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アルマゲドン、遊星からの物体X、ディープ・インパクト……人類の終わりを楽しむ『映画と黙示録』

「終末もの」の映画が好きだ。

核兵器やエイリアン、天変地異によって人類滅亡の危機が迫るとき、それまでいがみ合っていた人々が団結し、科学技術を駆使して立ち向かうやつ。「世界の終わり」を楽しむ映画だ。

『映画と黙示録』(岡田温司/みすず書房)によると、こうした終末ものは、「ヨハネの黙示録」に代表されるキリスト教の終末思想が世俗化したものだという。さらに、世界を滅ぼす存在については、映画が作られた時代が色濃く反映されているという。

宇宙人、ウイルス、放射能……その時代の人々が、何に恐怖し、何を救いとしていたかを、映画は具体的に見せてくれる。

核が世界を救う

たとえば、「核こそが世界を救う」という隠れテーマが面白い。

巨大な隕石が地球に向かっており、このままだと人類が危ない―――そこで核兵器を使用して、カタストロフを回避するストーリーが定番だが、1958年の『天空が燃えつきる日』を始め、『メテオ』『アルマゲドン』『ディープ・インパクト』などが紹介される。

著者はここに、冷戦時代における核兵器の開発競争と、その正当化が隠れているという。

ひとたび核戦争が起きれば、相互確証破壊により、人類は何度でも滅亡できる程の核弾頭がある。脅威を宇宙へ向けることで、非難を逸らし、核兵器の有効活用の可能性を示す。

わたしの場合、『アルマゲドン』をスペクタクル+家族愛の物語として感動していたが、言われてみれば、「最終手段・核爆弾」を所与のものとして受け入れていたな……隕石に限らず、宇宙人や怪獣など、巨大な脅威に対してはお約束レベルで刷り込まれているのかも。

恐怖の対象は世相を反映する

また、何を脅威とするかは、それぞれの時代を反映しているという指摘が面白い。

  • 1950~60年代は、冷戦と核兵器
  • 70年代は、環境問題や人口増加
  • 80年代は、パンデミック、ウイルス
  • 90年代以降は、テロリズム、移民・難民問題

こうした時代背景に基づき、脅威を強化するように「世界の終わり」を描いた映画が作られ、観られてきたという。本書では、リメイクされた映画を分析することで、その時代の「脅威」を炙り出す。

たとえば、みんな大好き『遊星からの物体X』(1982)が象徴的だ。

南極の極限状況で異星人に立ち向かう話だ。異星人はグロテスクな怪物として扱われ、接触した人を感染させて吸収するが、見た目は変わらない。そのため、隊員たちは疑心暗鬼になり、仲間内で殺し合うハメに。

著者はここに、「敵は仲間の中に潜む」メッセージを読み取る。さらに、1980年代に入って急速に世界に広がった、エイズへの不安が投影されていると見る。「血液に潜むエイリアン」というイメージは、あの血液検査のシーンで強化されているなぁ……

いっぽう、リメイク元の『遊星よりの物体X』(1951)では、異星人の姿かたちは、人とほぼ同じ。頑丈な大男で、著者はここに、米ソの冷戦構造を反映したロシア人のイメージが重ねられているという。

しかも、異星人が来るのは、米ソの境界のアラスカだ。かつてロシア領だったが、財政難のため、アメリカに売り渡したいわく付の土地だ。ロシア人に似せたエイリアンは、まるで領土を奪い返すため来たといわんばかりになる。

恐怖の対象「物体X」は、映画を見る人にとって、時代の不安を体現しているといえるだろう。

映像に写り込まれた世相

迫りくる脅威から逃れるため、シェルターに逃げたり、宇宙船で脱出するストーリーもある。現代版のノアの箱舟といっていい。

シェルターも宇宙船も、定員が決まっている。入れる人は抽選で決められるというが、金持ちや権力者が優先される。しかも、抽選の枠には条件があり、年長者や病人は最初から除外されている。

抽選で決まった幸運な人々は、なぜか白人ばかりになる。科学者やエンジニア、医者や兵士が多い。

著者は、『地球最後の日』や『ディープ・インパクト』を挙げながら、「選ばれた人々」に注目する。そして、現代のノアの箱舟によって救済され、人類の未来を背負うのは、もっぱら若い科学者やエンジニアであり、科学への素朴な信仰が、ほとんど疑問視されないことを指摘する。

意図した上かどうかは分からない。だが、何を採用し何を写さないかには、映画を作る人の判断が混ざる。何を脅威とし、何を救うかには、その時代の世相がバックグラウンドとして、写り込んでいるのかもしれぬ。

人類がどのような終末を迎えるのか? 黙示録映画を通じ、時代ごとの「脅威」の創造性を垣間見る一冊。

Eigato

 

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