警告無しで読むには酷な小説
あるいはトラウマ本について。sagara17さんにとっての劇薬小説「電話がなっている」(川島誠)を読了。中学んときに読んだらトラウマ本になってたかも。けれどもスレっからしのオッサンには本歌取のモトをあれこれ想像して楽しんでしまった。sagara17さん、興味深い本をありがとうございます。
罪深いのは、この作品の紹介→「だれかを好きになった日に読む本」(小学中級から)であること。初恋の回想で始まるこの作品、たしかに恋愛譚かもしれないが、そのつもりで読んだら酷い目に遭う。紹介者は"大人"なんだろうがデリカシーなさすぎ…というか悪意すら感じられる。小中学生は"当事者"だろうがッ。
トラウマ本とは、読んだ事実そのものを消し去りたいほど手ひどいダメージを受け、名前を見るのもイヤになった作品のこと。「劇薬小説」とも重なるが、児童文学や青春小説のフリをしている場合が多く、トシゴロの方は【警告付き】で読むべき。スズキトモユさんの「トラウマ児童文学」が参考になるかと。
問題なのは警告無しでうっかり読んでしまうこと。もっと非道いのは、「面白いよ」「タメになるよ」といったまちがった紹介につられて手にすること。
例えば、国語の教科書にある「夏の葬列」(山川方夫)。「戦争の悲惨さ」を伝えるため教科書に採録されたらしいが、激しく勘違いしてる。これは"ミステリ"として読まないと危険。これをノーガードで読んでしまい、強烈なラストで琴線が焼き切れてしまった中学生は少なくないだろう。
あるいは、わたしの場合になるが、「芋虫」(江戸川乱歩)が該当する。子供向けにリライトした「二十面相」にハマり、親の本棚を探したのが運の尽き。誰も警告してくれなかった…いや、こっそりだから自業自得か。「芋虫」の濃厚すぎる男女(特にオンナ)のドロドロに一発でヤラれた。以後わたしの性嗜好に微妙かつ深刻な影響を与えてつづけている。
サイアクな例は「隣の家の少女」の宣伝文が「もう一つのスタンド・バイ・ミー」であること。少年時代を回想する冒頭が似ているだけで、衝撃度&毒性&読後感は雲泥ッ!さては最初だけ読んでキャッチコピー書いたな!あやまれ!ケッチャムさんにあやまれ!
読書は毒書。多かれ少なかれ、小説には毒が含まれている。この事実は暗黙知として読み手も書き手も了承している。もちろん「毒」は人によりけり。ある人には特効剤になるかもしれない。年齢・経験でまた違ってくるので一概に言えないが、「不快感を受けるかも」程度の警告はしてオススメするべき。
「隣の家の少女」を誰かに勧めるとき、オススメ文句は「これ面白い本だよ」にならないことは、読んだ方なら分かっていただけるはず。
でしょ?

| 固定リンク
コメント
警告なしで読んだトラウマ本と言うと、自分は筒井康隆の「霊長類南へ」を思い浮かべます。小学5年生の頃、筒井編の子供向けSF入門書を読んだんですが、それに「これはぼくの自信作。みんなにも是非読んで欲しいな」という様な調子で紹介されていました。当時パニックものの映画が大好きだった自分には、あらすじだけでも十分魅力的で、矢も楯もたまらず書店で買い求めて読んだものです。
そうしたら中身は下ネタ満載、スプラッタあり、レイプあり、今読んだらたいしたこと無い内容ですが、当時の自分には十分衝撃的な内容でした。子供の頃は潔癖な性格でしたので、怒り狂ってパンチやハサミで突いた上で、それでも気持ちが治まらず、風呂の焚き付けにしてしまったことを良く覚えています。もっとも高校になってから筒井全集を読んだりしてるので、トラウマといってもたいしたことはなかったのかも知れませんね。
また、「隣の家の少女」について、最近、「書店員のおススメ!泣ける本」という様な帯が付いているのを見かけました。この本を読んで泣いたというのは嘘では無いかもしれませんが、誤解を招くような紹介だなあ、と思いました。セカチューみたいな本だと思って買ったらビックリするだろうなあ、と思うとついニヤニヤ……いやいや、とても心配しましたです。
投稿: zeroset | 2006.02.02 10:46
「もう一つのスタンド・バイ・ミー」は笑った。
意外と、キング本人が言ってそうで良いね。
投稿: いし | 2006.02.04 00:23
zerosetさん、コメントありがとうございます。
小5で「霊長類南へ」ですか…お気の毒としかいいようがありません。ツツイ作品は読みやすく、手にしやすかったため直撃を受けたのですね。その後の経過を見ると克服したようでよかったです。「芋虫」でのたうちまわったわたしは未だ覚めやらずですがorz
「隣の家の少女」は、めったなことでオススメするもんじゃないと思います。書店員のオススメ「泣ける本」は、別の意味の涙のような気がします。
いしさん、コメントありがとうございます。
「もう一つのスタンド・バイ・ミー」はどっかのキャッチコピーかと。これは二重の意味で失礼ですな。一つ目は上のエントリで述べたとおり。二つ目はキングの小説をも誤解しているところ。かの原題は "The Body" 。4つの恐怖譚を四季になぞらえた短編集の「夏」に相当するものです。誰かが「懐かしくも切ない少年時代の回想」と勘違いしたのが間違いの元。既読かとは思いますが、暗くゆがんだ出来事ですから。
投稿: Dain | 2006.02.04 15:36
興味をそそられたので、「だれかを好きになった日に読む本」からはじめて、「夏の葬列」、「芋虫」、「隣の家の少女」まで読みました。 (「死者の奢り」を読んだのは、なぜだったのかしらん)
先ほど読了した「隣の家の少女」に、自分のダークサイドを衝かれて、今、なんとも言えない嫌な気分に陥っています。
ところで「もうひとつのスタンド・バイ・ミー」は、訳者あとがきから出てきたキャッチだろうとおもわれます。
いずれにしろ、訳者として、本書が「スタンド・バイ・ミー」に匹敵する傑作であることは自信を持って断言できる。『隣の家の少女』は、いうなれば、“裏スタンド・バイ・ミー”なのだ。 (P.432)
投稿: いけべ | 2006.04.19 03:55
いけべさん、ここを参考にして読んでいただくなんて、とても嬉しいです。紹介しがいがあったものです。ありがとうございます。
さて、「隣の家の少女」まで読了されたということなので、わたし的にこれを凌駕した最悪本「児童性愛者」を挙げます。まさに読んだことを激しく後悔しました。まだ自分のなかで消化しきれていないので、レビューも書けないありさまです。
投稿: Dain | 2006.04.19 22:46
他に借りている人がいたため借り出しが遅くなりましたが、せっかく紹介していただいた以上、読む!と意気込んで「児童性愛者」、読みました。
「フィクション」とばかりおもっていたのですが、これは「ドキュメンタリー」作成の回想本だったんですね。読んだ本についてはたいていメモを残すようにしているのですが、これのメモは書きづらかった。
ふだん、 SF やファンタジーを好んで読んでいるので、こういった「違った」ジャンルを読むのも、新鮮な体験です。ご紹介、ありがとうございました。
投稿: いけべ | 2006.05.06 18:41
>> いけべ さん
わざわざ読んでいただいてありがたいです。「児童性愛者」はわたしにとってショックが大きいため、まだうまく言語化できていません。いけべさんにとっては新鮮な体験となったみたいで嬉しいです。
わたしのリストをチェックされているのであれば、「ソレを勧めるならコレなんてどう?」なんて発想で、オススメを教えてくださいませ。
投稿: Dain | 2006.05.09 01:10