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「ご利用は計画的に」の本当の意味

どのサラ金も「ご利用は計画的に」という。あれは「弊社のカード・ローンは、計画的にご利用ください」という意味ではない。あるいは「消費者」金融というナイスな名前から、つい「欲しいものを買うために、計画的に借りる」と解釈しがちだが、これも誤り。

「ご利用は計画的に」の本当の意味は、「ご利用いただいたお金は計画的に返済していただきます(反転表示)。つまり「限度枠ならどれだけカネを引っ張ってもいいし、それをどう使おうとかまわない。けれど返済だけはキチンとしていただくよ」ということ。計画的に「返す」のであって、計画的に「借りる」ワケではない。

だいたいサラ金から借りている時点で既に計画的じゃない。カンチガイしている人が借りるわけだ、街金から。信用枠なんて肩書きで自動的に決まるから、恣意的な要素は少ない。キレイなお姉さん(かもしれない融資担当)が親身になって応対してくれるのは「返し方」のほう。

しかし、カネを借りる人の目が向いているのは、「そのカネで○○が買える」という一点のみ。

最終的には、ほとんどの人は返済できるのだが、焦げ付く人もいる。そこで回収担当が登場。具体的な返済計画を「銀行よりも」親身になって考えてくれる。あたりまえだ。銀行は担保を押さえればおしまいだが、信用貸しは返してもらわなければ始まらない。

ドラマなどで、悪質な業者が「かわいそうな」債務者に迫る場面があるが、悪質なのは借りたほうも同じ。焦げ付いた借金を返さずに、さらにカネを借りて充てるから、借金で借金を返済しようとするから、いわゆる「雪だるま式に」なる。血で血を洗うようなもの。この辺の意味が腑に落ちない人は借金についてで紹介した「火車」を読むといいかも。

サラ金の中の人のお仕事は、お金を貸すことではなくて、お金を返してもらうこと。

くれぐれも、ご返済は計画的に

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パパは必ず、歩いて帰ってくる

事故・災害への心構えの話。南関東圏での地震の前兆が取りざたされている。[参考]によると、6月上旬にかけて大きなものが起きる可能性があるらしい。この「予報」が現実となれば、100万人とも600万人ともいわれる首都圏の帰宅難民の一人となることは必至。

地震に限らず、普段から心がけていることを書く。

1.クツ

仕事場に履いていくクツは、全部なんちゃってビジネスシューズにしてある。これは見ため革靴じつはスニーカーという代物。いざというとき全力で走ることや、長時間歩くことを想定している。併せて靴下も機能的なやつに統一してある。いわゆるすぐに穴が開く極薄オッサン靴下ではなく、黒色・綿の丈夫なやつ。

2.机上

ミネラルウォーター1リットルがデンと置いてある。渇いたら「水」を補給し、ドリンク類やコーヒーは極力飲まないように習慣化した。もちろん近くのコンビニには沢山の飲料水があるが、ここは沢山の人間がいる街、いざというときこれらは「商品」でなくなるはずで、手に入らないことを覚悟している。机の中に「お菓子コーナー」を常設している女の子を見習って、チョコ・スナック類は常備している。

3.カバン

カロリーメイトが入っている。めったに食べないが、200円の保険だと思っている。地図を入れている人がいるが、いざというときは地図こそコンビニで手に入れるつもり。ケータイなどのインフラ、行政サービスは当てにしていない。

4.家まで

複数の帰宅ルートはシミュレート済み。目標物、代替ルートもチェック済み。歩く人にとって首都高が最大の障壁となる見込み。最も大切なのは、家族に「パパは、必ず歩いて帰ってくる」と伝えておくこと。もちろん、避難場所や行政サービスの提供場所を確認したりすることも重要だが、必ず帰ってくると信じてもらうことこそ、もっとも大切なり。

5.最後に

とても当たり前なのだが、これは最初の衝撃を生き延びてからの話。地震に限らず、ファーストインパクトで助かるか否かは運だと思っている。助かった場合でも、助からなかった場合でも、起きたことには祈ることしかできない。

だから、スーツの左ポケットには数珠が入っている。

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メイド喫茶はもう古い!? これからはコスパブだ

コスパブ=コスプレ+パブのこと。「メイド居酒屋」でも可。アキバに集うヲタたちよ、次の聖地はススキノかもしれない。メイドさんの格好をした娘さんが御給仕してくれるのがメイド喫茶なら、コスパブは隣でお酒を作ってくれる、あなたが望むコスチュームで

っつーわけで、久々にアダルトネタ、コスプレーション(cosplation)の話。

ススキノ某所。出てきたのはすかいてんぷるのウェイトレス姿のRさん。制服のことを振ると早速「あんたなんかネコのうんこ踏んじゃえ!」と言ってくれるノリの良さ…orz もちろん訂正しておいたぞ。正しくは「おまえなんかネコのうんこ踏め!」。

コスチュームチェンジというオプションがある。いわゆる「生着替え」だ。CLAMPのアレとかアンミラの制服とかがある。なかでも人気No.1はラムちゃんのアレで、露出度がとんでもなく高いため、着ている女の子の恥ずかしさMAXという代物らしい(ちなみに当夜は「月は東に日は西に」の制服を着ていただいた)。

面白かったのは、普通のパブと趣が異なるため、いろいろ「店長指導」が入ること。たとえば…

1.聞き役に徹せよ

アニメやゲームのウンチクでお客さまに勝てるはずがない。少ない自分の知識で返すのでなく、まったく知らないフリをして聞き役にまわることが大事。普通の話題(時事・流行・社会風俗)ができない人もやってくる。
そうした人はコスチュームの原作となったアニメやゲームに大変な思い入れがあるから、お客さまが大事に想っていることを同じように大事に考えながら聞く姿勢を持て。お客さまにしゃべってもらってナンボの世界。たくさんしゃべれば、のどが渇く。たくさんしゃべれば、いい気分。たくさんしゃべれば…

2.ネタに困ったら「あたしの友達にそーいうのが好きな娘がいて…」と振れ

アニメやゲームが好きな人は、その趣味に一抹のコンプレックスを抱いている場合が多いそうな。その「壁」を除いてもらうため、↑のような言い方が有効なんだと。競馬が好き、ドライブが好き、シュノーケリングが好きと同じで「アニメが好き」なんだから、それを堂々と言えばいい。
ただ、安直に合わせて「わたしも好き」と言ってしまうと、「どんなのが好き?」「この○○ってどう思う?」と喰いついてしまうので、(よっぽど予習しておかないと)底の浅さがバレてしまう。
これを回避するのがありもしない「友達」で、「なんかガンダムの新しいやつのストーリーが面白いと言ってた」とか「記憶をなくした話が泣けると言ってた」と三人称に持っていくとボロが出なくて済む。ちなみに記憶喪失話は年がら年中どこかのアニメ・ゲームがやっているため、オールマイティなネタらしい。

3.日々精進

日ごろの努力が重要。店で着るコスチュームのエピソードぐらいは覚えておけ、とレジュメが渡され、登場人物をがんばって覚えるらしい。そーいうのが好きな娘はアニメ化されたもので予備知識を補強するという。
最近の萌えブームで、次から次へとアニメ・ゲームが湧き出るので、どれが本流か分からなくなっているらしい。いわゆる「萌え参謀」なる人物がいるのだが、どーいうコスがウケるか悩んでいるらしい。

もちろん、強く推しておいたよ、キュアホワイトを(w
っつーわけで、メイド喫茶を卒業するならコスパブな。当然だけど未成年は禁止な。

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「戦争請負会社」読書感想文5(最終回)

「沈黙の艦隊」(かわぐちかいじ)をご存知だろうか。核ミサイルを保有する自衛隊の原子力潜水艦が「核の抑止」を売り物に独立国家宣言する話。ステイツが核の抑止を売り物に同盟国に対し安全保障を「売って」いるのなら、「核抑止の傘」を手にしたものも同様のサービスを売れば良い、という発想だ。強引で妙に確信的な展開なので、とりあえず面白く読ませてもらったが、荒唐無稽なり。

なぜなら、この「核抑止の傘をレンタルする」というビジネスモデルの致命的な弱点は、恒常的にサービスを提供できないから。いわゆる補給と新陳代謝のことだ。水・食料は日本を同盟国とした補給を行ったが、乗員クルーの新規採用や操艦教育まで考えていない。今は最新鋭かもしれないが、老朽化のことも想定外。たった一艦で戦局の帰趨を決めることなど、ぶっちゃけありえない。同作者の「ジパング」、古くは「戦国自衛隊」(半村良)を挙げてもよい。テクノロジー優位は一時的なもので、それを持続させるために莫大な兵站作業を必要とする。絵空事を例に挙げたが、

戦争に関するテクノロジーの非対称化がどれだけ進もうとも、根幹部分は変わらない

どんなウォー・シミュレーションでも都市の占領は歩兵しかできない。良質な兵士を恒常的に供給するためには優れたインストラクターが必要だ。兵士を効率・安全に戦地へ派遣し、現地を制圧するためには戦闘・戦略の作戦計画を必要とする。その事前準備として情報収集を要するし、リスクアセスメントも必須。もろもろの作戦支援には運搬、建設、水道・食糧の供給、居住空間、通信、交通の確保をやっておく必要がある。そうしたもろもろの作業は教練によってのみ、習熟される。

なんのことはない、戦争とはプロジェクトなのであり、それに気付いた企業の順に、軍事請負業へ参入する

AKの向こうで脳漿が散ったり、子どもが背中から撃たれたり、バンカーバスターが引き起こす凄惨な光景は、マスゴミどもにとって「絵になる」が、彼らはそれだけに「戦争」というラベルを貼りたがる。僻地へガソリンを運んだり、簡易住宅を建てるのは? 兵士が戦闘域で銃を撃つのは「戦争」かもしれないが、非番の兵士を安全域へ運ぶのは? 妨害波、ハッキング、盗聴行為がまかりとおる戦地で上官の指示を効率的に暗号化するプログラムを組むことは?

「戦争とは国家がなしえる行為であり、軍がそれを具現化する」という前世紀的な発想でいる限り、本書が指摘する戦争行為のボーダレス化・グローバル化には気付かないままマスゴミに誘導され易い。日本は国として非戦を唱えているが、既にこうした企業と提携している日本企業があることは、注意深くメディアより取り除かれている

戦場の通信手段の整備と防護を行う支援部門企業がある。一例として、I・ディフェンス社は、米国と英国の国防省、国家安全保障局、CIAなどと仕事をしてきた。この企業はすでにマイクロソフト社、シティグループ、伊藤忠商事といった大会社と協定を結んでいて、PMFと別の業界との間に生ずべき異業種間連携の前触れのようである

おまけ。英国系警備会社に勤務する日本人が襲撃・拉致された件について。わたしがあれこれ言う話ではないので、彼の立場について書かれた箇所を引用するに留める。

現行の国際法は主として個人傭兵を対象に書かれていて、この産業にはほとんど対応していない。国家レベルでの規制や監視も最小限しかない。その結果、軍事請負産業とその社員は法律の灰色領域に存在していて、法的地位も不明確で説明責任も最小限のままである

なお、筆者はこの問題こそが戦争請負会社の本質的な問題であり、対応する国際法の制定を早急に進める必要があると提起している。

最後に。本書にあるPMFのサイトのいくつか。一見、まっとうのIT企業に見えるものや、見るからに勇ましい(w)ものもある。こうした企業は合従連衡・買収が激しい。うたかたのごとくかつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるサイトなし。

Airscan
AMTI
Armorgroup
BRS(Halliburton)
Custer Battles
DFI International
Dyncorp(Computer Sciences Corporation)
Excective Outcomes(Intwine)
Hart Group
IDEFENSE
L-3Communicaitons
Logicom(Northrop Gruman)
MPRI(L-3MPRI)
Northbridge
PAE
Ronco
Rubicon
SAIC
Sandline
Southern Cross Security
Sukhoi
Task International
Vector-aerospace
Vinnell

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「戦争請負会社」読書感想文4

ここでは、戦争請負会社のデメリットを考えてみる。専門知識を持つチーム、装備、兵器一式を丸ごと契約したり、特殊な訓練や処理を発注するから、カネがかかることおびただしい。そのためデメリットはカネにまつわることがほとんど。

デメリットの最たるものは、ぼったくりなり。法外な代金の根拠が明らかにできないため、企業側が丸儲けだとしてもチェックすらできない。政府関係と仕事をした人なら分かると思うが、官庁への請求金額は、本来の経費ではなく、いくらで見積もれば信じさせることができるかを考えてエンピツを舐める。その結果、請求金額は安くも高くもなるが、これは一般の企業の場合。戦争請負会社では経費明細の裏づけを取ることができない(現場は弾丸が飛び交っている)ので、いわれるがままに払うしかない。

たとえば米国陸軍のバルカン半島における兵站外注について、命令系統のどこにも、請負業者の仕事ぶりを検討したり、別の選択肢を探す観点などなかった。業者の仕事を組織的に評価する手法は確立していなかったし、検討と監督は急場しのぎ的に行われた

戦争という外交手段を採ると決めても、作戦の規模、期間、場所、目標(どこまでやっつければよいか)なんて分かるはずもない。しかし、契約書には経費の見積もり額や内訳、支払方法、有効期間が記載されている必要がある。見積もれない契約を結ぶ際は、ふつう「単金×期間」の単価契約を採用するが、本書によると原価賠償、納期数量不定の緊急請負契約だそうだ。これは、仕事にかかった費用を支払ってもらえることが保証され、原価の上に報奨費の上積みが認められる。cost plus incentive fee やね。企業としては最低支払保証額が決められ、かつ、かかった追加経費ももらえて、さらにインセンティブももらえるから、非常に旨みが大きい契約だろう。

次のデメリットは自国軍の士気・コントロールに深刻な影響を与えることが挙げられる。戦争請負会社からの「派遣社員」と現地政府の「正規軍」との軋轢がある。給与(日経5/11朝刊によると、日当6~20万円、本書では月3000ドルとも)や装備の面で格段に優れており、専門的なトレーニング(研修やね)をきちんと積んだ派遣社員は羨望の対象。軍務の徹底や方針の相違を口実として衝突することもある。正社員と派遣の関係はどこでもいっしょ。フロントラインの「社員」だけではない。軍事的な教育・改革を行うコンサルタントやインストラクターも同じような壁にあたることがある。カネで雇われて外からああだこうだと注文を付ける「わかっていないやつら」は、既存の軍隊指導者にとって、自分の立場や既得権益を脅かす脅威と映るだろう。

最後に、自国資産の流出だろう。もちろん戦争請負会社に仕事を依頼するのはカネを持っていることが前提だが、カネは現金である必要はない。不安定な政府が発行する紙幣は意味が無い。米ドルを用立てできないのであれば、モノ(=利権)で支払うことになる。数十億ドルの価値があるダイヤモンド鉱山の利権を数千万ドルのセキュリティ会社に支払った政府もある(その後政府は転覆するが、鉱山はその会社が押さえたまま)。

レアメタルなどの鉱物だけでない。大麻畑や、水、それから「石油」に注目すべきだろう。例えばイラクで行われていることは、合衆国政府が戦争請負会社に発注して戦争を起こし、石油資源を確保したという見方もできる。

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【まとめ】戦争請負会社に発注するデメリット
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  1.ぼったくられても分からない
  2.自国軍の士気が下がる
  3.自国資産の流出


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「戦争請負会社」読書感想文3

この本を読むと、戦争請負会社のメリット/デメリットがよくわかる。メリット/デメリットは立場によっていかようにも解釈できる。ここでは発注者の立場で書いてみる。

まず、「安全保障」をカネで買える。カネさえあれば自国民のリソースを使わずに安全保障を「雇う」ことができる。もっとカネがあれば、自国の脅威を予め排除するための行動(即ち戦争)を起こすことだって可能だ。20世紀の戦争は莫大な兵士、装備、物資、それからカネを必要としたが、今はカネだけでいい。

たとえばサウジアラビアはたくさんのPMFを雇い、計画策定や訓練から兵器類の整備補修にいたる一切のことをさせている。こうした請負契約のおかげで、この王国は高度に機械化された軍隊を出動させることができる。その軍隊は中東で最も進んだ軍隊の一つであり、間違いなく、国民を基盤にした軍隊では見込めない高い能力を持っている

他国の例と逸らすなかれ。むかし「水と安全はタダ」だと思い込んでいる某国民がいたが、ミネラルウォーターは普通になったし、セコムや綜合警備保障も一般化しつつある。区や町単位でセキュリティガードを導入する日も近いだろうが、カネあらばこそ。おもちゃではない「防犯グッズ」も然るべきところでそれなりのカネを出せば、殺傷能力の高いやつが手に入る。セキュリティのレベルがカネで左右されるようになると、当然のことながらカネ持ちがその恩恵に浴することになる。カネ持ちは優れた警備会社に資産を守らせることができ、そうでない連中はありもしない公的手段に頼ることになる。

次に、戦争請負会社は良い隠れ蓑になる。ステイツの例が顕著だ。米軍が正式にかかわれない場所に入ることができる。米国の外交施策を推進する上で見せたくないものを「民営化」というラベルを貼って外に出すことができる。問題が起きたときも楽だ。それは一企業がやらかしたことであり、政府は関知しなかったと言い張ればよい。政治リスクのアウトソースというやつやね。一方で、請負会社のほうも「企業秘密」という煙幕を張ることができる。国際問題化することが多いため、司直の手からも逃れやすい。

通常、政府が「軍事介入を行う」外交施策を採用した場合、政府内部、立法、司法の三者から監査を受けることになる(三権分立のお題目)。さらに情報公開法の下にマスゴミ・国民に公開されている。しかし、民間企業を活用し、軍事施策のアウトソーシングにより、民主主義的手続きをショートカットすることができる。

米軍が海外へ展開される場合、国防総省には、法律によって議会やマスコミの質問に答える義務があるが、民間企業にはそれがない。議会は公式の政策にしか権限を有せず、民間企業に及ばない。企業との契約金額が5000万ドルを超えたときのみ、議会へ通知される。

当然のことながら、情報公開法の対象は、1回分の契約の金額が5000万ドルであるところがミソ。悪名高き「随意契約」はさすがにステイツでは認められないだろうが、似たような穴ならあるでしょうな。

たとえば、アブグレイブ虐待事件に関与した米国陸軍兵士が相応に軍法会議かけられているが、米国陸軍の調査報告書で名指しされた民間契約者はただの一人も告発されていない。米国陸軍はたとえそうしたくても裁判権さえないと見ているからだ。

軍が国家に所属する限り、その行動は法によって制限を受け、法によって情報公開される。しかし私企業がなり代わったときはその限りではない。もちろん法的制限はあるが、それは企業に適用される法であることがミソ

最後に、戦争請負会社と契約できるのは、国家とは限らないところがメリット。本書の序盤でローマの傭兵から始まって、軍事史が延々と書かれている。「いま」を知りたい私には正直辟易したが、ここで腑に落ちたことは→軍事力が国家に所属する歴史の方が短いこと。ガッコで教えられた歴史は戦争の歴史でもあった。しかし、ウエストファリア条約以前に「国家」の概念はなく、軍隊を所有する個人・集団が自らの利益のために起こした争いごとを「戦争」と定義するべきだろう。東インド会社の例なぞは好例なり。言い換えると、もともと戦争は民営化されていた。ウエストファリア条約は国家の概念をうちたてたが、これは「戦争の国有化」がなされたに過ぎない。

カネさえあれば戦争を起こせる好例は、イギリス元首相の息子マーク・サッチャーが関わったとされる、赤道ギニア共和国の石油利権を狙ったクーデターだろう[参考]。クーデターは未遂に終わったが、元SAS隊員で構成された64人の「軍隊」で大統領府の占拠を試みるという話。まさにF.フォーサイスの小説そのものだがネタじゃない。

カネを持ってるなら自分が当事者になる必要はない。昔の「軍事介入」は紛争場所へ出かけていってドンパチやっていたが、今じゃ国際金融機関から戦争請負会社へ振り込んでおくだけでカタが付く。ボスニア、イラクへの援助を行った当事者(国家ではない)は、MPRI社を利用したらしい。

自国の兵員をまったく送らず、MPRI社が提供する訓練と装備計画の資金の面倒を見る。こうした新しい形の援助の理由付けは、同盟国の先頭に資金提供国が巻き込まれる公算が低いというもの。それはまた、軍事援助の提供者はもはや国家である必要がない、ということを意味する。非国家的な行為者は、裕福な個人も含んで、貴重な潜在的同盟者になることができ、間接的に現地の軍事的均衡をかたむけたりすることを、遠く離れたところからさえもできる。

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【まとめ】戦争請負会社に発注するメリット
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  1.自国のリソースを使わずに、安全保障を買える
  2.見られたくない軍事政策の隠れ蓑になる
  3.個人でも戦争を起こせる

  ただしカネ持ちに限る

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「戦争請負会社」読書感想文2

この本で、戦争の外注先として実にさまざまな形態があることを知った。著者が名づけた「槍の穂先による分類」すなわち「フロントラインに近い順」に分けると、以下の3種に分類される。

  (1)軍事役務(実践と指揮)
  (2)軍事コンサルタント(助言と訓練)
  (3)軍事支援(非殺傷的援助と兵站)

(1)はいわゆる戦争の犬たち。「朝に嗅ぐナパーム弾のにおいは最高だぜ」とのたまう地獄の黙示録な人々が集っているのではなく、業務を粛々と遂行する「もと」兵士「いま」傭兵。(2)のインストラクターが研修成果の調査名目で現地入りして第一線で戦うなんてこともあるらしい。(3)はいわゆるロジスティクス。大戦略をやりこむとわかる、戦争で最も重要なものは兵站だ。そして最もアウトソースしやすいのもコレだ。

出自は軍人が大部分。元SAS、元アルファチーム、元海兵隊…と、「元××」が幅を利かせているらしいが、これにはメリットが2つある。優秀な兵士に育て上げたり、武器や兵器の錬度を上げるためには、費用がとてつもなくかかる。この費用は国家もちで済むこと。それから、リクルートするとき、「元××」の階級でレベルが一目で分かるため、人材の選別が容易なこと。

華々しい経歴は無いが、それなりの人材なら安価で大量に手に入る。どこで? 最近戦争が起こった国、失敗国家(failed country)にいけば若くて絶望した人材が豊富に手に入る。育てるのは? (2)のインストラクターたちが育てるのだ。

その結果、高い戦闘能力を持つ人材を安価に手に入れることができる

また、戦争請負会社の多くは「バーチャル会社」として活動しているという。つまり、いわゆる「常備軍」や社屋などを持たないことで固定資産を抑制する。また、ネット取引や人材派遣方式を採ることで、実際に契約が発生した後で人をかき集める。人だけではない。あらゆる商売道具(兵器や軍用品)は在庫だ。必要になってはじめて国際市場で購入したりリースしたりする。テンプスタッフのやり方と同じ。

その結果、戦争サービスの提供という本来業務にリソースを投入することができる

戦争請負会社がどこで儲けるかについて、本書では非常に詳細に解説している。フロントラインの向こうにある鉱山・天然資源の利権そのもの。西側(死語だ…)の NATO標準軍事行動という知的財産も売り物。あるいは合衆国政府や国連がお得意さまという会社もある。面白いのは、軍事知識のコンサルタントとしてハリウッド映画の脚本をレビューしたり、英国海軍に原子力潜水艦の運用と整備を教えたりする「民間会社」もある。

ある戦争請負会社が提案する「トータルソリューション」が興味深い。

MPRI社が提供する一括提案は、一個の軍隊を底辺から完全に改革し、NATOの標準に仕立て上げる。MPRI社の人間が米軍で現役だったときに与えられた教本をそっくり真似たもの。結果は外国の軍隊に「アメリカ式軍事行動」を教えるという点で、国際貿易取引の他分野において働いている力学を軍事分野に持ち込むものであり、知識という資本を豊富なところから乏しいところへ移す。(本書より引用、太字化はわたし)

どっかのコンサルティング会社がやっているように、ステイツの慣行をスタンダードとして「輸出」する。クリティカルチェーンでもISOでもCMMでも何にでも置き換え可能。こうして、米国式行動様式がグローバルスタンダード(これも死語)になる。

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金融再編残酷物語(日立の場合)

メガバンク再編・統合の場合、システム対応は「片寄せ方式」を採るのが常識。いわゆる日本的な「足して2で割る」やり方の最悪例は2002.4のみずほ銀行の大規模システム障害だろう。みずほフィナンシャルグループの中の人は

   第一勧業銀行(富士通)
   富士銀行(日本IBM)
   日本興業銀行(日立)

だった(カッコ内はシステムベンダー)。基幹系/勘定系に限らず深くビルトインされたシステム(っていうか"業務"そのもの)を奪られるということは、自社システムの「死」を意味する。激しい営業攻勢の結果、第一勧銀(富士通)への片寄せに決まるのだが、主導権争いで時間を空費している間、暫定的に三行の基幹系システムを残し、リレー接続でしのごうとした。結果はご存知のとおり。マスゴミ論調が、あたかもベンダーのエラーであるかのような物言いにアホらしくてコメントできなかったのはわたしだけではあるまい。

銀行の再編・統合はそのままシステムの覇権図を変えることになる。合従連衡にひきずられる形でその図は塗り変えられてきた。

統合後の名称練成元1練成元2片寄せ先(勝ち組ともいう)
東京三菱銀行三菱銀行(日本IBM)東京銀行(富士通)日本IBM
三井住友銀行住友銀行(NEC)さくら銀行(富士通)NEC
UFJ銀行三和銀行(日立)東海銀行(日立)日立

そして今回、「三菱東京(日本IBM) vs UFJ(日立)」の統合では片寄せ先は日本IBMになり、2007.12までに一本化する見込み。これで日立は四大メガバンクの勘定系システムから完全に脱落する。

UFJにどれだけ張っていたかは、次のとおり。

アウトソーシングの契約金額は10年間2500億円といわれている。受託と同時に日立キャピタルがUFJ銀行の勘定系システムを保有資産の名目で500億円で購入。さらに勘定系システムを開発してきた合弁会社をUFJ日立システムズに改組した。日立がここまで踏み込んだのは「UFJは最後の砦。何が何でも守り抜く」(日立コンピュータ部門元幹部)/選択2005.5より

銀行などのでかいシステムの場合、開発元が提供するシステムは情報サービス請負の形で契約する。つまり、納入するシステムはプログラムやサーバー/メインフレームの集合体という「モノ」ではなく、それらで実現できる業務サービスの価格がもらうべき値段というわけ(いわゆるシステムの値段が投入した人月の総合計とまったくもって一致しない理由はここにある)。

また、顧客・請負の両方にフェータルなシステムだと、リスクを丸出し(丸投げではない)するために共同で会社を作るのだが、このUFJ日立システムズに突っ込んだ2500億円+500億円の何割が戻るかは不明。ソフトウェア資産の場合、切り売りしたりパッケージ化するなんて、おいそれとできない。その費用がまた掛かるからだ。

「日本に銀行が多すぎる、2つで充分」某大臣がいったとかいわなかったとか。銀行再編イス取りゲームの敗者は、行員だけではない。トップセールスの失敗をモロに被るSE/PG/PMらの阿鼻叫喚が聞こえる。

この中から、悪のプログラマが誕生しないことを切に願う。

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ネタ元:情報誌選択5月号「UFJを失った日立製作所の衝撃」

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「戦争請負会社」読書感想文1

「パイナップルアーミー」や「マスターキートン」をご存知だろうか? 一見さえない主人公は、実はスゴ腕の傭兵(または特殊部隊)だった、というマンガ。ミリタリーネタ満載で「スペナッズ」だの「ハインド」を知った。その当時からずっと疑問に思ってたこと↓

   Q: リタイアした兵士、冷戦終結でリストラされた軍人はどこへいったのか?

この問いに対し、見事にそして恐ろしいほど精確に答えてくれるスゴ本が「戦争請負会社」。もちろん、兵役をリタイアする大多数は民間で「普通の」仕事に従事することになるだろう。しかし、次のコメントを読んでほしい「僕は18才で陸軍に入り、42で除隊しました。兵隊のほかに何ができるというのでしょう?僕に選択肢なんかありませんよ」これはロンドンの戦争請負業で働くサラリーマンの発言。

   A: 「民間の」軍事・軍需関連の企業へ「再就職」する

その割合こそ分からないが、チェイニー米国副大統領の発言(2000.9)から推して知るべしだろう。

過去10年間、わが国が世界中で行う介入は300%も増した。しかし、わが軍は40%も削減されている "Cheney's Firm Profited from'Overused Army'," Washington Post Sep 9,2000

もちろん、ステイツがイラクへ軍事展開する際、「兵士」のほかに多数の請負会社が参加しており、「戦争の民営化」などと揶揄気味な報道されていることは知っている。また、アブグレイブ収容所における犯罪は「兵士」以外の民間人(つまり軍務請負会社の社員)も関わっていることも知っている。

しかし、これほど組織的かつグローバルに展開・浸透で切っても切れない関係になっているとは思わなんだ。翻訳がアレだが強力にお勧めできる、こいつはスーパースゴ本、2005年No.1スゴ本なり

民間軍務請負企業、すなわち戦争請負会社はPMFと呼ばれている。Privatized Military Firm の略。ひとくちに「軍務請負」といっても訓練、戦闘、兵站、補給、作戦支援、紛争事後処理と多岐広範囲に渡る。本書では「戦争に関連する専門業務を売る営利組織。軍事技能の提供を専門とする法人」と定義している。

つまり戦争に関するサービスを売る会社。つまり、銃器や対空ミサイルといったモノを売る「死の商人」ではなく、「AK+部隊」、「スティンガー+そのインストラクタ」といったように、戦争に勝つためのサービスを提供する会社。地球上の必要な場所へ必要な時期に制海・制空込みで小隊を展開させる能力を持つ「IT企業」もあれば、米国陸軍一個師団分の糧食と生活空間を1週間以内に提供できる「建築会社」もある。

こうした戦争請負会社は、再就職先として優れた「バッファ」であることに気づかされる。冷戦後の軍人大安売り市場、紛争終結地域で大量発生するリストラ軍人たち。通常の失業なら政府のハローワーク対策ですむが、元軍人の失業(それも大量の)なら、国家に対し一種の脅威たりうる。こうした「元」軍人たちに仕事を与える企業は安全弁となるだろう。

例えば、旧KGBの7割近くが軍事請負業に入った("Strategic analysis" 22 Dec 1998)という。ロシアの国家としての安全保障に寄与しているといえる(言い換えると、リスクの輸出ともいうかもしれんが)。あるいは2001年に民営化された米国海兵隊炊事兵の例を挙げてもいい。糧食・兵站業務に携わる1100人の兵士が「兵士」でなくなった。

人員の異動は技能・知識の流出のこと。2000年10月、ロシア海軍はBRS社の子会社と、沈没した原子力潜水艦クルスクを引き上げる仕事を契約した。契約推定額は900万ドルで、ロシアが戦争請負会社と契約した最初の事例とされている。さらに2000年11月には、同社は米国の防衛脅威削減局のプロジェクトに参加し、戦略兵器削減協定(START)の下で大陸間弾道ミサイル(ICBM)の解体を行っている。パキスタンのカーン博士を中心とした「闇の」核兵器拡散ネタがマスゴミ国際面を賑わせているが、この本を読む限り、正門から流出していることが分かる。

つまり、正規の兵士が減る一方で、民間の戦争請負業が増えているのだ。

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「戦争請負会社」読書感想文2
「戦争請負会社」読書感想文3
「戦争請負会社」読書感想文4
「戦争請負会社」読書感想文5(最終回)

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