただいたのですが、エラーで複数回トラックバックが送られているようです。
 
 大変申し訳ありませんが重複分を削除願います。

 徹夜本紹介を参考にいろいろ読ませていただいています。
 今は「カラマーゾフの兄弟」をよんでおります。
 おもしろいけれども、少し読みにくいと思ってしまうのは純文学から遠ざかりすぎていたからなのか……。

 

投稿: ながれわずか | 2006.08.06 23:51

>> ながれわずか さん

 「カラ兄」が読みにくいのは当然だと思います。わたしも慣れるのに苦労しました。

 とにかく登場人物全員がよくしゃべる。さらに、筆者であるドストエフスキーもしゃべる。しかも、よくしゃべるだけでなく、話のスジと関係のないことを長々としゃべる。(筆者は止めようともコントロールしようともしない)関係ないだろうと読み飛ばそうとすると実は前フリだったり巧妙な伏線だったりする。そうした強烈なキャラたちが好き勝手にしゃべるエコーがうわあああぁんとする中、本筋を読み落とさないようにするのは並大抵の苦労じゃないと思います。

 次に、時間経過が主観的なのも読みにくくしている点かもしれません。どんなに気をつけて読んでても、どれぐらい時間が経ったのかを示す描写を拾えないかもしれません。しゃべっているうちに時間が経ったというのが本音で、その間に(他の場所で)何が起こったのか測る指標(=客観的な時間)を隠そうとしているのかもしれません。さらに、過去のエピソードが長々と続き、その中でさらに「過去のエピソード」が入れ子のように語られることも読みにくくしている原因かも。

 最後に、「神の視点」がないため話全体が見えづらくしているのかもしれません。出来事をつないでいるのはアリョーシャで、彼がキャラAとの会話で見聞した内容をキャラBに持って行くことで話を進めるのが基本的な仕掛けです。その間に(別の場所・キャラで)話が進んでしまいます。それは当然なのですが、普通の小説だとご丁寧に何が起きたのか誰かが(誰もいなければ「神の視点」で)説明してくれます。そのため、既に終わった断片をあとからアリョーシャ追いかけることになります。ゲームのロープレを思い浮かべてください。主人公が「話しかける」とイベントが進むのが普通ですが、「カラ兄」は勝手に進みます。ロープレでは「主人公が見てないところでの事件」も後で分かるようになりますが、「カラ兄」は読者の想像に任せることもあります。

 読みづらいですが、強力な読書体験はお約束します。

 あと、トラバ先のトップ絵のメイドさんを見て「ちょこッとSister」を思い出したのはわたしだけではないかも。

投稿: Dain | 2006.08.07 09:33

こんにちわ。
図書館はいいですよね。地元では中々見付けられないような本がひょっこり入荷していたり、絶版本が実は書庫にしまってあったり。最近ではアンナ・カヴァン『氷』を読んで頭がおかしくなりそうになりました(笑
ただ、基本的に自分の好きな作家の場合は出来るだけ新刊を買うようにした方がいいのかな、と思っています。その作家が売れているならいいのですが、そうでない場合の方が自分には多いので、売上げに貢献しないとそのまま消えていってしまいそうな強迫観念がするんですよね。まあ、自意識過剰にも程があるのですが(苦笑

ちなみにどうでもいい突っ込みなんですが、長谷敏司はバトルファンタジー系に手を染めたのは『円環少女』がほぼ初めてで、基本的にはSFの人です。デビュー作『戦略拠点32098楽園』は、切ない系のSFの佳作。何故か今より文章に癖が少なくて読みやすかったりします。

投稿: hiiiragi | 2006.08.08 00:13

>> hiiiragi さん

 アンナ・カヴァン「氷」は、何だかスゴそうですね、探してみます。

 「本は買わないことを至上」としていますが、それでも買ってしまうのが性です… エントリ本文では触れませんでしたが、「そうは言っても実際に○○冊ぐらいは買ってまして──」なんてのが事実。「買って→使って→繰り返し使って→売る」のが著者にとっても一番なんでしょうね。

 「戦略拠点32098楽園」は嫁さんが熟読中。感想を待って着手するか否かを決めます(ズルいですね)

投稿: Dain | 2006.08.08 01:13

重要なのは
「何を読むか」ではなく
「いつ読むか」である。

これは人にも言えると思います。

結局は

自分の同レベルの本にしか、人にしか
本当の意味で出会えないですよね。

投稿: Anonymous | 2006.08.09 21:39

>> Anonymous さん

 確かにそのとおりです。自分の視線でしかモノが見えない限り、自分のレベルを超えたものは目に入ってこないはずですから。

 それでも、そのことを心に留めて、ちょいと背伸びすると、伸びしろが大きくなるかもしれませんね(とくに若い人であればあるほど)。

投稿: Dain | 2006.08.10 00:32

Dainさん

御返事ありがとうございます。

そうですよね、人の「見える、見えない」の境界は明確ではなく
グラデーションになっていると思います。

「見えそうで、見えない」
「感じられそうだけど、なぜだかわからない」

なんてのを逃さないセンスを磨いて行きたいですね。

また遊びにきまーす。

投稿: Anonymous | 2006.08.11 02:31

こんにちは。「箱」出身(?)のokaです。

そういえば、サイトを見て本を薦めて来る人が多いという話も読んだことがありますが、私もご多分に漏れず推薦させてください(「人を探す」と言われているので無謀な行為だということは自覚しつつ)。

私のオススメのスゴ本の一冊目は、
「コンピュータは、むずかしすぎて使えない!」アラン クーパー/山形浩生
です。
10年ぐらい前の本で、私自身も読んでから7,8年経つのでうろ覚えですが当時のソフトウェアアプリケーションに対して警鐘を鳴らした本だと思います。
Joel Spolskyなどのソフトウェアエンジニアも著者から影響を受けたはずです。少なくとも交流はあったのではと推測されます。

とはいってもそうした一部のソフトウェア業界人向けに書かれた本ではなく、むしろ人間というものをソフトウェアという光で見た場合に浮き出されるプログラマ、ユーザをうまく表現してあって、なおかつ専門的なところがほとんど無く知識前提なしでも十分読み進められると思います。

最初の100ページぐらいは笑いが止まりませんでした。まぁ、私がプログラマなのでそう思える部分が多いというのは否めませんが。

ただし、中盤以降、終盤にかけて減速したように思えます。それが訳者によるものなのか(途中から助手の人か誰かが訳したのではないかと思えるくらい)、原書によるものなのか確かめていませんが(原書をあたっていませんが)、ここで書かれた話が古い話と感じられる部分は逆説的にソフトウェアの進歩なのかなと思える、そういった本です。

もう一冊は
「史上最大の発明アルゴリズム」デイヴィッド・バーリンスキ/林大
です。
アルゴリズムが学問の一分野になるまでの歴史を研究者のエピソードを交えて綴られている、いわゆるサイエンス読み物なのですが、著者の創作(?)挿話(字体がイタリック)が私には楽しかったです。どのように楽しかったかをうまく説明すべきだとは思うのですが、精一杯がんばって、「数学の話なのに文学的だった」からです。

投稿: oka | 2008.05.23 21:06

>> okaさん

おおー、チカラの入ったオススメありがとうございます。

どちらも手にした程度ですれ違っていた本ですが、むしろokaさんが登録した「小説のストラテジー」や「シラノ・ド・ベルジュラック」の方に惹かれています(特にシラノ)
──というのも、最近ハマっているラノベ「とらドラ!」(竹宮ゆゆこ)がコレをホーフツとさせるので。

投稿: Dain | 2008.05.23 22:02

だいぶ前のエントリーのようですが、とても魅かれるタイトルだったのでコメントします。

“本に呼ばれる”という言葉、すごくわかります。本を大量に読んでいくうちにスゴ本とクソ本の見分けがつくようになるだとか、思わず「その通り!」と叫びたくなりました。

本のレビューや感想もとても読みやすいです。
わたしもブログをやっていますが、本の感想を書くのは難しいと思ってました。是非参考にさせていただきます。
よろしければわたしのブログにも遊びに来てくださいませ。

投稿: *tsugumi* | 2009.10.15 00:50

>> *tsugumi* さん

コメントありがとうございます。経験を積めば積むほど、「本に呼ばれる」ことになりますね…そして、(ここから危険域なのですが)呼ばれる本ばかり読むようになります。これはこれで、引きこもりの読書になるので危ないのです。このブログのおかげで、皆さまのオススメやツッコミをいただいています。感謝、感謝。

投稿: Dain | 2009.10.16 00:16

新書限定ですが、
http://shinshomap.info/search.php
なんかだと、ちょっとずれたところも検索に引っかかります。

投稿: mya | 2010.02.26 16:34

>>myaさん

ありがとうございます。KAZEの新書マップですね。flashが重いので、一覧化するか、アーカイブを公開してほしいなーと不届きなことを願っています。

投稿: Dain | 2010.02.27 10:18

ブログにて引用させて頂きました。

投稿: pinktrunks | 2014.04.20 16:08

>>pinktrunksさん

了解です、ありがとうございます。

投稿: Dain | 2014.04.22 00:17

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受信: 2006.08.06 23:44

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https://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2006/08/post_9e69.html:title=あるエントリ]を読んでいて、いいなぁと思ったので、トラックバックです。 選本の肝は本ではなく、人を探すこと。わたしが知らないスゴ本は、それこそ百万冊ある。その本そのものを探すのはとても難しい... [続きを読む]

受信: 2006.08.12 20:06

» 2007年05月 [べぇのうぃき (PukiWiki/TrackBack 0.3)]
tag:研究日誌 2007年05月 † 5/24 † 今日見た記事 本の選び方 本の読み方 5/23 † 今日見た記事 イントロの書き方 5/22 † 十七年ゼミ 5/14 期限切れ、、、 † Macにお電話。修理補償は90日で30日弱オー... [続きを読む]

受信: 2007.05.24 13:56

» 本は買うべきか [Red Herring]
本を買うべきか、それとも借りるべきか。 それは本当に重要な問題で。 今俺は本を買って読んでる。 自分の本棚にあれば読みたいときに読めるもん、と思って。 だが先月本に費やしたお金を考えるとちょっと…。 あまりに本代が高すぎて考え直さざるをえなくなった....... [続きを読む]

受信: 2007.08.24 03:09

» [読書][Life Hacks]なぜ僕は読書をするのか [お湯 わいとう?]
このタイトルを,「僕が読書をするたった1つの理由」とか「○〇つの理由」などと書けば,なんだかかっこいいのだけれど,ちょっと恥ずかしい. 別にたいした理由でもなんでもないから. 今日,日がなだら〜っだら〜っと タンス置場 兼 寝床 兼 僕の革靴置場 兼 書... [続きを読む]

受信: 2008.05.05 20:38

» [知][本][UI] Amazon とリアル書店 とタワーレコード [くるえるはてなくしょん]
正直、横着者でサーセンwwなのですが、普通の本屋で探したり検索するのめんどい。本当にめんどい。すっごくめんどいし、そのうえなかったりする。渋谷のリブロにラノベがコーナーごとなかったりね。んでここはAmazonたすかる。まあ在庫ないことはあったりするけど。あと図書... [続きを読む]

受信: 2008.05.13 19:15

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