日本沈没
小松左京の傑作。これと「くだんのはは」は自信をもってオススメできる。
「日本沈没」は、これまでに3回読んでいる。学生のとき初読、阪神淡路大震災の後に2回目、そして先ほど3回目を読了。読む度に、この国の繁栄は"かさぶたのような土地"の上に築かれていることがよく分かる。
かつてはパニック長編として読んでいた。30年前に書かれたものであるにもかかわらず、古びていないことに驚く。もちろん「やさぐれ」「ヒッピー」「ゲバ棒」といった風俗ネタは古式ゆかしいが、マグニチュード8.5の激震が東京を襲うディテールは見てきたように生々しい。
しかし今回は、「日本とは何か?」「日本人とは何か?」と考えながら読まされるハメになった。日本という国土を喪っても日本・日本人はありえるか?という問い。地震学者、田所博士の口を借りて、著者はこう結論づけている。
言葉や文化といった「日本的なもの」がつきまとう。「日本が沈む」ことが明らかになり、船舶・航空による大移動が始まるわけだが、行った先でどうなるのか? 移民先でも「日本人」を続けるのか、続けられるのか?
「私たちは、ある国に住むのではない。ある国語に住むのだ。祖国とは、国語だ。それ以外の何ものでもない」という言葉がある。仏の哲学者シオランの言葉だ。まるでこれに相対するかのごとく、著者はある「老人」にこう言わせている。
大混乱の中でかなりの「日本人」が逃げ出し、日本が沈むところでこの物語は終わる。延々と読み続けてきた読者はそこで瞠目するはずだ。なぜなら、そこに「第一部・完」と書いてあるからだ。著者は第二部として「日本漂流」、つまり世界各地で生きのびる日本を喪った日本人たちの物語を書こうとしていたからだ。(ネタバレ注意、反転で表示)
--

| 固定リンク
コメント
>祖国とは、国語だ
というのは真理ですよねえ。
人間は言語で思考してるんですからね。
文末に否定形が付く日本語は、言語として悪い形だと思います。
最後まで聞かないと意味が確定しないジレッタイ言語でイヤンw
知的な論理的な人間になるには、日本語を捨てて日本人をやめるべきだと思いますww
ちなみに小松左京の最高傑作は「果しなき流れの果に」だと思います。日本沈没以後の日本人が出て来るのも愛嬌ですな。
投稿: goldius | 2007.08.20 10:20
>> goldius さん
> 人間は言語で思考してる
ああ、これも確かに真理ですね。どんなに思索を [ 広げても | 深めても ] 、自分の言語の外側に出ることはできませんからね。
とはいうものの、
> 最後まで聞かないと意味が確定しないジレッタイ言語でイヤンw
な点は、多様な接続詞で頑張ってる言語だと思います。丸谷才一氏からの聞きかじりですが、全てを聞く前に真意を伝える仕掛けが豊富なんだそうです。
(↑の「とはいうものの」なんて、そうですね)
「果しなき流れの果に」――オススメありがとうございます、読みます(ひょっとすると読んだかも?)
投稿: Dain | 2007.08.21 22:17