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子ども兵──「見えない」兵士たち

このエントリのまとめ

 子ども兵とは、男女問わず18歳未満の子どもの兵士のこと(Child soldier)。その姿は、発展途上国の武力紛争で見られ、物資の運搬や食事等の作業のみならず、実際の戦闘、かく乱、誘拐、スパイ活動、さらには自爆テロの弾頭として「消費」される。少女の場合は、兵士に「妻」として与えられ、性的虐待にあったり、身の回りの世話などをさせられたりすることが多い。

 子ども兵は成年兵と比べ安価で使い捨てが可能であり、政府側も反対勢力側も、拉致したり誘拐したり唆したりして、動員する。ただし、各組織は、子ども兵があってはならない存在だと認識しているため、国連やNGOの調査に対して、子ども兵など存在しないと答えており、実態は隠されている。子どもは紛争の中で運良く生きながらえても、成年兵へと姿を変えて見えなくなっていく。

 生き長らえる子どもは少数で、命を落とすことによって、文字通りこの世の中から消えてなくなる。「見えない兵士」あるいは「子ども兵なんて最初からいない」という真の意味はここにある

映画の中の子ども兵

 「ランボー」のベトナムの話を覚えているだろうか? 靴をみがかせてくれと言ってきた少年の話だ。彼が持っていた箱に爆弾がしかけられていて…とランボーの告白が続く。

 あれは映画のネタではなく、現実にあった。ウラは、開高健のルポで思い知った。「キリング・フィールド」では子ども兵を見たし、「フルメタルジャケット」では少女の狙撃兵を思いだす。

 それでも、あれが現実だということに、なかなか想像が及ばない。わたしのアタマが錆びているからだ。まさに想像もつかない。試みにgoogleってみる[参照]。そこには映画(の子役)よりもずっと若い姿がある。

現実の子ども兵

子ども兵の戦争 現実の子ども兵は「見えない兵士」だと言われる。あってはならない存在であるため、関係者が口を拭って存在を否定しているのと、戦場では使い捨てされていることと、運良く生き延びた場合は成年兵となるからだ。

 政府機関が徴用することもあるが、誘拐されるケースが非常に多いとされている。中には、貧困からの脱出や、殺された家族の復讐などの目的で自発的に兵士となる場合もある。徴収される子どもに貧富の差があることはお察しのとおりだが、以下の引用で想像がつく。

 裕福な特権階級の子どもたちは政府軍に入隊する可能性はほとんどなく、仮に連れて行かれたとしても釈放されることになる。つまり、この階級から子ども兵が出ることはまずない。裕福な家庭では、教育を理由に子どもを留学させてしまう。国外にいるかぎり兵役に就く必要はなく、危険が去るまで帰国しないでいることもできる (「世界の子ども兵」p.64より)

 徴収された子どもは、充分な訓練をする場合もあれば、かく乱する「的」として使われる場合もある。「戦闘中はかがむこと」を教わっていなかったため、文字通りAKで体をまっぷたつにされた子どもの話は暗澹とさせられた。一方で、洗脳といってもいいほどの教化法が施された子ども兵も存在する。例えば、

 究極の教化法がある。誘拐してきた子どもたちをすぐに儀礼的な殺人に加担させる方法が普及している。犠牲になるのは、敵の捕虜、新兵の前で殺すためだけに誘拐してきた子ども、ひどいときには、子どもたちの隣人、もしくはだ。殺害はたいてい公開で行われる。子どもが人を殺したことを地元の人々に知らしめて、二度とかれらの元に戻れないようにするためだ (「子ども兵の戦争」p.109より)

戦場の子ども兵

 戦闘員としての子ども兵は、非常に有益らしい。体が小さい、敵が油断するといった誰でも思いつくメリットの他に、


  • あまり質問をしない
  • すなおに指示にしたがう
  • 評価することができない
  • たいてい戦争に行くことのリスクを理解していない

が挙げられる。麻薬やアルコールで興奮状態になった子どもは[何でも]やる。戦うのが楽しいと答えた子どももいる。「ゲーム感覚」という言葉が脳裏をよぎる。自分のしたことがどんな結果を招くか理解できない子どもが、銃を向ける。その目撃者の話↓

 それからキシー(シエラレオネ)のモスクに連れていかれた。そこにいた人たちは皆殺しにされた。あの人たちは、お母さんの腕から赤ちゃんを取り上げ、放り投げた。赤ちゃんはまっさかさまに落ちて、死んだわ。(中略)頭の後ろを斧で叩き割って殺したりもした。ニワトリでも殺すみたいに。妊娠している女の人がふたりいた。あの人たちは、ふたりを縛ると両足を広げさせ、尖った棒で子宮をつつきまわして、赤ちゃんを引きずり出したの (「子ども兵の戦争」p.153より)

子ども兵のインセンティブ

 それは、純粋にビジネスの論理、即ちコストに尽きる。拉致ってこればほぼゼロ。大人は大義を信じていても、報酬を欲しがるもの。子どもはめったに欲しがらない(あるいは、欲しがるようになるほど大きくなる前に死ぬ)。

 国際法上、18歳未満の子どもを兵士として徴用することは禁じられているが、戸籍を準備して証明しなければならないのはその保護者の方。ここでも貧富の格差が表れてくる。つまり、裕福な家庭は兵士としての履歴を買うことができるわけだ。その欠員は、もちろん貧しい側から補充することになる。

子ども兵とカラシニコフ

カラシニコフ 子どもを優秀な戦闘員にしているのは、安価で、シンプルで、扱いやすく、メンテナンス性の高い兵器。その最たるものがカラシニコフ――AK47――重さは4.7キロ。分解してもわずか8部品と、非常にシンプルだ。子どもたちは普通、30分ほどで使い方を覚える(わたしですらみよう見真似で扱えるほど簡単)。並外れて頑丈に設計されており、メンテナンスの必要がほとんどない。カラシニコフは一般化しており、アフガニスタンの四年生の教科書に載っている文章問題にはこうある

 カラシニコフ銃の弾丸は秒速800メートルで飛びます。聖戦士が3200メートル先にいるロシア人の頭部を狙う場合、弾丸がロシア人の額に命中するまで何秒かかりますか (「子ども兵の戦争」p.99より)

 カラシニコフの性能で笑う話ではなく、教科書に載っている問題だということを、再度指摘しておく。

 カラシニコフは、「人類史上最も人を殺した兵器」とも「小さな大量破壊兵器」とも呼ばれている。同名のルポルタージュが出版されており、わたしのレビューはここ[参照]にある。

「子ども兵問題」の対策1

 じゃぁどうすりゃいいんだよ!と咆えながら読み進めると、やはり最後に「提言」の形で対策案が提示される。「子ども兵の戦争」はこうだ。

 子どもの兵士を使うこと自体を戦争犯罪とみなし、黒幕である指導者たちを、子どもたちをあからさまに徴集し使用しているかどで告発しなければならない。基本となる理由づけは、子どもの兵士を使えば罰せられるという法的な前例を設けること。子どもの兵士を使う原則が戦争犯罪であることに焦点を合わせれば、その結果起きる虐待に焦点を合わせるよりも、告発しやすくなる (「子ども兵の戦争」p.212より)

 でこのプログラムの実行には、シエラレオネの戦犯法廷などの臨時の国際法廷を利用することを提言している。また、子ども兵と相対する側(まさにこの著者の属する世界の軍)への提言も、抜かりなく行っている。

 子ども兵との交戦と、子どもたちが殺されることになった経緯を説明する際は、交戦の背景と任務全体の重要性を強調しなければならない。子どもの兵士たちが死傷することを避け、制限するため、できる限りの手(非致死性兵器の使用、心理作戦、衝撃効果を狙った発砲)が尽くされたことを、世間に知らせる必要がある。同時に、子どもの兵士が、子どもであっても、アサルト・ライフルを手にしていれば大人と同じぐらい危険であることを、世間に気づかせるべきである。何より、広報担当は非難の矛先を非難するべき相手に、すなわち、子どもたちに汚い仕事を肩代わりさせている敵に、向かわせることが重要だ (「子ども兵の戦争」p.255より)

 朝日日曜書評(2006.8.6)の酒井啓子レビュー[参照]で挙げられた「米兵の視点」での深刻さには違和感はここ↑だろう。あたりまえだ、本書はそうした子ども兵と相対する側向けに書れたレポートなのだから。自分が殺す相手が子どもだなんて、誰だって嫌だろう。それでも正当化しなければならない人がいるのだから。

 むしろ酒井氏には、次のレポートをオススメする。

「子ども兵問題」の対策2

世界の子ども兵 もう一つ併読していたのが「世界の子ども兵」。前出の「子ども兵の戦争」は膨大なネット情報とNGO報告書から抽出されたレポートであるのと異なり、本書は写真と生のインタビュー・アンケートに満ちている。この問題を包括的にとらえている。「世界の子ども兵」では、子どもの権利条約の遵守は楽観的に見ている。

 むしろ対応が困難なのは、子ども兵をいかに社会復帰させるかという問題である。ここでいう子ども兵には、かつて子ども兵であった現在の成年の兵士たちも含めなければならない。子ども兵たちは、紛争によって家族を奪われ、子ども時代を奪われてきた。子どもが当然にもつべきであった子どもとしての時間を、いかにして取り戻せばよいのであろうか (「世界の子ども兵」p.191より)

 本書では、それを教育の機会および職業訓練の機会の付与に見出している。しかし、それが有効な手立てだとは疑わしいことを、まさに本書のインタビューで明らかにしてしまっている。

 何に対する社会復帰でしょうか? 機能していない、さまざまな問題を抱えた社会へ復帰することなのでしょうか? 普通とはどういうことでしょう? 子ども兵は、貧困や不正を社会の現実として目にし、それを理想に近づけるためにNPAに入ったのです。社会復帰ではなく、社会の再生を図らなければいけないのです。軍隊や反対武装勢力から戻った子どもたちは、社会に対して自分が抱いていた理想を、紛争を通じて叶えられなかっただけではないのです。戻ってきた社会はさらに病んでおり、紛争の根はそのままです (「世界の子ども兵」p.113より)

参考
  Wikipedia 少年兵[参照]
  Wikipedia AK-47[参照]
  P.W.シンガー「戦争請負会社
  P.W.シンガー「子ども兵の戦争
  レイチェル・ブレッド/マーガレット・マカリン「世界の子ども兵
  松本 仁一 「カラシニコフ
  松本 仁一 「カラシニコフII

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