「知的複眼思考法」はスゴ本
タイトルは大仰だけど、いわゆるロジカルシンキング指南。ただし、そこらのロジシン本と一緒にするなかれ。「知的複眼思考法」は今まで読み散らしてきたロジシンもので最高に腑に落ちてくるスゴ本なり。
これまでのロジカルシンキング本は、定義と書き方の説明と例の紹介の集積にすぎない。曰く、「今なぜMECEか?」「MECEとは」「MECEの例、書き方」「MECEの実践」でオシマイ。
だから読んでもソレっぽい書き方はできるけれど、あくまで見た目。ロジカルシンキングから導出される「アウトプット」と同じ書式だけれど、ロジカルシンキングをしていない。
いっぽう、本書の第3章の「問いの立てかたと展開のしかた」では、MECEとなるための思考方法を説明してくれる。実は、優れたツリーの裏側に何十枚もの「デッサン」がある。書いちゃ捨て、拾っては直しのスクラップ&ビルドが必要なんだが、フツーの指南本はそこを省く。本書には「デッサン」の線が沢山見える。
スゴいのは、ロジカルシンキングの用語を一切使っていないところ。10年前に書かれたので「ロジカルシンキング」が膾炙していなかったからだろうが、著者が「知的複眼」なんてカッコよく呼んでいる本質は「ロジカルシンキング」そのもの。
ロジカルシンキングはアウトプットのためだけでない。インプットも批判的に。第1章「創造的読書で思考力を鍛える」は素晴らしい。2chやfjで揉まれると身につく批判的読書法は、ここを読むだけで身につく(あとは実践するだけ)。批判的読書のコツを引用する。これを具体的にどうすればよいかは、本書で確かめてほしい。
- 読んだことのすべてをそのまま信じたりはしない
- 意味不明のところには疑問を感じる。意味が通じた場合でも疑問に感じるところを見つける
- 何か抜けているとか、欠けているなと思ったところに出会ったら、繰り返し読み直す
- 文章を解釈する場合には、文脈によく照らす
- 本についての評価を下す前に、それがどんな種類の本なのかをよく考える
- 著者が誰に向かって書いているのかを考える
- 著者がどうしてそんなことを書こうと思ったのか、その目的が何かを考える
- 著者がその目的を十分果たすことができたかどうかを知ろうとする
- 書かれている内容自体に自分が影響されたのか、それとも著者の書くスタイル(文体)に強く影響を受けているのかを見分ける
- 議論、論争の部分を分析する
- 論争が含まれる場合、反対意見が著者によって完全に否定されているのかどうかを知る
- 根拠が薄く支持されない意見や主張がないかを見極める
- ありそうなこと(可能性)に基づいて論を進めているのか、必ず起きるという保証付きの論拠(必然)に基づいて論を進めているのかを区別する
- 矛盾した情報や一貫していないところがないかを見分ける
- 当てになりそうもない理屈に基づく議論は割り引いて受け取る
- 意見や主張と事実の区別、主観的な記述と客観的な記述との区別をする
- 使われているデータをそのまま簡単に信じないようにする
- メタファー(たとえ)や、熟語や術語、口語表現、流行語・俗語などの利用のしかたに目をむけ、理解につとめる
- 使われていることばの言外の意味について目を配り、著者が本当に言っていることと、言ってはいないが、ある印象を与えていることを区別する
- 書いていることがらのうちに暗黙のうちに入り込んでいる前提が何かを知ろうとする
それでもなお、本を読む上でもっとも大事なポイントが抜けているので、ここで補足する。それはなぜその本を自分が読むのか、読むとどういいことがあるのかを、予め考えてから、読む。
他にもヒントを沢山もらった。パラグラフ毎に本を閉じて、著者の主張を推測する(当然、話が進めばだんだん方向性が見えてくるので、その前に当てる)ゲーム、詰め将棋ならぬ「詰め読書」は良い思考トレーニングだし、疑似相関性を見破るために特定のパラメータを固定して仮説を立てるやり方は、Excelのピボットテーブルを回しているような錯覚に陥った。
そんなノウハウが噛み砕いて分かりやすく(←これ超重要)書いてある。学生さんを想定しているため、身近な例を多用し、これでもかというぐらい紙数を費やして説明してくれる。まさに「読めば分かる」一冊となっている。
ただし、理解と定着を優先して書かれているがため、ツールとしてのボリュームは食い足りないかもしれない。もの足りない人は、これを足がかりに「問題解決プロフェッショナル 思考と技術」で深度をかせぐことをオススメする。
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コメント
お返事ありがとうございます。おかげで、少し幸せになりました。管理人さんは本を借りて読んでらっしゃるようですね。私はいつもポイポイ買ってしまうので、よく地雷とか踏みます。やっぱり、図書館で借りてから買う買わないを選別したほうが様々な面で良いようですね。
私もこれからは図書館で本を借り、借用期間を目安にテンポ良く本を読んでいきます。
貴重なご意見ありがとうございました。
投稿: kuroko69 | 2006.05.12 13:36
文庫版が出ていたんですねぇ。
投稿: AnonymousCoward | 2006.05.12 20:38
>> kuroko69 さん
お役に立てたようで嬉しいです。本を「所有」しなくなってから、本から自由になりました。「買う→読まなきゃ」がずっと続くよりは、「借りる→【今】読まなきゃ」を1~2週間のサイクルで繰り返せますから。
>> AnonymousCoward さん
ハイ、わたしもamazonで知りました。ハードカバーよりもこっちの方がとっつきやすそうですね
投稿: Dain | 2006.05.13 03:51
この本、10年近く前の高校生の時読んでかなり人生変わりました。いいですよねぇ。
投稿: 123 | 2006.06.18 23:45
>> 123 さん
高校生のとき読んでたら、まちがいなく人生変わってますね…
人生を有利にする一冊と言ったら誉めすぎかもしれないけれど、これほど分かりよく使えるのはあんまりないかと。
投稿: Dain | 2006.06.19 00:25
はじめまして。Dainさんの図書館関係の記事に刺激を受け、借りてみた一冊目がこの本でした。
この本のわかりやすさには納得と驚きの連続で、こういう本が図書館にはまだいくらもあるのだと気付いて愕然としました。
これからはすっかり図書館派になりそうです。
投稿: ひんど | 2007.03.20 21:51
>> ひんど さん
はい、本は買う派だったわたしが図書館主義になった顛末はこのへんが参考になるかと
図書館を利用するようになるまでの20ステップ
https://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2006/09/20_ed7b.html
投稿: Dain | 2007.03.22 01:59