箱
最初に感謝の言葉を。これは今年のNo.1スゴ本。このスゴい本と出合えたのは、まなめさんのおかげ[参照]。ありがとうございます。まさに、わたしが知らないスゴ本は、まなめさんが読んでいたというやつ。その「箱―Getting Out Of The Box」を読んだ。ここ1週間で3回読んだ。あと3度読んで、完全に自分のモノにする。
最初に読み終わったときの気分は、3年前に「禁煙セラピー」を読んだときと同じ。ヘビースモーカーだった自分が「もうタバコ吸わなくてもいいんだ」ということに気付いて、タバコから完全に自由になれた!という実感と同じ。ただし、今回はタバコの代わりに「自己欺瞞からの解放」なのだが。
長い間、自分につき続けてきたウソと向き合うのは、たいへん苦しく恥ずかしい。本を読んでいてこれほど惨めな思いをさせられたのは、はじめて。もちろん書き手は私のことなぞ知らない。だが、問題を抱えている、それも人生を台無しにするぐらいの問題を抱えているのは"わたし"であることが分かった。しかも、それに気付かないまま、病原菌をまき散らし、職場を、家庭を脅かしているのは、"わたし"その人であることがイヤというほど思い知らされた。
一方で、自己欺瞞→自己正当化→防御の構え→他者の攻撃→他者のモノ化の連鎖がクッキリと見えた。そもそもの原因は「自分への裏切り」であることも。自己正当化の仮面がそのまま自分の性格と化し、いくつもの仮面を持ち歩く姿。自己正当化を正当化するため、相手の非をあげつらう態度。情けない、ここに書いてあるのは自分そのものだ。
さらに、そこから抜け出る方法も分かった。そもそもの原因「自己欺瞞」をなくすことは必要条件であって十分ではない。さらけ出された自分のウソを見つめ、もはや皮膚に張り付いたかのような石仮面を引き剥がす(というか、無効化する)方法。どのように向き合い、何をすべきでないかが理解できた。
この、石仮面、自己欺瞞、自己正当化の構えを、本書では「箱」と呼ぶ。
「箱」を読むことで、これまで疑いのなかった自分の心の奥底に目が向けられた。「自分の行動」と「その時の自分の感情」という疑いようの無い事実から出発し、最終的に自分への背信(=自己欺瞞)と向き合う。コーチングの手法を用い、本書では会話形式で話が進むが、読み手はもちろん「自分ならどうか?」という疑問を常に携えながら読むのだ。
舞台はある企業の会議室から一歩も出ないのだが、読み手の内面では、「自分のウソを自分で認める」というスゴい冒険を体験できる。「分かった!」という瞬間は、エヴァンゲリオンのワンシーン「僕はここにいてもいいんだ!」(暗闇が瞬時に青空と海に変わり、「おめでとうシンジ君」)と同じ感覚。そのスゴい体験を長い長い文で綴ったが、全部没。ノウハウを書こうともしたが、止めにした。これは自分で気付くことそのものに意味があるから。
「箱」のネタバレしないおわびに著社のアービンガー・インスティテュート(ARBINGER INSTITUTE)の紹介をする。どこにも明言してないが、著者はイスラエル出身のような気が。
- アービンガー(arbinger)とは、古いフランス語の"harbinger"に由来する。未来の前兆、先駆者という意味
- アービンガー社は、組織に深刻なダメージを与える根っこのところに自己欺瞞(箱)があると考えている
- 自己欺瞞(箱)は、リーダーシップ、チームワーク、コミュニケーション、アカウンタビリティ、ストレスの全ての原因となる。ダメージの見かけは同じだが、同じ病の症候群にすぎない
- アービンガー社は、この「箱」を理解し、「箱」から出るためのプログラムを提供している
- 研修コースは多岐にわたり、300ドルの2日間プログラムから 2000ドルする経営者向けのコースまで。場所はアメリカ国内のみならず、バミューダ、インド、シンガポール、イギリスに広がっている(日本でやったら売れるだろうな)
amazon でとんでもない値段がついている絶版本を買う必要は無い。きっとあなたの街の図書館にあるはず。私は、後でふりかえり読みをしたくなるから、原書を手に入れるつもり。
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2005/10/28追記
発想七日!のいまお勧めの一冊に参画する。この本は、わたしの人生を台無しにしてたかもしれない、自分自身につくウソ(=自己欺瞞)と向き合うことを教唆してくれたから。
このスゴさを共有するために。
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2005/10/28追記
現在絶版に等しい状態で、定価で入手はかなり困難。
一方、復刊ドットコムで91票![参照]
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コメント
興味深く拝見しました。
ところで、定価で購入されたい方は復刊.com に投票してみませんか?
http://www.fukkan.com/vote.php3?no=27132
しかも、http://blog.zikokeihatu.com/archives/000812.html によりますと、絶版ではないそうなので、増刷してもらえる可能性もあるかと思います。
参考までにコメントさせていただきました。
投稿: itd | 2005.10.14 13:51
ををっ ありがとうございます!
とても参考になります。早速投票してまいりました。版元へもかけあってみます。
…しっかし、この本を研修に使えばかなりの効果をあげると思うのだが…惜しいな。
投稿: Dain | 2005.10.15 00:38
日本語版も手に入れたいです。なかなか難しそう。
投稿: triton | 2005.12.24 13:30
図書館で借りて何度も読んで自分のモノにする⇒復習のときにtritonさんのリンク集を見る…ってのはどうですか
http://englishweblog.net/mt/archives/000313.html
は、現時点で日本語で読める最高のリンク集となっていますゾ
投稿: Dain | 2005.12.26 23:49
Dainさん、こんにちは。いつもスゴ本を教えていただき、ありがとうございます。
「箱」もこちらで知り、読ませていただき、みなさんと同じような目からウロコの体験を私もさせていただきました。
ところで先日、ひょんなことから、河合 隼雄「コンプレックス」を読んだことで箱の構造そのものの理解がより深まった気がしております。
簡単に”箱の中に入ってしまう自分”を自己の中で人格的要素をもって存在する”コンプレックス”としてとらえることで、私は「箱」に書いてあったのとはまた違った角度で自分の問題にアプローチできるようになりました。
もし未読でおられましたら、お薦めしたい本です。
投稿: cabbagen | 2006.06.26 20:08
>> cabbagen さん
河合隼雄さんのはいくつか読んでいますが、「コンプレックス」は未読です
教えていただいてありがとうございます、読みます
…「箱」、復刊ドットコムでは音沙汰なしなので、復刊には程遠いのかもしれません
投稿: Dain | 2006.06.27 00:08