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インテリジェンスを二十九匙

 あの有名な(笑)「選択エージェンシー」刊行の「インテリジェンスを一匙」(大森義夫著)を読みました。これは雑誌「選択」の2002年1月から2年間にわたり連載された同名の記事を単行本化したものです。27回分の記事(番外2つ)あるので、インテリジェンスを二十九匙 … この本で著者が最もいいたいことはコレ↓

 外務省からも、防衛[省]からも、警察からも完全に独立して、純粋に情報収集だけを任務とし、政治の中枢(首相)に直結する中央情報機関(インテリジェンス機関)をつくろう

 まずはオーバービューを。筆者は東大法学部卒、警察庁や内閣情報調査室長を経て、現在はNEC取締役専務。

 一読すれば、彼が日本におけるインテリジェンス機関の第一線に携わっていたことと、危機管理の第一人者であることはすぐに分かります。

  「インフォーを軽視するなかれ」

  「スパイはスパイの行動をとるからスパイなのである」

  「公開情報のシャワーからパターン認識をつかみとれ」

 …非常に明快な論を展開します。分かりよいだけでなく具体的。9.11、外務省機密費問題、コズロフ事件、拉致事件 …と生々しい現場を例にあげて、日本のインテリジェンス戦略性のなさ、情報機関の空白について徹底的に批判します。そして米国のみならず中華人民共和国の後塵を拝している現状を憂いています。

 そして、そうした機関に負けないために、日本MI6(J-SIS)、つまりインテリジェンス組織設立の方法を書きます。さらにそうした機関に必要な人材、ターゲット、コントロールの仕方までをも書いています。

 さらに好感が持てるのは、著者が自分の「失敗」を語ってくれるところです。不十分なリソースで情報戦争を闘いぬく中で著者が陥った失敗を、その理由、対処、再発防止策を含めて語ってくれます。「失敗」が発生する状況そのものの再現性が難しいため、ノウハウをそのまま使えるとは思えませんが、それでも彼の経験を知ることはできます。

こんだけ誉めりゃいいでしょう。

 最初のヘンでこの連載は「雑談」と言うとおり、その道の経験者の居酒屋談義を聞くレベルです。確かに耳には快いフレーズだが、それを実際に移す具体策への落とし込みがない。よっぽど優れた部下を持っていたのか、いいっ放しで終わっていたのか…

 引用ソースが貧弱。確かにインテリジェンスの本質は公開情報から選び取ることかもしれませんが、ソースが「日経ビジネス」やル・カレのスパイ小説 …普段何を読んでいるかがよく分かります。

 その一方でキャリアを(彼もキャリアなんだけど)「デスクに閉じこもってインターネットで器用に情報をつくってしまう才子」とこき下ろす。えーと、フィールドの大切さはよっく分かります。業種は違えども私もフロントミッションしてますもの。ただ、ネットの重要性は承知しているものの、それが使えないというのはちょっと…

 決定的だったのは「情報」のフロントにいるはずなのにIT音痴なところ。暗号論とデータ管理のあたりの話で、

_| ̄|○ こんな人が内閣情報調査室長だったんだ…

ゾッとしました。あの…公開鍵使って電子メールの暗号化ぐらいはできますよね?

 最後に。この本は「だ」「である」で締めているんだから、統一しようよ、編集さんちゃんと読んだ? →p.28、p.42、p.50

 …というわけで、誉めるところも腐すところもある一冊でした。通しで読めたのはありがたかったです。

インテリジェンス関連の過去記事
  インテリジェンスを一匙
  インテリジェンスをもう一匙
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