徹夜小説「告白」でトランス
はてなでオススメいただいた徹夜小説「告白」を読んだ。一言で表すなら、読むロック(ただし8beat)。幸いなことに(?)これが何の小説であるか予備知識ゼロで読んだ。真黒なラストへ全速力で向かっていることをビクビク感じながら、まさかこんなとんでもない「事件」とは露知らず。
テンポのいい河内弁でじゃかじゃか話が進む。この一定のリズムは音楽を聴いているようで心地よい。中毒性があり、ハマると本を閉じられなくなる。読み進むにつれ、朦朧とした不思議な感覚に包まれる。
面白いなぁ、と思ったのは、明治時代の主人公の頭を極度に思弁的にしている設定。当然、ムラの衆との意思疎通や日常生活まで齟齬を来たしまくる。語彙と相手さえあれば、とてつもなく知的な存在になりえたのに、それが無いがために周囲からは理解を得られず、痴的な存在と見なされる。読み手はこの葛藤にまず笑うだろう。
「告白」の名の通り一人称でずっと進むと思いきや、妙なトコで冷徹に三人称で書いたり、同じ一人称でも著者がしゃりしゃり出てきたり、誰? だか分からないツッコミが入ったり。読み手の気持ちピッタリなので、とりあえず「わたしの代わりにツッコミ」だと思いつつ進む。ドツボにはまる男を憎めないのと、彼の苦悩(周りに分かってもらえない)に同調しつつ、どんどん感情移入してゆく。
ときおり、物語の構図がクッキリと閃く瞬間があって妙に恐ろしい。男の脳内独白を後ろで聞き書きしてツッコむ著者の文章を追いかける読み手、という多層構造。男のお面を被った著者が後ろ向きにこっちへ突っ込んでくる感じ。著者の視線をもって男の後ろ側か皮膚に入り込む…ううむ、UNIXパイプ処理の方が表現し易い、要はこうだ。
cat 主人公の独白 > 思弁を聞き書き(著者) > 読み手
この独白が上手い具合に自分にシンクロしてくるとさぁ大変。長広舌が病み付きになる。だるだる付き合ってるのが熱中してくる。仕舞いにゃ自分も河内弁で語りだす。
…で、その延長上にそんな出来事が待っているとは…!!
カタストロフの直前、男が被る獅子舞の内側から見た世界が最も恐ろしい。全世界から疎外される男の苦悩は、脳内をエコーしまくるだけでちっとも外へ出てこない。出るとしても切れ切れの思考の欠片だけで意味をなさない(だから愚者扱い)。まぶたの内側で涙を流すしかない。
cat 獅子舞から見た世界 > 主人公 > 読み手
獅子舞を被ったトンネル越しの世界、これこそ男の世界そのもの。河内弁なんざかなぐり捨てて現在用語でもって全力で語られる。男と読み手が一直線に貫かれる瞬間。そしてついに、【以降ネタバレ】殺戮が始まる。河内十人斬のビート(ホントにこのCDがある)が腕を這い回る、知らないはずなのに踊れるぞジョジョォォォーーッ!彼にしてみればとても明々白々。正義を成し善を遂行するために完全無欠に必要な行動を順番に実行する。やっている行為の一つ一つは輝くほど明白なのだが、思考の断絶がフラッシュのように入り込む。ずっと不審に思ってきた出来事の【非】一貫性は(作者の準備不足ではなく)、周到に計算された前フリなのかと好意的に捉えたくなる。大量殺人者にいたるまでの思考をシミュレートしたんだから仕方ないか。ところが読み手であるわたしと極限までシンクロしちゃっているんで、執行シーンでは体を(心を?)もぎ離すのに苦労する。パイプ">"を通じてしっかりと喰い込んじゃっているから、今やめると吠えだすに違いない、この体は!何て叫ぶって? もちろん人間停止ッ!、人間停止ッ!!
本書を「キ○ガイシミュレーター」と名付けてもいいが、どこから狂っているのかが分からないトコロが欠点。さらに、彼をキ印扱いするなら、わたしは…? と慄然とするところが非常にヤヴァい一冊。
ええ、もちろん徹夜だよ徹夜…ただし一徹で済んだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
企画「徹夜小説を探せ!」のリストを更新
■これから読む徹夜小説
永遠の仔(天童荒太)
第六大陸(小川 一水)
ガダラの豚(中島らも)
傭兵ピエール(佐藤賢一)
ゼウスガーデン衰亡史(小林恭二)
魔術師(J.ファウルズ)
北壁の死闘(ボブ・ラングレー)
イヤー・オブ・ミート(ルース.L.オゼキ)
スワン・ソング(ロバート.R.マキャモン)
シャドウ・ダイバー(ロバート・カーソン)
カラマーゾフの兄弟(ドストエフスキー)米川正夫訳 /岩波文庫版
■徹夜を覚悟・徹夜した小説
火車(宮部みゆき)某弁護士事務所では、新人研修に使う
半落ち(横山秀夫)ラストで号泣、涙で読めねぇ
ダ・ヴィンチ・コード(ダン・ブラウン)読むジェットコースター
摩天楼の身代金(リチャード・ジェサップ)「最高」の冠を付けたい
悪童日記(アゴタ・クリストフ)「ふたりの証拠」「第三の嘘」と一緒に!
ベルガリアード物語(D・エディングス)ドラクエとFFを足して2倍した面白さ
大聖堂(ケン・フォレット)2006年のNo.1スゴ本
告白(町田康)読むロック(ただし8beat)
![]() | ![]() | ![]() |
![]() | ![]() | ![]() |
![]() |

| 固定リンク
コメント
町田康ほか、徹夜小説を購入しました。自分では普段読まないであろう本に手が伸ばせる機会を与えていただいて大変ありがたいです。はてなの方からもピックアップしてあるので、次買うときの参考にさせていただきます。
投稿: x31hook | 2006.06.26 19:01
>> x31hook さん
参考にしていただいて嬉しいです
皆さまからのフィードバックをblogで公開するようになってから、幅が格段に広がりました、ありがたいことです。だから、x31hook さんのオススメも、是非(コレを推すならコイツを読め!てな感じで)
今回購入されたリストを拝見しました。イイですね~ どれも面白さではそこいらへんのベストセラーを軽く蹴散らしますぞ
…中でも「カラマーゾフ」がピカイチだと断言しておきましょう
投稿: Dain | 2006.06.27 00:01