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問題を「発見」する方法

 読書猿『問題解決大全』はスゴ本で、以下の質問をいただいたので、回答する。

問題解決大全には問題発見のノウハウまでは載っていませんでしょうか? 問題発見のノウハウ本を探しているのですが、なかなか良いのが見つからなくて。世には問題解決の本は山ほどありますが、その割には問題発見のノウハウ本って少ない気がします。
(名無しさん@2017.12.11 21:58)

 まずお詫び。わたしの紹介文で、問題の解決方法「だけ」を扱っているかのような印象を与えてしまい、申し訳ない。

 そんなことは全然なく、むしろ逆だ。『問題解決大全』は、どのように問題をつかまえるかの本と言っていい。「どのような問いを立てれば、解に近づくことができるか」について、古今東西の知の巨人たちの力を結集したもの。「正しく問う」ことがどれほど難しいか、よく分かる。

 問題を正しく問うことができたなら、ほぼ解決したも同然と言ったら言いすぎだろうか。

 少なくとも、きちんと問題を問題化できたら、後は比較的機械的に行ける。すなわち、

 1. 問題を適切な大きさの課題に分割する
 2. それぞれの課題を達成するためのタスクを割り振る
 3. タスクに対し、時期と目標値を設定する
 4. タスクにリソース(人と時と金)を投入する
 5. リソースの消化と目標の達成状況を管理する

 この辺になると、そこら辺の問題解決本の範疇になる。世の中に山のようにある問題解決本は、正しく言い当てられた問題からスタートする。マネジメントの話や、リスクとリソースのコントロール、モチベーションと進捗管理の話になる。口当たりの良い、一読しただけで「問題」だと分かり、教科書の「問1」「問2」みたいな問題である。言い換えるなら、このやり方にはまらない「問題」は、そこらの問題解決本では問題と認識されない。

 でも、現実は違うよね。

 世の中、「これは問題だ」と誰もが明白に言えるような問題は、実は少ない。

 問題のように見えるのは一面からだけで、それは別の問題Bの原因だったりする(そして問題Bを解決することで解消する事象だったりする)。あるいは、その問題は別の人にとっては問題ですらなかったりする。さらに、その問題を問題視する人の価値観が変わったり、時の経過や状況変化によって「問題」にならなくなったりする。利害や因果や抽象度が入り組んでいて、問題が特定できなかったりする。その問題を解決するリソースこそが「問題」な場合や、問題視している人自身が「問題」の場合もある。世の中の問題は、「問題」の形をしていない。

 問題を「正しく」問うことそのものが、一番の問題なのである。

 これに応えたのが、『問題解決大全』になる。

 問題とは何か、本書の定義はシンプルに断言する。すなわち、「問題解決とは、"~したい"と思うことを実現すること」だという。読んでいくと、もっと素朴な例もある。「なんかイヤだ」と感じていることに言葉を与える。「~だといいのに」の対象をもっと具体的にする。その上で、そちらに向かうために、どういうアプローチをすれば良いかをガイドする。

 名無しさんの質問にある「問題発見」は、そこなんじゃないかなと思う。もやんとした「思い」に言葉と形を与え、自分自身も含めた誰かに伝えられるように可視化する。それに応えてくれる。つまり、『問題解決大全』は、問題を可視化し、「正しく問う」ためのガイドなのだ。

 では、どの技法が適しているか? 目次「問題の認知」で一発で分かる。

第1章 問題の認知
 01 100 年ルール The 100-year rule  大した問題じゃない
 02 ニーバーの仕分け Niebuhr's Assorting  変えることのできるもの/できないもの
 03 ノミナル・グループ・プロセス Nominal Group Process  ブレスト+投票で結論を出す
 04 キャメロット Camelot  問題を照らす理想郷という鏡
 05 佐藤の問題構造図式 Sato's Problem Structure Scheme  目標とのギャップは直接解消できない
 06 ティンバーゲンの4つの問い Tinbergen's four questions  「なぜ」は 4 種類ある
 07 ロジック・ツリー Logic Tree  問題を分解し一望する
 08 特性要因図 0 9 1 fishbone diagram  原因と結果を図解する

第 5 章 問題の認知
 27 ミラクル・クエスチョン The miracle question  問題・原因ではなく解決と未来を開く
 28 推論の梯子 The Ladder of Inference  正気に戻るためのメタファー
 29 リフレ ーミング Reframing  事実を変えず意味を変える
 30 問題への相談 Consulting the problem about the problem  問題と人格を切り離す
 31 現状分析ツリー Current reality tree  複数の問題から因果関係を把握する
 32因果ループ図 Causal Loop Diagram  悪循環と渡り合う

 「問題の認知」の技法として、第1章で8つ、第5章6つ、合計14の技法が紹介されている。

 なぜ、「問題の認知」が2つに分かれているかというと、それぞれ、「リニアな問題解決」「サーキュラーな問題解決」と2つのアプローチに分類されているから。

 リニアな問題解決とは、直線的な因果性を基礎に置く問題解決であり、理想と現状のギャップを何らかの形で埋めたり、より「上流」の悪原因を取り除くことを目的とする。解決者は、問題の外側から分析し、必要なリソースも問題の外から供給される。

 いっぽう、サーキュラーな方はより複雑だ。解決する人もまた、問題を構成する因果のループの中に組み込まれている。問題を問題たらしめている要素もまた、因果ループの中で再生産しており、必要なリソースも解決すべき問題として考慮しなければならない。

 本書では、2つのアプローチを使い分けながら「正しく問う」ことを目指す。名無しさんが求めている「問題発見」は分からない。だが、ほぼどんな時にも使えて、不慣れな状況でもオールマイティに使える技法は、「ニーバーの仕分け」だな。[ニーバーの祈り]を技法化したもので、変えることのできるもの/できないものを分けて数値化する。そして、「変えることができるもの」を問題として定義するわけだ。

 わたしはニーバーの祈りを実践するとき、「イチローのコントロール」と置き換えている。インタビューで、ライバルのバッターの成績と比較されたとき、イチローはこう答えたという。「全く気にしない。自分のコントロール外のことだから」。自分がコントロールできることと、コントロールできないことを分ける。そして、コントロールできることに集中する。あたりまえといえばあたりまえなのだが、わたしたちは、変えられないものを「問題」視することで、貴重なリソースを無駄にしがち。それなら、できることに集中しよう。

 ちょっと気をつけて欲しいのが、「問題の認知」の第1章、第5章で済まないところ。問題を構成する因果のループが入り組んでおり、問題が「問題」の姿をしていない場合がある(現実ではほとんどだ!)。この場合は、「サーキュラーな問題解決」のアプローチ全てが、「正しく問う」ガイドになる。

 たとえば、解決法を探究する行為そのものが問題の再定義化を促す「スケーリング・クエスチョン(技法33)」がある。あるいは、解決策を仮設定し、とにかく進んでみることで真の問題とのFit-Gapを可視化する「ピレネーの地図(技法36)」などは、「サーキュラーな問題解決」として紹介されている。問題が因果ループに取り込まれているのなら、「正しく問う」ために、そのループを回す必要がある。ループを回しながら、コントロールできる問題に「問題化」するのだ。

 「問題発見」とは、問題を正しく問うこと。そして、問題を正しく問うことができたなら、解決へ大きく前進したことになる。

 各章の扉には、簡単な紹介とレシピが載っている。書店でパラ見して、名無しさんの今の「~したい」に合いそうなものを選んでみるといいかも。そして、これは自信をもって言えるのだが、名無しさんの今の「~したい」にも未来の「~したい」にも必ず合うツールが、きっと書いてある。


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