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本棚を見ると興奮する『ニッポンの本屋』

 楽しい話をしたいので、本屋の話をする。

 本屋というのは面白いもので、さまざまな「並べ方」や「ディスプレイの仕方」をしてくる。これ、本屋にとってまちまちで、店主(棚主?)のポリシーみたいなのが透け見えて愉快になる。「おお、この本とその本を並べるのか!? あえて!」とか「なぜこの棚にそれを置く……そうか! そういう意味か」なんて呟きながら棚をめぐることになる。

 最近一番笑った棚がこれ。下北沢のB&Bな。

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 パッと見ると、「食」にまつわる様々な本が並べられている。レシピや食材の歴史や、料理と文化の関係を書いた本だ。フレーム外に、「食べる」にまつわるコミック&コミックエッセイ、料理の科学などが並んでいた。フィクションとノンフィクションの混ざり具合が絶妙で、いい棚だなーと眺めてたら驚いた。左端に着目してほしい。非常に面白い「食材」を見つけられただろうか。

 これ、棚を見る人の目線の動きまで計算して差してある。棚差しするほとんどの本のタイトルはタテ書きだから、そいつを見る人は右上から左下に向かって視線を動かす。その動きはタテ書きの目次や文章を読むのと一緒だ。いわば「棚」は開かれたページであり、棚を読むことは書店が編集した「知」を読むことと一緒なのだ。

 棚のあちこちに面陳(表紙をこちらに向けて陳列)している本がある。それは挿絵になるし、平積みされた本はそのまま「読め」という圧になる。POPをコメントや注釈として捉えるなら、書店の棚は、その棚が目指している「知」へ向き合うための索引になる。ガチの学問棚だけでなく、時事や世相のテーマ棚も一緒。書店の棚とは、知るために編集された「本」なのだ。

 だから、本屋に行くことは、知のスナップショットを撮ることになる。行きつけの書店をぐるりと周り、棚の配列の変わり具合によって世間を知ることができる。世間に文脈があるのなら、書店に行けば本脈になっているからね。もちろん本を探索する狩場でもあるが、書店は、世相を読む場所でもあるのだ。

 そんなわたしにとって、『ニッポンの本屋』を読むことは気分アゲ↑アゲ↑になる体験だった。本が好きな人って、「本がいっぱいある場所」に行くと高揚するでしょ。これを作った人はよく分かってて、どのページにも本棚の写真を目いっぱい載せている。しかも、背表紙の文字が読める解像度+距離で撮影しているので、メガネを外してガン見する。本の「並び」が重要なのだ。

 しかも、紹介される書店は大変ユニークでオリジナリティ溢れるものばかり。「本屋ですが、ベストセラーは置いてません」と、潔いを通り越して心配になってくる書店や、一度入ったら二度と出てこれない覚悟をキメる必要がある魔窟(池袋リブロ)がある。ページを開くだけで行った気分を味わえるし、行ったことがある書店ならまた行きたくなることを請合う。ブックカバーのデザインも一緒に載っているので、書店よりもカバーで思い出す人がいるかも。

 定番の丸善はよく行くけれど、なんというか標準アンテナみたいなもの。「たぶん世間の売れスジはこんなんだろなー」と考えているまさにそんな本がそんな風に並んでいる。予想を確認するみたいなので、驚きがないのである(いっぽう驚きしかない松丸本舗を閉めたのは残念至極なり)。

 「ぼくの考える最強の書店」といえば、東京堂書店神保町店だ。あそこの一階の新刊台が凄い。文芸、人文、社会、サイエンス、サブカル、芸術と、知の最先端が一つの台で一望できる。閉店後の書店を借りきってオフ会したことがあった[スゴ本オフ@東京堂書店]が、贅沢しふくの時間でしたな。『ニッポンの本屋』にも紹介されているので、未踏の方はぜひ確認してみてはいかが。

 『ニッポンの本屋』を見て、行きたいと思ったのが「タロー書房」。銀座線の三越前駅A6出口だというから、何度も通りがかって目にしたことがある(はず)。だけど、中はこんなんなってたなんて! びしっと揃えられた人文書や、岩波文庫、講談社学術文庫の充実ぶりから客層が見える。ちょっと背伸びをしたいときに、おあつらえ向きの書店なり。毎年1月から2月にかけてみすず書房フェアをやっているとのこと。行こう。

 もう一つ、絶対に行きたいのが、「かもめブックス」。神楽坂矢来口にあり、本屋だけでなく、カフェやギャラリーも併設された、本を楽しむための場所らしい。いいな、と思ったのは、特集本を毎回紹介しているところ(これ→[かもめブックス特集棚])。あるテーマに沿って本を集めて紹介する。そんな場所は、どんな本屋にもある。だが、そうした特集やフェアはアドホック的で、その場限りになりがち。これをログのように参照できるのが嬉しい。向かいのセレクトショップ「la kagu」も気になるし、ぜひ行こう。

 本屋と本棚の話をしているとワクワクしてくる。知ってる本と知らない本の混ざり具合を見ていると嬉しくなる。本が大好きな、すべての人にお薦めしたい。

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