ネタバレ禁止「我らが影の声」
やべ、一行たりとも感想が書けない。このblogを選書の参考にしている奇特な方もいらっしゃるようなので、書けない。どう書いてもバレになる。こんな小説は珍しい。
常態から異常事態へ。このお話を「狂気」の一言で片付けられたらどんなに嬉しいことか。しかし、どこも狂ってないのがおそろしい。だいたいヒトを「正気」と「狂気」の2色で塗り分けようとすること自体がおかしい。正気の中にも狂気を宿し、狂っていても一貫性を見出そうとするのが、ヒトだ。
これは、その変移を味わう小説。賛否両論の「驚愕のラスト」は○○○○したが、「他にどんな終わり方を望む?」と自問して、飲み込んだ。
兄が死んだのは、ぼくが十三のときだった。線路を渡ろうとして転び、第三軌条に触れて感電死したのだ。いや、それは嘘だ。ほんとは……。ぼくは今、ウィーンで作家活動をしている。映画狂のすてきな夫婦とも知り合い、毎日が楽しくてしかたない。それなのに――底知れぬ恐怖の結末があなたを待っている。
amazon紹介文我らが影の声(ジョナサン・キャロル)より。読む気あるならamazonレビューも見ないほうが。バレを上手に回避してオススメいただいたmhkさんに大感謝!
さて… いや、反転表示にはしたけれどバレではない。「悩み」について、あるエピソードを思い出したので。
大学生の息子が悩める年頃になった。曰く「これからどうなる?」「自分はどうあるべき?」「自分はダメなのか?」といった若い人なら一度はかかるハシカのようなやつ。悶々と悩んだ挙句、休学して旅に出ると言い出した。
もちろん父親は快く送り出した。ただ、出発の朝、次のようなアドバイスを息子に念押しすることは忘れなかった。
「気をつけて行っておいで。だけど、悩んでることがどう変わったかをちゃんと見つめるように」
出発してから一週目の夜、電話がかかってきた。
「父さん、いくらもしないうちに気がついたよ。どんなに遠くに行っても、違った環境で生活しようとも、悩みを抱えているのはぼくであるという事実は変わらない。だから、ぼくの周りがどう変わろうとも、ぼく自身が変わらない限り、ぼくの悩みは消えることも変わることもないんだ…
…最初は『悩みが追いかけてくる』と思ってた。けど違うんだ、ぼくが悩みを持ち歩いているんだよ。この悩みをどうしたいのかを自分で決めない限り、こいつはずっとぼくの頭の中に住み着いたままさ。明日帰るね」
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