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認知科学から見た、多くの人が論理的に考えない理由『類似と思考』

2つ問題がある。どちらの問題が、簡単だろうか?

問題は解いても解かなくてもいい。問われているのは、「どちらが簡単か」である。

問題1

ここに四枚のカードがある。

片面にはアルファベットが印刷されており、もう片面には数字が印刷されている。このカードは、「表が母音なら、裏は偶数」というルールに従って作られている。

いま、この四枚のカードが並べられている。これらが、前述のルールに従っているか調べるために、どのカードを裏返してみる必要があるか。

1枚目のカード  U
2枚目のカード  K
3枚目のカード  3
4枚目のカード  8

問題2

あなたは警察官だとする。

あなたは、無免許ドライバーを見つけようとしている。ある駐車場に行くと、車の近くに次の4人がいた。あなたは、どの人を調べるべきか。

1人目  車を運転しようとしている人
2人目  赤ちゃん
3人目  免許を持っている人
4人目  免許を持っていない人

この2つの問題は、本質的に同じだ。

しかし、もうお分かりのように、正答率は、圧倒的に2が高い。つまり、問題2が、(人間にとって)圧倒的に易しい。

問題1は論理学の「前件肯定」「後件否定」を使う。「PならばQ」のとき、「Pである」ならば「Qである」と導き、「Qでない」ならば「Pでない」と導く推論だ。「P=表が母音」、「Q=裏が偶数」を当てはめれば解ける。

問題2の「車を運転するなら、免許が必要」……このルールから、「車を運転する人」が、本当に免許を持っているかチェックする必要がある。また、「免許を持っていない人」は、車を運転していないよね、とチェックする必要がある。

面白いことに、問題1は、「前件肯定」「後件否定」を教えた直後であっても、正答率はたいして上らなかったという。一方、問題2は、論理学のルールを知らない人であっても、文脈から自然に解けてしまう。

人が推論するときは、論理学のルールを用いるのではなく、その文脈に沿って正解を導いているのではないか? と考えられる。

本当だろうか?

問題3

「刑務所に入るのであれば、犯罪を犯さなければならない」というルールが守られているか調べたい。次の4人の誰を調べるべきか。

1人目  刑務所に入っている人
2人目  赤ちゃん
3人目  犯罪を犯した人
4人目  犯罪を犯していない人

まず、1人目「刑務所に入っている人」が、犯罪を犯しているかを調べるのは分かる。

本当の問題はその次だ。

論理学で選ぶなら、4人目「犯罪を犯していない人」が、刑務所に入っていないかを調べるべきだろう。しかし、3人目を選んでしまう。つまり、「犯罪を犯した人」が、ちゃんと刑務所に入っている? と確認したくなる。どうやら、私たちは、文脈で正答に辿り着けるわけではないようだ。

これら3つの問題は、論理学的には同じだ。しかし、運転免許の話と刑務所の話は異なる。「車を運転する」はメリットだが、「刑務所に入る」はそうでない。「免許が必要」という条件は、メリットへの対価となっているが、「犯罪を犯す」は対価ではない。

つまり、問題の形式としては同じだが、何がメリットで、何が対価としてふさわしいかは、推論を行う人による。前提条件と行為さえあれば、自動的に正しい推論ができるというわけではないのだ。

人は、どのように思考しているのか

では、私たちは、どのように思考しているのか? これを認知科学の成果から深掘りしたのが、鈴木宏昭著『類似と思考』だ。

本書によると、私たちは、論理学的なルールを、個々の問題に当てはめて演繹的に解いているわけではない(むしろレアケース)。また、問題に行き当たる度に、メリットは本当に利得なのか、前提条件は対価として妥当かを、いちいち深く考えているわけではないという。

代わりに、過去の典型的なメリットー対価状況と、目の前の問題状況がどれほど似ているかを判断することで、面倒で、非現実的な処理をスキップしているというのだ。これにより、確率からするとあり得ない方に従ったり、文脈や状況だけから正しい判断を下したりする。

この、非常に人間くさい思考を「準抽象化による類推」として、その理論をまとめている。

「人の思考は、規則やルールに基づいておらず、類似を用いた思考(類推)を行っている」が本書の結論だが、そこへ至るまでに、文学や科学、政治やビジネスで行われる類推の事例を紹介している。さらに、他の理論と斬り結びながら自説をブラッシュアップしているところが面白い。

  • 多重制約理論:キース・ホリオーク、ポール・サガード
  • 構造写像理論:デドリー・ゲントナー
  • 概念メタファー説:ジョージ・レイコフ
  • p-prim理論:アンドレア・ディセッサ
  • 漸進的類推写像理論:マーク・キーン
  • Copycat:ダグラス・ホフスタッター

並べると、「人はどのように思考しているか」それは「一般化できるか(≒コンピュータに任せられるか)」さらに、「人がどのように世界を理解しているか」まで議論が拡張することになる。カーネマン『ファスト&スロー』やロスリング『ファクトフルネス』が好きなら、ハマることを請け合う。

「人はどのように思考しているか」について、現在の見取り図を与える一冊。

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