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『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』がいかにスゴいか、このブログを例に説明する

ふろむだ(fromdusktildawn)氏が、スゴい本を出してきた。

「悪魔の書」かつ「賢者の書」

 これを「悪魔の書」という人がいるが、激しく同意する。なぜならこれ、知らないほうが幸せだったかもしれないことが書いてあるから。あれだ、「力が欲しいか?」と問われて求めた結果、知らなくても良い世界に気づいてしまうから。

 その存在すら知らないまま、普通に穏やかに生きるほうがよいとも言える(知らぬがホトケやね)。「なぜアイツが出世するんだ!?」「どうして私が認められないのだろう?」という現実から目をそらし、ささやかな慰めを見つけ出し、折り合いをつける。そんな平穏を求めるなら、本書を読んではいけない。「アイツが出世&実力をつけていく理由」「私が認められにくい理由」が、これ以上ないほど、ミもフタもなく書いてあるから。

 一方でこれ、万人が読んだほうがいいのかもしれない。なぜなら、自分がどのように騙されているかが、これまたあからさまに書いてあるから。「騙す」というネガティブな言い回しを使ったが、嘘を吐いて陥れるような意図はない。どうしてもそう考えてしまう「人の思考パターン」の仕様が明らかにされている。

 これは勉強ができるとか仕事ができるとかに関係ない。コーラを飲んだらゲップが出るぐらい確実に、そういう風にできている。いわば人の仕様がそうなっているのである。この仕様バグを衝くことで、自動的にそう勘違いしてしまうのだ(本書ではこれを、「脳のセキュリティホール」と呼ぶ。言いえて妙なり)。

 これを悪用して、あなたを「騙そう」とする人もいる。だが、騙された人は、騙されていることに気づかない(ここがおぞましい点)。あなたがそうならないために、この仕様バグを把握することで、賢く生きてほしい。その意味でこれ、「賢者の書」とも言える。

「実力」と「錯覚資産」

 煽りぎみのタイトルと、人を食ったような表紙、ブログ「分裂勘違い君劇場」まんまのの語り口で、どんどん読めてしまう。挑発的なモノ言いなので、カチンとくるかも。それで本を投げ捨てるならもったいない。

 なので、これは強く言わせて欲しい。残念ながら世の中は、実力主義になってないが、ふろむだ氏は、「実力なんてどうでもいい」なんて、一言も言っていない。ハッタリの重要性を強調するあまり、そう誤解してしまうかもしれないが、あるものに秀でていると、全体的に優れているかのように錯覚してしまうのは事実である。

 もちろん実力も重要だが、時としてそのブランディング(による錯覚)の方が大事だったりする。この錯覚こそが、進化の過程で仕込まれた人の仕様バグであり、上手く運用することで、他者から勘違いされる価値(錯覚資産)を大きくすることができるという。

3行でまとめる

 本書は、行動経済学や認知心理学的の最新の知見を元に、この「錯覚資産」を最大化する方法を解き明かす。ふろむだ氏のブログで序盤が公開されているので読んでほしい。3行にまとめるとこうだ。

  1. 器が人をつくる
  2. その器に入るのは運
  3. その運の運用も含めて実力のうち

 「器が人をつくる」は、ビジネスの世界によくある「ポストを与えるとその役職にふさわしい能力を身に着ける」と解釈される。だがこれは、その先がある。

 たとえば、「CEO」や「教授」といった肩書に引っ張られ、他の属性も底上げされるハロー効果がスタートだ。本来の実力以上の評価を集め、それに見合うだけのストレッチをした結果、「実力+アルファ」が伸びることになる。そこから(見かけの)評価が高まり、さらなる実力の底上げが為される。

 つまりこうだ。「実力+錯覚資産」の評価を集めるものは、もっと評価を集め、評価が集まることにより、実力がつき、錯覚資産も併せて大きくなる。いわゆるマタイ効果(持てる者はもっと持てるようになる)やね。「器が人をつくる」を分解すると、ハロー効果とマタイ効果になる。2つの相乗により、「実力+錯覚資産」は雪だるま式に膨らんでゆく

 その器に入るのは、確かに運である。肩書を与えられるとか、多数の注目を得る、特定の業績に高い評価をもらうというのは、実力「だけ」ではままならない。もちろん実力を培うことも重要だが、その実力をいかにプレゼンするかによって、運をコントロールすることもできる。ふろむだ氏は、この「運の運用」を口を酸っぱくして述べる。

「錯覚資産」の悪用例

 具体的な運の運用については本書に譲るが、人の仕様バグを利用することで善にも悪にも応用可能であることは覚えておくべきだろう。読みながら、わたしは最近ハヤリのキーワード「教養」と「死にたくなければ」を思い出した。

 現在、(ある程度)自由になるお金を持っている人が反応する言葉である。どちらも、売りたい本や雑誌のタイトルに挟まっているトレンドワードだ。これを「元CEO」とか「内科医」という肩書と一緒にプレゼンすることで、評価と注目を集めることができる(=潜在顧客の母数を増やすことができる)。

 まず、「教養」は、「ビジネスリーダーに求められる教養」とか「人生を豊かにする教養」といった形で使われる。人間関係を円滑にしたり信頼関係を築くためのツールとしての教養なんだって。「それ、ただの雑学とか豆知識じゃね?」と言ったらオシマイだが、本を読む人の自尊心をくすぐってお金を出してもらうマジックワードは、「教養」らしい(ひと昔まえの「大人の~」と同じ穴の狢やね)。

 次に、「死にたくなければ」は切実である。加齢による身体の不調、痴呆や寝たきり生活への不安、さらには死の恐怖を先延ばしするため、何か健康的なことを始めたい。だけど、なるべく簡単にお金をかけずに済ませたい。そんな高齢者に向けて、千円ちょいで健康法を売りつける。「〇〇するだけ」「テレビを見ながら」を併用するとなお良し(ひと昔まえの「デトックス」「マイナスイオン」と一緒)。

 重要なのは、「教養」を振りかざす人が、必ずしも高い教養を身に着けているわけではないことと、「死にたくなければ」と脅す人が、健康的な生活を送っているとは限らないことである。ただし、「勘違いさせる力」だけは評価するべきだろうね。

「スゴ本」という「錯覚資産」

 ただし、わたしも他人のことばかりは言えぬ。振り返ってみると、わたし自身、この「錯覚資産」を用いてきたことが分かる。

 現在、「書評家」という肩書きで評価していただいているが、そもそもこのブログ、始めたころはプリキュア日記だったし、脳内ダダ漏れの作文だったwww 噴飯&赤面モノで、とてもじゃないが読めたものではない(それでも公開しているのは、10年でかなりマシになるという証拠のため)。

 公開すると、何がしかのレスポンスがある。それを受けて選書の範囲や読む深さを変えて、その結果をブログにフィードバックする。このくり返しで、ずいぶん「実力」は培われたけれど、知名度はイマイチだった。態度だけ尊大で、ゴミみたいな書評を並べた「本」が堂々と書店で売られているのを見ると、「なんでコレが売れるんだろう?」と不思議に思ったものである。

 その秘密が分かり始めたのは、「東大教師が新入生にすすめる100冊」というシリーズである。もとは、東京大学出版会が毎年春に行っている、「新入生に薦める本」というアンケート企画で、過去何十年という蓄積がある。これをデータベース化して重み付けして、ランキング形式にしたら面白いんじゃなかろうか、と考えた。

 これが大当たりした。たくさんの人が訪れて、この記事を読んでくれたのである。さらに、「東大教師が新入生にすすめる第1位」になった本の出版社から、帯の推薦文のオファーが来たのである。これはものすごい宣伝になっていると思う。

 わたし自身の好奇心から始めた企画だが、東大というブランドを利用することで、このブログの知名度を上げたことになる。読者数の増加に伴い、コメントの数も飛躍的に増えた。そのお薦めを読み、ブログに書評して、そこからさらにコメントをもらい……という正のフィードバックループを繰り返すことにより、読者と、書評を充実させたのである。このフィードバックはまさに雪だるま式で、読めば読むほど、書けば書くほど、たくさんの人に読んでいただいた。

 そして、自分で作った東大教師のお薦めリストを消化していくうちに、その器に沿って、わたし自身が成長したことも強調したい。以前なら手に取らないどころか、存在すら知らなかった名著名作に、積極的にチャレンジしていった。結果はごらんの通り、「器が人をつくる」は正しかったのである。

 もちろん、この企画を実現するだけの「実力」はあった。だが、それを大きく見せる「東大ブランド」のおかげで、何かしらの「権威」のようなものがついたのだろう。「東大教師のお薦め」シリーズはずいぶん前に止めたが、雪だるま式に膨れ上がった評価は残っている。このブログに書かれるものは、一種の下駄を履いた状態となっているのである(それに驕らないよう、広く深くえげつなくしている)。

 そして、この錯覚資産を悪用することも可能だ。

 たとえば、本を紹介する口調を尊大&断定的にするのである。あるいは、あちこちで書いてきたライターの実績や著作物を前面に出すことで、「権威」を強調することができる。これは良い、これはダメ、とバッサバッサ判定していくのである。「PVを集める書評の書き方」をオブラートに包んだタイトルで有料でセミナーを開いたり、情報商材化してもいい。こうすることで、錯覚資産を現金化したり、さらに増やすことができる。

 しかし、そうした尊大な書評家はお呼びじゃないだろう(わたしも苦手である)。本は、それと出会ったときの状況により評価が変わる。それを斬捨て御免することは無理がある。ここでは、わたしが本当に好きなもの、気に入ったもの、スゴいと撃たれたものを紹介したい。

 もちろん、「スゴ本」という錯覚資産は大きくしたいが、その目的はハッキリしている。それは、未だわたしが読んでいない本、存在すら知らない、けれども凍った心に一撃を加えるような本に出会うため。その本は、わたしは未だ知らない。だが、きっとあなたが読んでいる。そんな本に出会うためである。

 そんな凄い本を書いてくれて、ありがとう、ふろむだ氏。

Furomuda


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料理は「火入れ」で上達する『から揚げは「余熱で火を通す」が正解!』

 こういうのが欲しかった料理本。

 一人暮らしの自炊から始めて、所帯を持ち、家庭料理もやるようになって20年。本やネットを参考に、自己流で試行錯誤をしてきた。クックパッドは有料会員でないと無意味なことも分かっているし、[白ごはん.com]だと、レシピと技が一緒に身につくことも知っている。

 自己流で得た極意は、「料理は下ごしらえが全て」だ。道具や調味料にこだわりを求めるのもいい。だが、美味しさを引き出すのは、捌いたり切ったり下味をつける「下ごしらえ」にあることに気づいた。おかげでずいぶん上達し、今では「いかにあり合わせで美味しいものを作るか」とか「洗い物を最低限かつ料理が終わった時点で最小限」といったテーマを追求している。

 それでも課題はある。レシピ通りに作ったのに、イマイチなのはなぜか? 

 たとえば「から揚げ」。一口大に切った鶏肉に衣をつけて揚げる。切りかたや衣の配合を色々と研究したが、すごく美味しくなるわけではない。

 あるとき「二度揚げ」を知った。やってみたところ、本当に「外はカラッと中はジューシー」になったので驚いた。そしてポイントは、「二度揚げる」というよりもむしろ、「いったん油から出して余熱で火を通す」点であることを理解した。

 この「余熱で火を通す」こそが重要で、から揚げだと「二度揚げ」というし、ステーキだと、「火から下ろして肉を休ませる」とレクチャーされる。そうすることで、外はこんがり、中はジューシーとなる。いつもの食材、いつものレシピなのに、「火入れ」に意識的になるだけで、驚くほど美味しくなるのだ。

 本書は、いつもの料理を劇的においしくする「火入れ」に特化する。調理のどのタイミングで、どのように火をコントロールするか、そのときの食材はどのような状態となっているかを、細かく解説してくれる。そして、「火入れ」を確実にするために、どのように「下ごしらえ」をすればよいかまで書いてある。これは嬉しい。

 たとえば、レシピ通りに作っているのに、上手くできない、ということはないだろうか。「中火で5分」とか「180℃で3分」とあり、その通りにしているのに、肉や魚がパサついてしまうとか、逆に外は焼きすぎなのに、中まで火が通っていないという失敗だ(わたしはよくやる)。

 本書では、「レシピに縛られ、素材の様子をよく見ていないから」だと喝破する。レシピの時間や温度は、あくまでも目安にすぎない。食材の温度や大きさ、調理器具のサイズや室温などで、いくらでも変動する。火入れによって食材がどう変化していくか、自分の五感をフル活用して感じ取れというのである。

 そして、「〇分たったらどうする」ではなく、「どのような状態になったらどうする」という感覚をつかめという。もちろん食材やレシピによって、火の入れ方は違う。できあがりをイメージしつつ、火をコントロールすることが肝要だという。

 ハンバーグからトンカツ、親子丼や角煮といった定番料理を取り上げ、大きく2段階に分けて解説する。まず、「ありがちな失敗は、どこに起因しているか」を説明し、次に「解消するための火入れのコツ」をプロセスごとに紹介する。

 から揚げでいうなら、ありがちな失敗は「肉がパサパサ」「衣がべチャッと」「焦げているのに中は生」がある。これらは、いったん油から出し、じんわり余熱で火を通すことで解決する。

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 この「余熱で火を通す」とは、具体的に肉がどのような状態になっているときに、どうすればよいか、そこまで書いてあるレシピは少ない(せいぜい、3分揚げたらバットに取って2分休ませるぐらい)。余熱の前後で、どのように火が入っているか、さらに余熱を活かして料理するにはどこに注意を払えばよいか、ここまで詳細に説明しているのはありがたい。

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 他にも、目からウロコの火入れの技がぎっしりとある。以下のヒントで「!」となるなら、きっと得るもの多いはず。

  • 「炒める=具材の表と裏を焼くこと」だから、フライパンを振っても意味がない
  • 炒め物はフライパンの上でつくるサラダ(予め調味料を油で炒めることで、味の付いた油をつくる)
  • フライドポテトは冷たい油からじっくりと、揚げるというより煮る感じ(温度が上がっていく過程でポテトの水分が出ていく)
  • 豚しゃぶは入れたら火を止めろ(肉のタンパク質は65℃で固まる)。うっすらピンクで取り出して、冷ます過程で火を通す

 「焼く」「炒める」「揚げる」「煮る」「ゆでる」ごとに、定番料理が30品並ぶ。重要なのは、これらを通じて「火入れ」をマスターすることで、他の料理も同様に上手くなること。料理のレパートリーを増やすのではなく、今ある料理の腕を上げる。これは有り難い。

 レシピ通りに作っているのに、イマイチだと感じ始めたら、それは「火入れ」で解決するかもしれない。ぜひお試しあれ。

Yonetu3


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