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読み始めたら最後、あなたを絶対寝かせない徹夜小説まとめ

 読み始めたら、徹夜を覚悟する小説がある。

 いきなり心臓をワシ掴みにされたり、直感が大好物だと告げたり、いくらも読まないのに、「これは当たりだ!」と小躍りしたくなる。

 嬉しいことに、この予感は高確率で当たる。だが恐ろしいことに、それは高確率で平日の夜だったりする。ここでは、翌日の寝不足を犠牲にして掘り当てた、「徹夜保証の小説=徹夜小説」を紹介する。

 ただし、2つだけ約束してほしい。ひとつめ、複数巻に渡るものは、全巻そろえてから読み始めること。上巻だけ買えばいいなんて甘く見てると、サクっと読みきってしまい、翌朝まで禁断症状に苦しむことになるだろう。ふたつめ、明日の予定がない夜に読み始めること。さもなくば、寝不足の頭を抱える破目になるだろう。2つとも経験したから言える、読み始めたら最後、絶対寝かせてくれない。だから約束だぞ。

* * * * *

『ガダラの豚』
中島らも

 2ちゃんねらが絶賛してたので、うっかり手にしてしまった。なるほど、「寝る間も惜しんで読みふけった」のはホントだ。

 半信半疑で読みはじめ、とまらなくなる。テーマは超常現象と家族愛。これをアフリカ呪術とマジックと超能力で味付けして、新興宗教の洗脳術、テレビ教の信者、ガチバトルやスプラッタ、エロシーンも盛り込んで、極上のエンターテイメントに仕上げている。中島らも十八番のアル中・ヤク中の「闇」も感覚レベルで垣間見せてくれる。

 エンタメの心地よさといえば、「セカイをつくって、ブッ壊す」カタストロフにある。緻密に積まれた日常が非日常に転換するスピードが速いほど、両者のギャップがあるほど、破壊度が満点なほど、驚き笑って涙する、ビックリ・ドッキリ・スッキリする。この後どうなるんだーと吠えながら頁をめくったり、ガクブルしながら怖くてめくれなくなったり。

 オカルトとサイエンス、両方に軸足を置いて、どっちにも転べるようにしてある(そして、どっちに転がしても「読める」ように仕掛けてある)。ホンモノの呪いなのか、プラセボ合戦なのか、最後まで疑えるし、読み終わっても愉しめる。どっちに倒すのかは、読み手がどっちを信じてるのかに因るのかもしれん。


『シャンタラム』

グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ

 読んでないなら、おめでとう! 中身を知らない、まっさらな状態で、いきなり始めよう。新潮文庫の裏表紙の「あらすじ」すら見るの厳禁な(結構ネタバレしている)。

 要するに、「これより面白いのがあったら教えて欲しい」という傑作だ。寝食惜しんで憑かれたように読みふけり、時を忘れる夢中本(わたしは4回乗り過ごし、2度食事を忘れ、1晩完徹した)。巻措く能わぬ程度じゃなく、手に張り付いて離れない。とにかく先が気になって気になって仕方がない。完全に身を任せて、物語にダイブせよ。

 蛇足を承知で述べるなら、テーマは2つある。ひとつは、「赦すとは何か?」。オーストラリアの刑務所から脱獄して、ボンベイへ逃亡した男が主人公だ。すべて彼の回想で進行する。だからコイツが死ぬことはないだろうと予想しつつ、強烈なリンチシーンや麻薬漬けの場面にたじたじとなる。敵意と憎悪と恥辱にまみれ、痛めつけられた彼が、憎しみと赦しのどちらを選ぶのか?

 そして彼は幾度もまちがえる。行動を過つこともあれば、まちがった理由で正しい選択をすることもある。これがもうひとつのテーマ「人は正しい理由から、まちがったことをする」だ。この復讐と赦しの物語は、世界で一番面白い物語『モンテ・クリスト伯』と同じ。手に汗握る彼(リン・シャンタラム)の運命は、そのままエドモン・ダンテスの苦悩につながる。

 心して読め。


『アラビアの夜の種族』

古川日出男

 とにかく「読め! 絶対に面白いから」としか言えない、抜群の構成力、絶妙な語り口、そして二重底、三重底の物語。

 これは、陰謀と冒険と魔術と戦争と恋と情交と迷宮と血潮と邪教と食通と書痴と閉鎖空間とスタンド使いの話で、千夜一夜物語とハムナプトラとウィザードリィとネバーエンティングストーリーを足して2乗したぐらいの面白さ。そして、最後の、ホントに最後のページを読み終わって――――――驚け!

 ただし、ネットで調べてはいけない。面白い物語を読みたいのなら、予備知識を一切絶って読むべし(まちがいないから)。優れた物語は語りから語り辺へ伝えられる。不死の、自己の永続化。恒久に譚(かた)られて、そして生きる物語として永らえる。そう、まるで、歴史のメタファーのように――身も心もトリコになる物語を、どうぞ。



『大聖堂』

ケン・フォレット

 極上のヒューマンドラマ。まさに「波瀾万丈」そのまんま。

 十二世紀のイングランドを舞台に、大聖堂を立てたいという夢を抱く建築職人と、幾多の人びとが織り成す壮大な物語。読み進むうち、運命のうねりが目に見え手にとれるようで、全身の毛穴が開く。面白いのは、作者が込めたメッセージ「なぜ大聖堂を建てるのか」への呼応だ。

 暗黒の時代、中世。飢饉と餓死と戦争が隣り合わせの中、迷妄と蒙昧と暴力と策略が渦巻いていたとき、なぜ「大聖堂」なんて代物を建てようと考えたか、という問いを抱えながら読むと、主人公の運命と共鳴する読書になる。

 「なぜ大聖堂を建てるのか」―――これを、宗教の視点で切るのはたやすい。なぜなら、主語を「神が」にすれば事足りるから(「全ては神の御心のままに」というやつ)。

 しかし、それ以外の理由を挙げると、それこそ無限に出てくる。権力欲、支配欲、愛欲、性欲、意欲、我欲、禁欲、強欲、財欲、色欲、食欲、邪欲、情欲、大欲、知識欲、貪欲、肉欲……それは、「欲望」だ。

 ありとあらゆる「欲望」を具現化したものが大聖堂だ。神の場と「欲望」、一見矛盾した取り合わせだが、読めば納得する。究極の大聖堂を描く、しかも「大聖堂をなぜ建てるのか?」という疑問に応える形で書こうとすると、とてつもない人間劇場になる。それが本書なのだ。

 私が読んだとき、ラストは電車の中、感動のあまり立っていられなかった。それぐらい打ちのめされる、凄まじい本。



『影武者徳川家康』

隆慶一郎

 映画やドラマであるでしょ? ラストのどんでん返し。最後の最後になって、もろもろの謎を解き、伏線を回収し、かつ、世界を一変させてしまうファイナルストライク。隆慶一郎がすごいのは、これを一行目からやったこと。

 つまりこうだ。徳川家康がどんな人物で、何を成したかは、史実として「確定」している。これを、冒頭でひっくり返して、ひっくり返した前提で、もろもろの謎を解き、伏線を回収し、かつ世界を一変させてしまったから。

 答えはタイトルにある。家康は関ヶ原で殺され、残りの「家康」を影武者が成り代わる。

 ありえない。影武者が主の仕事ができるわけがない。だいたい姿は似ているかもしれないが、風貌は?記憶していることは?家族や家臣の目を誤魔化すことなんてできやしない。突拍子もないなーと進めるうちに……オイちょっと待て!えぇっ!うわっと叫ぶ読書になる。

 最初は替玉バレの脅威をかわしていくのをヒヤヒヤしながら見守って、次第に見えてくる影武者(二郎三郎という)の真の姿に戦慄し、怒涛のごとく襲い掛かる陰謀と暗躍の応酬に振り回される。

 問題は、それら一つ一つが、史実として裏打ちされていること。「家康は関ヶ原で死んだ」という爆弾を破裂させたあと、表では通史どおり。どんな生涯を送ったか、どんな事件が起きたかは、知っての通りに進行する。

 だが、その裏で進行する心理戦と権謀術数は凄まじい。影武者を殺して征夷大将軍ならんとする秀忠の執念には、こっちまで息苦しくなる。孤立無援から、仲間を集め、駆け引きを綱渡り、相手を出し抜く。そこにはしたたかで強靭で、かつ智略に富んだ、戦国生き残りの男がいる。この痛快さと逆転劇に魂を蕩かされる。

 荒唐無稽かというと、違う。「徳川家康」という怪物の、最大の変貌が、関ヶ原にあるという。子どもへの愛情、女の好みなど、齢をとると嗜好は変わるというが、極端すぎる。文字どおり、「人が変わってしまう」のだ。さらに、関ヶ原を境に、謎が出てくる。なぜ征夷大将軍に就任を3年も引き伸ばしたのか。その位を、たった2年で秀忠に譲っているのはなぜか。駿府を大改造し、西のみならず東に対しても難攻不落の地にしたのはなぜか。最大の謎、敵たる豊臣家との和解に努めたのは、なぜか―――著者はその解を、影武者家康の暗闘に求める。

 数百年経過してなお、未だに尻尾をつかませない怪物。隆慶一郎は、膨大な史料を読み込み、この怪物に徹底的に向かい合う。本当の家康をあぶりだそうとする疑義があちこちに挟まれ、立証され、暴かれる。この謎解き家康のプロセスに蕩かされる。

 徳川家康と隆慶一郎、二人の怪物が寝かしてくれない徹夜小説なり。



『ハイペリオン』

ダン・シモンズ

 「読まず嫌い」リストがある。その第一位にあった『ハイペリオン』を読んだとき、読まず嫌いだった自分自身を蹴飛ばしたくなった。

 のめり込むにつれて、面白さと嬉しさとともに、「もっと早く読めばよかった!」という後悔が混ざり合う。評判だけで読んだ気になり、有名すぎるからと天邪鬼になってた自分が馬鹿だった。かつて、ル=グウィン『ゲド戦記』がそうであり、半村良『妖星伝』がそうだった。こんなに面白いものを、ずっと読まずにいたなんて!

 上下巻を一気に読まされる。これ、でっかい容れものを用意して、そこにゆうに長編一本書けるネタを6つ詰め込んで、読者の前にぶちまけてみたという感覚なり。パッケージはSFだけど、SFというジャンルに入れたらもったいない。ホラー、ラブストーリー、ファンタジー、戦争モノ、冒険活劇など、物語のあらゆる「面白い」要素がぎっしりと入っている、いわゆる枠物語だ。ラーメンや丼もので、「全部入り」というのがあるでしょ? あれだ。

 ご馳走ばかり延々と食べ続けていると疲れてくるのだが、これは尻あがり的に面白さが加速する。もちろん序盤も面白いのだが、後へ行けば行くほど止め時を失う。面白い物語を求める全ての人にお薦め。



『ボーン・コレクター』

ジェフリー・ディーヴァー

 読書クラスタには、「屈辱」というゲームがある。各人、メジャーだけど未読の作品を挙げてゆき、既読の人が多ければ多いほど高ポイントになる。「おまえソレ読んでないなんてどんだけ~」と笑われる人が勝ち、というゲームだ。

 みんなに呆れられる一方で、羨ましがられる。なぜなら、絶対に面白いことが分かっているから。SF好きにとっての『ハイペリオン』がそれなら、ミステリ好きにとっては『ボーン・コレクター』になる。睡眠時間と引き換えに、ジェットコースターミステリーを堪能できる。

 あまりに夢中になって、眠くなる前に読み干してしまったが、やめられない止まらない。。わずか数日の間に、次々に起こる誘拐監禁殺人事件を、時間制限つき謎解きアクション濃縮サスペンス全部入りにした作品だから。

 数時間おきに犯行を繰り返すボーン・コレクターと、限られた時間でメッセージを解読し、次の被害者を救わねばならないリンカーン・ライム(しかも四肢麻痺の身体だ)。成り行きで彼の鑑識を手伝う婦警アメリア・サックス。科学捜査の薀蓄やプロファイリング推理戦だけでなく、それぞれの過去や苦悩が絶妙なブレンド比で絡んでくるのは、上手いとしかいいようがない。

 「やめ時」が無い、寝かせてくれない面白さ。徹夜を目指さないなら、休日朝から始めると、めちゃくちゃ充実した読書になるだろう。



『モンテ・クリスト伯』

アレクサンドル・デュマ

 ミステリ、ドラマ、SF、歴史と、間口を広めに紹介してきたが、ここで、世界で一番面白い小説と名高い傑作をお薦めする。筒井康隆が「ひとつだけ選ぶならコレ」という噂を聞きつけて、手を出して、どっぷりガッツリ浸る幸せな読書と相成った。

 ストーリーを一言であらわすなら、究極のメロドラマ。展開のうねりがスゴい、物語の解像度がスゴい、古典はまわりくどいという方はいらっしゃるかもしれないが、伏線の張りがスゴい。てかどれもこれも強烈な前フリだ。伏線の濃淡で物語の転び方がミエミエになるかもしれないが、凡百のミステリを蹴散らすぐらいの効きに唸れ。読み手のハートはがっちりつかまれて振り回されることを請合う。

 みなさん、スジはご存知だろうから省く。が、痛快な展開に喝采を送っているうちに、復讐の絶頂をまたぎ越えてしまったことに気づく。その向こう側に横たわる絶望の深淵を、主人公、モンテ・クリスト伯と一緒になって覗き込むの。そして、「生きるほうが辛い」というのは、どういう感情なのかを思い知る。

 読まずに死んだらもったいない。この記事を、ここまで読んできた全員に、強力にお薦めする。

* * * * *

 全部で8作品を紹介してきたわけだが、いかがだろうか? 定番中の定番もあるので、既読の方も多いかと。その場合、あなたのお薦めを教えてほしい。「それを徹夜小説なら、コレも鉄板だよ」という「コレ」がどうしても知りたいのだ。

 あなたはそのタイトルを知っており、それは、わたしが知らない凄い本(スゴ本)のはず。徹夜の予感が高確率で当たるように、わたしが知らないスゴ本は、高確率であなたが読んでいるのだから。

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