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容疑者の夜行列車(多和田葉子)

読むことの快楽。
現実との離剥感。
どこへ連れて行かれるか分からない感覚。

どこを切り取っても、そこだけでもちゃんと読めて、前後をあわせると一連の物語と化す。いい小説です。表現がいい…というか独創的…でも腑に落ちる言い回し。句点がいい…文がポキポキ折り取られていく感じが心地よい。

宇宙人がいっしょうけんめい日本語を覚えて、日本人よりも上手になったら、こんな突き抜けた文を書くのだろうか? 日本語を卒業してしまったような日本語。
どこを引用してもいいけれど、ここはしょっぱなを。この数行で惹きこまれました。

駅の様子がちょっとおかしい。ホームに人が嫌に少ないのである。それに、 駅員たちがそわそわとして、何か秘密でも隠しているようである。駅員をつか まえて、どうかしたんですか、と尋ねるのも妙であるから、黙って観察してい るしかない。駅全体が化けの皮をかぶっているのに、あなたはそれを剥がす ことができずにいる。
(第一章 パリへ)

この本は関心空間のリリカさん、びよょ~ん、さんのKeyWordで知りました。良い一冊に出会えて、幸せ。ありがとうございます。

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