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美は進化の産物か

問題1:この女性、左と右、どちらが魅力的見えるだろうか。

Limbalring1

 

問題2:この男性、左と右、どちらが魅力的に見えるだろうか。

Limbalring2

注意が必要なのは、この画像が小さいこと(わたしは小さい画像で見てしまい、ピンとこなかった)。できればPCなどディスプレイで、実物大に拡大して見比べてほしい。

これは、顔を魅力的にさせる要素を研究したペシェクの実験(※1)で使われたものになる。被験者は2枚の写真を見せられ、より魅力的に見えるほうを選ぶように求められた。

結果は明白で、問題1も問題2も、右の顔を魅力的だとする被験者が多かった。

なぜか。

実はこの写真、フォトショップによって、一か所だけ加工されている。それは、リンバルリング(limbal ring)だ。

リンバルリングとは何か。

鏡などでよーく目を見てみよう。まず、目の中心に瞳孔があって、その周囲に虹彩(茶や青など色のついている円盤状の膜)があって、その外側に白目がある。この白目との境界に、虹彩を縁取るような暗い円があるだろうか。それがリンバルリングだ。

リンバルリングは若さと健康を示唆する

はっきりとしたリンバルリングは、その人の魅力を増す。ペシェクの実験では、左右反転した場合でも、写真をさかさまに見せても、リンバルリングのある方が魅力的だと判断する人が多かった。

株式会社メニコンはそれを熟知しており、虹彩模様を変化させることでリンバルリングのコントラストを強調するコンタクトレンズの特許を取っている(※2)。リンバルリングと白目の領域のバランスが、眼の美しさに影響を及ぼすという。

あるいは、ナショナルジオグラフィックの表紙で有名な「アフガンの少女」が、なぜ見る人をはっとさせるかは、ひょっとすると、この際立ったリンバルリングのおかげなのかもしれない。

Afgan

https://en.wikipedia.org/wiki/File:Sharbat_Gula.jpg

では、なぜ、リンバルリングが際立つと、魅力的に感じられるのか?

ドナルド・ホフマンは、進化心理学の観点から、解き明かす(※3)。

まず、リンバルリングは、若いほど厚く、はっきりとしているが、年齢とともに低下していく特徴があるという。加齢により角膜が白っぽくなる老人環は、リンバルリングを目立たなくさせる。

次に、はっきりしたリンバルリングは、健康をも示唆するという。緑内障や角膜浮腫などの疾病は、角膜を曇らせ、リンバルリングを不明瞭にする。つまり、顕著なリンバルリングは、その人が若くて健康であることの手がかりの一つになる。

白目から若さと健康を読み取る

ホフマンは、強膜(白目の部分)も、その人の美しさ、魅力に影響するという。

ヒトの白い強膜は、視線の方向を告知し、社会的コミュニケーションのツールとして機能すると言われている。だが、それだけでなく、当人の若さや健康も示唆している。

強膜は、細い血管を含む結膜に覆われており、アレルギーや結膜炎は、この血管を拡大させ、強膜を赤くする。また、肝臓病や老化は、強膜に黄色の色調を加えることがある。いっぽう、乳児の強膜は薄く、下層にある脈絡膜が青みがかったように見える。年齢を重ねるにつれ強膜は厚くなり、この青い色調は失われてゆくという。

言われてみると、思い当たる。子どもが幼いころ、その目をのぞき込むと、白目の部分が透き通った青色だったことを覚えている。また、二日酔いの朝、鏡をのぞき込むと、目を真っ赤にさせた不機嫌な顔がある。どう見ても健康そうに見えない。

つまり、青みがかった白目は、若さと健康の証になる。この仮説は、実験で検証されている(※4)。

  1. 被験者に一連の顔を見せる
  2. 被験者はスライダーを用いて、強膜の色を変えることができる
  3. スライダーを動かすと、青から黄色へと色調を変えられる
  4. 被験者は、それぞの顔が最も魅力的になるよう、スライダーを調整する

実験の結果は明白で、男性、女性ともに、強膜が青くなるように調節した。しかも、被験者が男性の場合、白目をより青くするように調節したという。

ハイライトの重要性

ホフマンは、目にハイライトを加える重要性についても力説する。

ハイライトは、目の中の輝きのことで、その人を魅力的に見せるという。

涙腺から分泌され、角膜と強膜を覆う涙の薄い層に光が反射して放たれる。年齢を重ねたり、シェーグレン症候群、関節リウマチ、甲状腺疾患などでこの膜は薄くなり乾いていくことになる。乾いた目はあまり光を反射しなくなり、ハイライトが目立たなくなるという。

プロの写真家はハイライトを熟知しており、「キャッチライト(瞳に移り込ませる光)」を用いて、目にハイライトを加える。丸いレフ板を使えばキャッチライトは丸になり、四角いレフ板を使えば四角になる。写真家だけでなく、フェルメールの『真珠の首飾りの少女』や、アニメやイラストのキャラクターなど、キャッチライトの応用はいくらでもある。

一方、その人の魅力を減らすために、キャッチライトを避ける例もある。映画製作では、悪役の俳優の目にハイライトを映り込まないようにする(もしくは、後で加工して消す)。要するに、黒目だけにすることで、極悪で生命感が欠如しているように見せるというのだ。

「美=生殖能」仮説

美とは何か?

「美は観察者の目の中にある」と言われる。美はその物自体の性質ではなく、それを見る観察者の心の中にしか存在しないことを意味する。ホフマンは、「なぜこの美の基準が、あの観察者の目のなかにあるのか?」という問いに置き換える。

そして、美とは、複雑で無意識的な計算に由来する知的判断だという。長い進化の過程を経て、慎重に選択されてきた手がかりは、たった一つのことを私たちに教えてくれる。生殖能だ。あの人は健康な子を生み、育てられるのか?

もちろん、私たちは通常、この問いを明示的に考えたり、判断を導く手がかりを意識しているわけではないという。そうではなく、判断そのものをさまざまな感情の形で経験しているというのだ。

美は、観察者の気まぐれなどではない。長い年月をかけて自然選択の論理によって構築された、観察者の脳内で生じる無意識的な推論の結果に生じる、観察者の感情こそが、目の中の美なのだという。

この推論を頻繁に間違える観察者は、健康な子を育てられそうにもない相手を好むこととなり、その結果として、間違った推論が次世代に受け渡される可能性は低くなるという。要するに、美を読み違える遺伝子は、情け容赦のない自然選択の論理によって淘汰されるというのである。

生殖の観点から男性の魅力を解いた「生理的に受け付けない男の正体」という記事を書いたが、ホフマンの主張は、その実証版になる。あるいは、ヒトの美意識の根底にある生存可能性を示した『美の起源』を見ると、わたしたちは適応の結果、あるものを「美しい」と評価するようになっているのかもしれぬ。

進化心理学からのアプローチは強力だ。なぜなら、いまある姿から逆算して、「それは進化の結果だから」という事後諸葛亮(後知恵)を自由に適用することが可能だから。これに注意しつつ、進化心理学のアプローチに加えて、『美の歴史』『醜の歴史』などの芸術からのアプローチからも、美を追いかけてみよう。

※1 ”Preliminary Evidence that the Limbal Ring Influences Facial Attractiveness”,Darren Peshek,Negar Semmaknejad,2011,[URL]

※2 虹彩模様の印象等を容易に調整することができるコンタクトレンズ

https://astamuse.com/ja/published/JP/No/2013250351

※3 『世界はありのままに見ることができない』ドナルド・ホフマン、青土社、2020

※4 ”Facial Attractiveness: The Role of Iris Size, Pupil Size, and Scleral Color”,Negar Sammaknejad,2012

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