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本当は恐ろしい子どもの本

「モモちゃんとアカネちゃん」という恐ろしい本を読んだ。小学校低学年向けの本だ。ヨメ曰く「あー知ってる、『ちいさいモモちゃん』はボロボロになるまで読んだよー」…でもヨメは知らなかったらしい。この本がその三作目にあたるもので、モモちゃんの両親の離婚のハナシであることを。

松谷みよ子を知っているだろうか? あかちゃんの本で有名で、特に「いないいないばあ」は全てのゼロ歳児の必読書となっている(嘘)。読んだ人なら分かると思うが、全て赤ちゃんへの愛がたっぷり詰まった本ばかり。「ちいさいモモちゃん」もそうした一冊だが、その続編は衝撃的だと某所で知らされて手にしてみた。

低学年向けの本だから、ほのぼのとしてるし、ちょっと不思議が混ざっている。日常的にネコとお話できたり、靴下がひとりでに歩いたりすることはいいとして、テーマは「両親の離婚」だ。直接的には言及せずに、モモちゃんのパパとママは別れるという結論に達する。重い、とても恐ろしい本ナリ。

どう恐ろしいかというと、パパとママの関係の冷え具合が「モモちゃん」という小学校一年生の目から見て語られるところ。当然、オトナの事情なんて分かるはずも無いし、ママから聞かされることを理解できるわけもない(したくもない)。しかも一人称ではなく、三人称でお話は続けられる。こんな感じ。

アカネちゃんが生まれてから、ママは、からだのぐあいがよくありませんでした。それで、外へいくお仕事はやめて、うちでするお仕事をしていました。
そんなふうに、からだが悪いせいでしょうか、ママは目も悪くなったようなのです。パパのすがたがみえたり、みえなかったりするのです。それは、こういうことでした。
夜、パパがかえってきます。
ママには、パパの歩きかたが、すぐわかります。
ピンポーン、ピンポーン。
チャイムがなります。ママはとんでいってドアをあけます。
けれども、そこにパパは立っていません。ただ、パパのくつだけがありました。
それで、おしまいでした。
ママは、とほうにくれて、くつをながめていました。いったい、くつにどうやって、ごはんをたべさせたらいいでしょうか。くつに、「おふろがわいていますよ。」 なんていうのは、ばかげています。
ママは、しかたなくブラシでほこりをおとし、クリームをぬりました。布でこすりました。とっても長いあいだこすっていたので、靴はぴかぴかになりました。その上に、ママの涙が、一つぶ、ポトンとおちました。
つぎの朝、靴はでていきました。

象徴的に書いているけれど、この「パパのすがたが見えなくなりました」は衝撃的。逆もまた然り。別に目が見えなくなったわけでもなく、存在を理解できなくなる恐ろしさ。居るのに居ない人の存在意義(レゾン・デートル)は?

ママ、パパの生き方を「鉢植えの木」という表現で描いている。夫婦というのは、二つの木を一つの鉢に植えるということ。パパは「歩く木」でママは「育つ木」なのだ。何かを探そうとするパパ(非常にあいまいな表現で"女"だと示唆されている)と、それを受け入れた上で一所で生き続けようとするママ。両方の生き様が苦しくなり、ママの木の根は枯れようとする←ここも抽象的だ

この後、ママとパパは別れることを決めるのだが、モモちゃんが気にしているのは、「引越しするときにトラックに乗れるのか?」という一点だけ? 「パパ」という存在は欠落している(なぜならママが気づいていない、居るのに見えない存在にさせたから)。一方パパも挙動がおかしい。お別れの見送りもせず、トラックが去った後、残された鞠をじっと眺める。非常に異様な感覚にさせられる。

ついでにこの続編の題名も書いておこう。

   「ちいさいアカネちゃん」

   「アカネちゃんとお客さんのパパ

そして最終話は

   「アカネちゃんのなみだの海」

「お客さんのパパ」はぜひ読んでみたいナリ。児童文学あなどるなかれ、ですな…

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コメント

本当だ。怖い。
さっそく買ってみよう。
そういえば友だちが小さい頃
アカネちゃんシリーズが大好きだった
と言ってました。
夏に読むといいかな?
怖くて涼しくなるかも?
・・・怪談じゃないんだからねぇ。

投稿: ぶんぶん | 2004.08.30 12:11

こ、こわくて読めません...

投稿: ひでき | 2004.08.30 13:49

>ぶんぶんさん

これはフツーの児童書なので「恐がる」つもりで読むとがっかりするかもしれないのでご注意を。ほとんどの小学生は童話を読むように読むのです。そしてトラウマになるのでしょう… これは、「本当は恐ろしいグリム童話」同様、裏読みするとコワイ本なのです。

>ひできさん

続編も記事化しますのでご心配なく。「離婚が子どもに与える影響」を想像しておこうかと。今のところ予定はないのですけど、そーいう気分になったとき、子どもの眼からどう見えるのか? を考えておいても損はないかと思って…
--

投稿: Dain | 2004.08.31 14:16

こんな話だったのですねー。
やっぱり買って読みたくなりました!!

投稿: Betsy | 2005.01.25 02:00

私はできれば読みたくないですね...
子供のためにも離婚しないように(読まなくても良いように)頑張ります。

とは言え単身赴任は2年目突入ですけど...サミシイ。

投稿: 鉛のZEP | 2005.01.25 22:01

Betsyさん、 鉛のZEPさん、コメントありがとうございます

ふつうの児童書をナナメに裏に読んでみるて、実は恐ろしいことをあぶりだしているだけです。物語りそのものに深い意味は無く、それを与えているのは、読み手である私なのです。

Betsyさん、期待して読むと外すかもしれません。

鉛のZEPさん、

 >とは言え単身赴任は2年目突入ですけど

 (つД`)

投稿: Dain | 2005.01.25 22:40


私はとてもいい作品だと思いましたよ。
怖い という言葉は不適切?不適合だと思います。
この本は大人用にも発売されています。
子供が読んだら怖いなどの捉え方はしないと思い、トラウマにもならないと私は思いました。ももちゃんの世界観はすべての子供に共通するもので、作品も大人からみた正解がなく、ももちゃん目線の正解、答えが書かれています。子供が読んだらきっと子供なりのいい捉え方ができるでしょう。
しかし、私たち大人が読むと、違う捉え方を出来るように作られているのではないでしょうか。
子供に対しては想像力を与える素敵な本
大人に対しては子供の素直な心を思い出し大人はどれだけ残酷なものだと気づかされる素敵な本 だと私は思いました(´・_・`)

投稿: だい | 2013.05.11 20:00

>>だいさん

ご指摘ありがとうございます。子どもには想像力を、大人には残酷さを気づかされる本だということは、完全に同意します。

ただ、この“怖さ”が分からないのであれば、同作者の『小説・捨てていく話』を読むといいかもしれません。『モモちゃんとアカネちゃん』では曖昧にボかされた心象が、くっきりと写っていますから。

投稿: Dain | 2013.05.11 21:30

こんにちは。

いつも楽しく勉強させていただいております。
『これが「親子」のスゴい本』では、「ゴリ爺」をご紹介くださりありがとうございました。未読なので、いつか必ず読んでみたいと思います。

<モモちゃんとアカネちゃん>シリーズの全6冊が、
「松谷みよ子の本 第1巻
     (モモちゃんとアカネちゃんのお話)」
 (著者 松谷みよ子  講談社 1994年10月)
の中に収められています。(挿絵がなく文だけで、内容は同じです。)

その「あとがき」に、松谷みよ子さんが、30年に渡って書き綴った<モモちゃんとアカネちゃん>シリーズへの想いを寄せておられます。
特に、この3冊目の「モモちゃんとアカネちゃん」の執筆・出版に至っては、ものかきとしても母親としても追い詰められ、相当の覚悟を持って執筆・出版されたことが解ります。当時日本では、児童文学の中で離婚を扱うのはタブーだったそうで、出版後の反響の大きさについても書かれています。
また、「小説・捨てていく話」についても言及されており、「ある時代を童話と小説に同時にかき分ける羽目になった」と、とても辛い仕事であったこと告白されています。

「松谷みよ子の本 第1巻」には、松谷みよ子さんの「あとがき」と併せて、童話作家の山下明生さんの「解説」も掲載されています。
「解説」では、<モモちゃんとアカネちゃん>シリーズと「小説・捨てていく話」との表現について、対比して言及されいる個所があるので、シリーズを読み解くに当たりとても参考になりました。

書店や図書館に足を運ばれたときにでも、「松谷みよ子の本 第1巻」の「あとがき」「解説」、是非目を通してみてください。お勧めします!

余談ですが、7月に、5冊目の「アカネちゃんとお客さんのパパ」、6冊目の「アカネちゃんのなみだの海」の挿絵を画かれた伊勢英子さんをお招きして、伊勢先生の作品(絵本)の読み語りと講演が地元でありました。
<モモちゃんとアカネちゃん>シリーズについてのお話はありませんでしたが、素晴らしい講演でした。

投稿: ナキウサギ | 2013.10.08 10:18

>>ナキウサギさん

コメント&オススメありがとうございます(『ゴリオ爺さん』まだ読んでないorz)。
オトナになってから読むと、『モモちゃんとアカネちゃん』シリーズは、書き手の家庭が透けて見えてしまって辛いところもありますね。
わたしの子ども達は絵本を卒業しましたが、次は絵本を読みきかせる番になって、同じ心象を抱くかもしれません。

投稿: Dain | 2013.10.11 21:42

このシリーズでトラウマになった「誰かさんの後ろにヘビがいる」回。イラストも怖い!子供の頃、本に触れるのが怖くて表紙が見えない様に重ね積みしてました。本を開けたらヘビが出てきそうで…。

投稿: みるみる | 2018.11.14 15:35

作品違いですがトラウマ児童書で「ピカピカのぎろちょん」。
イラストがシュール過ぎる。タイトルからして怖いが内容が謎だらけです。主人公姉弟の街がいきなり封鎖、それはピロピロのせい。ピロピロについての説明はなく淡々と起きる日常の異変と鬱屈。子供達は手製のぎろちょんで野菜を公開処刑します。子供は分からないから知る必要がない、といつの間にかなかった事にするのは例え何も出来なくても理不尽なんですよね。

投稿: | 2018.11.14 15:48

>>みるみるさん

おお、その回は知りませんでした。あらすじを知りたくて検索してみたら......これを読むかぎり、かなり怖いですね。

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1442279399

『ピカピカのぎろちょん』は読みます、めっちゃ気になります。ありがとうございます。


投稿: Dain | 2018.11.14 21:05

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