« チェルノブイリ旅行記―――オオカミの大地 | トップページ | 田中芳樹の作品は、読む順番があるらしい »

大聖堂

 今年のNo.1スゴ本。面白い小説とはこれだ。前知識は邪魔。
 心して、徹夜せよ。

大聖堂(上)大聖堂(中)大聖堂(下)

…だが語りたくてしかたない。ちょっとだけ。

カンタンに紹介すると、こうなる。

   波瀾万丈

   気宇壮大

   質実剛健

   ああ無常

 イメージわかない?じゃあ裏表紙の紹介を引用。

 いつかこの手で大聖堂を建てたい――果てしない夢を抱き、放浪を続ける建築職人のトム。やがて彼は、キングズブリッジ修道院分院長のフィリップと出会う。かつて隆盛を誇ったその大聖堂は、大掛かりな修復を必要としていた。折りしも、国王が逝去し、内乱の危機が!十二世紀のイングランドを舞台に、幾多の人々が華麗に織りなす波瀾万丈、壮大な物語

宣伝に偽りなし。レビューをぐだぐだ書いてる奴(わたし含む)はスッ飛ばして、さっさと読むべし。

 まだわかない?じゃぁ今年読んだどのスゴ本と比較しているかを考えてみよう。「徹夜小説を探せ!」の企画でも輝いている三冊。

   西の善き魔女

   ベルガリアード物語

   ダ・ヴィンチ・コード

 どれも珠玉。どれも開いたら最後、無類の面白さを保証する。でもこれは、それを上回るんだぜ。最近読んだ100冊の中で一番面白い。こんなレビューなんざ放っておいて、さっさと読むべし!

 まだコない?ううむ、じゃぁちゃんとレビューしよう。これはヒューマンドラマとして超一級だが、著者のメッセージ(と回答)が含まれている小説でもある。それは、

   なぜ大聖堂を建てるのか

に尽きる。人が人と扱われない中世、飢饉と餓死と戦争が隣り合わせの時代。迷妄と蒙昧と暴力と策略が渦巻いていたとき、なぜ Cathedral なんて代物を建てようと考えたか、という問い。

 これを宗教の視点で切るのはたやすい。なぜなら、主語を「神が」にすれば事足りるから(実際、"ファーザー"フィリップがやっている。『全ては神の御心のままに』)。

 しかし、それ以外の理由を挙げると、それこそ無限に出てくる…でも括れば一言で済む。それは「欲望」だ。権力欲、支配欲、愛欲、性欲、意欲、我欲、禁欲、強欲、財欲、色欲、食欲、邪欲、情欲、大欲、知識欲、貪欲、肉欲…ありとあらゆる「欲望」を具現化したものが大聖堂だ。神の場と「欲望」… 一見矛盾した取り合わせだが、読めば納得する。究極の大聖堂を描く、しかも「大聖堂をなぜ建てるのか?」という疑問に応える形で書こうとすると、とてつもない人間劇場になる。それが本書。

 こんなに大上段に構えなくとも、棟梁トムは考える、「美しいものを、つくりたいから」と。

 トムの描いた身廊は高い。おそろしく高い。大聖堂は人びとの感動を喚びさます建造物でなければならないのだ。その大きさによって畏怖を感じさせ、その高さによって、見る人の眼を天にむかって引き上げるのである。人びとが大聖堂にやってくる理由のひとつは、世の中にこれほど大きい建物がほかにないからである。大聖堂に行かないとしたら、その人は自分の住んでいる家と大差ない大きさの建物しか見ずに人生を送ることになりかねない。

 巨大な建造物を目の当たりにするとき、わたしの毛穴は開く。巨(おお)いなる存在に畏怖を感ずるよう刷りこまれているようだ。本書は毛穴開きっぱなし。ぞくぞくしながら読んだ。大聖堂の荘厳さだけでなく、そいつをとりまく人生模様にタメ息をつき、ドキドキハラハラワクワクテカテカ(wktk)してほしい。全ての伏線に無駄がなく、全てのエピソードはピタっパシっと嵌る。キモチイイ

 ラストは電車の中だった、感動のあまり立っていられなかった。

 ま、だまされたと思って、読んでみ。

このエントリーをはてなブックマークに追加

|

« チェルノブイリ旅行記―――オオカミの大地 | トップページ | 田中芳樹の作品は、読む順番があるらしい »

コメント

読了しました。そしてラストで大感動しました。(随所にて感動してましたが)
良書を紹介していただき感謝です。知らなければ手に取ることは無かったと思うので。

投稿: x31hook | 2006.08.13 18:01

>> x31hook さん

 おお、読了されましたか、おめでとうございます。きっと至福のひと時(ひと夜?)をお過ごしになられたかと存じます。

 そして次に、これを凌駕するスゴい小説があったら、ご教授くださいませ【ぜひ】。

投稿: Dain | 2006.08.14 22:44


続編、『大聖堂 果てしなき世界』が出ましたね。
未読です。読まなきゃ……
レビュー楽しみにしております。

話はそれますが、この続編の邦題はちょっとややこしいと思いませんか?
僕は初め続編と思わず、『大聖堂』が改訳されて副題をつけられたのかと思いました。
(オレだけ……?笑)

とにかく、読まなくては……。

投稿: | 2009.04.18 09:32

>>名無しさん@2009.04.18 09:32

  >続編、『大聖堂 果てしなき世界』が出ましたね

な、なんですとー!続編だったんですか!
ご想像のとおり、カバーだけ取り替えた新版で、在庫掃きだと思ってスルーしてました…
図書館の予約状況を見ると絶望的…すっかり出遅れ感がありますが、ぜひ手にしたいものですな。
教えていただき、ありがとうございます。

投稿: Dain | 2009.04.20 00:33

このサイトでこの本を知りつつも、タイトルの大仰さと2000ページにも及ぶ大著で2年間近く尻込みしてきましたが先月この作品を読み始めて一気に読んでしまいました。

そして、なんで2年間もこんな面白い作品を読んでこなかったんだろうという後悔すら感じています。


この本を読んで悲しいところといえば、おそらくしばらくはこの本に並ぶほど面白い本には出会えないかなーということを確信してしまっていることでしょうか。。。

投稿: ham | 2011.02.08 00:39

>>hamさん

お楽しみいただけて、紹介したわたしもニコニコしてしまいます。ただ、「この本に並ぶほど面白い本には出会えないかなー」は最大級の賛辞ながら、嬉しいことに的をはずしています。
それほど面白い本は、たくさんありますぞ。
たとえば、ジェフリー・アーチャーとかオススメです、「ケインとアベル」は「大聖堂」に匹敵する徹夜本です。

投稿: Dain | 2011.02.08 07:16

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 大聖堂:

» [読了] ケン・フォレット 大聖堂 上中下 [やっぱり本が好き]
 12世紀のイギリス、腕のいい建築士であったトムは仕事を失い、新たな職場を求めて移動中だった。トムは高望みしなければ定住して職を得ることができたものの、大聖堂の建築を手がけたいという思いから職を転々としていた。家族を抱え、飢えに苦しむ中、妊娠中の妻が産気... [続きを読む]

受信: 2006.05.14 23:39

» ちょっと中世に行ってました [x31hook's blog]
本タイトル: 大聖堂 (上) コメント: 『大聖堂』上、中、下巻... [続きを読む]

受信: 2006.08.13 17:56

« チェルノブイリ旅行記―――オオカミの大地 | トップページ | 田中芳樹の作品は、読む順番があるらしい »