逢坂剛オススメ「遙かなる星」がスゴい
絶版本。奥付には昭和四十九年八月三十日初版とある。図書館か古本屋をあたるしかないが、探すのにどえらい苦労した──というのも、本書が逢坂剛にとってのスゴ本だから。
彼のプロパティはWikipedia[参照]で得られるけれど、ミステリファンなら紹介するまでもないですな(百舌シリーズはあまりにも有名)。その逢坂剛がベストの一冊として指定してきたのが、「遙かなる星」。
スティーヴン・キングを除き、ふつう作家というのは易々とナンバーワンを挙げないものだが、彼は本当に手放しで誉めている。どこぞの提灯持ちライターではなく、本職のミステリ書きが「このミステリがスゴい」と誉めてるんだから、相当だぜ。ネタ元は日経新聞「半歩遅れの読書術」(2006.1.29)。
そこまで言うならと探すんだが、なかなか見つからない。半年かかってようやく手にして読めた。ああ、これは確かにスゲぇ…
人体実験の刻印を腕に、不治の病に冒されながらも遙かなる星、ダビデに向かって進む娘の姿は、安易に同情の言葉をかけられない。また、彼女を助けるために全てを(文字通りすべてを)投げ打つ警部の意志を、手垢のついた「ヒューマニズム」で括るには、言葉の方がチープすぎる。
事実の方が重すぎて Auschwitz を語る言葉をもたないわたしは、充分にレビューできない。それでもユダヤ娘と警部の意志と行動に強く心を動かされた。それは単純に「感動した」と書き表すよりも、登場人物の強い意志に引っ張られた、という方がしっくりくる。
小ネタ:実物は「遙かなる星」、つまり涼宮ハルカの「遙」とあるが、ネットでは旧字ではなく「遥かなる星」で通っている。お探しの際、ご注意を。また、ヤフオクで4万円という値がついたらしいが、よい子は図書館を利用しましょう。ちなみに都内では国会図書館に1冊、高井戸図書館1冊ある。復刊ドットコムではこんなカンジ[参照]
おまけ:逢坂剛おすすめのミステリはまだある。氏はこう紹介している。
でもって白眉の二冊はこれ↓
- 遙かなる星(ヤン・デ・ハートック)
- 母なる夜(カート・ヴォガネット・ジュニア)
この二作を読んだあとでは、映画「シンドラーのリスト」が書き割りの田舎芝居に見えてくるそうな。さらに、以下の四人の作家はチャンドラーやハメットとの比較で「通俗」ハードボイルドとされ、一段低く見られていたらしい…が、それはとんでもない偏見で、今のレベルでいえばクリーンナップ級の顔ぶれ。どの作品も、今どきの派手な仕掛けはないが、面白い小説の手本を見せてくれる。買って損なし、再読、三読に堪える、氏の愛読書とのこと。
- 明日に賭ける(ウィリアム・P.マッギヴァーン)
- さらばその歩むところに心せよ(エド・レイシイ)
- 針の孔(トマス・ウォルシュ)
- ハンマーを持つ人狼(ホイット・マスタスン)
ただし、週間ブックレビューでの「押入れのちよ」の絶賛ぶりからすると、ひょっとして氏はスティーヴン・キングばりの誉め魔かも。ハードボイルドのグルが薦める逸品として。

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コメント
逢坂剛ごときの終わった作家に薦められてもwww
投稿: f^_^; | 2008.09.12 00:32
>> f^_^; さん
はは、なるほど。じゃ、この辺ですな
http://www.webdokusho.com/rensai/sakka/index.html
投稿: Dain | 2008.09.13 00:59
『遙かなる星』良いですよね〜。僕は映画の方から先に観ましたが。『余命一ヶ月の花嫁』や秋元康『象の背中』だとか不治の病に侵されストーリーが進む話は数あれど、この作品の時代背景や肉付けはちょっと格が違う。ちなみに今ヤフオクで安値で出品されてますよ。図書館の複写サービスもいいですが、文庫を手にしてはいかが?
投稿: たかじん | 2009.10.08 09:40
>>たかじんさん
了解です、そして忘れていました、ここで挙げたリストを。思い出させていただき、ありがとうございます。ハードボイルド味を探すときは、まずここからにしますね。
投稿: Dain | 2009.10.09 02:09