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ナチスのデザイン『独裁者のデザイン』

ニュースに接するとき、心の中でアラームが鳴るものと、そうでないものがある。

Dokusaisha

アラームが鳴ったものは、後になって、ニュースを装ったプロパガンダだったり、意見誘導のために歪められた情報であることが判明することが多い。100%ではないものの、おおむね信頼できる。

アラームが鳴るものと、そうでないもの。この違いは何だろう?

うまく言語化できなかったが、『独裁者のデザイン』にあった。

本書は、ヒトラー、ムッソリーニ、スターリン、毛沢東といった独裁者に焦点を当て、プロパガンダを駆使してどのように大衆を躍らせ、抑圧していったかを、デザインの観点から見直したものだ。

独裁者のイメージ戦略

デザインそのものには、右や左といった政治色や、善や悪などの道徳的な属性は存在しない。デザインとは、あくまで図案であり設計であり道具といったニュートラルな存在である。

しかし、デザインを利用する側の姿勢によっては、「謀る」という意味も発生するという。デザインは、人の心を一定の方向に動かし、奮い立たせることができる。また、その本質を形や機能と一体化させることで見えなくさせ、人々の日常に溶け込ませることができる。

つまり、デザインの使い方によっては、独裁者の本音を隠しつつ、人心を誘導することも可能だ。その具体的なイメージ戦略がこれだ。

同じ言葉やアイコンを繰り返す

たとえば、「同じ言葉やアイコンを繰り返す」デザインだ。

同じフレーズやヴィジュアルを、何度も過剰なほど繰り返す。敬礼や行進の仕方、制服などのスタイルを統一させ、それを何度も反復して行う。巨大なポスターや垂れ幕を、大量に連貼りして同じメッセージを伝える。

繰り返されるメッセージも、バカにしているのかと思えるほどシンプルな言葉を連呼する。ヒトラーの連呼で定番なのは、「ひとつの民族、ひとつの国家、ひとりの総統」だという。また、ヒトラーだと、「Ja」を連呼し、ムッソリーニの場合は「Si」を連打したとある(どちらも、「イエス」を意味する)。

他にも、イメージが統一された制服や勲章や旗、同じことを称賛するポスターや記録映画、整然たる隊列と行進、そして画一的な敬礼が紹介される。この「同じことを繰り返す」は、様々な宗教や組織において、教理や信条を刷り込み、グループと一体化するため用いられる、古典的な手法だ。

この刷り込みの手法は広告でもおなじみだ。判で押したように商品名や常套句を繰り返すことによって、他のことを考えさせないようにする。商品名だけではなく、「今からでも入れる保険」や「過払い金の請求」など、概念の連呼も効果的だ。テレビやSNSで単純すぎるメッセージが幾度も出てくるとき、何を考えさせないようにしているかを考えたほうがいいかもしれぬ。

こちらを凝視する

特に計算されているのは、「こちらを凝視する」デザインだ。

人は視線に敏感だ。2つの点に「目」を感じたり、暗闇や背後に視線を感じるのは、捕食者の存在をいち早く知るために発達した認知能力だという。その結果、凝視を向けられるとき、人は、否が応でも注意を引き付けられてしまう。

本書では、「モナ・リザ」や、アルブレヒト・デューラー、レンブラントの自画像を用いながら目ヂカラの効果を説明する。そして、様々な映像表現で凝視の力を利用することで、大衆の注意を引き付け、戦略的に不安をプロデュースしたのが、ヒトラーになる。

まず、大衆の不満のはけ口を逸らし、責任を転嫁するために敵をつくる。そして、敵の脅威を繰り返し刷り込むことで、大衆の不安を煽る。この、人の注意を引き付け、不安を煽るには、独裁者がこちらを凝視する視線が強力に働く。

ヒトラーはもういないが、アイドルから政治家まで、この手法は現役バリバリだ。まず、こちらを凝視することで、見る人の注意を引き付けることができる。そして、アイドルならドキドキさせ、政治家なら「このままでいいのか!?」と不安を掻き立てることができる。

つまり、こちらを凝視しているポスターや映像には、ドキドキや不安を煽り、そこに付け込みたい意図が隠されている。注意しなければならないのは、凝視するデザインが悪というのではない(デザインに善悪はない)。

わたしが、凝視するデザインから情報を受け取るとき、何かが掻き立てられているはずだ。そのドキドキや不安は、計算されたものだということを意識して扱いたい。

女性や子どもの使いどころ

もう一つ、本書で目から鱗だったのが「女性や子どもの使いどころ」だ。

勇壮なアイコンとして、成人男性がモチーフになる。若者だと力やスピード、壮年だと経験や安心感といったイメージを伝える目的で使われる。これが、女性や子どもを使う場合、お金を無心する意図が隠されているという。

常に敵を作り出し、その敵をただすための戦争をしかける独裁者は、資金を必要とする。強制的に調達するのは最後の手段として、できるだけ国民が自発的にお金を提供する形にしたい。このとき、女性や子どもに寄付を募らせるというモチーフが採用される。

表向きは、父や兄(など戦える男たち)は出征しているから、女性や子どもは節約してお金を集め、戦時公債を購入しようというメッセージになる。その背後には、女性や子どもが率先して資金集めをしているのだから、(老若男女に関係なく)払わねば、という気にさせる。

「金をよこせ」という生々しい欲望を、女性や子どもという緩衝材で包む。本書ではドイツ少女団(ヒトラーユーゲントの女子版)の事例が紹介されているが、今なら募金キャンペーンのキャラクターが女の子である理由やね。政治的メッセージが女性や子どものアイコンを通じて伝えられるとき、その背後に「お金」を探した方がいいかも。

デザインは人を支配する

繰り返すが、デザインそのものに善悪はない。ナチスと同じ方法でデザインをしているから悪ということではない。ナチスは、デザインが人を支配することを熟知しおり、その効果的な手法を古今東西のアートから利用したにすぎない。服飾から空間デザインまで、政治と芸術を合体させたイメージ戦略を統一し、運用することに成功した。

わたしは、そこから「デザインはどのように影響を与え、人を支配するのか」というメカニズムを学び、自分のアンテナに付け加える。次にニュースに触れたとき、わたしの心にどんな影響を与えるかを意図して作られているかを、そのデザインから読み取るためである。

REDなお、ナチス映画を通じてヒトラーのデザインに焦点を当てたものが、同著者の『RED』。プロパガンダの実践を垣間見ることができる。未来の(あるいは現在の?)扇動者のデザインを予習するのに適している。

デザインは人を支配する。その力から逃れるのは難しいからこそ、メカニズムを理解し、その意図を知っておきたい。

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辛すぎることは、向き合うんじゃない、やり過ごすんだ。『胃に穴』

わたしを支える言葉に、「開いた窓の前で立ち止まるな」という警告がある。人生は悲哀に満ちており、生きるに値しないと思うときもあるけれど、それでも生きていくためにはどうするか? そのコツが、この言葉だ。

このセリフは、ジョン・アーヴィングの2番目の傑作『ホテル・ニューハンプシャー』で知った。苦しみや悲しみが大きすぎて、生きていくのが辛いとき、真正面から向き合うのは得策ではない。まともに対処しようとするうちに、たまたま開いていた窓から出て、人生から降りてしまうから。

辛すぎることは、やり過ごす

そうじゃないんだ。辛すぎることは、向き合うんじゃない、やり過ごすんだ。

この、やり過ごす方法を教えてくれるのが、フミコフミオ氏の『胃に穴』になる(本当のタイトルはもっと長い)。理不尽な仕事での「怒り」の扱い方や、「正義」を強要する人との向き合う心得、あるいは非人道的な仕打ちを受ける結婚生活のしのぎ方が、経験談とともに紹介される。どれもめっちゃ笑えるが、笑う瞼の内側では泣けてくる。

たとえば、帰るギリギリになって面倒ごとを投げてきて、タイムオーバーか、諦めの「もういいよ」というセリフを狙ってくる部下。これ、上司が怒れない性格だと知ってやる悪質なやつ。わたしならバーンと怒ってやるのに!……とちょっとだけ思うが、たぶんやらない(やれない)。

こういう怒りを溜めておくと、どんどん苦しくなることは、経験的に知っている。ではどうするか?(答:夜半に電柱に怒る)……これ、わたしもやったことがある。毎晩同じ場所でやるとパトロールが来るので、時間と場所を毎回変えるのがポイントだ。

あるいは、正義を強要する人。気に入らない人を常時ロックオンして「あいつサボってる!」と非難する。自分の正しさを証明するために非難するだけでなく、「あいつ、マジでヤバくない?」と周りを巻き込もうとする。

そんな、人の行動のいちいちが気になり大騒ぎする人をどうするか?(答え:露骨に無視する)……これは成功して無さそうだが、「正義」酔いして我と時を失わずに済む最良の方法だと思う。

開いた窓の前で立ちどまらない

悲哀にまみれたエピソードの一つ一つに大笑いするが、ひっそり埋め込まれた一言一言が、中年のおっさんの胸にグサリと突き刺さる。

  • 「結婚はいいものだ」と言ったのは、そう言わなきゃ結婚なんてやってられないから
  • 「正義は我にあり」と信じ切っている人ほど信じがたい行動に出る
  • 他人なんてどうでもいい。大事なのは、自分の人生のジャッジを他人に委ねないこと
  • 人生のすべてで勝つことはできないからやり過ごすようにしよう。やり過ごすための言い訳は武器だ。

どれもこれも突き刺さる。「きっつー」なんて揶揄して言わないと、大きすぎる苦しみと、まともに向き合うことになる。そのとき、開いた窓の前で立ちどまってしまったら、人生を降りることになる。

人生を立ちどまってもいい。そんなのしょっちゅうだ。だが、開いた窓、通過する総武線快速、新宿NSビルの吹き抜け、そこで立ちどまってはいけないのだ。

そうしないために、『ぼくは会社員という生き方に絶望はしていない。ただ、今の職場にずっと……と考えると胃に穴があきそうになる。』をお薦めする。

Bokuha

 

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「読んでない本・観てない映画・積んであるゲーム」について語ろう

「読みたいのに読めない本」ってないだろうか? 

私はある。よさそうなのは分かってる。有名人がお薦めして話題作だし、新刊で買ったし、今でも積読山のてっぺんに居るし。

でも、なじみの薄いジャンルだったり、思ったより歯ごたえがあったり。一通り目を通してみたものの、イマイチ自分に合わなかったり―――そんな本や映画、ゲームがある(実はたくさんある)。

今回は、そんな「読んでない本・観てない映画・積んであるゲーム」について語ってみよう。本でもマンガでもなんでもOK、積みDVDだけ語るのも良し、あなたの「気になるけど未プレイ」を存分に語ってほしい。

いつもは、推しの本を持ち寄って、まったり熱く語り合うオフ会だけれども、ちょっと趣向を変えて、「これ読めていないけど、手を出しにくくて……でも読みたいんだよね。どうすればいい?」というテーマで語り合おう。

 日 時  11/10(日) 13:00~17:00
 場 所  渋谷某所
 参加費  2千円(軽食・飲み物を出します)
 テーマ  気になるけど読んでない(観てない)作品を紹介する

いろんな趣味の人が来るから、「それに手を出す前に、これ読んでおくと(観ておくと)入りやすいかも……」的なアドバイスが得られるかも。あるいは、「あるある! やっぱりそれ合わないよねー」みたいな慰め会になるかも。

というわけで、合わないけれど、気になる本、映画、ゲームを持ち寄って、皆でお薦めポイントを考えよう。

ちなみに、わたしは「ビル・ゲイツが絶賛する本」について語るつもり。「ビル・ゲイツ絶賛」といっても本人は読んでいない疑惑や、なぜ多くの人がビル・ゲイツ絶賛本を買うのかについてお話しする。

詳細と参加申し込みはスゴ本オフ:[合わない本をお勧めする]をどうぞ。facebookアカウントない人は、twitter [@Dain_sugohon]で参加表明してください。オフ会の雰囲気や流れは、[オフ会の流れ]か、右側の「過去のスゴ本オフ」をどうぞ。

Yondenai

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