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ヒットする物語の作り方『SAVE THE CAT の法則』

『SAVE THE CAT の法則』 には、大ヒットする映画の法則と、それを適用する方法が書いてある。ベストセラー小説やゲームにおける、物語のベストプラクティスとしても使える。たとえば、

  • どんな映画なのか、一行(ログライン)で言えるか
  • 「マトリックス」と「モンスターズ・インク」は同じ映画
  • 全てのシーンに葛藤が必要な理由
  • 原始人でも分かる、原初的な感情や欲求に立ち戻れ

など、気づきが山のように得られる。目からウロコというよりも、見ていたはずなのに分かっていなかったことが、言語化されている

一行で心をつかむ

いちばん刺さったのが、「一行で言える?」である。どんなに優れたシナリオでも、説明するのが複雑すぎて、「一行で言えない」なら不合格だ。しかも、その一行でその気にさせなければならない

つまりこうだ。脚本であれ小説であれ、首尾よく書き上げたとしても、それを読んでもらわなければならない。そして、読んだ人が「これは傑作だ!」と思っても、それを他の人に伝えなければならない。さらに、伝えられた人が、読む気になってもらわなければならない。

映画や小説、アニメーション、ゲームなど、物語の媒体を作るには、大勢の人を巻き込む必要がある。商業ベースに乗せるには、さらに多くの人の手を経るだろう。それだけでなく、リリースした後は、その作品を楽しんでもらいたい観客がいる。

そうした人を動機付け、後押しするのがログラインになる。端的で魅力的なログラインのために、徹底的に考え抜けという。これ、物語だとキャッチコピーになるし、記事や論文ならリード文だね。小説やゲームのキャッチコピーを考えたり、記事や論文でリード文を練る際には、必ずログラインを何度も確認することになる。

さらに、創作が行き詰まり、キャラやシーンを扱いあぐねるときがある。増やすべきか削るべきか、あるいは変えてしまうべきかが分からなくなる。そんなとき、作者は必ずログラインに戻ってくる。ログラインは物語の背骨だ。「ログラインが無いと、物語にならない」とまで言っていい。

「マトリックス」と「モンスターズ・インク」の本質

衝撃を受けたのが、「マトリックスとモンスターズ・インクは同じ映画」のくだり。他にも、「エイリアンと危険な情事」や、「トッツィーとフオレスト・ガンプ」が同じ映画だという。キャラも設定も展開も違うように見えるのだが……

しかし、著者は、違うところを見ている。大量のタイトルが出回っていても、そのひな型となるものは限られている。見た目の違いに惑わされず、いつの時代でもストーリーテリングの本質は同じだという。紐解いてみると、昔ながらの使い古されたストーリーに、時代性が加わっているだけなのだ。

物語のひな型として、面白い名前が付けられている。「マトリックス」と「モンスターズ・インク」は、「組織のなかで」だという。つまり、新たな組織の中に入り、そこでの葛藤や成長を描いたものだ。「エイリアン」と「危険な情事」は、逃げられない状況で迫りくる危険として「家のなかのモンスター」と名づけられる。「トッツィー」と「フオレスト・ガンプ」は、「バカの勝利」なんだって。

もちろん、ひな型からはみ出る部分もある。だが、ある映画を観るとき、それは一体どんなひな型を元にしているのか? と考えると、「そのひな型をどうやってはみ出し、ひねりを加え、アレンジしているか」が見えてくる。この視点は盗みたい。

最重要なもの=葛藤

伝授してくれる様々な手法は、映画のシナリオだけでなく、物語づくりの根幹にも届く。

映画を構造化し、それぞれの要素を視覚的に表した「ビートシート」や、それぞれのシーンで何が起きてどうなるかを一枚にまとめた「カード」、キャラクターの設定で気を付けること、どの時点で何を伝えるか(あるいは伝えないか)、プロットの転換点はどう扱うかなど、非常に具体的で分かりやすい。

映画に特化しているものの、それぞれの手法において、ある1つの原則が貫かれていることが分かった。そして、その原則はそのまま「人が一番面白いと感じるものは何か」につながる。

それは、「葛藤」だという。

人はもともと、葛藤している人を見るのが好きだという。人間同士の葛藤の最たるもの(殺し合い)を模したものが、レスリングやボクシングになる。

葛藤は、「欲しい」「嫌だ」という方向を持っており、原始的な感情や欲求に裏打ちされている。原始的な欲求とは、「生き残る」「セックスする」「愛する人を守る」「死への恐怖」といった、時代や文化を超えた普遍的なものだ。そうした欲求が阻害されるとき、葛藤が生まれる。

たとえば、「目の前に迫る危険 vs.死ぬのは嫌だ vs. あの人を守りたい」とか、「落ちこぼれの僕だけどあの子と仲良くなりたいのにライバル出現」、あるいは「キライなあいつがなぜか寄ってくる」のように、欲求とそれを阻害するもの、どちらを取るのか、ジレンマといった争いやもつれになる。

物語を摂取する根本理由

乱暴にまとめるなら、人は葛藤を見たいので映画を観る。主人公が葛藤を克服し、欲求を満たすとき、観客は、一番基本的なレベルで共感できる。これが映画の快楽になる。主人公の葛藤をドライブするのがストーリーといえるだろう。

だから主人公は、物語の中で一番葛藤し、最終的に一番大きく変化していなければならないという。シーンをまとめたカードには、必ず何らかの葛藤が入っていなければならない(どんなに出来が良くても、葛藤のないカードは捨てろとまで断言する)。そのために、わざわざ「葛藤」を示す記号まで作っている。それぐらい重要なのだ。

ここ、小説の創作技法と同じだ。カート・ヴォネガットの指南で、「たとえコップ一杯の水でもいいから、どのキャラクターにも何かを欲しがらせること」を耳にしたことがある。何も望まず、嫌わないキャラクターなら、最初から登場しなくても良いということか。

ヒット作のリバースエンジニアリング

もちろん、こうした原則を守れば大ヒットすることが保証されているわけではない。監督や俳優など、ヒットを左右する様々な要因があるし、シナリオ通りに作られる保証なんてもっとない。

だが、大ヒットした映画のシナリオは、全てこの原則になっている。本書は、ヒット作のシナリオを理解・分解・再構築した、いわゆるリバースエンジニアリングによる指南本なのだ。

注意しなければならないのは、「メチャメチャ売れる映画」であること。個人的な好みは置いといて、映画としての出来も置いといて、「売れる/売れない」で判断すると、こうなる。

一行で心をつかむ、ひな型をアレンジする、葛藤をドライブするのがストーリーなど、映画に限らず、物語を作るうえで役に立つことが学べる。ずっと積読だったのを、ふろむださんに後押しされてで読んだら正解だった。ふろむださん、ありがとうございます。

ただこれ、読み込みすぎると、映画を観るときに分解する癖がついてしまうだろう。(ハリウッド)映画がもつ「面白さ」の完全なるネタバレ本でもあるので、もう二度と、あのワクワクするような気分で観れなくなるかもしれない。消費の側にいたいなら、手を出さない方が吉かも。

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