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人生を変える新書『はじめての新書』

 すばらしいブックリスト。無料で手に入るので、書店へ急げ。

 好奇心の入口であり、探究心の糧であり、分野を俯瞰する丘である新書は、多種多様多量に渡る。そんな中から、何を読めばよいか、どのように選べば良いか、コンパクトにまとまっている。ここでは、以下についてまとめてみよう。

 1. 本を探すだけでなく、人を探す
 2. 人生を変える新書
 3. 自分にぴったりの新書を探す方法(山本貴光流)
 4. 効率よく新書を読む技術(松岡正剛流)
 5. わたしのお薦め新書

Hajimetenosinsho


1. 本を探すだけでなく、人を探す

 重要なのは、「本」だけではない。作家、学者、編集者、著名人のなかでも名だたる読み巧者たちが「この新書を読め」と推してくる。そうした「人」のリストでもあるのだ。

 やり方は簡単だ。

 タイトルや紹介文から、気になる新書を推している「人」を選ぶだけ。すると、自分の興味を同じくする「人」のリストができあがる。そして、メディアの書評や twitter などのタイムラインでその「人」を追いかけることで導かれる本は、自分の知らないスゴ本である可能性が高い。

 これは、本を探すだけでなく人を探すリストでもあるのだ。

 そんな目で見ると、本書の面白い読み方ができる。岩波新書の創刊80年を記念した「図書」臨時増刊号だから、岩波に目くばせして、EHカー『歴史とは何か』や丸山真男『日本の思想』ばかり目に付く。そんな定番は誰かがお薦めしているだろうと、選者にとっての「思い入れ」を推す人こそが狙い目である。

 というのも、実は昨年、岩波文庫創刊90周年を記念して、似たような企画があったのだが、岩波文庫縛りだった。結果、誰もがよく知る「ど定番」ばかりで参考にならなかった。しかし今回は、岩波に囚われず、「新書」であるならなんでもOKということで、実にさまざまのレーベルが揃っている。


2. 人生を変える新書

 種々雑多と言っていいほどの中から、強い思い入れのある本を推す「人」を選んでいくと、あの薄くてスリムな新書が、人ひとりの人生を変えてしまうことがあることに気づく。

 それは、人生のターニングポイントを切り替えてしまうきっかけだったり、現在でも続く信念を築き上げてしまう一冊だったりする。

 たとえば、p.18にある坂井豊貴氏にとっての『自動車の社会的費用』(岩波新書青)。この一冊は、「運転免許をとらない」という方へ、彼の人生を変えてしまった。なんとなく免許をとらないではなく、積極的にとらない生き方にしたのである。『自動車の社会的費用』は、クルマが社会全体にかける負荷を「社会的費用」の概念でとらえ、クルマ社会と、それを安易に受け入れる人々を、痛烈に批判している。

 これ、すごく分かる。わたしも影響を受けた一人だった。しかし、「運転免許をとらない」という生き方はできなかった。交通事故や環境破壊など、社会に対し甚大な影響を与えるクルマに対し、その利便性を採ったのである(クルマの社会的費用が低すぎることは承知の上で)。

 あるいは、p.70の読書猿さんにとっての『認識とパタン』(岩波新書黄)。プログラミング少年だった時代に最初に読んだ新書だという。パターン認識の入門だが、機械学習の限界を示す「醜いアヒルの仔の定理」をきっかけに哲学科に進むことを決めたという。

 なにそれ気になる! 科学的・数学的な基礎付けにより、知覚の本質を定義しなおす「認識論」は、スリリングでめっちゃ面白いはず。渡辺慧『時』から辿ってみよう(ちなみに『認識とパタン』は結構な値がついているので復刊してほしい)。


3. 自分にぴったりの新書を探す方法(山本貴光流)

 人のお薦めではなく、「わたしの」好きな新書を読みたい。そんな方にとっての新書の探し方は、p.22の山本貴光氏が紹介している。

 それは、「目録を座右に」だという。漠然と興味のある分野を探り→絞り→特定するには、目録(特に紙版)を眺めるのが一番になる。文字通り、自分の好みを「見」極めるわけである。手元に置きたい目録はこれ。

  • 岩波新書(岩波書店)
  • 文庫クセジュ(白水社)
  • 中公新書(中央公論)
  • 講談社ブルーバックス(講談社)
  • 講談社現代新書(講談社)
  • センチュリーブックス人と思想(清水書院)
  • ちくま新書(筑摩書房)
  • 平凡社新書(平凡社)
  • Very Short Introduction(オックスフォード大学出版局)

 これに、書籍として『岩波新書の歴史』と『中公新書総解説目録』を入れるのがよろしいという。「Very Short Introduction」は丸善の「サイエンス・パレット」か、あるいは紀伊國屋「一冊でわかる」シリーズの両面から追うのが吉。


4. 効率よく新書を読む技術(松岡正剛流)

 他と異なり、新書ならではの特徴を活かした読み方がある。p.32の松岡正剛氏がアドバイスしている。

 それは、目次にある。新書には、章立てとは別に「小見出し」が数多くついている。これが役に立つという。ほとんどが編集者の手によるものだが、その節なり章なりを、できるだけ短い言葉で表しているため、そこをチェックするだけで中身がだいたい把握できるようになっている。松岡氏はこういう。

ぼくは本文をぺらぺらめくる前に、たいていは目次をしばし眺め、漠然としたスコープが俯瞰できたところで、次にこの「小見出し」をさあっと追うようにしている。それで関心が薄くなるようだったら、そのままうっちゃっておく。読書は打ち切ったり、捨ておくことも重要なのだ。

 小見出しのさっと読み、わたしもよくやる。図書館や書店だと、これができるのがありがたい。じっさいに本を借りる/買う前に、その内容とお見合いをするのである。

 そこは編集者も承知しており、問いかけ形式の見出しで目次を作っているのもある。「答えは(買ってから)本文を読んでね」という意図だろう。だが断る。答えを見ちゃう。そして、そこで新たな発見に出会えるなら、そこでようやく財布の紐を緩める寸法なり。


5. わたしのお薦め新書

 せっかくだから、わたしのお薦めをご紹介。

『ナウなヤング』 杉元伶一著/水玉螢之丞イラスト(岩波ジュニア新書)

 新書といえばコレでしょ! というぐらい強力にお薦めしたい。

 「ナウい」「ヤング」なんて死後wwwいや死語wwww30年前の「新書」だから、これっぽっちも新しくないと思うだろ? でも手にとると分かる。これ、「いま」を描いていることが。「恋愛」「夜ふかし」「バカな学生」といったテーマで、「いまどき」の若者が何を考えて生きているのかが見えてくる。人のことを聞けない、前を見て歩けない、自分語り大好きな「うけつけないひと」の件は爆笑するはず。

 そして、30年前だろうと、「いま」だろうと、若者は全く変わっていないことが分かる。紀元前400年前の「若者」は慎みや節制を知らぬと言われていたし、1970年代の「若者」は当事者意識が完全に欠如していると言われていた。「いまどきの若者は……」と文句いうオッサン/オバサンがいたら、そっと渡すべし。そんなオッサン/オバサンが若かりし頃の生態を写し取ったものだから。

 「年年歳歳花相似たり 歳歳年年人同じからず」という言葉は、「若者」がふさわしい。水玉螢之丞の若者のイラストがいい味出しており、どの時代の「いまどきの若者」らしく見える。

『人はなぜ物語を求めるのか』 (ちくまプリマー新書)

 これ、生きづらいと思っている人に届いてほしい新書。入口は物語論なんだけれど、人の仕様にまで掘り下げており、「なぜ人は憎むのか」「その怒りはどこから来たのか」を見直すきっかけになるかも。この意味で、カーネマン『ファスト&スロー』よりも優れている。人生に物語が必要なのは、不条理すぎる現実に「わたし」を壊させないため。物語は、いわばセーフティ・ネットなのだ。

 人は世界を「ありのまま」に理解することはできない。断片的に入ってくる情報を元に関係性(特に因果関係)を求めてしまい、世界を理解したいやり方で理解しようとする。「人は見たいものしか見ない」と同様、「分かりたい」欲望によって事実は都合よく取捨選択されているのである。

 これに自覚的になることで、いま抱えている感情―――辛さや憎しみ、怒り―――を引き起こしている因果関係の恣意性に気づくかもしれぬ。これは一種の残酷な話かもしれぬ。なぜなら、そうした怒りや憎しみもひっくるめて「わたし」を構成しているのだから、気づくことは、それを外的なものとして再発見する(≒捨てる)ことにつながる。

『科学と宗教』Thomas Dixon(丸善サイエンス・パレット新書)

 「世界を分かりたい」欲望を歴史から振り返ると、科学と宗教が浮かび上がってくる。

 科学と宗教は対立するものとして見られがちだが、そうではなく、むしろもっと根が深い。「正しいか、正しくないか」ではなく、争点が「政治」にあることが問題になる。定番のテーマであるガリレオ裁判、進化論に対する理解の変遷、そしてID(インテリジェント・デザイン)説をめぐる論争や、ドーキンスの利他性の問題を採り上げ、科学哲学と宗教的含意の議論をまとめている。

 歴史の俎上に乗せてしまうと、科学と宗教は驚くほど似通っており、対立というよりも、補完・強化する関係になっていることが分かる。先進的な科学者v.s.保守的な教会という構図はドラマティックだが、現実は違う。どちらも頑迷さと寛容性があり、どちらにも知的探究心と真実の尊重、レトリックの多用、国家権力へのすりよりといった側面を見ることができる。

 「宗教なき科学は欠陥であり、科学なき宗教は盲目である」と言ったのはアインシュタイン、両者は対立するのではなく、並走してきた。宗教が示す物語から、科学が描く物語により、世界を理解していることに自覚的であるために読むべし。

 『はじめての新書』には、あなたの人生を変える新書がある。それが何かは、あなたの自身の目で探してほしい。

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