「戦争請負会社」読書感想文1
「パイナップルアーミー」や「マスターキートン」をご存知だろうか? 一見さえない主人公は、実はスゴ腕の傭兵(または特殊部隊)だった、というマンガ。ミリタリーネタ満載で「スペナッズ」だの「ハインド」を知った。その当時からずっと疑問に思ってたこと↓
Q: リタイアした兵士、冷戦終結でリストラされた軍人はどこへいったのか?
この問いに対し、見事にそして恐ろしいほど精確に答えてくれるスゴ本が「戦争請負会社」。もちろん、兵役をリタイアする大多数は民間で「普通の」仕事に従事することになるだろう。しかし、次のコメントを読んでほしい「僕は18才で陸軍に入り、42で除隊しました。兵隊のほかに何ができるというのでしょう?僕に選択肢なんかありませんよ」これはロンドンの戦争請負業で働くサラリーマンの発言。
A: 「民間の」軍事・軍需関連の企業へ「再就職」する
その割合こそ分からないが、チェイニー米国副大統領の発言(2000.9)から推して知るべしだろう。
過去10年間、わが国が世界中で行う介入は300%も増した。しかし、わが軍は40%も削減されている "Cheney's Firm Profited from'Overused Army'," Washington Post Sep 9,2000
もちろん、ステイツがイラクへ軍事展開する際、「兵士」のほかに多数の請負会社が参加しており、「戦争の民営化」などと揶揄気味な報道されていることは知っている。また、アブグレイブ収容所における犯罪は「兵士」以外の民間人(つまり軍務請負会社の社員)も関わっていることも知っている。
しかし、これほど組織的かつグローバルに展開・浸透で切っても切れない関係になっているとは思わなんだ。翻訳がアレだが強力にお勧めできる、こいつはスーパースゴ本、2005年No.1スゴ本なり。
民間軍務請負企業、すなわち戦争請負会社はPMFと呼ばれている。Privatized Military Firm の略。ひとくちに「軍務請負」といっても訓練、戦闘、兵站、補給、作戦支援、紛争事後処理と多岐広範囲に渡る。本書では「戦争に関連する専門業務を売る営利組織。軍事技能の提供を専門とする法人」と定義している。
つまり戦争に関するサービスを売る会社。つまり、銃器や対空ミサイルといったモノを売る「死の商人」ではなく、「AK+部隊」、「スティンガー+そのインストラクタ」といったように、戦争に勝つためのサービスを提供する会社。地球上の必要な場所へ必要な時期に制海・制空込みで小隊を展開させる能力を持つ「IT企業」もあれば、米国陸軍一個師団分の糧食と生活空間を1週間以内に提供できる「建築会社」もある。
こうした戦争請負会社は、再就職先として優れた「バッファ」であることに気づかされる。冷戦後の軍人大安売り市場、紛争終結地域で大量発生するリストラ軍人たち。通常の失業なら政府のハローワーク対策ですむが、元軍人の失業(それも大量の)なら、国家に対し一種の脅威たりうる。こうした「元」軍人たちに仕事を与える企業は安全弁となるだろう。
例えば、旧KGBの7割近くが軍事請負業に入った("Strategic analysis" 22 Dec 1998)という。ロシアの国家としての安全保障に寄与しているといえる(言い換えると、リスクの輸出ともいうかもしれんが)。あるいは2001年に民営化された米国海兵隊炊事兵の例を挙げてもいい。糧食・兵站業務に携わる1100人の兵士が「兵士」でなくなった。
人員の異動は技能・知識の流出のこと。2000年10月、ロシア海軍はBRS社の子会社と、沈没した原子力潜水艦クルスクを引き上げる仕事を契約した。契約推定額は900万ドルで、ロシアが戦争請負会社と契約した最初の事例とされている。さらに2000年11月には、同社は米国の防衛脅威削減局のプロジェクトに参加し、戦略兵器削減協定(START)の下で大陸間弾道ミサイル(ICBM)の解体を行っている。パキスタンのカーン博士を中心とした「闇の」核兵器拡散ネタがマスゴミ国際面を賑わせているが、この本を読む限り、正門から流出していることが分かる。
つまり、正規の兵士が減る一方で、民間の戦争請負業が増えているのだ。
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「戦争請負会社」読書感想文2
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コメント
>スペナッズ
ロシアの特殊部隊のスペツナズの間違いでは?
投稿: 通りすがりの | 2007.08.23 21:07
>> 通りすがりの さん
あっ
Typo じゃなくって、ホントに「スペナッズ」と思っていました。
教えていただき、ありがとうございます。
投稿: Dain | 2007.08.25 21:53