« 男子医大は憲法違反か | トップページ | エドワード・サイードの遺言『人文学と批評の使命』 »

銀河系の知的生命体の数は90『アストロバイオロジー』

Astro

我々はどこから来たのか
我々は何者か
我々はどこへ行くのか

この疑問に科学的に答えるのが、アストロバイオロジーである。宇宙を意味する接頭語「astro」と、生物学を意味する「biology」を組み合わせた造語で、日本語では宇宙生物学と訳される。

生命は、いつ、どこで、どのように生まれたのか? 地球以外の天体にも生命は存在するのか? 生命が存在する惑星としての地球は、どのくらい特殊で、どの程度に普遍的な存在なのか? こうした疑問に答えることを目指す。

アストロバイオロジーの射程

非常に興味深いのは、生物学に限った学問領域ではないところ。最新の研究成果を惜しみなく注ぎ込まれる総合科学、いわば「全部入り」なのだ。

たとえば、生命活動が可能な領域を探るためには天文学、惑星科学、地球物理学の成果が求められ、生命誕生にアプローチするために生化学、微生物生態学、地質学、海洋学の知見が適用され、単純な機構から複雑な生命へのプロセスについては分子進化学、地球化学が用いられる―――しかもこれはほんの一部なのだ。

アストロバイオロジーは机上の研究ではない。自然科学研究機構では、「宇宙における生命」を科学的に探査し、その謎を解き明かすことを目的とし、2015年に「アストロバイオロジーセンター」を設立している。

そこで様々なプロジェクトが実行されているのだが、ひときわ目を惹いたのが、「望遠鏡で分子を探す」宇宙生命探査プロジェクトだ。電波望遠鏡を用いて生命の材料物質であるアミノ酸を探査している。遠いものを見るための望遠鏡を用いて、非常に小さい分子を探すというアンバランスさが面白い。

土星の衛星に微生物がいる可能性

本書はその格好の入門書だ。

地球外生命の存在の可能性あるか、その誕生は必然かといった枠組みを検討し、そもそも生命とは何かといった哲学的な定義を掘り下げ、具体的に、太陽系の中で生命がいるとしたらどこか、太陽系外ならどの辺りに目星をつけるのか、その探し方までを検討する。

もちろん机上論ではなく、最新の観測成果や研究結果、進行中のプロジェクトも併せて紹介してくれるので、リアルなSFドラマを目の当たりにしているような感覚になる。

たとえば、土星探査機カッシーニが採取した「有機物」について。土星の衛星エンセラダスの南極から煙状のものが噴出されており、「プルーム」と呼ばれている。

カッシーニはこのプルームを突っ切って、その中に有機物を検出したとある。わたしの(古い)知識では、複雑な有機物は地球でしか生成されず、したがって生命は地球でしか誕生しえないという論が幅を利かせていた。だが、本書は楽々と更新してくれた。

さらに、プルームに含まれるナノシリカと呼ばれる石英の粒子は、エンセラダスの地下には90度以上の熱噴出孔があることを示唆している。80年代に見つかった深海の熱噴出孔こそが生命誕生の唯一の場所だと主張する人がいた。だが、本書は楽々とエビデンスを更新してくれた。

星を渡る生命を証明する

また、火星の高温や薄い大気による過酷な環境では、生存できるだけの耐性を持つ生命はいないだろうと考えられていた。だが、地球において、火星表面の環境に耐え・生き延びることができる微生物が発見されている。わたしの常識が楽々と更新されていくのが楽しい。

現在進行中のプロジェクト「たんぽぽ計画」も、結果が楽しみだ。超低密度のスポンジ(エアロゲル)を宇宙空間に曝し、宇宙塵を捕集することで、そこに含まれる生命誕生の鍵となる物質を探す計画だ。これは、日本人が主導で開発し、現在、エアロゲルが国際宇宙ステーションに曝されている状態となっている。

仮に、地球低軌道(高度400キロメートル)で微生物が検出されれば、地球上の生命が他の惑星へと移動する可能性があることを示す。つまり、生命は一つの惑星に閉じた存在ではなく、たんぽぽが綿毛で種子をとばすように、星を渡り宇宙へ広がっていく証左となる。

知的生命体がいる惑星の数

具体的なエビデンスや成果を紹介しながら、本書はドレイクの方程式を検証する。

ドレイクの方程式とは、わたしたちがいるこの銀河系に存在し、人類とコンタクトする可能性のある地球外文明の数を推定する数式である。それは、以下の値をかけ合わせたものになる。

  1. 人類がいる銀河系の中で1年間に誕生する星(恒星)の数
  2. ひとつの恒星が惑星系を持つ割合(確率)
  3. ひとつの恒星系が持つ、生命の存在が可能となる状態の惑星の平均数
  4. 生命の存在が可能となる状態の惑星において、生命が実際に発生する割合(確率)
  5. 発生した生命が知的なレベルまで進化する割合(確率)
  6. 知的なレベルになった生命体が星間通信を行う割合
  7. 知的生命体による技術文明が通信をする状態にある期間(技術文明の存続期間)

発案者のドレイクが1961年に推定した結果では、その地球外文明の数は「10」であった。本書では、最新のデータを用いて再計算したところ、その値は「90」になる。増えた理由は、技術革新によりの観測精度が上がったことと、ここ数十年で系外惑星(太陽系外の惑星)が爆発的に見つかったことによる。

常識を書き換えるアストロバイオロジー

昔は、地球こそが宇宙の中心であり、星々は地球の周りをめぐると考えられてきた。

なぜなら、神に選ばれたこの地球こそが、宇宙で唯一無二の場所だから。だが、そうではないエビデンスが続々と集まり、ガリレオやコペルニクスが地球が中心ではないことを明らかにした。

地球を、生命が誕生する唯一の場所と「みなしたい」気持ちは分かる。特に、「神に選ばれし人」という宗教や「人こそが生命進化の究極の存在」という文化に染まるほど、そんな気持ちになることは分かる。だが、そうではないエビデンスが続々と集まっている。ガリレオ以来なら、400年ぶりに歴史が書き換わりそうな領域、それがアストロバイオロジーである。

|

« 男子医大は憲法違反か | トップページ | エドワード・サイードの遺言『人文学と批評の使命』 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 男子医大は憲法違反か | トップページ | エドワード・サイードの遺言『人文学と批評の使命』 »