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リアル読書会の良いところ4つ(リチャード・パワーズ『舞踏会へ向かう三人の農夫』読書会)

 やはりリアルの読書会が面白い。

 もちろん、ネットだとつながりやすいし時空間の制約もない。ハッシュタグや検索文字で、新しい書物や読者との出会いも可能だ。だが、現実で本を片手に丁々喧々するのが楽しい。辛辣な批判から最大限の賛辞まで、感情を共有できるし、顔をつきあわせているから炎上ネタもフォローしやすい(顔色・声色・身ぶりは大事)。ネットだと絶対いえないことも、でっかい声で言える(ヒンシュクは買うが)。

 リチャード・パワーズのデビュー作にして傑作の、『舞踏会へ向かう三人の農夫』。実はこれ、ずーっと積読山に刺さってたんだよね。出たばかりのころ、読んだ人が絶賛しまくっていたので、我もと手を出したのはいいけれど、読み進められず放置プレイのまま幾年月。

 なぜなら、ストーリーラインが複数あって、追いかけるのが大変だったから。時間も空間も異なる3つのストーリーが、表紙の「三人の農夫」の写真を軸に、ズレがだんだんと重なり合い、ゆらぎながら再現させる構造になっている(そこに気づく前に投げていた)。

1. 必ず読める

 だが、読書会の課題図書ともなれば積んどくわけにもゆかぬ。期日という締め切りにあわせて、手に取らねばならぬ。もともと読むつもりでいたのだから好都合なのだが、「いつでも可」だとなかなか始めることもかなわない。そういう、お尻を押してくれる意味でも、ありがたい。

 あちこちに散らばる、似たような名前、セリフ、言葉遊びに気づくと、「あッ」「わッ」と小さく叫びながらの読書になる。あるところで、ストーリーと語り口(ナラティブ)と物語構造がハマり、一気に眼前が広がり、「そうだったのかッ!」と立ち上がりたくなる瞬間がくる(ここがパワーズの醍醐味)。

 それも束の間、完璧な瞬間は別のナラティブに飲み込まれ、物語は完全には成立しない。解釈の余地を残しつつ、三人の農夫を「見る=見られる」関係が、この小説の「読む=読まれる」関係に引き継がれ、物語るというバトンは読み手に委ねられる。この「読み」は、[『舞踏会へ向かう三人の農夫』はスゴ本]にまとめたが、これこそが「正しい読み」だと確信し、勇んで参加する。

2.ネットだと炎上ネタがOK

 ところが、どこにも「正しい読み」なんてないことを思い知る。

 わたしが読んだリチャード・パワーズは、『三人の農夫』と『囚人のジレンマ』だけである。だが、他の作品を読んでいる人からは、「若書きで荒削りで、(意図せざる)ミスリーディングを引き起こしている?」という疑いや、「仕入れた知識を喜々としてひけらかす大二病が痛い」、「話が飛びすぎて追えない箇所がある」、あるいは「ピンチョンに似せているけれど、ピンチョン度が足りない」という発言に出会う。辛辣なり。

 わたしが「これだ!」と思ったところは、実は穿ちすぎだった可能性もある。良かった、すばらしかったという他人の評価をありがたがるというわたしの悪癖から、そういう目で読み始めてしまう。しかし、リアル読書会に参加する人は違う。どんなに評判が良くても、「私に合わないから合わない」とダメ出しをする。分かったフリをせず、むやみにありがたがらない。ネットでやると炎上しそうな発言も、リアルならできる。そういう意味で、村上春樹について色々と話し合えて、よかったナリ。

3.ネタバレOKどころか歓迎

 さらに、全く別の観点からの「読み」のヒントがもらえる。『三人の農夫』の隠れたテーマとして、「プリントとオリジナル」がある。ベンヤミン『複製技術時代の芸術』をネタに、写真のプリントと絵画のオリジナリティについて考察をしている。あちこちに「プリント」のヒントが埋まっているが、わたしが気づかなかった視点を教えてもらえた。それは主人公の一人、ピーター・メイズが編集している雑誌である。半導体技術の業界紙であることは知っていたが、「半導体はプリント技術である」ということまで考えが及ばなかった! 言われてみれば確かにそうで、これを念頭に再読すると、また印象が違ってくるだろう。

 こうした読みのヒントが得られるのは嬉しい。同様に、「この物語を妄想しているのは誰か?」を登場人物の中に求めると、さらに驚くべき読みができることを教えてもらう(アリスンに空目した富豪の爺さんの妄想だったり、強制収容所で正気でいるために妄想した世界だったり、いわゆる「ゾーンに入る」やつ)。わたしも似たようなことを考えたが、それが構成として作られたものなのか、あるいは作者の力量が届かず半端になっているかは議論の余地があるが、面白い。さすが読みの猛者、「面白く読む」ことに貪欲になるためのネタが容赦なく出てくる。みんな読んできているから、ネタバレOKどころか歓迎だからね。

4.「この一冊」という軸がある

 他にも、「20世紀は暴力とメディアの世紀であり、メディアは戦争によって成長した」というメディア論や、「銀塩写真が高価だった100年前とは異なり、今は好きなだけ撮ってネットで共有する時代だから、また別の”複製技術時代の芸術”論ができるのでは? GoProとか実況とか」などなど、作品から引き出される様々な発想が出てくる。一つの作品という基盤があるから、どんなに広がってもそこへ戻って収束できる。

 そして、一冊が決まっているから、それを基準にお薦めが広がる。戦争文学に振れるならカロッサ『ルーマニア日記』だし、20世紀を概説するポストモダン文学に振るならパトリク・オウジェドニーク『エウロペアナ』、科学や歴史といった幅広エピソードの堆積を限界まで進めるならピンチョン全般など、「それが好きならこれなんてどう?」といった形で世界が広がる。課題図書という軸があるから、一人で彷徨うよりも確かである。まさに、わたしが知らないスゴ本を読んでるみなさんから直接オススメを受け取れる。

まとめ

 積読していた本に手を伸ばさせ、ネタバレも炎上ネタも歓迎され、辛辣な意見も直接フィードバックできるリアル読書会、たいへん面白かった! 二次会は、とても大事なことを一生懸命しゃべっていたような気がするのだけれど、ネパールビールでほとんど覚えていないのが辛い(確か……文学の救済について?)。読みたい本がぐんと増えたけれど、なかでもフラナガン『奥のほそ道』はぜひとも読みたい。

 主催のおおたさん、参加された皆さま、ありがとうございました。

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